健康に与えるロコモティブシンドロームの影響に関する研究

文献情報

文献番号
201809018A
報告書区分
総括
研究課題名
健康に与えるロコモティブシンドロームの影響に関する研究
課題番号
H29-循環器等-一般-010
研究年度
平成30(2018)年度
研究代表者(所属機関)
帖佐 悦男(宮崎大学 医学部感覚運動医学講座整形外科学分野)
研究分担者(所属機関)
  • 中村 耕三(国立障害者リハビリテーションセンター)
  • 石橋 英明(医療法人社団愛友会伊奈病院)
  • 大江 隆史(NTT東日本関東病院)
  • 新開 省二(地方独立行政法人東京都健康長寿医療センター研究所)
  • 藤野 圭司(藤野整形外科医院)
  • 村永 信吾(医療法人鉄蕉会亀田総合病院)
  • 吉村 典子(東京大学・医学部附属病院)
  • 田辺 秀樹(田辺整形外科医院)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 循環器疾患・糖尿病等生活習慣病対策総合研究
研究開始年度
平成29(2017)年度
研究終了予定年度
平成30(2018)年度
研究費
6,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
ロコモは、運動器の障害のために移動機能が低下し、進行すると介護が必要になる危険性の高い状態とされる。その認知度向上については、健康日本21(第二次)で目標設定されている。運動器疾患は、要介護になった原因のうち最も多く24.6%(厚労省国民生活基礎調査)を占め、社会の不安となっている。今後は運動器の健康を維持し、運動器に由来する要介護者の増加を抑制することが要介護者を減らすうえで喫緊の課題である。
 本研究では、運動機能の低下をもたらす要因の明確化、運動機能低下の程度と介護リスクとの関係を科学的に明らかにし、これまでにない運動と栄養を中心とする効果的なロコモ対策に資する基礎資料を得ることを目的とする。
研究方法
2005年に開始した運動器疾患を予防目的とした大規模住民コホート(ROADスタディ)の追跡調査を実施しており、平成30年度はロコモの発生率を推定し、その危険因子を解明することを目的として、13年目の追跡調査を実施。400項目もの詳細な調査を行った。さら、身体測定、ロコモ度テストを含む運動機能調査を実施した。画像検査と血液尿サンプルも採取した。さらに対象者の主観的自立度に関するインタビュー調査も実施した。
 高齢者を対象とした下肢機能評価として信頼性・妥当性・実行可能性の面から推奨されているShort Physical Performance Battery、我が国の地域在住高齢者向けに算出方法を修正され、要支援・要介護の新規発生を予測する指標として有用とされるSPPB-comとロコモ度テストの関連性を検討した。
 また、関連学会の協力を得てロコモ度テストの全国調査も実施し、計10208名分を収集した。
 介入効果の検証とさらに有効性の高い介入方法やノウハウを提言することを目的とした介入研究では、埼玉県での「伊奈町ロコモコール講習会」を実施。宮崎県では地域行政と民生委員と共に訪問型介護予防事業のロコモコール、大阪、埼玉、浜松、鹿児島では、介入者をロコモコーディネーター、ロコモ普及員、無資格者に分けて参加者の運動機能測定結果を比較した事業を行った。
また宮崎では、地域住民や総合型スポーツクラブに所属する会員へロコモ検診を実施。検診の有用性を検証した。
 栄養介入プログラムを目的とした調査では、鳩山コホート研究(埼玉県鳩山町)の2年後の追跡調査(2012年)に参加した者を対象に、DXA法による骨密度測定およびBIA法による体組成測定の双方を行った。食品摂取の多様性は、熊谷らの多様性得点(DVS)を用いて評価した。
  ロコトレの一つであるスクワットに着目し、下肢筋力の評価である30秒椅子立ち上がりテスト(CS-30)の回数を参考に運動強度を検討した。評価項目は、年齢、身長、体重、要介護度、介入頻度、握力、Weight Bearing Index、立ち上がりテスト、2ステップ値、CS-30、最大努力での5m歩行速度、TUG、ロコモ5、Functional Independence Measure、立ち上がりテストのロコモ度、2ステップ値のロコモ度とした。
 運動器の健康・障害よる経済的効果・損失推計を目的に、分析に必要なデータセットの構築をさらに進めるとともに、これまでのデータを用いて、歩行機能の加齢変化パターンをもとめ、それと医療・介護給付費との関連を分析した。
結果と考察
中高年を対象とした研究から、ロコモ度1の有病率は69.8%、ロコモ度2の有病率は25.1%で、多数の人がロコモ度1、2に該当し、特にロコモ度1は40歳以上の68%が該当することから、極めて多くの中高年男女が自覚のないまま移動機能の低下が始まっているので、ロコモ予防のための早期介入の重要性が証明された。
 立ち上がりテスト、2ステップテスト共にSPPB-com合計点との間に中等度の正の相関を認め、下肢機能を捉える指標となりうる可能性が示唆された。
 運動や栄養の効果的な介入方法については、ロコトレを継続することが運動機能(特に移動機能)維持・改善に効果があることが示唆され、その取り組みは自宅でも実施可能であった。栄養は、高齢期に増えてくるサルコペニア予防にDVS7点以上が推奨されており、サルコペニアは骨粗鬆症、変形性膝関節症とならんでロコモの一つであり、食事ガイドラインとしてDVS7点以上を推奨する。
結論
これまでの運動機能テストに比べてロコモ度テストは日常生活の動作を総合的に判断することが可能であり、バランス力、下肢筋力を維持・改善する方法としてロコトレが有用であることが示された。
今後、よりロコモ予防を全国に普及し介護予防や健康寿命延伸に貢献するためには、本事業で示されたロコモ予防改善プログラムを広める必要があり、地域行政や関連学会との協力を得て実施することが重要であると思われる。

