女性の健康の社会経済学的影響に関する研究

文献情報

文献番号
201810001A
報告書区分
総括
研究課題名
女性の健康の社会経済学的影響に関する研究
課題番号
H29-女性-一般-001
研究年度
平成30(2018)年度
研究代表者(所属機関)
大須賀 穣(東京大学 医学部附属病院)
研究分担者(所属機関)
  • 五十嵐 中(東京大学 薬学部)
  • 後藤 励(慶應義塾大学 大学院経営管理研究科)
  • 杉森 裕樹(大東文化大学 スポーツ・健康学部)
  • 平池 修(和田 修)(東京大学 医学部附属病院)
  • 藤井 知行(東京大学 医学部附属病院)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 女性の健康の包括的支援政策研究
研究開始年度
平成29(2017)年度
研究終了予定年度
平成30(2018)年度
研究費
7,013,000円
研究者交替、所属機関変更
なし

研究報告書(概要版)

研究目的
日本の社会全体で、働く女性の活躍を推進する機運が高まっている現在、女性の活躍を推進する施策が必要であり、その裏付けとして特定の疾患をベースにして解析し検討することで、女性の健康を維持増進することがもたらす社会経済的な効果を評価することが必要である。本研究班は、社会学、経済学の視点から、主に医療に関連する女性の健康にアプローチをすることに取り組んだ。
研究方法
①中高年女性に多く見られる疾患である関節リウマチと、生殖可能年齢女性において多く見られる疾患である子宮内膜症を、社会経済的損失が多く見られる疾患として取り上げた。これら疾患に罹患していることで損なわれる生活の質(QOL)と社会経済学的な損失を明らかにするため、アンケート調査をおこなった。②月経困難症や月経随伴症状のもたらすQOL低下について、すでに得られていたデータの再解析に着手することで、QOLを下げる症状がどのようなものとして考えられるかということ、職種によってQOLの低下がいかに違うのかという定量的な解析を行った。③女性が家庭で担う家事の負担と、それが健康へどのような影響をもたらすかにつき検討した。④不妊治療の通院、心理的負担がどのようにかんがえられるのかを解析した。⑤女性の活躍・職場づくりに理解・関心のある企業を選定し聞き取り調査を行った。
結果と考察
公益財団法人日本リウマチ友の会へのアンケート送付を行い、QOL評価ならびに費用推計 (保険医療費のみならず、代替医療や介護費などを含めた調査)をおこなった。背景に加え、WPAI: GH、EQ-5D-5Lを質問した。WPAI: GHの結果より、全労働への障害率、活動性障害を算出、EQ-5D-5Lは 質調整生存年(QALYs ; Quality Adjusted Life Year(s))を算出した。リウマチ友の会からのアンケートは799名から得られた。QOL 0.729、WPAI:GH 0.2、J-HAQ 8、医療費支出推計値50000円/月、介護費用支出推計値50000円/月(いずれも中央値)であった。働く女性と健康に関するアンケート調査の参加者で月経があり、ホルモン剤の服用がない6682名のうち、EQ5D-3Lから効用値を計算できた6048名が最終的な対象となった。効用値については月経が順調なもの(n=4490)は平均0.689、不順なもの(n=1558)は平均0.661であり、月経不順なものの効用値が有意に低く、数値的にいえば担がん患者の効用値と同等なくらい低いことから、月経困難症という疾患自体がQOLに著しく悪影響を与えることが示唆された。年齢、子供の有無、介護の有無、学歴、世帯年収について多重ロジスティック回帰分析で調整すると、仕事のない女性におけるK6≧9点に対するオッズ比は、家事の量的負担1.41(95%信頼区間:1.26-1.59)、家事のコントロール0.76 (95%信頼区間:0.67-0.86)と家事負担とうつ傾向の関連が認められた。
結論
これらから得られた知見はいずれも社会において直接的にQOLなどに影響することばかりであり、今後の経済政策などに生かすことが出来ることから、本研究により女性の健康維持について、社会経済学的なインパクトを定量的にみることが可能となった。

