輸血後感染症に関する研究

文献情報

文献番号
199800664A
報告書区分
総括
研究課題名
輸血後感染症に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成10(1998)年度
研究代表者(所属機関)
菊地 秀(国立仙台病院)
研究分担者(所属機関)
  • 稲葉頌一(九州大学)
  • 上司裕史(国立療養所東京病院)
  • 清澤研道(信州大学)
  • 小西奎子(国立金沢病院)
  • 高木正剛(長崎大学医学部)
  • 瀧本眞(兵庫県立総合リハビリテーションセンター中央病院)
  • 田所憲治(日本赤十字社中央血液センター)
  • 田中英夫(大阪府立成人病センター)
  • 田村潤(国立国際医療センター)
  • 成松元治(国立長崎中央病院)
  • 藤井壽一(東京女子医科大学)
  • 松浦善治(国立感染症研究所)
  • 前田平生(埼玉医科大学総合医療センター)
  • 溝口秀昭(東京女子医科大学)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 医薬安全総合研究事業
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
-
研究費
16,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
当研究班は輸血後の感染症、その中でも主に肝炎の減少及至は撲滅をはかることを目的として長い間活動して来た。平成10年度もその趣旨に沿い輸血後に発症した肝炎の疫学的調査と病態の解明を中心に過去数十年に継続する研究を行った。
本年度はこの他にwindow periodにおける献血血液を回避するための一方法であるウイルス核酸増幅検査(NAT)の試用や、更には新肝炎ウイルスと云われる1997年に発見されたTTVの簡便な検査法の開発についても研究を行った。これらは何れも輸血後感染症の削減に直結するものである。更にはTTVのキャリア率やTTVによる肝炎の病態についても研究した。また、わが国の非ホジキンリンパ腫の病理学的なサブタイプは、欧米とは大いに異なっていることから、輸血と非ホジキンリンパ腫との関係を明らかにするためにヒトヘルペスウイルス8型(HHV-8)の抗体価なども調べた。一方、輸血後感染症を減らす確実な方法は輸血症例を減らすことであるとの観点から、輸血の実態と予後から見た輸血療法の有効性について調査した。
研究方法
研究班の統一的テーマである輸血後肝炎の集計に当り、肝炎の診断は1996年3月に策定された「輸血後肝炎の診断基準」(厚生省肝炎連絡協議会)に拠った。また輸血症例は輸血後少くとも3ヵ月間の追跡調査を行い、その中で肝機能異常を呈した症例では輸血前及び輸血後3ヵ月以上の血清を保存し、病態の解明に役立てることにした。これ以外の班員の個々の研究テーマの研究方法については省略する。
結果と考察
本年度もこれまで同様輸血後肝炎を中心に研究を行った。
当研究班の調査(班員9施設検索数872例)の結果、平成10年の輸血後肝炎の発生数は7例(発生率0.80%)であった。7例中4例がTTV関連の肝炎、TTVとHGVの両者が検出された肝炎が1例、その他の2例は既知の肝炎ウイルスが検出されない症例であった。献血者に第2世代HCV抗体スクリーニングが適用された平成4年以降輸血に起因する肝炎は減少し、平成10年までの7年間での輸血後肝炎発生は検索症例7155例中59例(C型8例、非B非C型51例)で発生率は0.82%であった。
この疫学調査とは別に班員施設である日赤中央血液センターの解析によれば、平成10年に全国の医療機関から日赤に寄せられた肝炎ウイルス感染例は昨年より多く121例(HBV56例、HCV65例)であったが、調査の結果、輸血との因果関係が明らかなのはHBVの6例のみであった。この他に日赤では昨年11月より開始した供血者の原料ミニプール血漿でのウイルス核酸増幅検査(ミニプールNAT)の試行と従来の遡及調査の結果、23例の感染例(HBV16例、HCV7例)が確認されたが、その殆どがwindow periodの献血によるものであった。両者を併せた感染例29例中実際に肝炎を発症したのは9例(B型肝炎8例、C型肝炎1例)であった。この結果から輸血による感染の頻度はHBVで52,000人の輸血患者に1例、HCVでは164,000人に1例と推定された。輸血後肝炎患者の実数はこの推定数よりもっと多いと思われるが今後NATの導入により減少すると思われる。
TTVによる肝炎の病態についてはまだ不明な点が多いが、これまでの検討からキャリア率が高く、特に輸血既往者では50%以上であること、輸血後の肝炎患者でも73%検出されることなどから輸血が媒介していることは確かなようである。しかし無輸血肝炎患者や無輸血例の術後でもTTVが検出されることもあるので経口感染もあると考える。TTVキャリアでの輸血後肝炎疑診発症例の検討では、ALT上昇に伴いTTV-DNA量の増加が認められたことから、ウイルスの再燃と肝機能異常が関連していると考えられた。またTTVによる肝障害はmildではあるが慢性化の可能性もあり得る。しかし、今のところ癌化とは無関係のようである。TTVは他種類のgenotypeがあり、その病因性が genotypeに依存することも考えられるのでTTVによる肝障害については今後更なる検討が必要である。その上で予防対策の必要性や方法を考慮すべきであると考える。そのためには簡便なTTV検出法の開発が是非とも必要であるが、国立感染症研究所ではELISA法によるTTV抗体検出系の開発に道を開きつつありその実現が待たれる。
この他にも輸血と非ホジキンリンパ腫との関係や、輸血療法の有用性と長期予後との関係などについても研究報告があったがまだ緒についたばかりであり今後の展開が期待される。
その他の輸血後感染症としてHTLV-1やParvovirus-B19についての報告もあった。HTLV-1に関しては現行のスクリーニングでほぼ満足のゆく成績であった。
結論
輸血後感染症のうち、肝炎の発生は供血者スクリーニングにおけるNATの導入により今後ますます減少するものと考えられる。しかし、TTVによる肝炎の病態にはまだ解明されていない部分が多く、その上原因不明の肝炎の発生が極く稀にではあるがまだ存在すること、NATの導入によってもHBVやHCV、HIVのwindow感染があり得ること、これ以外にも最近、Parvovirus B19やBorna disease、Creutzfeldt-Jakob病などにおいて血液製剤による感染例の報告があることなどから、今後も輸血症例の追跡調査と血清の保存は継続する必要があると考える。

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