血液製剤の安全性向上に必要な試験法、評価法の開発と改良

文献情報

文献番号
199800665A
報告書区分
総括
研究課題名
血液製剤の安全性向上に必要な試験法、評価法の開発と改良
課題番号
-
研究年度
平成10(1998)年度
研究代表者(所属機関)
小室 勝利(国立感染症研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 吉原なみ子(国立感染症研究所)
  • 水澤左衛子(国立感染症研究所)
  • 福武勝幸(東京医科大学)
  • 柴田洋一(東京大学医学部)
  • 関口定美(北海道赤十字血液センタ-)
  • 脇坂明美(日本赤十字血漿分画センタ-)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 医薬安全総合研究事業
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
平成12(2000)年度
研究費
12,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
血漿分画製剤の有効性と安全性に対する対策には多くの注意が払われ、相応の効果をあげているが、赤血球、血小板、新鮮凍結血漿に対する安全性対策は必ずしも充分でない。これら製剤の有効性と安全性向上に寄与することを目的に必要な試験法の開発、改良、評価、標準化に関する研究と血液成分製剤の安全性をより高めるためのウイルス不活化法に関する研究を行う。
研究方法
血液製剤の有効性と安全性に役立てるため、検査、試験法の開発、改良、評価及びウイルス不活化法の検討として、血小板抗体測定法の改良、HIV検出法の評価、凝固第Ⅷ因子力価の測定法、遺伝子増幅法の標準化作業と日本の実態調査、新鮮凍結血漿に対するウイルス不活化法に関する基礎的研究として、パルボウイルス感染価測定法の検討を行った。
結果と考察
個々の研究結果は以下のごとくである。
1)使用頻度の高い血小板輸血の際の副作用発生頻度は高く、その原因の主たるものにHLA抗体や血小板特異抗体がある。血小板抗体の検出法として、混合受身凝集法(MPHA)があるが、標的となる血小板の分離・固相法について、解決すべき技術的側面として、血小板の遠心分離の際の活性化が膜の性状に変化を来すことが上げられていた。この問題の解決の方法として、血小板分離を行う際、遠心荷重を限界まで下げることにより、血小板活性化を抑制することができ、抗体測定の精度を向上させることを確認した。血小板抗体測定法として、今後広く普及をはかる予定である。
2)血友病Aの補充療法に用いる第Ⅷ因子製剤の投与量は、製剤に記載されている規格値から設定される。従って、記載上の規格値と実際に製品に含まれる実測値の間に差があった場合、有効性さらには副作用にも影響しかねないので、規格値と含有量の比較を行った。4種類の第Ⅷ因子製剤各10ロットの含有量を比較すると、規格値の70%から196%と大きなばらつきを示した。適正な補充療法を行うためには、測定法の標準化が求められ、製品への実測力価の表示を行うことの必要性が示唆された。
3)HIV検査試薬の感度の比較は、ウインド-期短縮を含む陽性血排除の点から極めて重要である。今回は、最近開発された高感度検出法、簡易検査法、抗原抗体同時測定法につき検討した。その結果、従来確認試験として使用されているWB法が、高感度測定法での陽性血を陰性又は判定保留の判定を示す場合のあること、簡易検査法にもELISA法と同等の感度のあること、抗原・抗体同時測定法がスクリ-ニングには有用であることが確認できた。遺伝子検査法の導入が予定されている様であるが、スクリ-ニングには、抗体検査等の併用を行うべきとの結果も得た。
4)血漿分画製剤の原料血漿プ-ルのウイルス検査に遺伝子増幅法(GAT法)を導入することは、製剤のウイルス学的安全性の向上が期待されることになり、EUはHCV-GAT検査を1999年7月1日よりの実施を決定し、日本に於いても同時期の導入を予定している。プ-ル血漿スクリ-ニングには、製造メ-カ-各社が使用する標準品の作製は必須であり、性質の規定された標準品は試験法の標準化、検査技術の習熟を促してGAT検査の信頼度と感度向上のためにも寄与することになる。1997年に判定されたWHOのHCV-RNA 国際標準品作製作業に参加した経過と知見を紹介し、HCV-RNA GAT試験法の改良と評価につき考察した。1999年4月から、日本の標準品、又は参照品作りの計画を予定している。
5)日本赤十字社に於いて、1997年11月より、分画製剤原料血漿について500検体ミニプ-ルによるHCV,HIV,HBVに対する核酸増幅法(500NAT)を実施している。
1998年10月までに検査総数約250万検体となるが、その結果をまとめた。通常行われているスクリ-ニングで陰性であった原料血漿に使用され得る検体の中ら、HCV 5例、HBV 37例の陽性献血者が同定され、HIV陽性例は認められなかった。500NAT実施により、原料へ混入する危険性のあったウインド-期血漿は約40%減少したことになる。BBI社が提供するHCV感染後の血液を経時的に採取したセロコンバ-ジョンパネルを使用して、500NATの効果を検討したところ、残余危険率はHCVで20.1%、HIVで39.1%、HBVで11.4%の減少が推定された。500NATの導入は、血漿分画製剤の安全性をより強めることが示唆された。
6)血液製剤の輸血後ウイルス感染症防御対策としては、よりよいスクリ-ニング法の導入による陽性血排除と、スクリ-ニング検査をすりぬけたウイルスの除去・不活化が求められる。血漿分画製剤については、加熱法、SD処理法あるいは膜炉過法等のウイルス除去・不活化が採用されているので、一部製剤を除いて安全性は確保できていると考えられるが、赤血球、血小板製剤、新鮮凍結血漿(FFP)については、ウイルス除去・不活化処理が実施されておらず、早期にこれら手段の採用されることが期待される。パルボウイルス(B19)は種々の不活化法に対する抵抗性を示し、現在用いられている方法では不活化できない。将来、このウイルスの不活化法の開発をめざして、その際に使用しなければならないウイルスの感染価測定法に関する研究を本年度は実施した。末梢血よりCD34陽性細胞を分離し、増殖因子(SCF)エリスロポイエチン、IL-3を添加培養後、分化誘導したCFU-Eにウイルスを感染させ、間接蛍光抗体法により感染価を測定した。検出感度は105-6copies/10μlであり、今後感度を上げる方法の改良と、ウイルス不活化量の測定に応用したい。
結論
血液製剤の有効性、安全性に関する検査法及びその対策として必要な方向性の一部を報告した。現在、対策についての検討が進んでいる部分と、今後の対応の期待される部分が存在する。早期実現のために本研究が役立てられることを期待し、検討を継続できれば幸いである。

公開日・更新日

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