HTLV-1母子感染予防に関するエビデンス創出のための研究

文献情報

文献番号
201807019A
報告書区分
総括
研究課題名
HTLV-1母子感染予防に関するエビデンス創出のための研究
課題番号
H29-健やか-指定-003
研究年度
平成30(2018)年度
研究代表者(所属機関)
板橋 家頭夫(昭和大学 昭和大学病院)
研究分担者(所属機関)
  • 齋藤 滋(富山大学 学長)
  • 森内 浩幸(長崎大学 大学院医歯薬学総合研究科小児科)
  • 宮沢 篤生(昭和大学 医学部小児科学講座 )
  • 根路銘 安仁(鹿児島大学 医学部保健学科看護学専攻母性・小児看護学講座)
  • 関沢 明彦(日本産婦人科医会)
  • 渡邉 俊樹(東京大学フュチャーセンター推進機構東京大学医科学研究所附属病院)
  • 内丸 薫(東京大学大学院新領域創成科学研究科)
  • 西野 善一(金沢医科大学医学部公衆衛生学)
  • 郡山 千早(鹿児島大学学術研究院医歯学域医学系 疫学・予防医学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 成育疾患克服等次世代育成基盤研究
研究開始年度
平成29(2017)年度
研究終了予定年度
令和1(2019)年度
研究費
11,168,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
わが国は先進国のなかではHTLV-1感染者が突出して多く、HTLV-1感染が原因であるや成人T細胞白血病(ATL)やHTLV-1関連脊髄症(HAM)を減少させることが重要な課題となっている。とくにATLの大部分が母乳による母子感染由来であることから、適切な母子感染予防法が求められている。本研究班の主たる目的は、HTLV-1母子感染予防に関するエビデンスの確立である。
研究方法
①HTLV-1抗体陽性母体からの出生児のコホート研究の対象をもとに乳汁栄養別母子感染率を評価
②HTLV-1母子感染予防に関するシステマティックレビュー
③母子感染予防によるキャリヤ数、ATLやHAM患者数の推移予測
④日本産婦人科医会による希有初活動
④「きゃりネット」によるキャリアマザーのWEBアンケート調査および地域における実態調査
結果と考察
1.HTLV-1母子感染予防コホート研究
①WB法陽性妊婦711名から出生した児のうち、3歳時の抗体検査が実施されていたのは277名(39.0%)であった。栄養法別の母子感染率は長期母乳栄養18.1%(2/11)、短期母乳栄養2.7%(4/147)、凍結・解凍母乳栄養5.6%(1/18)、人工乳栄養5.9%(6/101)であり、短期母乳栄養と完全人工乳栄養の母子感染率に有意な差は認められなかった。
2.システマティックレビュー
HTLV-1母子感染予防に関する系統的レビュー(SR)として、研究疑問(PICO)の定式化、検索式の決定、文献データベースを用いた文献検索ならびに文献の1次スクリーニングを実施し英文182文献、和文352文献が抽出された。次年度前半には解析終了を予定している。
3.母子感染予防がキャリア数やATL、HAM患者数の推移に与える効果
今年度は前年度に作成した自然史モデルに基づいたシミュレーションモデルの構築を実施した。次年度に同モデルの妥当性を検証した後に推定キャリア数、患者数を介入シナリオごとに算出することにより最終的に授乳に対する介入の効果を評価する計画である。
4.日本産婦人科医会による啓発活動
「HTLV-1感染の診断指針(平成30年3月)」が出され、スクリーニング法について変更が生じたため、その事実を産婦人科医に広く広報する必要がある。そこでHTLV-1の母子感染の予防にはすべての産婦人科医が正確にスクリーニング法を理解してもらうため、再度、その知識の周知や啓発活動を実施した。
5.「きゃりネット」によるキャリアマザーの調査
HTLV-1キャリア登録ウェブサイト「キャリねっと」を利用して、HTLV-1 キャリアマザーに対する授乳指導の実態と授乳行動について調査した。いまだに授乳法の指導を受けられなかった妊婦が10%程度存在しており、HTLV-1母子感染予防対策マニュアルのより一層の普及が必要と考えられた。医療によるサポート体制については現状でも約80%が不十分と回答しており、必要なものとして相談先の明確化とともに、人工乳を選択する母親の増加を反映して、授乳できないことの心理的負担への対応をあげる母親が多く、社会の認知度を上げ心理的負担を減らすことも重要と考えられた。
結論
①フォローアップが終了しておらず、乳汁栄養法別の母子感染率について結論は得られないが、今後も可能な限り高いフォローアップ率を維持することが当面の課題となる。②質の高いシステマティックレビューの準備が整い、次年度半ばに終了する見込みが明らかとなった。③母子感染予防によるHTLV-1関連疾患の減少効果を検証することを目的としてHTLV-1キャリア数、ATL、HAM患者数を推計するためのシミュレーションモデルの構築を実施した。次年度にこのモデルの妥当性の検証、および推定キャリア数、患者数を介入シナリオごとに算出することにより最終的に授乳に対する介入の効果を評価する。④スクリーニング検査を担当する産婦人科医を対象に、検査方法やキャリア診断の改訂点を中心に啓発活動を行った。⑤母子感染予防のための授乳指導自体はほとんどの施設でおこなわれ、妊婦の理解度も向上しているが、指導内容についてさらなる検討が必要である。サポートする医療体制に対する満足度はほとんど向上しておらず、相談対応先の明確化、社会の認知度、理解度の向上を含むキャリアマザーの心理的サポートが課題としてあげられた。

公開日・更新日

公開日
2019-08-28
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2019-08-28
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

収支報告書

文献番号
201807019Z