データーベースを用いた高齢者におけるインフルエンザワクチンの効果についての検討

文献情報

文献番号
199800668A
報告書区分
総括
研究課題名
データーベースを用いた高齢者におけるインフルエンザワクチンの効果についての検討
課題番号
-
研究年度
平成10(1998)年度
研究代表者(所属機関)
柏木 征三郎(九州大学医学部附属病院)
研究分担者(所属機関)
  • 林純(九州大学医学部附属病院)
  • 鍋島茂樹(九州大学医学部附属病院)
  • 加地正英(久留米大学医学部医療センター)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 医薬安全総合研究事業
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
平成12(2000)年度
研究費
10,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
インフルエンザの流行は社会的に大きな影響を及ぼすが、その影響は、高齢者において特に大きい事が知られている。最近のインフルエンザ流行による死亡者は、80%以上が高齢者であると報告されている。現在多くの先進国では、高齢者は、ハイリスクグループとしてワクチン接種が推奨されている。しかしながら、本邦ではインフルエンザワクチンの効果についての理解が少ないためか、ワクチンの接種率は、著しく低下しており、インフルエンザ流行により、大きな社会的損害を蒙る事が懸念されており、特に高齢者が問題になると予測される。今回、本邦における高齢者の中で、厚生行政上重要な集団である、高齢入院患者及び高齢者施設入所者を対象として、インフルエンザ流行の影響、インフルエンザワクチンの効果及び副反応についての検討を行う。また、高齢者に対するインフルエンザワクチンの医療経済学的な効果についても検討を行う。更に、近い将来に予測されている新型インフルエンザウイルスの出現の際に、高齢者においても、新型インフルエンザウイルスに対応するためのシステム構築に、有用な知見を提供することを目的とする。
研究方法
インフルエンザの流行は、年度によりその規模が大きく異なる。また流行したインフルエンザウイルスの生物学的特性により、感染者における臨床症状が異なる可能性も考えられる。そのために、インフルエンザワクチンの効果の検討には、複数年の観察が必要と考えられる。今回は、研究期間を3年間とし、60才以上の高齢者について、前向きな検討を行う。また、診療記録とHI抗体価の測定結果が調査出来る60才以上の高齢者については、過去5年間に関する後ろ向きな検討を行う。インフルエンザの臨床研究においてインフルエンザの診断基準は、その研究の結果を考察する上で最も基本的な要件である。本研究では、インフルエンザの診断は、ペア血清でのHI抗体価の上昇で行なう。インフルエンザワクチンの効果については、各個体について過去のワクチン接種歴などの可能なかぎり情報を収集し、ワクチン接種によるHI抗体価の上昇を指標とした、免疫学的効果と、HI抗体価の4倍以上の上昇による罹患状況の観察から得られた予防効果について、データーベースを作成して、解析を行なう。インフルエンザワクチンの副反応については、前向き研究では、調査項目を設定した調査を、後ろ向き研究では、患者の診療録の記載の調査を行なう。医療費削減効果については、流行期間の診療記録並びに診療報酬の記録に関して調査を行ない、各流行期におけるインフルエンザワクチンのコストベネフィトについて検討を行なう。さらに、流行期間のみならず非流行期の診療の内容、予後について詳細な調査を行ない、長期的な視点からの検討を行なう。インフルエンザワクチンの有用性が明らかにされている現状において、前向き研究の際に、対象者をワクチン群とプラセボ群に振り分ける事は、倫理面から問題があると考えられる。今回の研究では、予め準備したワクチン数に達するまでワクチン接種希望者をつのり、ワクチン接種を希望しなかった者及び予め準備したワクチン数に希望者が達した後に、試験に参加可能となった者を、コントロールとする事によって、倫理的な問題を回避するとともに、参加者へのインフォームドコンセントを確実なものとするために、参加者本人または家族から文書による同意を条件とした。
結果と考察
本年度は3年の研究期間の初年度であり、インフルエンザワクチン接種を行ない、観察開始の段階にあたる。研究の実施
に際し、倫理的な配慮として、ワクチン接種希望の有無により、対象者をワクチン群とプラセボ群に振り分け、また、参加者のインフォームドコンセントを確実なものとするために、文書による同意を条件として、高齢者にインフルエンザワクチンの接種を行ない、円滑にワクチンの接種を行なう手順を確立する事が出来た。柏木班では、前向き研究として、高齢者にインフルエンザワクチンの接種を行なった。至適接種方法の検討として、ワクチンの接種回数を、1回と2回の2群に分け、さらにコントロールとして未接種者群をおいた。追跡調査及びHI抗体価の解析を行なう事により、インフルエンザワクチンの効果及びインフルエンザワクチンの医療経済学的評価が可能と考えられる。また、後ろ向き研究として、過去の成績から、インフルエンザワクチンの効果と接種方法との関連について、接種回数1回と2回の比較を行ない、前年度インフルエンザワクチン接種者では、インフルエンザワクチン接種株に変更がない場合、接種回数1回と2回では、接種後のHI抗体価に有意の差は見られず、接種回数1回でも充分な効果が期待出来る事が明らかにした。この成績からインフルエンザワクチンの1回接種について、今後さらに検討を進めて行くべきであると考えられた。加地班では、前向き研究として、95名の脳血管障害やパーキンソン病などの神経疾患を有する高齢者にインフルエンザワクチンの接種を行なった。本年度の追跡調査及びHI抗体価の解析による、インフルエンザワクチンの効果についての検討の準備が整った状態とした。高齢者におけるインフルエンザワクチンの副作用についての初期検討では、基礎疾患を有する高齢者で、副反応の出現頻度は、一般成人に比し低く、重篤な副反応も今回の検討の範囲では見られない事から、神経疾患などの基礎疾患を有する高齢入院患者においても積極的にインフルエンザワクチン接種を行なう事に問題はないと考えられた。医療費削減効果については、過去の流行期について、診療報酬の記録の内容、予後について調査を行ない、長期的な視点からのインフルエンザワクチンのコストベネフィトについて検討を行なう際の問題点を抽出する事が出来た。
結論
本年度は3年の研究期間の初年度であり、高齢者にインフルエンザワクチン接種を行ない、各種の検討の準備が整った状態とした。基礎疾患を有する高齢者で、副反応の出現頻度は一般成人に比し低く、積極的にインフルエンザワクチン接種を行ない、その効果について検討を進めて行くべきであると考えられた。過去の成績の解析から、接種回数1回と2回では、接種後のHI抗体価に有意の差は見られず、接種回数1回でも充分な効果が期待され、1回接種について、今後さらに検討を進めて行くべきであると考えられた。

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