新たなソーシャルキャピタルを醸成しつつ母子の健康向上に寄与する情報発信手法の開発

文献情報

文献番号
201807015A
報告書区分
総括
研究課題名
新たなソーシャルキャピタルを醸成しつつ母子の健康向上に寄与する情報発信手法の開発
課題番号
H30-健やか-一般-007
研究年度
平成30(2018)年度
研究代表者(所属機関)
上田 豊(大阪大学大学院医学系研究科産科学婦人科学)
研究分担者(所属機関)
  • 木村 正(大阪大学大学院医学系研究科産科学婦人科学)
  • 小林 栄仁(大阪大学大学院医学系研究科産科学婦人科学)
  • 松崎 慎哉(大阪大学大学院医学系研究科産科学婦人科学)
  • 瀧内 剛(大阪大学大学院医学系研究科産科学婦人科学)
  • 八木 麻未(大阪大学大学院医学系研究科産科学婦人科学)
  • 池田 さやか(多摩北部医療センター)
  • 平井 啓(大阪大学大学院人間科学研究科)
  • 荒堀 仁美(大阪大学大学院医学系研究科小児科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 成育疾患克服等次世代育成基盤研究
研究開始年度
平成30(2018)年度
研究終了予定年度
令和2(2020)年度
研究費
6,539,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
子供の健康は親に強く規定される。昔の母親は家庭や地域に支えられて健全な子育てを行っていた(小川憲治, 2002「IT時代の人間関係とメンタルヘルス・カウンセリング」)。現代の子育ては核家族化や対人関係の希薄化により、母親一人にその重責が集中し、これが母親の孤立化を生み、うつ、子供の不健康・虐待につながっていると考えられる。母親に適切な情報を届け、母親を他者との関係の中に置けるような環境の構築が喫緊の課題である。当研究において、母子保健関連健康情報の有効な発信の手法として、従来の紙媒体による案内よりオンラインメディアを利用する手法が、対象者への情報伝達手法として効果的であるかどうかを検証する。
研究方法
(1-1)子育て世代の母親の抱える問題と医療健康情報収取方法の調査
(1―1-1)アンケート調査
八尾市(大阪府)において、4か月健診および3歳半健診に参加した母親を対象に無記名アンケートを実施した。9月~11月の健診受診者1293名にアンケートを事前配布し、健診時に会場で回収した。
(1-1-2)インターネット調査
上記アンケート調査を踏まえて、全国的なインターネット調査を2019年1月29日〜30日に行った。対象は生後4ヶ月〜12ヶ月未満の子どもを持つ母親412名(都市部(東京都・大阪府・神奈川県)在住が21%、地方在住が79%)であった。
(1-2)自治体の医療健康情報提供・支援体制の実態調査
自治体の医療健康情報提供や母子の健康支援の媒体・手法を大阪府内および全国の県庁所在地の自治体のホームページを調査し、不明点については直接聞き取りを行った。
結果と考察
(1-1)子育て世代の母親の抱える問題と医療健康情報収取方法の調査
(1―1-1)アンケート調査
回収率は74.7%(1003/1293)と高率であり、年間の健診対象者の約5割に相当する数であった。子育てで孤独を感じることが「母親以外に子育てを行う人」「気軽に相談できる人」などの物理的な援助者の有無とは相関せずに、子育てへの満足感や自信の有無などという母親の内面と相関していることが判明した。
(1-1-2)インターネット調査
孤独を感じていない母親は普段の生活において家族や親戚から情報収集を行っている率が有意に高かった(p<0.01)。一方、孤独を感じている母親は市の広報・掲示板・問い合わせ窓口(p<0.01)あるいは保健センター(p<0.01)を利用している率が有意に高いことが判明したが、その率はそれぞれ市の広報・掲示板・問い合わせ窓口が9.2%、市の広報・掲示板・問い合わせ窓口が11%と低率であった。したがって、孤独を感じている母親に対して如何に市の広報や・掲示板・問い合わせ窓口あるいは保健センターの存在を周知し、利用を高められるかが鍵となる可能性が示された。すなわち、経済的な不安感や子育てへの満足感や自信の有無といった母親の内面に関わる因子が八尾市のアンケート調査同様に有意なものとして検出され、「子育てについて気軽に相談できる人」という物理的な因子も一つ加わった。これらの結果から、子育て中の母親に対しては、他とのつながりを構築しつつ、子育てを精神的にサポートすることの重要性が確認された。さらに、内面に関わる因子が孤独感の有無と相関することを検証するために、母親自身の性格分析および自己効力感と子育てでの孤独を感じるかどうかの相関を解析したところ、自己効力感に関連した項目が孤独感と相関する有意な因子として検出された(p<0.05)。
(1-2)自治体の医療健康情報提供・支援体制の実態調査
オンラインメディアとしてはFacebookが大阪府内の自治体ではその約70%、全国の県庁所在地ではほぼ全てで活用されていた。ついでTwitter、YouTube、Instagram、Lineの順であった。ただし、オンラインで周知を図られている情報の内容や提示の仕方、周知方法はまちまちであり、居住地域による情報の過度な格差を失くすには一定程度の標準化は必要と考えられた。
結論
自治体の子育て世代の母親に対するアンケート調査やインターネット調査により、子育て世代の母親の孤立感は、「他に子育てができる人」「周囲に相談できる人」などの物理的な援助者の有無だけでなく、精神的な孤立によりもたらさられており、それには個々人の自己効力感などが相関している可能性が示唆された。当研究でこれを改善できる情報発信手法を確立し、さらに次のステップとして、自己効力感を高められるようなメッセージの開発や自治体でのサポート体制の構築を図って、母子保健の改善に寄与していけるものと考える。

公開日・更新日

公開日
2019-08-28
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

収支報告書

文献番号
201807015Z