成人眼科検診の有用性、実施可能性に関する研究

文献情報

文献番号
201809003A
報告書区分
総括
研究課題名
成人眼科検診の有用性、実施可能性に関する研究
課題番号
H28-循環器等-一般-004
研究年度
平成30(2018)年度
研究代表者(所属機関)
山田 昌和(杏林大学医学部 眼科学教室)
研究分担者(所属機関)
  • 平塚 義宗(順天堂大学医学部 眼科学講座)
  • 川崎 良(大阪大学医学系研究科 脳神経感覚器外科学(眼科学)視覚情報制御学寄附講座)
  • 田村 寛(京都大学 国際高等教育院附属データ科学イノベーション教育研究センター)
  • 中野 匡(東京慈恵会医科大学 眼科学講座)
  • 横山 徹爾(国立保健医療科学院 生涯健康研究部)
  • 高野 繁(公益社団法人日本眼科医会)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 循環器疾患・糖尿病等生活習慣病対策総合研究
研究開始年度
平成28(2016)年度
研究終了予定年度
平成30(2018)年度
研究費
6,840,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
 視覚障害の原因疾患として、緑内障、糖尿病網膜症、変性近視、黄斑変性、白内障が主要なものであり、この5つの疾患で本邦の視覚障害の75%を占めている。これらは加齢・変性疾患であり、特に緑内障は40歳以上の有病率が5%と高く、初期には自覚症状に乏しく徐々に不可逆的に進行する。従って、緑内障を中心とした成人眼疾患を早期に発見するための眼科検診プログラムが重要と考えられる。
 現状では成人眼科検診の制度を持つ自治体はごく少数であり、検診の形式も様々である。また、現行の自治体での眼科検診では検診結果の把握にとどまっており、精密検査結果の把握、事後評価が課題となっている。本研究ではどのような検診のスキームが検診精度、医学的効果に優れているか比較検討し、精度の高い成人眼科検診の実施可能性を評価することを目的とした。

研究方法
 本研究は2つのステップで構成される。最初のステップは、眼科検診で発見される慢性眼疾患の有病割合を調査する疫学研究であり、次のステップは眼科検診の精度評価のための研究であり、最初のステップで得られた臨床データを用いた。
 1番目のステップ:島根県松江市、宮城県仙台市、東京都世田谷区の3地域の合計16の施設(眼科クリニック)を研究参加施設とし、特定健診を契機に眼科医療施設を受診した者を対象として詳細な包括的眼科検査を行った。緑内障を中心とした視覚障害の原因となる慢性眼疾患の有病割合とその重症度を検討した。
 2番目のステップ:包括的眼科検査を行った症例の臨床情報と電子画像を統合し、段階的に画像を提示するシステムを開発し、3つの異なる方式で、段階的に情報を提示できるようにした。緑内障と正常者を含む510例のデータセットを作成し、24名の眼科医を被験者として、眼底写真、眼底写真+光干渉断層計(OCT)、包括的眼科検査の3つの検診スキーム別に緑内障診断の精度評価を行った。本研究の収集データには静的視野検査も含まれており、緑内障の有無の確定診断が可能である。各々の判定結果から、眼底写真撮影と眼底写真+OCT、包括的眼科検診の3つの検診スキームの精度評価を行った。
結果と考察
 特定健診受診者を対象とした包括的眼科検査では1,478例の症例が登録され、解析基準に合致した1,360例について解析した。1360例の内訳は、男性442例(32.5%)、女性918例(67.5%)、年齢は平均63.7+/-8.7歳であった。眼疾患として白内障が673例(49.5%)に見られたが、視機能に影響する白内障を有する例は56例(4.1%)であった。緑内障と判定されたのは175例(12.9%)で、この他に網膜疾患として、黄斑変性16例(1.2%)、糖尿病網膜症13例(1.0%)、近視性網脈絡膜萎縮7例(0.5%)、黄斑前膜39例(2.9%)、網膜静脈閉塞症10例(0.7%)、その他27例(2.0%)が発見された。緑内障の有病割合は12.9%と従来考えられているよりもやや高く、黄斑疾患を中心とした網膜疾患の有病割合も高いことが示された。緑内障の重症度は初期が79.5%、中期が16.4%、進行期が4.1%であった。このうち、今回の眼科検診以前に緑内障と診断され、医学的管理を受けていたのは21%に過ぎなかった。
 緑内障のスクリーニング方式についての精度評価では、人単位で評価した場合、眼底写真単独では感度56.9%、特異度90.5%、眼底写真+OCTの場合には感度80.2%、特異度90.4%、包括的眼科検査(眼底写真+OCT+眼科検査)では感度78.5%、特異度91.8%となった。特異度に関しては3つの方式いずれも90%以上と優れた値を示し、3者に大きな差はなかったが、感度については眼底写真単独の場合に比べて、眼底写真+OCTと包括的眼科検査では20%以上大きく上昇し、眼底検査にOCT検査を併用すると包括的眼科検査とほぼ同等の高い検診精度が得られると考えられた。
結論
 多数例に詳細な包括的眼科検査を行った本研究の結果は、緑内障など慢性眼疾患の有病割合と重症度を示す重要な疫学データとなるものと考えられた。緑内障検診としての精度評価では、眼底検査にOCT検査を併用することの有用性が示唆された。実施可能性を考える上では眼科検診の感度、特異度など精度の問題に加えて、判定可能割合や費用、人的資源などを総合的に勘案する必要がある。このためには医学的効果と費用対効果などを含めた医療経済学的な分析が今後の課題と考えられた。

