糖尿病性網膜症・下肢壊疽等の総合的な重症度評価の作成と合併症管理手法に関する研究

文献情報

文献番号
201809004A
報告書区分
総括
研究課題名
糖尿病性網膜症・下肢壊疽等の総合的な重症度評価の作成と合併症管理手法に関する研究
研究課題名(英字)
-
課題番号
H28-循環器等-一般-005
研究年度
平成30(2018)年度
研究代表者(所属機関)
羽田 勝計(旭川医科大学 内科学講座 病態代謝内科学分野)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 循環器疾患・糖尿病等生活習慣病対策総合研究
研究開始年度
平成28(2016)年度
研究終了予定年度
平成30(2018)年度
研究費
6,921,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究の目的は、日本糖尿病学会(前常務理事 申請者、植木浩二郎)を中心に日本糖尿病合併症学会(理事長:申請者)、日本糖尿病眼学会(理事長 小椋祐一郎)などの学会が多面的に協力して、1)糖尿病網膜症と下肢病変に対する実態調査 2)糖尿病網膜症の重症化および下肢病変の多施設前向き大規模コホート研究 3)糖尿病下肢病変(壊疽、潰瘍)の発症や重症化を促進する因子の解析 4)下肢血流障害の早期発見検査法の開発と網膜血流障害と関連性の検討を実行する。そのうえで、これらの検討から我が国発のエビデンスに基づき各学会が協力して、標準化した治療のガイドラインの作成に寄与する。
研究方法
(1)糖尿病網膜症と下肢病変に対する実態調査
(2)糖尿病網膜症の重症化および足病変の多施設前向き大規模コホート研究
(3)糖尿病壊疽の発生や重症化を促進する因子の解析
(4)下肢血流障害の早期発見検査法の開発と、眼(網膜)血流障害と関連性の検討
結果と考察
(1)糖尿病網膜症と下肢病変に対する実態調査:良好
実態調査として糖尿病専門施設、糖尿病網膜症専門施設、下肢血行再建施設にアンケート調査を行い、その解析を行った。2年目では糖尿病専門医教育施設向けのアンケートでは約40%の回答率であったが、再調査の依頼、約60%の回答率を達成した。今回の調査で、網膜症や足病変の予防や早期発見に関して、糖尿病専門施設ですら診療体制が十分整っていない現状が明らかになった。加えて、重症眼合併症により1年間に眼科的処置が必要な糖尿患者は約1%に上る現状が明らかになった。下肢血行再建施設に対するアンケートの回答率は低かったが、900例を超える血行再建症例の実情が明らかになった。透析症例が半数を占め、重症虚血肢では大切断や感染壊疽に陥るリスクが高いことが改めて明らかになった。
平成29年度より健保ビックデータを用いた解析を開始し検討を行った。糖尿病として初めて治療された患者における網膜症凝固術の発生率は全体で5.46/千人年、硝子体手術の発生率は1.21/千人年、四肢切断術の発生率は0.36/千人年であったが、健保加入者の背景に偏りがある可能性も高く、今後この問題点を克服する必要がある。
(2)糖尿病網膜症の重症化および足病変の多施設前向き大規模コホート研究:遅延
ベースラインのコホートデータの入力後、既存コホートのヒストリカルコホートのデータ入力を開始している。ヒストリカルコホートのデータ入力を終了しデータ化したが、まだデータのクリーニング途中である。前向きコホートについては現在2,000例をエントリーした。今後、継続して研究を続行する予定である。
(3)糖尿病壊疽の発生や重症化を促進する因子の解析:完了
後ろ向き解析については、症例を抽出して解析が完了し、論文発表した。前向き解析についてもデータ収集し、現在論文投稿中である。
(4)下肢血流障害の早期発見検査法の開発と、眼(網膜)血流障害と関連性の検討 :良好
残念ながらOCTアンジオグラフィーで求められる眼血流の指標と足レーザードップラー血流計から求められる指標とは相関関係が認めず、下肢血流障害の早期発見検査法の開発と、眼(網膜)血流障害を一元的に評価する方法として最適な指標にはなり得なかった。
結論
糖尿病の合併症は多岐にわたり、それに関わる専門家は、内科、眼科、血管外科、形成外科など多分野に分散しているため、総合的に合併症を克服するためには集学的な研究が必要になる。本研究では、日本糖尿病学会を中心に、日本糖尿病合併症学会、日本糖尿病眼学会が多面的に協力することで、重症合併症の現状と克服への課題を導き出せることが期待される。
なお、前向きコホートスタディについては、イベントを登録して解析することで糖尿病下肢病変(壊疽、潰瘍)の発生や重症化を促進する因子の詳細な解析を行う予定である。また、糖尿病網膜症の重症化および足病変に対する多施設前向き大規模コホート研究は我が国では初であり、その因子を解析することで、糖尿病治療に対する社会的な啓蒙活動に結びつくと考えられる。さらに得られた結果に基づき、治療介入することで、重症合併症発症・進展を抑制し、社会・医療資源を他の疾患への対策など有効に活用出来る可能性がある。
さらに、糖尿病下肢病変(壊疽、潰瘍)の発生や重症化を促進する因子の解析することで、重症合併症進展抑制における医療体制(病診連携、病病連携、診療科間連携)を構築する。加えて、評価、治療、医療連携のアルゴリズムを提案することができる。
 