公開日・更新日

公開日
2019-12-26
更新日
-

研究報告書(PDF)

研究成果の刊行に関する一覧表
倫理審査等報告書の写し

公開日・更新日

公開日
2019-12-26
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

文献情報

文献番号
201809018B
報告書区分
総合
研究課題名
健康に与えるロコモティブシンドロームの影響に関する研究
課題番号
H29-循環器等-一般-010
研究年度
平成30(2018)年度
研究代表者(所属機関)
帖佐 悦男(宮崎大学 医学部感覚運動医学講座整形外科学分野)
研究分担者(所属機関)
  • 中村 耕三(国立障害者リハビリテーションセンター)
  • 石橋 英明(医療法人愛友会伊奈病院 整形外科)
  • 大江 隆史(NTT東日本関東病院 整形外科)
  • 新開 省二(地方独立行政法人東京都健康長寿医療センター)
  • 藤野 圭司(藤野整形外科医院)
  • 宮地 元彦(国立研究開発法人医薬基盤・健康・栄養研究所 身体活動研究部)
  • 村永 信吾(医療法人鉄蕉会亀田総合病院 リハビリテーション事業管理部)
  • 吉村 典子(東京大学医学部附属病院 22世紀医療センターロコモ予防学講座)
  • 田辺 秀樹(田辺整形外科医院)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 循環器疾患・糖尿病等生活習慣病対策総合研究
研究開始年度
平成29(2017)年度
研究終了予定年度
平成30(2018)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
日本では高齢者の健康寿命延伸が喫緊の課題となっており、運動器疾患の発生憎悪を早期に予測する客観的指標の確立が求められている。また同時に地域の自主性や主体性を高めた地域包括ケアシステム構築を基盤とした運動や栄養の効果的な介入プログラムの開発も必要となっている。運動指導が、特に高齢者の運動機能を向上させ、要支援・要介護者数を低減させると思われるが、そのエビデンスとプログラムが未確立である。そこで本研究により運動機能低下の程度と介護リスクの関係を検証し、ロコモの客観的な評価方法の開発、有効な介入方法について検討、また運動器の健康による経済的・社会的メリットについても検証する。本事業では学術的メリットだけでなく、全国展開を見据えた要介護・要支援者増加を抑制する基本的な運動・栄養プログラム作成を目標に実施する。
研究方法
本研究では、これまでの疫学研究、介入研究、文献システマティックレビューで実施する。
疫学研究では、ロコモ該当者早期発見のため、ロコモの疫学指標(有病率・発生率)の解明、運動機能低下と要介護リスクの関係を明らかにすることやロコモ該当者の全国推計、体制の整備・構築を目指す。大規模コホート(ROAD)のベースライン調査およびその後の追跡調査において、自記式調査、体組成測定などを実施しており、これらのデータのレコードリンケージを行う。またさらなる追跡データを収集し、要支援・要介護高齢者に対して高齢者の要介護の重症化と移動機能との関係を明らかとし、その判定値を明確化する。
