質の高い消化器がん診療の均てん化を目指した、専門医制度の評価・育成プログラム構築システムの開発

文献情報

文献番号
201808018A
報告書区分
総括
研究課題名
質の高い消化器がん診療の均てん化を目指した、専門医制度の評価・育成プログラム構築システムの開発
課題番号
H29-がん対策-一般-018
研究年度
平成30(2018)年度
研究代表者(所属機関)
今野 弘之(国立大学法人浜松医科大学)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 がん対策推進総合研究
研究開始年度
平成29(2017)年度
研究終了予定年度
令和1(2019)年度
研究費
10,922,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
消化器外科医は各医療圏における消化器がん医療に中心的な役割を担っており、消化器外科専門医はその中心的存在である。近年の医療の高度化、専門化に即して専門医制度を進化させていくためには、制度自体の評価と改善が不断に実施される必要がある。本研究の目的は、National Clinical Database (以下、NCD)システムを利用して、継続的な評価改善機能を有した専門医育成システムを構築することである。
研究方法
 3年計画の2年目に当たる平成30年度は、先行研究(平成26~28年度厚生労働科学研究費補助金、研究代表者 今野弘之)で得た1696施設診療科からのアンケート調査結果と平成27年のNCD mortalityデータの後ろ向き解析により専門医育成プログラムの評価項目を選定した。
 まず、平成27年のNCD登録データによる主要8術式(食道切除再建術 (Eso)、幽門側胃切除術 (DG)、胃全摘術 (TG)、結腸右半切除術 (RHC)、低位前方切除術 (LAR)、肝切除術 (Hx)、膵頭十二指腸切除術 (PD)、汎発性腹膜炎手術 (ADP))のリスクモデルから得られたアンケート参加施設の各術式別手術死亡率に関するOE比や粗死亡率により施設をカテゴリー分類し、治療成績の不良な施設群の背景因子を多変量解析により検討した。これらの検討により施設の年間手術件数が治療成績に影響することが明らかとなり、施設の年間手術件数とアンケート調査項目や施設因子について検討を行った。これらのデータ解析はNCDに委託して行った。
結果と考察
(1) OE比カテゴリー別の実施手術件数
 施設の手術成績と実施手術件数の現状を把握するために、平成27年の主要8術式のmortalityに関するリスクモデルからNCD登録施設の術式毎のOE比を算出し、OE比カテゴリー別に3群(A群:OE比<0.5、B群:0.5<OE比<2.0、C群:2.0<OE比)に分類して検討した。ADPを除く7術式では、施設数、手術件数ともに治療成績の良好なA群(OE比<0.5)が最も多く、多くの施設で安全な手術が実施されていると考えられたが、一方で治療成績の不良なC群(2.0<OE比)の施設数が標準的なB群(0.5<OE比<2.0)を上回っており、さらにTG、RHC、LARの3術式ではC群で行われている手術件数の方がB群の手術件数よりも多いことが判明した。
(2) 手術死亡に影響を与える因子の抽出
 hospital volumeや施設の機能的因子に加え、入院診療体制(主治医単独で診療を行う);Eso、手術適応の決定方法(特定の医師、あるいは主治医のみで決定);DG、Hx、PD、術式の決定方法(特定の医師、あるいは主治医のみで決定);TG、PD、専門医のカバーする領域(カバーされない領域がある);TG、RHC、Cancer Boardの開催なし;Xx、などが手術死亡に有意に影響を与える因子として同定された。
(3) 死亡率下位施設の背景因子の検討
 治療成績の不良な下位10%の施設で行われた手術は全体の7.3%であり、これらの下位10%の施設の背景因子として消化器外科専門医が不在、Mortality-Morbidity カンファレンスの不開催、術前カンファレンスの不開催、NCDフィードバック機能の不活用、ICU非設置などが挙げられとともに、施設の外形、すなわち手術件数や病床数などの因子が施設の治療成績に強く影響していることが明らかとなった。
(4) 年間手術症例数と施設診療体制の関連についての検討
主要8術式の年間手術症例数で施設をカテゴリー分類(40例以下、40-79例、80-199例、200-499例、500例以上)して検討すると、カンファレンスの実施やICU、NSTの設置などの施設因子は手術症例数が増えるにつれその実施率が増加する傾向にあることが明らかとなった。

 今回の解析により、主要8術式は総じて治療成績の良好な施設群で多くの手術が実施されているが、TGやRHC、LARでは治療成績の不良な施設群でも多くの手術が実施されている現状が明らかとなった。このことは術式によっては集約化が急務であることを示すと共に、消化器外科専門医制度における施設要件の重要性を示唆するものと考えられる。
結論
消化器外科専門医はわが国の外科医療のみならず、がん医療、緩和医療等を含め、地域の医療全般に渡り、中心的な役割を担っている。専門医として標準的な治療を安全に実施するためには、修練を行う施設のカンファレンスによる教育や手術適応、術式決定のプロセス、診療体制の整備など、施設の環境因子に加え、手術件数や病床数などの施設因子が重要である。

公開日・更新日

公開日
2019-10-16
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2019-10-16
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

収支報告書

文献番号
201808018Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
14,198,000円
(2)補助金確定額
10,410,000円
差引額 [(1)-(2)]
3,788,000円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 340,112円
人件費・謝金 0円
旅費 1,719,250円
その他 5,075,406円
間接経費 3,276,000円
合計 10,410,768円

備考

備考
当初の予定ではNCDデータの解析に加え「NCDを利用した専門医制度評価システムの開発」をNCDに委託する事としていたが、研究計画の変更により評価システムの開発は先送りとなったため、NCD委託費に余剰が生じた。端数768円は自己資金である。

公開日・更新日

公開日
2020-04-07
更新日
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