公開日・更新日

公開日
2019-09-30
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2019-09-30
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

文献情報

文献番号
201809004B
報告書区分
総合
研究課題名
糖尿病性網膜症・下肢壊疽等の総合的な重症度評価の作成と合併症管理手法に関する研究
研究課題名(英字)
-
課題番号
H28-循環器等-一般-005
研究年度
平成30(2018)年度
研究代表者(所属機関)
羽田 勝計(旭川医科大学 内科学講座 病態代謝内科学分野)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 循環器疾患・糖尿病等生活習慣病対策総合研究
研究開始年度
平成28(2016)年度
研究終了予定年度
平成30(2018)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究の目的は、日本糖尿病学会(前常務理事 申請者、植木浩二郎)を中心に日本糖尿病合併症学会(理事長:申請者)、日本糖尿病眼学会(理事長 小椋祐一郎)などの学会が多面的に協力して、1)糖尿病網膜症と下肢病変に対する実態調査 2)糖尿病網膜症の重症化および下肢病変の多施設前向き大規模コホート研究 3)糖尿病下肢病変(壊疽、潰瘍)の発症や重症化を促進する因子の解析 4)下肢血流障害の早期発見検査法の開発と網膜血流障害と関連性の検討を実行する。そのうえで、これらの検討から我が国発のエビデンスに基づき各学会が協力して、標準化した治療のガイドラインの作成に寄与する。
研究方法
(1)糖尿病網膜症と下肢病変に対する実態調査
(2)糖尿病網膜症の重症化および足病変の多施設前向き大規模コホート研究
(3)糖尿病壊疽の発生や重症化を促進する因子の解析
(4)下肢血流障害の早期発見検査法の開発と、眼(網膜)血流障害と関連性の検討
結果と考察
(1)糖尿病網膜症と下肢病変に対する実態調査:良好
実態調査として糖尿病専門施設、糖尿病網膜症専門施設、下肢血行再建施設にアンケート調査を行い、その解析を行った。2年目で実施した糖尿病専門医教育施設向けのアンケートでは約40%の回答率であったが、再調査の依頼、約60%の回答率を達成した。今回の調査で、網膜症や足病変の予防や早期発見に関して、糖尿病専門施設ですら診療体制が十分整っていない現状が明らかになった。加えて、重症眼合併症により1年間に眼科的処置が必要な糖尿患者は約1%に上る現状が明らかになった。下肢血行再建施設に対するアンケートの回答率は低かったが、900例を超える血行再建症例の実情が明らかになった。透析症例が半数を占め、重症虚血肢では大切断や感染壊疽に陥るリスクが高いことが改めて明らかになった。
平成29年度より健保ビックデータを用いた解析を開始し検討を行った。糖尿病として初めて治療された患者における網膜症凝固術の発生率は全体で5.46/千人年、硝子体手術の発生率は1.21/千人年、四肢切断術の発生率は0.36/千人年であったが、健保加入者の背景に偏りがある可能性も高く、今後この問題点を克服する必要がある。
(2)糖尿病網膜症の重症化および足病変の多施設前向き大規模コホート研究:遅延
ベースラインのコホートデータの入力後、既存コホートのヒストリカルコホートのデータ入力を開始している。ヒストリカルコホートのデータ入力を終了しデータ化したが、まだデータのクリーニング途中である。前向きコホートについては現在2,000例をエントリーした。今後、継続して研究を続行する予定である。
(3)糖尿病壊疽の発生や重症化を促進する因子の解析:完了
後ろ向き解析については、症例を抽出して解析が完了し、論文発表した。前向き解析についてもデータ収集し、現在論文投稿中である。
(4)下肢血流障害の早期発見検査法の開発と、眼(網膜)血流障害と関連性の検討 :良好
残念ながらOCTアンジオグラフィーで求められる眼血流の指標と足レーザードップラー血流計から求められる指標とは相関関係が認めず、下肢血流障害の早期発見検査法の開発と、眼(網膜)血流障害を一元的に評価する方法として最適な指標にはなり得なかった。
結論
糖尿病の合併症は多岐にわたり、それに関わる専門家は、内科、眼科、血管外科、形成外科など多分野に分散しているため、総合的に合併症を克服するためには集学的な研究が必要になる。本研究では、日本糖尿病学会を中心に、日本糖尿病合併症学会、日本糖尿病眼学会が多面的に協力することで、重症合併症の現状と克服への課題を導き出せることが期待される。
なお、前向きコホートスタディについては、イベントを登録して解析することで糖尿病下肢病変(壊疽、潰瘍)の発生や重症化を促進する因子の詳細な解析を行う予定である。また、糖尿病網膜症の重症化および足病変に対する多施設前向き大規模コホート研究は我が国では初であり、その因子を解析することで、糖尿病治療に対する社会的な啓蒙活動に結びつくと考えられる。さらに得られた結果に基づき、治療介入することで、重症合併症発症・進展を抑制し、社会・医療資源を他の疾患への対策など有効に活用出来る可能性がある。
さらに、糖尿病下肢病変(壊疽、潰瘍)の発生や重症化を促進する因子の解析することで、重症合併症進展抑制における医療体制(病診連携、病病連携、診療科間連携)を構築する。加えて、評価、治療、医療連携のアルゴリズムを提案することができる。

