文献情報
文献番号
201811001A
報告書区分
総括
研究課題名
先天性骨髄不全症の診断基準・重症度分類・診療ガイドラインの確立に関する研究
課題番号
H28-難治等(難)-一般-015
研究年度
平成30(2018)年度
研究代表者(所属機関)
伊藤 悦朗(国立大学法人 弘前大学 大学院医学研究科)
研究分担者(所属機関)
- 張替 秀郎(国立大学法人 東北大学 大学院医学系研究科)
- 矢部 普正(学校法人 東海大学 医学部)
- 真部 淳(学校法人聖路加国際大学 聖路加国際病院)
- 高橋 義行(国立大学法人 名古屋大学 大学院医学系研究科)
- 菅野 仁(学校法人 東京女子医科大学 医学部医学科)
- 高田 穣(国立大学法人 京都大学 大学院生命科学研究科)
- 大賀 正一(国立大学法人 九州大学 大学院医学研究院)
- 小原 明(学校法人 東邦大学 医学部)
- 照井 君典(国立大学法人 弘前大学 大学院医学研究科)
- 古山 和道(学校法人 岩手医科大学 医学部)
- 多賀 崇(国立大学法人 滋賀医科大学 医学部医学科)
- 小林 正夫(国立大学法人 広島大学 大学院医歯薬保健学研究科)
- 渡邉 健一郎(地方独立行政法人 静岡県立こども病院 血液腫瘍科)
- 金兼 弘和(国立大学法人 東京医科歯科大学 大学院医歯学総合研究科小児地域成育医療学講座)
- 山口 博樹(学校法人 日本医科大学 医学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 難治性疾患等政策研究(難治性疾患政策研究)
研究開始年度
平成28(2016)年度
研究終了予定年度
平成30(2018)年度
研究費
11,539,000円
研究者交替、所属機関変更
平成30年4月1日より、DKCとCDAの遺伝子診断・診療ガイドラインの作成担当が、名古屋大学小児科小島勢二名誉教授から高橋義行教授に交替した。
研究報告書(概要版)
研究目的
主要な先天性骨髄不全症には、先天性赤芽球癆(DBA)、Fanconi貧血(FA)、遺伝性鉄芽球性貧血(SA)、congenital dyserythropoietic anemia(CDA)、Shwachman Diamond syndrome(SDS)、先天性角化不全症(DKC)、先天性好中球減少症(SCN)、先天性血小板減少症(CTP)の8疾患がある。本研究申請では、先天性骨髄不全班の先行研究を発展させ、より優れた「診断基準・重症度分類・診断ガイドライン」の確立を目指す。これまでの研究を通じて確立した解析基盤を共有し、日本小児血液・がん学会の中央診断事業と疾患登録事業とも連携し、正確な診断に基づいた新規症例の把握と検体収集を行う。共通の基盤で遺伝子診断を含めた中央診断を行い、正確な診断に基づいた疫学調査を行い、遺伝子診断の結果や治療経過も含む、精度の高い疾患データベースを作成する。
研究方法
研究申請では、発症数が少なく共通点の多い先天性骨髄不全症の医療水準の向上をより効果的に進めるために、一つの研究班に統合して研究を推進する。本研究班は、8つの疾患別研究拠点から構成され、各研究拠点(DBA(伊藤)、SA(張替)、FA(矢部・高田)、CDA(小島・真部)、DKC (小島、山口)、SDS (渡邉)、SCN(小林)、CTP(國島))は、疫学調査、臨床データおよび検体の収集、遺伝子診断のための既知の原因遺伝子解析とバイオマーカーなどの特殊検査を担当する。研究代表者(伊藤)が、DBAの研究を担当するとともに研究全体を統括する。平成28年度は、遺伝子診断の結果や治療経過も含む、精度の高い先天性骨髄不全のデータベースを作成する。平成29年度以降は、我が国における正確な患者数の把握と治療法と予後に関する疫学研究を推進し、先天性骨髄不全のより精度の高い疾患データベースの確立を目指す。
結果と考察
本研究では、日本小児血液・がん学会の中央診断事業と疾患登録事業とも連携し、正確な診断に基づいた新規症例の把握と検体収集を行い、先天性骨髄不全のより精度の高い疾患データベースの構築を推進した。DBAは、24例が新規登録され、9例に既報の遺伝子変異を認めた。これまでに221例のDBAの臨床情報と検体の収集および遺伝子解析を行い、128例(57.9%)に原因遺伝子の変異を見出した。また、がん抑制遺伝子TP53の活性化変異が原因で起こる「新たな先天性骨髄不全症」を発見した。SAは、3例の新規症例が登録され、うち2例において原因遺伝子が同定された。FAは、新規症例の遺伝子解析を進め、日本人FA117例のうち、113例(97%)の責任遺伝子を特定した。これらを臨床病態と比較検討することにより、我が国のファンコニ貧血の責任遺伝子や変異バリアントの特徴を明らかにし、アルデヒド代謝酵素遺伝子型による病態修飾を解明した。SDSは、47例の患者が同定された。最も多いSBDS遺伝子変異は183-184TA>CT/258+2T>C変異が73%を占め、次に258+2T>C/258+2T>C変異が6.6%であった。初診時の臨床所見はさまざまであり、血球減少、体重増加不良、脂肪便、肝機能障害、低身長、骨格異常などである。膵外分泌不全あるいは画像での膵臓の異常はほとんどの患者で認められた。好中球減少は初診時に約1/3の患者でしか認めらなかったが、経過中では89%の患者で認められた。その他の血球異常は貧血、血小板減少、汎血球減少症がそれぞれ64%、69%、40%で認められた。6%の患者では白血病に進展した。既知の責任遺伝子に変異を認めない DKC症例に関して次世代シークエンサーを用いた網羅的遺伝子変異解析を行った。その結果、TEP1遺伝子変異とACD遺伝子変異が新規の責任遺伝子変異の候補として発見された。しかし、機能解析の結果、発見されたACD遺伝子変異はDKCの責任遺伝子変異ではないと考えられた。本年度は、本研究班で得られたデータをもとに、診断基準および診断・治療ガイドラインの小改訂を行った。
結論
日本小児血液・がん学会の中央診断事業と疾患登録事業とも連携し、正確な診断に基づいた新規症例の把握と検体収集を行い、先天性骨髄不全のより精度の高い疾患データベースの構築を推進した。遺伝性血液疾患の鑑別診断は臨床診断のみでは困難であるため、次世代シークエンサーを用いた遺伝子診断を継続した。本年度は、本研究班で得られたデータをもとに、「2017年度版診療ガイドライン」の診断基準および診断・治療ガイドラインの小改訂を行った。
公開日・更新日
公開日
2019-12-05
更新日
-