新生児マススクリーニング検査に関する疫学的・医療経済学的研究

文献情報

文献番号
201807017A
報告書区分
総括
研究課題名
新生児マススクリーニング検査に関する疫学的・医療経済学的研究
課題番号
H29-健やか-指定-001
研究年度
平成30(2018)年度
研究代表者(所属機関)
但馬 剛(国立成育医療研究センター 研究所 マススクリーニング研究室)
研究分担者(所属機関)
  • 小林 弘典(島根大学 医学部 小児科)
  • 沼倉 周彦(山形大学 医学部附属病院 小児科)
  • 西野 善一(金沢医科大学 医学部 公衆衛生学)
  • 福田 敬(国立保健医療科学院 保健医療経済評価研究センター)
  • 山口 清次(島根大学 医学部 医学科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 成育疾患克服等次世代育成基盤研究
研究開始年度
平成29(2017)年度
研究終了予定年度
令和1(2019)年度
研究費
5,970,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
現行の新生児マススクリーニング(NBS)は、20種類に及ぶ希少疾患を対象としながら、都道府県・政令市が実施主体となっていることから、その運用には地域間差が生じており、患者の発見数や経過などに関する情報集約もなされない状況が続いている。本研究では、新生児マススクリーニング運用上の様々な側面で標準化を図るとともに、現時点で入手可能な情報を基に費用対効果を評価しつつ、NBSの有用性検証に不可欠な、発見患者の追跡体制の構築を目指す。
研究方法
(1) NBS実施体制の全国標準化:(a)CPT2欠損症をモデルとして、他疾患の指標基準値のパーセンタイル設定について検討した。(b)実際のNBS陽性血液濾紙検体に、より特異性の高い二次検査を適用して有用性を評価した。(c)タンデムマス分析の専門家によるワーキンググループ(WG)を設置して、分析技術の標準化について検討した。(d)NBS説明同意文書の統一化について、各自治体と地域の「中核医師」の意向を調査した。(2)発見患者の悉皆コホート体制の構築:(a)先行研究(山口班:平成26~28年度)の継続コホート調査を実施した。(b)各自治体に「NBS連絡協議会」設置と「中核医師」選定を要請し、これを介して発見患者情報の集約を図った。(3)発見患者の経過・予後の評価:(a)タンデムマス試験研究期発見患者の予後調査:前年度に調査票を送付した精査医療機関50施設のうち未回答施設への再照会を行った。(b)脂肪酸代謝異常症の診断情報の集約:主要な脂肪酸代謝異常症3疾患の確定検査について、班員間で前年度構築した共同研究体制を基に、診断症例情報を集約・検討した。(4)患者と主治医のための健康管理支援:乳幼児急死例が多発するCPT2欠損症の情報提供資料を担当医療者・患者家族用に作成した。(5) 公的検診事業としての評価と費用対効果分析:先行研究を参考に分析手法・モデルを構築しながら、費用データとしてナショナルデータベース(NDB)の利用を申請した。(6)今後のNBSの在り方について:(a)使用済み血液濾紙の保存状況と利用について、各自治体と「中核医師」に調査した。(b)新規対象候補疾患のスクリーニング実施状況を調査した。(c)新規候補疾患である副腎白質ジストロフィー(ALD)についてNBSの有用性と課題を検討した。
結果と考察
結果:(1)NBS実施体制の全国標準化:(a)5疾患の指標についてパーセンタイル値が有用と評価した。(b)NBS陽性血液濾紙の二次検査と最終判定の整合性は良好であった。(c)WGでの議論を基に、試薬メーカーの標準検体を主な検査施設で分析・比較し、標準化の参考データを得た。(d)NBS説明同意文書の統一化について肯定的な回答が約9割を占めた。(2)発見患者の悉皆コホート体制の構築:(a)当初登録患者184例中175例の継続調査で151例の回答を得、138例の予後情報が更新された。(b) NBS連絡協議会・中核医師への調査にて平成29年度の全国発見患者数(122例)と疾患内訳が判明した。(3)発見患者の経過・予後の評価:(a)タンデムマス法試験研究期発見患者216例の調査で最終的に104例分の回答を得た。(b)脂肪酸代謝異常症の診断情報の集約:平成29年度の全国 CPT2・VLCAD・MCAD 発見患者数(46例)の半数を本研究班員が診断したことが判明した。(4)患者と主治医のための健康管理支援:CPT2欠損症の担当医療者用資料を全国のNBS精査医療機関へ配布した。(5)費用対効果分析枠組みと「判断樹モデル」「マルコフモデル」の利用方針を策定した(NDBデータ提供を待機中)。(6)今後のNBSの在り方について:(a)使用済み血液濾紙の利用について「中核医師」の95%が肯定的に回答したが、保存状況は様々であった。(b) 6都県にて、ライソゾーム病4疾患・ALD・重症複合免疫不全症が様々な組み合わせでスクリーニングされ、その多くが有料検査であった。(c)国内ALD患者の集積情報から、NBSは大脳型患者の予後改善に有効ながら、病型・発症時期の予測指標の確立が課題として示された。考察:本研究班の主題である「疫学的・医療経済学的評価」の実現には、陽性例の診断を確定させ、その情報が集約できるシステムの構築が最も重要である。各自治体のNBS連絡協議会と中核医師への調査で昨年度の全国発見患者情報を集約できたことから、これを持続させて患者登録・予後追跡に繋げることが重要な目標となる。
結論
NBS事業の有用性を検証・評価する上で長年の難題であった、全国の患者発見情報の集約が初めて実現した。これを足がかりに本研究および連携研究での様々な取り組みを推し進めて、事業全体の品質向上と均質化・効率化を加速させたい。

公開日・更新日

公開日
2019-08-28
更新日
-

研究報告書(PDF)

研究成果の刊行に関する一覧表
倫理審査等報告書の写し

公開日・更新日

公開日
2019-08-28
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-

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収支報告書

文献番号
201807017Z