公開日・更新日

公開日
2019-09-30
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

行政効果報告

文献番号
201809004C

成果

専門的・学術的観点からの成果
糖尿病網膜症による硝子体手術や失明に至るなどの高度眼合併症症例、下肢血行再建術や下肢切断に至る下肢壊疽症例の正確な統計はなく、両合併症を総合的に評価した検討は少ない。本研究では、日本糖尿病学会を中心に日本糖尿病合併症学会、日本糖尿病眼学会などの学会が多面的に協力して、重症合併症の診療治療実態と悪化させる因子の解析を前向き・後ろ向きに検討し明らかにした。
臨床的観点からの成果
患者アンケートでは、眼科無治療や中断例が多いことが明らかになった。全国調査では、通院中糖尿病患者の下肢切断例は0.23%で、血行再建術例0.64%であった。一方、ABIの施行率は17%に留まり、施行率の増加が望まれる。網膜症のアウトカムに関連する因子として、糖尿病罹病期間、収縮期血圧、eGFR、血清HDL-c値、血清LDL-c値、一方足病変のアウトカムには高齢、女性、喫煙、網膜症、血清HDL-c値、血清LDL-c値が関連する。
ガイドライン等の開発
今後、コホートスタディの結果を踏まえてガイドライン作成に貢献する。
その他行政的観点からの成果
健康保険のデータベースを用いて検討した。JMDCデータベース全被保険者は3,740,239人で、期間全体での新規糖尿病発症者は37,329名であった。網膜症凝固術の発生率は全体で5.46/千人年、硝子体手術の発生率は1.21/千人年、四肢切断術の発生率は0.36/千人年であった。
その他のインパクト
現在、日本糖尿病学会の学術研究として継続中である。
糖尿病合併症学会シンポジウムなどでコホート研究の成果を報告し、現在成果を執筆中である。

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
3件
その他論文(和文)
2件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
4件
日本糖尿病合併症学会、日本糖尿病学会
学会発表(国際学会等)
0件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Takahara M, Iida Y, Fujita Y et al.
Clinical characteristics of Japanese diabetic patients with critical limb ischemia presenting Fontaine stage IV
Diabetology International , 10 (3) , 231-235  (2019)
doi.org/10.1007/s13340-018-0387-6
原著論文2
Takahara M, Iida Y, Fujita Y et al.
Prospective Study on Clinical Characteristics of Japanese Diabetic Patients With Chronic Limb-Threatening Ischemia Presenting Fontaine Stage IV
Diabetology International  (2020)
doi: 10.1007/s13340-019-00399-5
原著論文3
Fujita Y, Haneda M
Clinical practice of diabetic foot, nephropathy, and retinopathy in Japan: cross-sectional study using local and nationwide questionnaire surveys
Diabetology International  (2021)
https://doi.org/10.1007/s13340-021-00559-6

公開日・更新日

公開日
2022-07-14
更新日
2025-06-16

収支報告書

文献番号
201809004Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
8,997,000円
(2)補助金確定額
8,878,000円
差引額 [(1)-(2)]
119,000円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 2,154,814円
人件費・謝金 1,253,613円
旅費 2,331,020円
その他 1,062,553円
間接経費 2,076,000円
合計 8,878,000円

備考

備考
-

公開日・更新日

公開日
2020-02-05
更新日
-