文献情報
文献番号
201807014A
報告書区分
総括
研究課題名
配偶子凍結および胚凍結を利用する生殖医療技術の安全性と情報提供体制の拡充に関する研究
課題番号
H30-健やか-一般-006
研究年度
平成30(2018)年度
研究代表者(所属機関)
苛原 稔(徳島大学大学院医歯薬学研究部 )
研究分担者(所属機関)
- 石原 理(埼玉医科大学医学部 産科婦人科)
- 齊藤 英和(国立研究開発法人国立成育医療研究センター周産期・母性診療センター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 成育疾患克服等次世代育成基盤研究
研究開始年度
平成30(2018)年度
研究終了予定年度
令和2(2020)年度
研究費
8,077,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
生殖補助医療(Assisted Reproductive Technology, ART)は体外で配偶子(精子、卵子)を受精・培養し、得られた胚を子宮へ移植することを基本とするが、必要に応じ配偶子、胚を各段階で凍結保存することが可能である。特に胚凍結保存は、移植後の余剰な胚の凍結や副作用回避のために行う全胚凍結により増加し、ART全妊娠の87.5%が凍結融解胚に由来している。また近年、がん治療の副作用対策として精子・卵子の凍結も普及し始め、配偶子・胚の凍結はARTに必要不可欠な技術として全国で実施されている。そこで本事業では、関連する学会や団体と協力しつつ、配偶子・胚の保管状態を全国的に調査するとともに、諸外国における実状を調査するとともに、わが国における配偶子・胚の凍結保管実態の詳細な検討を行い、国内の諸制度を整理し諸外国の制度と比較しつつ、改善が必要な事項を検討する。また、得られた情報を元に配偶子・胚凍結が実施可能な医療機関の情報を整理・公開し、全国の不妊専門相談センターにおける情報提供体制を拡充する資料とする。本事業の成果により、患者、夫婦の社会的変化に対応できる配偶子・胚凍結の管理態勢のあり方と、継続可能なより安全性の高い配偶子・胚凍結管理体制を確立して、より質の高いARTの実践に寄与することを目的とする。
研究方法
1配偶子・胚の保存状況のアンケート調査:2018年度は、日産婦学会ART登録607施設に対して、配偶子・胚の保存状況のアンケート調査を行う調査した。また、関連学会と協力し、精子保存の実態を調査した。2全国の不妊専門相談センターへの調査の準備を行った。3社会文化的背景の異なるヨーロッパ諸国の凍結胚・配偶子の管理体制について、法令制度とともに運営実態を知るため、ドイツ、デンマークにおける胚および配偶子凍結の現況と管理体制の現地調査を行い情報収集した。4生殖医療に関与する学会や団体が保有する会告、見解、規則、お知らせなどについて調査した。さらに日本産科婦人科学会が、毎年、調査・公表している生殖補助医療のデータより、凍結される胚・配偶子、融解し胚移植に使用される胚・配偶子の状況について調査した。
結果と考察
1)アンケート調査:回答率 311/607施設(51.2%)、本研究への研究参加同意を得たのは303施設(49.9%)であった。そのうち、胚または配偶子の凍結を実施している施設は292施設(96.4%)であった。結果の概要は、以下の通りである。1胚、卵子の年間の凍結数が500個以下、破棄数が50個以下の施設が大半であったが、3000を超える施設も数施設あった。精子は500本以下が大半であり、破棄数も50本以下が大半であった。2それらの現在の凍結数については、胚は1000個以上、卵子は50個以下、精子は500本以下が大半であった。3胚や配偶子の凍結年数は初回は1年、更新後も1年が一般的であった。4同意は、初回は夫婦での書面による同意が大多数であったが、更新は妻が電話や郵送での同意が主であった。5胚や配偶子の移動を行った経験のある施設が62%であり、その方法は業者または患者自身が多かった。6連絡が取れない場合には、数年して破棄することが多かったが、保存継続する施設も31%程度存在し、これからの課題と考えられた。2)国の不妊専門相談センターへの調査の準備:次年度の調査を準備した3)海外の情報収集:胚保護法などによる法規制にもかかわらず、法解釈により胚凍結やPGT-Mが行われるドイツでは、凍結の現状把握が十分にされないが、新法により精子提供者情報を国が管理することで、出生児の出自を知る権利と提供者の権利保護が実現していた。デンマークでは、第三者の関与を含む様々な治療を実現するために、頻繁な関連法改正が行われ、凍結配偶子と凍結胚の管理が実現していた。4)1凍結保存配偶子・胚に関する見解を有する学会は日本産科婦人科学会と日本生殖医学会であった。2日本産科婦人科学会の検討から、2007年以降年々凍結卵子数・凍結胚数・融解卵胚数は増加した。2016年では、凍結卵子数は1579個、凍結胚数382475個、融解卵胚数243094個となっている。2007年からの各年の凍結卵・胚数の増加数(凍結卵子数+凍結胚数―融解卵胚数)は年々多くなっており、2016年においでは、凍結卵子・胚の増加個数は137802個となった。この結果、2007年から2016年末までの間の凍結卵子・胚の増加分は合計892478個となっている。
結論
日本においては相当数の胚、卵子、精子が現在凍結保存されていること、それらを総括的に管理する制度はまだ十分でないことが明らかとなり、これから早急に管理制度の確立が必要であると考えられた。そのために、欧州諸国の制度の調査は参考になると考えられた。
公開日・更新日
公開日
2019-08-28
更新日
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