薬価制度抜本改革に係る医薬品開発環境および流通環境の実態調査研究

文献情報

文献番号
201806013A
報告書区分
総括
研究課題名
薬価制度抜本改革に係る医薬品開発環境および流通環境の実態調査研究
課題番号
H30-特別-指定-013
研究年度
平成30(2018)年度
研究代表者(所属機関)
成川 衛(北里大学薬学部 臨床医学(医薬開発学))
研究分担者(所属機関)
  • 三浦 俊彦(中央大学商学部 )
  • 小林 江梨子(千葉大学大学院薬学研究院)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 行政政策研究分野 厚生労働科学特別研究
研究開始年度
平成30(2018)年度
研究終了予定年度
平成30(2018)年度
研究費
3,366,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
平成30年度薬価制度抜本改革を含む近年の薬価制度の見直しが我が国における医薬品の開発環境及び流通環境に与えてきた影響を多面的に評価し、医療保険制度の持続性確保と、革新的な医薬品に係る研究開発の促進・患者へのタイムリーな提供という二つの課題のバランスを念頭に置きながら、今後の薬価制度のあり方についての基礎資料を整備し、今後の医薬品関連産業のあり方の視座から課題の整理と提言を行うことを目的とした。
研究方法
医薬品開発環境に関しては、臨床試験の実施状況、新薬の開発タイミング及び製薬企業の業績に関する調査研究を行い、また、製薬企業を対象とした平成30年度薬価制度抜本改革の影響に関するアンケート調査及び外資系製薬企業等の米国・欧州本国関係者へのヒアリング調査を行った。
医薬品流通環境に関しては、医薬品卸売業者の経営分析、医療用医薬品の流通実態の分析及び厚労省に設置された相談窓口に寄せられた事例の分析を行い、また、医薬品製造販売業者、医薬品卸売業者及び保険薬局に対するインタビュー及びアンケート調査を行った。さらに、流通改善に向けた施策の検討・提案のための比較研究を行った。
結果と考察
医薬品開発環境に関しては、過去10年程度の間に、日本を含む国際共同臨床試験が増加し、日米及び日EU間の申請ラグ、承認ラグともに経時的に短くなるなど、日本の新薬研究開発の環境が好転してきたことが示された。また、内資系製薬企業における積極的な海外展開や一定程度以上の研究開発費の確保の状況も把握することができた。一方で、アンケート調査等では、今般の抜本改革により日本の事業環境が不安定になること、開発プロジェクトの予見可能性や収益性の低下に伴い日本市場の魅力が低下し、日本の開発優先順位が下がる、あるいは個別新薬の開発を断念・保留する可能性があることを示唆する回答が多く示された。
医薬品流通環境に関しては、医薬品卸売業の経営状況は他の業界と比べて利益水準(営業利益率など)が低く、薬価改定年度には経営指標がさらに低下する傾向にあったこと、医療用医薬品の流通実態については、流通ガイドラインの適用後、早期妥結率は9割を超え、単品単価契約にも大きな改善がみられたことが示された。また、厚生労働省の相談窓口における流通関係者からの相談は、仕切価等の交渉に関する内容が多かった。アンケート調査では、流通改善の諸課題のうち、製造販売業者及び卸売業者が「過大な値引き交渉」など川下の価格交渉に関わる項目を重視していたのに対し、保険薬局は「適切な一次仕切価の提示」など川上取引に関わる項目を重要としていた。また、薬価制度抜本改革が企業経営に与える重要度については、三者とも「毎年薬価調査・毎年薬価改定」を重視していた。比較研究からは、酒類(ビール)の取引では法律に基づき「公正な取引の基準」が告示され、基準を遵守しない業者に対しては指示・命令等ができるとされていることが理解された。

過去10年程度の間に、我が国の医薬品開発環境が改善してきたことについては、2010年度から試行的に導入された新薬創出等加算制度を含む薬価制度の見直し、各種薬事制度の改善、それに付随する関係者の努力など、複数の要因が影響しているものと考えられる。一方で、平成30年度薬価制度抜本改革により日本の事業環境が不安定になること、開発プロジェクトの予見可能性や収益性の低下に伴い日本市場の魅力が低下し、日本の開発優先順位が下がる可能性があることなどが示唆されている。新薬の研究開発には10年以上の長い歳月と多大なリソースを要することから、短期的な影響と併せて、今後より長い目で見た制度改革の影響を多面的、客観的かつタイムリーに測定し、評価していくことが重要である。
医薬品流通に関しては、現在の医薬品卸売業者の営業利益率水準では、平時の安定供給だけでなく、有事の際も卸売業者が全国の医療機関等に医薬品を安定的に供給する体制を維持・更新するには十分とはいえないと考えられる。アンケート調査からは、製造販売業者、卸売業者、保険薬局ともに薬価制度抜本改革による「毎年薬価調査・毎年薬価改定」が企業経営に及ぼす影響が非常に大きいと認識しており、その理由等についての追加的な調査研究をしていくことも有益である。今後は、小売段階の最終価格が再販制度で固定されている著作物(書籍、雑誌、新聞、音楽ソフト)やたばこの流通との比較研究をしていくことも有益と考える。
結論
社会の高齢化や社会保障費の増加が進む中での医療保険制度の持続性確保、革新的な医薬品に係る研究開発の促進と患者へのタイムリーな提供という二つの課題のバランスを考慮しながら、今後、日本における医薬品の開発及び流通の環境がどのような方向に向かいつつあるのかを遠望し、将来の薬価制度のあり方について議論していくことが重要である。

公開日・更新日

公開日
2019-10-30
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2019-10-30
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

行政効果報告

文献番号
201806013C

収支報告書

文献番号
201806013Z