公開日・更新日

公開日
2019-10-09
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

文献情報

文献番号
201810001B
報告書区分
総合
研究課題名
女性の健康の社会経済学的影響に関する研究
課題番号
H29-女性-一般-001
研究年度
平成30(2018)年度
研究代表者(所属機関)
大須賀 穣(東京大学 医学部附属病院)
研究分担者(所属機関)
  • 五十嵐 中(東京大学 薬学部)
  • 後藤 励(慶應義塾大学 大学院経営管理研究科)
  • 杉森 裕樹(大東文化大学 スポーツ・健康学部)
  • 平池 修(和田 修)(東京大学 医学部附属病院)
  • 藤井 知行(東京大学 医学部附属病院)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 女性の健康の包括的支援政策研究
研究開始年度
平成29(2017)年度
研究終了予定年度
平成30(2018)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
40代女性の健康に影響を与えQOLを著しく損ねる産婦人科領域の代表的疾患である子宮内膜症と関節リウマチに罹患している女性を対象として女性の経済的損失を推測し、日本社会における女性の健康の社会経済学的なインパクトを探索した。働く女性に対するアンケート調査結果に対してQOL調査を行い、月経随伴症状のうち、どの症状がQOL低下に影響を及ぼしているかについて、定量的な分析を行うこととした。成人女性が家庭で担う家事労働などのもたらす健康への影響と、これによる社会経済学的影響ははっきりとは示されていないため、女性の健康を維持増進することがもたらす社会経済的な効果を評価することとした。
研究方法
子宮内膜症患者(n=177)については患者の属性を尋ねる調査票と電子カルテ上にある病気の重症度・治療の通院頻度、自己申告の支出などと照らし合わせ、疾患と経済的損失、QOL状態との相関関係を検討し、関節リウマチ患者(n=799)については患者の属性や病気による支出などを尋ねる調査票と照らし合わせることで疾患と経済的損失、QOL状態との相関関係を検討した。働く女性と健康に関するアンケート調査は、複数の企業に勤務する女性を対象として行った。効用値に換算可能なインデックス型QOL調査票のうち、経済評価でも使用頻度が高いEQ-5D-3Lを、月経不順の有無、月経随伴症状の詳細とともに調査した。分析は、ホルモン剤の服用がない6682名のうち、EQ5D-3Lから効用値を計算できた6048名を対象とした。仕事をしていない有配偶女性(1000名)のうち210名(21%)、仕事をしている有配偶女性(2000名)のうち379名(19%)が K6≧9点(うつ病や不安障害の可能性が高い)であった。年齢、子供の有無、介護の有無、学歴、世帯年収について多重ロジスティック回帰分析で調整した。
結果と考察
J-HAQ, EQ-5D, WPAIなどの3指標間と医療費との相関はなく、経済的損失がある程度限定的である可能性が示唆された。介護を要する患者の方がJ-HAQ値が高くなったが、QOL値の比較では、EQ-5D 0.451 (介護あり) vs 0.722 (介護なし)であったため、介護サービス利用者は非利用者と比較してQOL値が低下することが明らかとなった。
効用値については月経が順調なものは平均0.689 (n=4490)、不順なものは平均0.661であり、月経不順なものの効用値が有意に低かった。つぎに、月経随伴症状について、効用値への影響を見ると、効用値を有意に下げる月経随伴症状は9つあり、下腹部痛が最も悪影響を及ぼしていた。
仕事のない女性におけるK6≧9点に対するオッズ比は、家事の量的負担1.41(95%信頼区間:1.26-1.59)、家事のコントロール0.76 (95%信頼区間:0.67-0.86)と家事負担とうつ傾向の関連が認められた。仕事のある女性では、家事負担そのものとK6≧9点との有意な関連はなかったものの、仕事の量的負担のオッズ比1.14(95%信頼区間:1.05-1.23)、同僚の支援のオッズ比0.88(95%信頼区間:0.80-0.95)、Work to Family conflictのオッズ比1.07(95%信頼区間:1.04-1.10)、Family to Work conflict のオッズ比1.07(95%信頼区間:1.04-1.10)と、仕事の負担に加え、両立の負担との関連が見られた。
FertiQoLスコアは、本人が休暇を取りやすいほど、またパートナーが休暇を取りやすいほど高かった。
結論
子宮内膜症と関節リウマチについて、労働への障害の程度、活動性障害を計測できた。後者において、公的女性が経済的損失をカバーし得ること、介護サービスを利用するとQOL値が低下するというこれまでにないデータが得られ、今後の政策立案において十分有用なデータが得られた。
月経不順と月経随伴症状のQOLに対する影響の定量的な分析結果は、月経不順と月経随伴症状に対する治療の経済評価の基礎資料となる。
ワークファミリーコンフリクト尺度日本語版が作成できた。健康関連指標としてわれわれ独自の調査票を作成することができた。
具体的な事例収集として、複数のなでしこ銘柄企業の担当者に、企業として女性の健康を維持するための具体的な取り組みにつき情報を収集し、アンケート・インタビューを実施した。今後の企業に対する政策を考える上で重要なデータとなる。

公開日・更新日

公開日
2019-10-09
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

行政効果報告

文献番号
201810001C

成果

専門的・学術的観点からの成果
これまでに子宮内膜症や関節リウマチなどの疾患特異的に女性の健康を維持することがどの程度インパクトがあるのか、ということ、しかもそれを定量的に報告したというものは極めて少ない。また、成人女性が家庭で担う家事労働などのもたらす健康への影響と、これによる社会経済学的影響ははっきりとは示されていなかったが、裏付けとして特定の疾患をベースにして解析し検討することで、女性の健康を維持増進することがもたらす社会経済的な効果を評価することが可能となった。
臨床的観点からの成果
子宮内膜症と関節リウマチについて、労働への障害の程度、活動性障害を計測できたので、今後の政策立案において十分有用なデータが得られたものと考える。ワークファミリーコンフリクト尺度日本語版が作成できた。具体的な好事例収集として、複数のなでしこ銘柄企業の担当者に、企業として女性の健康を維持するための具体的な取り組みにつき情報を収集し、アンケート・インタビューを実施した。今後の企業に対する政策を考える上で重要なデータとなる。
ガイドライン等の開発
なし
その他行政的観点からの成果
なし
その他のインパクト
特にないが、研究内容については本研究分担者が各自学会で一部その内容を報告していること、また最終的に現在論文を作成するにまで至っていることから、研究面において大きなインパクトがあるものと考えている。

発表件数

原著論文(和文)
1件
原著論文(英文等)
53件
その他論文(和文)
3件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
3件
学会発表(国際学会等)
5件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
2件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

公開日・更新日

公開日
2020-03-16
更新日
-

収支報告書

文献番号
201810001Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
9,116,000円
(2)補助金確定額
9,116,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 3,007,582円
人件費・謝金 0円
旅費 1,197,140円
その他 2,808,278円
間接経費 2,103,000円
合計 9,116,000円

備考

備考
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公開日・更新日

公開日
2020-02-19
更新日
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