経鼻麻しんワクチンの開発に関する研究

文献情報

文献番号
199800661A
報告書区分
総括
研究課題名
経鼻麻しんワクチンの開発に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成10(1998)年度
研究代表者(所属機関)
齋加 志津子(千葉県血清研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 鈴木一義(千葉県血清研究所)
  • 木所稔(千葉県血清研究所)
  • 伊藤浩三(千葉県血清研究所)
  • 大川時忠(千葉県血清研究所)
  • 小船富美夫(国立感染症研究所)
  • 佐多徹太郎(国立感染症研究所)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 医薬安全総合研究事業
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
平成12(2000)年度
研究費
40,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
子供ワクチン構想の趣旨に従い麻しん感染症を予防するため、現行の皮下注射に用いられている弱毒生麻しんワクチンの接種経路を変更して経鼻麻しんワクチンを開発する。この経粘膜免疫製剤は,従来の注射による予防接種よりもより接種が容易で、安全性が高く、かつ幅広い免疫を付与することが期待できる。
研究方法
現行弱毒生麻しんワクチン(TD97株)の経鼻接種による安全性及び有効性を、麻しんに感受性のあるサルを用いて検証してきた。今年度は安全性に関して、経鼻接種ウイルスの中枢神経残留性を検討し、鼻腔内噴霧接種であることから、呼吸器系への安全性と接触感染の可能性について検討した。また、これらの試験において血中抗体産生と局所IgA抗体産生を調べ、本接種方式の有効性を検討した。
結果と考察
経鼻接種麻しんウイルスの中枢神経(CNS)残留性を調べるために、高力価のTD97株ウイルスを3頭のサルに経鼻接種し、接種後1週から4週までの末梢血リンパ球及び4週目の組織中の麻しんウイルスRNA(MV-RNA)をRT-PCR法で検出を行ったが、末梢血リンパ球及びCNSを含めた全ての組織からMV-RNAは検出されなかった。野外麻しんウイルスを末梢に接種されたサルではウイルスが高率に脳に侵入することが推定され、またSSPE以外の死亡例のヒトCNSから、かなりの率でMV-RNAが検出されていることから、得られた成績はTD97株経鼻接種ワクチンのCNSへのウイルス残留性に対する安全性を示すものとみなされた。次に呼吸器系に対する安全性を調べるために、10^6又は10^5TCID50/mlのTD97株ウイルス液0.3mlを6頭のサルの気管内に気管内チューブを用いて直接接種し、接種後10日目に解剖して組織の病理学及び免疫組織化学的検査を行ったところ、呼吸器系に全く病変及びウイルス抗原は認められなかった。また接種前と接種後9日目に撮影した胸部X線写真の診断でも異常は認められなかった。両鼻腔内に0.25mlずつ接種する本ワクチンの接種方式からは起こり得ないような、前述の苛酷な接種負荷を与えても病変が生じなかったことから、TD97株の経鼻接種ワクチンは呼吸器系に対して極めて高い安全性を持つと考えられた。次に経鼻接種ワクチンの接触感染の可能性を調べるために、107又は105.5TCID50/mlのTD97株ウイルスをそれぞれ2頭ずつのサルに両鼻腔0.25mlずつ接種し、これら4頭のそれぞれに未接種サルを同居させ、5週までの抗体産生を調べた。接種サル4頭は抗体が良好に産生されてウイルスが体内で十分に増殖したと見なされたが、これらの個体と濃厚な接触環境に置かれた同居の非接種サル4頭は抗体陰性を維持して感染は成立しなかった。これよりTD97株ウイルスの経鼻接種ワクチンは皮下接種ワクチンと同様に接種感染を起こしにくいと推察された。経鼻接種方式の本ワクチンは局所抗体の産生が期待されたので、前述の複数の試験においてTD97株ウイルスを経鼻接種した7頭について、OraSureで唾液を採取して唾液中の局所IgA抗体の産生を調べたところ7頭中5頭において麻疹特異的局所IgA抗体の産生が認められた。これは本接種方式の皮下接種方式に対する優位性を示すものとなることが予想される。更にこれら7頭と野外ウイルスHL株を経鼻接種した4頭のサルについて接種後の末梢血リンパ球数とCD4+及びCD8+T細胞数の変動を調べたところ、野外株接種サルでは接種後にこれらのポピュレーションの著明な減少が認められたのに対し、TD97株接種サルでは接種後の明らかな減少は認められず、両者の顕著な対比が示された。リンパ球の減少は麻疹罹患後の一時的免
疫不全状態の原因と見なされ、こうした現象が起こらない本ワクチンは、免疫不全の影響を受けやすい途上国の乳幼児用に適したワクチンとなる可能性が考えられた。現在、経鼻接種法との比較のために、TD97株のサル皮下接種試験が進行中であり、血中及び局所抗体産生や末梢血リンパ球等の変動に関する検討を行うこととしている。
結論
本年度のサル接種試験において、本経鼻接種ワクチンのCNS残留性、呼吸器系及び接触感染に対する安全性を実証する成績が得られ、サルを用いるワクチンの安全性に関する試験はほぼ終了したと考えられる。また、有効性に関しても血中抗体の産生は良好であり、皮下接種法では期待できない局所IgA抗体が産生されており、これは本ワクチンの優位性を示すものである。今後は現在進行中のワクチン株のサル皮下接種試験との比較検討を経て、ヒトによる治験に進むこととしたい。

公開日・更新日

公開日
-
更新日
-