公開日・更新日

公開日
2019-08-27
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2022-10-20
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

文献情報

文献番号
201809003B
報告書区分
総合
研究課題名
成人眼科検診の有用性、実施可能性に関する研究
課題番号
H28-循環器等-一般-004
研究年度
平成30(2018)年度
研究代表者(所属機関)
山田 昌和(杏林大学医学部 眼科学教室)
研究分担者(所属機関)
  • 平塚 義宗(順天堂大学医学部 眼科学講座)
  • 川崎 良(大阪大学医学系研究科 脳神経感覚器外科学(眼科学)視覚情報制御学寄附講座)
  • 田村 寛(京都大学 国際高等教育院附属データ科学イノベーション教育研究センター)
  • 中野 匡(東京慈恵会医科大学 眼科学講座)
  • 横山 徹爾(国立保健医療科学院 生涯健康研究部)
  • 高野 繁(公益法人日本眼科医会)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 循環器疾患・糖尿病等生活習慣病対策総合研究
研究開始年度
平成28(2016)年度
研究終了予定年度
平成30(2018)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
 視覚障害の原因疾患として、緑内障、糖尿病網膜症、変性近視、黄斑変性、白内障が主要なものであり、この5つの疾患で本邦の視覚障害の75%を占めている。これらは加齢・変性疾患であり、特に緑内障は40歳以上の有病率が5%と高く、初期には自覚症状に乏しく徐々に不可逆的に進行する。従って、緑内障を中心とした成人眼疾患を早期に発見するための眼科検診プログラムが重要と考えられる。
 現状では成人眼科検診の制度を持つ自治体はごく少数であり、検診の形式も様々である。また、現行の自治体での眼科検診では検診結果の把握にとどまっており、精密検査結果の把握、事後評価が課題となっている。本研究ではどのような検診のスキームが検診精度、医学的効果に優れているか比較検討し、精度の高い成人眼科検診の実施可能性を評価することを目的とした。
研究方法
 本研究は2つのステップで構成される。最初のステップは、眼科検診で発見される慢性眼疾患の有病割合を調査する疫学研究であり、次のステップは眼科検診の精度評価のための研究であり、最初のステップで得られた臨床データを用いた。
 1番目のステップ:島根県松江市、宮城県仙台市、東京都世田谷区の3地域の合計16の施設(眼科クリニック)を研究参加施設とし、特定健診を契機に眼科医療施設を受診した者を対象として詳細な包括的眼科検査を行った。緑内障を中心とした視覚障害の原因となる慢性眼疾患の有病割合とその重症度を検討した。
 2番目のステップ:包括的眼科検査を行った症例の臨床情報と電子画像を統合し、段階的に画像を提示するシステムを開発し、3つの異なる方式で、段階的に情報を提示できるようにした。緑内障と正常者を含む510例のデータセットを作成し、24名の眼科医を被験者として、眼底写真、眼底写真+光干渉断層計(OCT)、包括的眼科検査の3つの検診スキーム別に緑内障診断の精度評価を行った。本研究の収集データには静的視野検査も含まれており、緑内障の有無の確定診断が可能である。各々の判定結果から、眼底写真撮影と眼底写真+OCT、包括的眼科検診の3つの検診スキームの精度評価を行った。
結果と考察
 特定健診受診者を対象とした包括的眼科検査では1,478例の症例が登録され、解析基準に合致した1,360例について解析した。1360例の内訳は、男性442例(32.5%)、女性918例(67.5%)、年齢は平均63.7+/-8.7歳であった。眼疾患として白内障が673例(49.5%)に見られたが、視機能に影響する白内障を有する例は56例(4.1%)であった。緑内障と判定されたのは175例(12.9%)で、この他に網膜疾患として、黄斑変性16例(1.2%)、糖尿病網膜症13例(1.0%)、近視性網脈絡膜萎縮7例(0.5%)、黄斑前膜39例(2.9%)、網膜静脈閉塞症10例(0.7%)、その他27例(2.0%)が発見された。緑内障の有病割合は12.9%と従来考えられているよりもやや高く、黄斑疾患を中心とした網膜疾患の有病割合も高いことが示された。緑内障の重症度は初期が79.5%、中期が16.4%、進行期が4.1%であった。このうち、今回の眼科検診以前に緑内障と診断され、医学的管理を受けていたのは21%に過ぎなかった。
 緑内障のスクリーニング方式についての精度評価では、人単位で評価した場合、眼底写真単独では感度56.9%、特異度90.5%、眼底写真+OCTの場合には感度80.2%、特異度90.4%、包括的眼科検査(眼底写真+OCT+眼科検査)では感度78.5%、特異度91.8%となった。特異度に関しては3つの方式いずれも90%以上と優れた値を示し、3者に大きな差はなかったが、感度については眼底写真単独の場合に比べて、眼底写真+OCTと包括的眼科検査では20%以上大きく上昇し、眼底検査にOCT検査を併用すると包括的眼科検査とほぼ同等の高い検診精度が得られると考えられた。
結論
 多数例に詳細な包括的眼科検査を行った本研究の結果は、緑内障など慢性眼疾患の有病割合と重症度を示す重要な疫学データとなるものと考えられた。緑内障検診としての精度評価では、眼底検査にOCT検査を併用することの有用性が示唆された。実施可能性を考える上では眼科検診の感度、特異度など精度の問題に加えて、判定可能割合や費用、人的資源などを総合的に勘案する必要がある。このためには医学的効果と費用対効果などを含めた医療経済学的な分析が今後の課題と考えられた。