介入研究では、3ヶ月間の運動(ロコトレ)介入を基本とし、埼玉では1グループ15~20名程度の参加者に対して、初回講習、運動機能評価、調査票調査を行う。同日、運動指導の後、3ヶ月間の自己運動を促し、3ヶ月の間は運動の実施状況の聴取と運動継続励ましの電話(ロコモコール)をかけ、3ヶ月後に初回と同じ評価および調査を行う。宮崎では、訪問型として初回から3ヶ月後まで自宅で行う方法を実施。ロコモコールには地域で活躍する民生委員に協力を得た。大阪・埼玉・浜松・鹿児島では、介入者をロコモコーディネーター、ロコモ普及員、無資格者で参加者の結果を比較する。栄養に関しては、65歳以上の女性を対象に、骨密度測定、体組成測定、多様性得点(DVS)で評価。また、骨粗鬆症とサルコペニアと栄養に関する国内外の先行研究についてシステティックレビューを行う。
 運動器の健康・障害による経済的効果・損失を推計では、分析に必要なデータセットを構築。既存データを用いて、歩行機能の加齢変化パターン(男女別3群)をもとめ、それと医療・介護給付費との関連を分析する。
結果と考察
ロコモ疫学指標(有病率・発生率)の解明については、有病率はROADスタディの第3回調査からロコモ度1該当の有病率は69.8%、ロコモ度2は25.1%となった。ロコモ度1、2の有病率はいずれも年齢とともに高くなるが、男女差はなかった。このことから、平成22年の国勢調査人口統計に当てはめると、極めて多数の人がロコモに該当していることがわかり、多くの中高年男女が自覚の無いまま移動機能の低下が始まっているため早期介入の重要性が示された。また、ロコモ度テスト結果が汎用性の高い他の運動機能評価やADL評価と、軽度~中等度の有意な相関を認めたため、要支援・要介護者に対するロコモ度テスト使用の妥当性が確認できた。
 運動・栄養プログラム開発を目的とした介入研究では、埼玉、宮崎、大阪・埼玉・浜松・鹿児島の3つの方法とも運動機能評価において改善がみられ、自宅でのロコトレ(自己運動)の効果を示唆した。また、運動を実施・継続する動機付けが重要であると思われた。栄養に関しては大腿骨近位部骨粗鬆症の有無と日常生活の食品摂取のDVSとの間に有意な関連が明らかになったことから、ロコモの一次予防のための食事ガイドラインとして、DVS7点以上を推奨する。
 経済面では、高齢期の運動器の健康は医療経済的には「医療費」というよりも、むしろ「介護費」の多寡に大きく影響していた。今後、後期高齢者の増加とともに、国民医療費の増加率よりも介護給付費の増加率がより急峻となることから、社会保障制度を確保する上でも運動器障害の対策は喫緊の課題であるといえる。
結論
これまでの運動機能テストに比べてロコモ度テストは日常生活の動作を総合的に判断することが可能であり、バランス力、下肢筋力を維持・改善する方法としてロコトレが有用であることが示された。なお、個々の研究の詳細に関しては、各分担研究者による報告を参照されたい。
今後、よりロコモ予防を全国に普及し介護予防や健康寿命延伸に貢献するためには、本事業で示されたロコモ予防改善プログラムを広める必要があり、地域行政や関連学会との協力を得て実施することが重要であると思われる。

公開日・更新日

公開日
2019-12-24
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2019-12-24
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

