カツオの生食を原因とするアニサキス食中毒の発生要因の調査と予防策の確立のための研究

文献情報

文献番号
201806017A
報告書区分
総括
研究課題名
カツオの生食を原因とするアニサキス食中毒の発生要因の調査と予防策の確立のための研究
課題番号
H30-特別-指定-018
研究年度
平成30(2018)年度
研究代表者(所属機関)
小川 和夫(公益財団法人目黒寄生虫館)
研究分担者(所属機関)
  • 鈴木 淳(東京都健康安全研究センター微生物部食品微生物研究科)
  • 杉山 広(国立感染症研究所寄生動物部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 行政政策研究分野 厚生労働科学特別研究
研究開始年度
平成30(2018)年度
研究終了予定年度
平成30(2018)年度
研究費
5,877,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
食中毒統計によると,カツオが原因食品として疑われるアニサキス食中毒事例は,平成29年までは最も多い年でも10件にとどまっていたが,平成30年には7月末の段階で60件に急増した。その原因を解明するため,カツオの分布,回遊経路や漁獲量・漁獲水域,漁獲されたカツオの流通の実態調査をするとともに,平成30年に漁獲されたカツオにおけるアニサキスの種組成や寄生状況を調査することによって,急増した原因を解明すること,および予防策を検討し,関係者に注意喚起等を行うことを目的とした。
研究方法
2018年に日本近海で漁獲されたカツオ(太平洋側120尾,日本海側10尾,南西諸島付近20尾)の内臓,腹側筋肉,背側筋肉におけるアニサキスの寄生状況を調査した。内臓は表面を直接肉眼で,筋肉は薄く伸展してキャンドリングによって検査した。検出された虫体は形態と遺伝子解析によって同定し,種ごとの寄生状況を調査した。一部のカツオは,漁獲時,漁港水揚げ時,流通後ごとに内臓を除去して,漁獲から流通までの過程で虫体が内臓から筋肉へ移行するか検証した。また,関係事業者(宮城県,千葉県,高知県,宮崎県)からヒアリングを,魚介類販売店,飲食店等(東京都,千葉県,福島県)からアンケートやヒアリングを行い,情報収集した。さらに,カツオの回遊等の生態や生育環境について,国際水産資源研究所の専門家にヒアリングを行った。
結果と考察
カツオの寄生状況調査の結果,太平洋側の21尾,南西諸島付近の1尾の筋肉内にアニサキスを検出した。また,漁獲時にはすでに筋肉内にも寄生しており,また,流通の過程で虫体の内臓から筋肉への移行は認められなかった。同定の結果,筋肉のアニサキスはすべてAnisakis simplex sensu stricto (以後Asと略記)で,寄生部位は腹側筋肉に限られていた。組織学的には,筋肉内の虫体は宿主組織に被包されていたことからも,アニサキスはカツオの生時に筋肉内に寄生していたことが確かめられた。聞き取り調査では,以下のことが明らかになった。1)カツオの漁獲から販売まで一貫して低温管理されていて,その間にアニサキスが内臓表面から筋肉中に移行したとは考えにくい。2)2018年4月~5月の初カツオの時期には,黒潮の大蛇行による影響で,主漁場は例年の小笠原諸島周辺海域ではなく,伊豆諸島三宅島周辺に形成されていた。3)冷凍のカツオを提供する取扱事業者は少なかった。また,4)食中毒患者の急増を受けて,販売店等が様々な対策をとっていた一方,その方法は統一されていなかった。
2018年にカツオの生食による食中毒が疑われた患者由来の虫体は,東京都内では31検体すべてがAsと同定された。一方,福島県では7月9日以前の10虫体はすべてAnisakis pegreffiiであったのに対し,7月16日以降は4虫体がAs,1虫体が両種の雑種であった。

結論
1.アニサキスはカツオの漁獲時にすでに筋肉に寄生していたことが明らかになった。漁獲から消費地まで輸送中は,カツオは冷蔵または氷蔵による温度管理が徹底されていて,その間にアニサキスが内臓から筋肉へ移動することはないと考えられた。2.虫体が検出されたのはカツオの腹側筋肉だけであった。販売店で確実に発見して取り除くことは困難と考えられることから,背側筋肉は従来通りに生食用として,腹側筋肉は加熱調理用または冷凍処理して販売することで,大きな問題は生じないと考えられる。3.2018年は6月以降,カツオに起因するアニサキス食中毒事例はほとんど発生しなかったのは,関係者がさまざまな対策をとった結果と思われる。一方,なかには科学的根拠にも乏しい方法もあったため,今後,適切な処理方法を検討したうえでガイドラインを作成し,それを広く普及していくことがアニサキス症予防に重要となるであろう。4.アニサキス検査のための公定法がなく,形態同定の要点を簡便に記述した資料も乏しい。そこで「アニサキス形態同定に関する手順書」を作成した。5.課題も残された。1)黒潮の大蛇行による三宅島周辺のカツオの大規模な蝟集時にアニサキスに多く寄生を受けた可能性は残されたが,検証はできていない。カツオの回遊とアニサキス寄生の関係を明らかにする必要がある。2)2018年春に食中毒患者から検出された虫体は,福島県と東京都で結果が分かれた。しかし,秋に食中毒事例の届出がなく,結果の違いの検証ができなかった。今後は患者から採集された虫体が種レベルまで同定できるように,虫体を廃棄せずに保存を進める必要もあるだろう。

公開日・更新日

公開日
2019-11-08
更新日
-

研究報告書(PDF)

研究成果の刊行に関する一覧表
倫理審査等報告書の写し

公開日・更新日

公開日
2019-11-08
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

行政効果報告

文献番号
201806017C

収支報告書

文献番号
201806017Z