文献情報
文献番号
201809006A
報告書区分
総括
研究課題名
健康寿命及び地域格差の要因分析と健康増進対策の効果検証に関する研究
課題番号
H28-循環器等-一般-009
研究年度
平成30(2018)年度
研究代表者(所属機関)
田宮 菜奈子(国立大学法人筑波大学 医学医療系 / ヘルスサービス開発研究センター)
研究分担者(所属機関)
- 高橋 秀人(国立保健医療科学院)
- 野口 晴子(早稲田大学 政治経済学術院公共経営研究科)
- 武田 文(国立大学法人筑波大学 体育系)
- 松本 吉央(産業技術総合研究所 ロボットイノベーション研究センター)
- 太刀川 弘和(国立大学法人筑波大学 医学医療系)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 循環器疾患・糖尿病等生活習慣病対策総合研究
研究開始年度
平成28(2016)年度
研究終了予定年度
平成30(2018)年度
研究費
11,070,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
本研究班では、健康寿命及び地域格差の要因分析と健康増進対策の効果検証を目標として、下記の具体的な目的を掲げた。目的①:全国介護レセプトを用いた境界期健康寿命の推移と地域差の記述、地域を単位として格差要因を同定するエコロジカル・スタディおよび健康増進対策につながるような個人レベルの健康指標の関連の検討(平成29・30年度)。目的②:介護保険レセプトより個人単位で把握した介護予防サービス利用状況と境界期健康寿命の分析による予防効果の検証(平成29年度)。目的③:明らかにした要因や知見を地域に還元、PDCAサイクルによる改善を実践し、政策提言につなげる(平成30年度)。目的④:境界期健康寿命(要支援から要介護2までの期間)の概念と一般的な健康寿命の概念との擦り合わせ(平成30年度)。
研究方法
目的①については、昨年度までに得られていた知見をさらに掘り下げるため、全国介護レセプトだけでなく中高年縦断調査、人口動態調査、国民生活基礎調査のデータを用いて、健康日本21との関連を基本に、各分担班がそれぞれ専門とする疾患や背景をエクスポージャー(地域指標)として、境界期健康寿命との関連を検討した。また、国民生活基礎調査のデータを用いて、高齢者の難聴と種々の健康アウトカム(外出活動制限、心理的苦痛、もの忘れ)の関係を検討した。目的②については、昨年度に完了している。目的③については、平成30年より千葉県A市と連携し実践を行った。具体的には、A市から提供いただいた介護レセプトデータを分析し境界期健康寿命を算出し、介護保険レセプトから算出し公表した境界期健康寿命の全国平均や千葉県の平均と比較した結果をフィードバックし話し合いの場を設けた。目的④については、国民生活基礎調査の個票を用い、複数の「健康な状態」((1)「日常生活に制限がないこと」、(2)「自分が健康であると自覚していること」、(3)「要介護1以下(日常生活動作の自立)」間の一致度を検討した。また、介護給付費等実態調査データ(2016年4月~2017年3月)と人口動態統計による年齢階級別死亡(2016年)を用いて、各年齢階級別の(要介護度2移行率+死亡率)を基に65歳年齢階級およびその上の年齢階級について、生命表を用いて各年齢階級における「境界期健康寿命(余命)」を試算した。
結果と考察
目的①に関して、日本人中年者における都道府県単位での運動スポーツの実施方法と健康寿命との関係(中高年者縦断調査のデータより)、65歳以上の高齢者の不眠、睡眠時間、睡眠満足度の地域差とその関連指標(国民生活基礎調査のデータより)、高齢者介護の有無、頻度、満足度の指標10年分の平均を都道府県別の集計(中高年縦断調査のデータより)、住居地発見地の都道府県別自殺者数(人口動態調査のデータより)、都道府県単位の外因死・不明死(人口動態調査のデータより)、高齢者のアルコール使用の関連要因(国民生活基礎調査のデータより)、などを明らかにした。また、高齢者の難聴と種々の健康アウトカム(外出活動制限、心理的苦痛、もの忘れ)の強い関係を明らかにし、高齢者の難聴に対する(適切な補聴器の使用などによる)介入が健康増進対策の1つとして考慮されうることを示唆した。目的②については、昨年度に完了している。目的③について、A市をモデルとして、健康に関する政策提言につながる活動を開始することができた。目的④について、複数の「健康な状態」((1)「日常生活に制限がないこと」、(2)「自分が健康であると自覚していること」、(3)「要介護1以下(日常生活動作の自立)」間の一致度が高いことを示した。また、境界期健康寿命(余命)は、65歳時は男性6.0年、女性7.6年、70歳時では男性5.3年、女性7.2年であった。これは要支援および要介護度1の要介護認定者の65歳の対象者においては、期待値として、男性6.0年、女性7.6年で要介護2以上に達するということで、わかりやすい指標となっており、境界期健康寿命(余命)はハイリスクアプローチの評価指標として意義あるものと考えられた。一方で、本算出においては、要支援者の死亡率を一般集団の死亡率で代替利用している点には注意が必要であることが示唆された。
結論
今年度は、健康寿命、境界期健康寿命の地域格差および、地域格差の要因となりうる各種指標について分析を進めることができた。さらに、一市町村と協力し、明らかにした要因や知見を地域に還元し、PDCAサイクルによる改善を実践し、政策提言につなげる先例を作ることができた。さらに、これまでの3年分の研究をまとめる際に重要な、境界期健康寿命(要支援から要介護2までの期間)の概念と一般的な健康寿命の概念との擦り合わせを行うことができた。
公開日・更新日
公開日
2019-09-30
更新日
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