文献情報
文献番号
201809011A
報告書区分
総括
研究課題名
生涯にわたる循環器疾患の個人リスクおよび集団のリスク評価ツールの開発を目的とした大規模コホート統合研究
課題番号
H29-循環器等-一般-003
研究年度
平成30(2018)年度
研究代表者(所属機関)
岡村 智教(慶應義塾大学 医学部 衛生学公衆衛生学教室)
研究分担者(所属機関)
- 二宮 利治(九州大学大学院 医学研究院)
- 大久保 孝義(帝京大学 医学部)
- 磯 博康 (大阪大学大学院 医学系研究 )
- 玉腰 暁子(北海道大学大学院 医学研究科 )
- 宮本 恵宏(国立循環器病研究センター 予防健診部)
- 三浦 克之(滋賀医科大学 医学部)
- 斎藤 重幸(札幌医科大学 保健医療学部 )
- 辻 一郎(東北大学大学院 医学系研究科)
- 中川 秀昭(金沢医科大学 総合医学研究所)
- 山田 美智子((公財)放射線影響研究所 臨床研究部)
- 坂田 清美(岩手医科大学 医学部)
- 岡山 明((同)生活習慣病予防センター)
- 村上 義孝(東邦大学 医学部)
- 木山 昌彦((公財)大阪府保健医療財団 大阪がん循環器病予防センター)
- 上島 弘嗣(滋賀医科大学 アジア疫学研究センター)
- 石川 鎮清 (自治医科大学 医学部)
- 八谷 寛(藤田保健衛生大学 医学部)
- 中山 健夫(京都大学大学院 医学研究科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 循環器疾患・糖尿病等生活習慣病対策総合研究
研究開始年度
平成29(2017)年度
研究終了予定年度
令和1(2019)年度
研究費
26,963,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
危険因子への介入は循環器疾患を予防するために有用である。しかし一般の市町村では危険因子と循環器疾患の関連を直接検証することができないため、予防対策の効果をみるのは困難である。また危険因子についても血圧など個々の危険因子の変化などで評価しているが、複数の危険因子の変化と発症の関連を総合的にみないと地域の健康度を把握したことにならない。個人についてはフラミンガムスコアのようなリスク評価ツール(リスクエンジン)で複数の危険因子から発症リスクを評価し、それにより治療方針を決定する仕組みが一部のガイドラインでも取り入れられているが、集団全体の患者数等を予測するリスクエンジンはない。本研究では、初年度に健康日本21(第二次)の目標設定に貢献した17コホートのデータベースを先行研究から引き継いで、市町村等が保有する健診データ等を投入することで当該集団(市町村)に対する将来の循環器疾患発症者数等を予測するリスクエンジンを開発する。開発に際してはもともと存在する死亡率や危険因子の地域差も考慮するモデルとし、単なる予測ではなく現実的な目標設定に資するものとする。また開発したリスクエンジンを実測値と照らし合わせて再検証し、データベースの拡充を行った上で最終版のリスクエンジンを確定する。また個人の生涯リスクに着目した循環器疾患発症予測のリスクエンジンも開発する。
研究方法
先行研究のデータベースを用いて、集団間の危険因子レベル、循環器疾患(冠動脈疾患、脳卒中、心不全)発症率・死亡率、競合リスク(がん死亡など)、ベースライン調査年等を明らかにし、それぞれの情報を取り入れて集団全体の循環器疾患発症者数等を予測するモデルを作成する。この際、元々の集団の死亡率のレベルを考慮したリスクエンジンとして現実とかけ離れた目標設定とならないようにする。このリスクエンジンは各コホートで用いて実際の発症者数との差を検証する。また個人のリスクエンジンの開発も行うがこちらは生涯リスクに着目した検証を行う。さらに各コホートでの追跡調査の継続や新規コホートの支援を行いデータベース拡充の準備をする。また統合データを用いて公衆衛生上有益な新しいエビデンスを発信する。
結果と考察
集団全体の循環器疾患発症者数等を予測するモデルについては、コホート間の死亡率等のばらつきだけでなく、時代の推移による死亡率の変化、地域間の死亡率のばらつきを考慮したなリスク評価モデルを開発中である。具体的にはコホート研究の危険因子別の循環器疾患ハザード係数と人口動態統計の融合により、リスク予測モデルに地域・時代間の差を組み込んだ公衆衛生施策の基本となる地域リスク評価モデルである。プロトタイプは既に完成しており、これはデータヘルス計画や特定健診等実施計画の策定や予防対策の効果の予測に利用可能である。また個人の10年間の循環器疾患死亡リスク予測モデルの開発も進め、年齢(対数変換)、性別、喫煙、収縮期血圧値、降圧剤有無、総コレステロール値、HDLコレステロール、糖尿病、尿タンパク、循環器疾患既往に加えて、年齢と性別の交互作用項を入れた循環器疾患予測モデルが最適であることが示された。集団および個人の予測モデルのいずれも、大規模保険者を含む複数の保険者等で外的妥当性の検証を行う予定である。本邦初の試みである生涯リスクの算出については、その前段階として高血圧が循環器疾患の生涯リスクに与える影響について公表した。引き続き糖尿病と喫煙が循環器疾患の生涯リスクに与える影響を推定している。現在、脂質異常症による生涯リスクの推定モデルの策定が難航しており、複数の危険因子を用いた包括的な生涯リスク予測モデルの作成に遅延が生じないように次年度の研究の進行管理に留意する予定である。また統合データのサンプルサイズの強みを生かして単独のコホート研究では検証し難い課題についても解析を進めており、超高値HDLコレステロール領域でかえって動脈硬化性疾患のリスクが高くなることなどを論文公表した。各コホートでの個別の追跡調査の継続や研究成果の公表、新規コホートの支援、統合データを用いた公衆衛生上重要なエビデンスの発信も活発に行われた。なお統合研究と個別分担研究を含めると合計71本の論文が公表された。
結論
本研究はアジア人単独としては最大規模の循環器コホートデータベースを用いて実施される。それぞれのコホートで長年にわたって質の高い疫学研究情報が蓄積されており、危険因子と発症・死亡等の関連を精緻に評価することが可能であり、わが国のリアルワールドを反映したリスクエンジンの開発が可能と期待される。
公開日・更新日
公開日
2019-08-27
更新日
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