公開日・更新日

公開日
2019-08-27
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

行政効果報告

文献番号
201809003C

成果

専門的・学術的観点からの成果
 特定健診を受診した対象に行った詳細な包括的眼科検査の結果、緑内障の有病割合は12.9%と従来考えられているよりもやや高く、黄斑疾患を中心とした網膜疾患の有病割合も高いことが示された。本研究の結果は、緑内障など慢性眼疾患の本邦における有病割合と重症度を示す重要な疫学データとなるものと考えられる。緑内障のスクリーニング方式についての精度評価では、眼底検査にOCT検査を併用すると包括的眼科検査とほぼ同等の感度、特異度が得られることから、スクリーニング方式としての眼底写真+OCTの有用性が示唆された。
臨床的観点からの成果
 成人眼科検診によって多くの未治療緑内障患者が発見されること、緑内障の病型は正常眼圧緑内障が82%、開放隅角緑内障が12%と多く、両者で9割以上を占めることなど本邦での緑内障患者の現状を把握することができた。また、緑内障のスクリーニング方式についての精度評価では、眼底検査にOCT検査を併用すると包括的眼科検査とほぼ同等の感度、特異度が得られることから、検診へのOCT検査の導入が検診の精度を高めることになると考えられた。
ガイドライン等の開発
 特になし。
その他行政的観点からの成果
 平成30年11月29日の自民党議員連盟総会において、成人眼科検診の現状と課題について研究代表者の山田が報告を行った。
その他のインパクト
 平成29年4月9日日本眼科学会市民公開講座「眼と健康を守るこころがけ」において、「みんなで考えよう、眼科検診」と題して研究代表者の山田が講演を行った。
 令和元年10月12日の朝日新聞で「40歳を過ぎたら眼科検査」というタイトルで緑内障に関する啓発記事が掲載された。