行政効果報告

文献番号
201809018C

成果

専門的・学術的観点からの成果
ロコモは整形外科分野だけでなく、歯科口腔外科分野や生活習慣にも関係が見られたため、今後さまざまな分野でロコモ予防に取り組む研究が期待される。
臨床的観点からの成果
3ヶ月間の運動(ロコトレ)介入によって運動機能改善効果が見られ、さらに上肢・下肢の痛み、腰痛についても減少が見られたことから、運動療法において自己トレーニングの効果とその継続には第3者の介入があるとさらに効果的であることを示した。
ガイドライン等の開発
評価法に関しては、ロコモ度テストがあり、その信頼性などを日本整形外科学会をはじめとする運動器関連学会と検討し、ガイドラインに関しては、今後、関連学会・団体等と検討する。
その他行政的観点からの成果
運動器の健康度が高い(低い)と、加齢とともに医療費は増大(減少)する。その理由として、運動器の障害が医療機関にかかりにくい状態をつくっていることが考えられる。それは後の要介護発生リスクにつながるため、運動器の健康は医療費に加えより介護費の多寡に大きく影響することを示した。
その他のインパクト
ロコモは高齢者だけの問題ではなく、子どもの頃からの生活習慣や運動習慣も関係してくることから、講演依頼は医療・介護分野だけでなく小・中学校等の教育機関からも多い。特に、子どもの運動をする子としない子の二極化もロコモに大きく影響をあたえていると考えられ、小児期から老年期にかけシームレスに運動器の健康管理の必要性が示唆された。

発表件数

原著論文(和文)
28件
原著論文(英文等)
49件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
140件
学会発表(国際学会等)
22件
その他成果(特許の出願)
3件
その他成果(特許の取得)
3件
その他成果(施策への反映)
1件
自治体によるロコトレに特化した運動教室が運営された
その他成果(普及・啓発活動)
220件
ロコモ講演、ロコモメイト養成講座、ロコモ検診など

特許

特許の名称
半月板インプラント
詳細情報
分類:
特許番号: PCT/JP2021/ 34616
発明者名: 山子 剛,帖佐 悦男,スリラム ドゥライサミ,サブラジ カルパサミー
権利者名: 宮崎大学
出願年月日: 20210921
国内外の別: 国内
特許の名称
膝関節の補助器具
詳細情報
分類:
特許番号: 特願2021-179779
発明者名: 山子 剛,帖佐 悦男
権利者名: 宮崎大学
出願年月日: 20211102
国内外の別: 国内
特許の名称
膝関節の補助器具
詳細情報
分類:
特許番号: PCT/JP2022/003718
発明者名: 山子 剛,帖佐 悦男
権利者名: 宮崎大学
出願年月日: 20220201
国内外の別: 国際出願
特許の名称
ロコモティブシンドロームの評価値算出方法、および評価装置
詳細情報
分類:
特許番号: 特許第6216984号
発明者名: 田村宏樹、帖佐悦男、鶴田来美
権利者名: 国立大学法人宮崎大学
出願年月日: 20130731
取得年月日: 20171006
特許の名称
運動器評価システム及び運動器評価方法
詳細情報
分類:
特許番号: 特許第6281876号
発明者名: 山子剛、帖佐悦男
権利者名: 国立大学法人宮崎大学
出願年月日: 20150918
取得年月日: 20180202
特許の名称
立ち上がり能力測定用の椅子及び立ち上がり能力評価システム
詳細情報
分類:
特許番号: 特許第6493781号
発明者名: デン鋼、帖佐悦男、山子剛
権利者名: 国立大学法人宮崎大学
出願年月日: 20141127
取得年月日: 20190315

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

公開日・更新日

公開日
2020-03-16
更新日
2023-06-27

収支報告書

文献番号
201809018Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
6,960,000円
(2)補助金確定額
6,960,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 1,755,351円
人件費・謝金 3,225,950円
旅費 151,740円
その他 866,965円
間接経費 960,000円
合計 6,960,006円

備考

備考
預金利息6円

公開日・更新日

公開日
2020-02-04
更新日
-