発表件数

原著論文(和文)
11件
原著論文(英文等)
57件
その他論文(和文)
23件
その他論文(英文等)
1件
学会発表(国内学会)
6件
学会発表(国際学会等)
0件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Nakano T, Kawashima M, Hiratsuka Y, et al.
Assessment of quality of life in patients with visual impairments using a new visual function questionnaire: the VFQ-J11.
Clinical Ophthalmology , 7 (10) , 1939-1944  (2016)
原著論文2
Kawashima M, Hiratsuka Y, Nakano T, et al.
The association between legal Japanese visual impairment grades and vision related quality of life.
Japanese Journal of Ophthalmology , 60 (3) , 219-225  (2016)
原著論文3
Tamura H, Akune Y, Hiratsuka Y, et al.
Real‑world effectiveness of screening programs for age‑related macular degeneration: amended Japanese specific health checkups and augmented screening programs with OCT or AI.
Jpn J Ophthalmol. , 66 , 19-32  (2022)
原著論文4
Watanabe T, Hiratsuka Y, Kita Y, et al.
Combining Optical Coherence Tomography and Fundus Photography to Improve Glaucoma Screening.
Diagnostics , 12 , 1100-1100 ePub  (2022)
原著論文5
吉村長久,板谷正紀,辻川明, 他
日本人の加齢黄斑変性
日本眼科学会雑誌 , 120 , 163-189  (2016)
原著論文6
朝井知佳子、小川佳子、川島素子、他
視覚障害の疾病負担についての検討:両眼性と片眼性の比較
眼臨紀要 , 10 , 891-896  (2017)
原著論文7
平塚義宗
視覚障害対策で健康寿命延伸を-介護予防における眼科医療の役割
東京都眼科医会報 , 239 , 2-7  (2017)
原著論文8
平塚義宗、小野浩一
視覚障害は公衆衛生問題である 日本における視覚障害・失明の現状と原因の変遷
公衆衛生 , 81 , 364-371  (2017)
原著論文9
Hiratsuka Y.
Visual Impairment as a Public Health Problem.
Juntendo Medical Journal , 63 , 201-203  (2017)
原著論文10
Kasuga T, Aruga F, Ono K, et al.
Visual impairment as an independent risk factor for falls in hospitalized patients.
Canadian Journal of Ophthalmology , 52 , 559-563  (2017)
原著論文11
Inoue S, Kawashima M, Hiratsuka Y, et al.
Assessment of physical inactivity and locomotor dysfunction in adults with visual impairment.
Scientific Reports , 13 , 12032-  (2018)
原著論文12
Shigeyasu C, Yamada M, Kawashima M, et al.
Quality of Life Measures and Health Utility Values among Dry Eye Subgroups.
Health and Quality of Life Outcomes , 16 , 170-  (2018)
原著論文13
平塚義宗
世界の失明はどうなっているのか 2018 updates.
日本眼科学会雑誌 , 122 , 537-545  (2018)
原著論文14
佐渡 一成, 澤田 瑞穂, 宮澤 栞奈, 他
眼科検診において判定可能な眼科データが得られる割合についての検討
臨床眼科 , 733 (3) , 315-320  (2019)
原著論文15
川崎 良、西田幸二
高齢者の臓器別疾患 眼疾患 高齢者の目の悩みと失明予防. 老年医学(下)-基礎・臨床研究の最新動向-
日本臨床 , 76 (増刊7) , 173-177  (2018)
原著論文16
Morizane Y, Morimoto N, Fujiwara A, et al.
Incidence and causes of visual impairment in Japan: the first nation-wide complete enumeration survey of newly certified visually impaired individuals.
Japanese Journal of Ophthalmology , 63 , 26-33  (2019)
原著論文17
Yamada M, Hiratsuka Y, Nakano T, et al.
Detection of Glaucoma and Other Vision-threatening Ocular Diseases in the Population Recruited at Specific Health Checkups in Japan.
Clinical Epidemiology , 12 , 1381-1388  (2020)
原著論文18
平形明人、山田昌和、川崎良
高齢化社会における眼科医療の役割
Current Therapy , 38 , 184-191  (2020)
原著論文19
三宅 謙作, 山田 昌和, 平塚 義宗
高齢者社会における視機能障害と社会的コスト
Geriatric Medicine , 58 , 103-110  (2020)
原著論文20
Hiratsuka Y, Yokoyama T, Yamada M.
Higher participation rate for specific health checkups concerning simultaneous ophthalmic checkups.
Journal of Epidemiology , Online  (2020)
10.2188/jea.JE20200052

公開日・更新日

公開日
2022-05-27
更新日
2023-06-22

収支報告書

文献番号
201809003Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
8,892,000円
(2)補助金確定額
8,874,000円
差引額 [(1)-(2)]
18,000円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 2,143,259円
人件費・謝金 2,850,595円
旅費 434,960円
その他 1,393,963円
間接経費 2,052,000円
合計 8,874,777円

備考

備考
自己資金777円が発生しました。

公開日・更新日

公開日
2020-04-10
更新日
-