文献情報
文献番号
201805001A
報告書区分
総括
研究課題名
ユニバーサルヘルスカバレッジ(UHC)達成に寄与する要因の解明と我が国による効果的な支援施策に関する研究
課題番号
H28-地球規模-一般-001
研究年度
平成30(2018)年度
研究代表者(所属機関)
大角 晃弘(公益財団法人結核予防会結核研究所 臨床・疫学部)
研究分担者(所属機関)
- 内村 和広(公益財団法人結核予防会結核研究所 臨床・疫学部)
- 山田 紀男(公益財団法人結核予防会結核研究所 国際情報センター)
- 伊達 卓二(保健医療経営大学・保健医療経営学科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 行政政策研究分野 地球規模保健課題解決推進のための行政施策に関する研究
研究開始年度
平成28(2016)年度
研究終了予定年度
平成30(2018)年度
研究費
1,540,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
日本を含むいくつかの工業先進諸国とアジア・アフリカ諸国におけるUHCの達成状況に関する情報を収集・比較分析し、1960年代にUHCを達成した日本を一つのモデルとして、結核対策とUHCの発展との関係と、結核対策がUHC達成に寄与した要素を明らかにし、我が国としての支援施策について具体的に提言する。
研究方法
本研究は、日本及び他の先進国(カナダ・英国等)やアジア・アフリカ諸国(フィリピン・バングラデシュ・カンボジア・タイ・ケニア)のUHCに関する既存の関係資料や、関係者からの面接及び電子メール等による情報収集・整理・分析により、UHC達成状況の評価を行い、UHC達成の阻害要因と促進要因や、UHC達成と結核対策との関連性等を検討する記述的研究である。
結果と考察
フィリピンの社会保険制度であるPhilHealthの加入者間における公平性の確保のために、地方自治体における加入者分類適用の透明性を確保するための体制作りや、PhilHealth償還予算の適正使用について、外部監査機関がモニタリングする体制作りが必要と考えられた。バングラデシュダッカ市内で合計16名の結核患者に対して結核患者支出に関する予備調査では、結核の治療前に患者が負担した医療費の平均は2953タカ、非医療費は750タカで、全て患者の自己負担であった。結核治療開始前に就業していた10人のうち、5人が結核治療を理由として失職していた。戦後の沖縄においては、公衆衛生看護婦(保健師)は、結核対策を中心とした感染症対策や母子保健活動など、その時期の公衆衛生の課題に応じた活動に取り組んだ。また、保健所、特に保健師は、住民と保健行政との直接的な橋渡しの役割を果たしていた。カンボジア首都圏新興工業地域に所在する郡病院においては、公的健康保険対象者である大規模工場労働者のサービス利用が急増するのに伴い、利用者の多い土曜日及び日曜日などにスタッフを多く配置するなどして対応していた。郡病院主体のヘルス・プロモーション活動や疾病予防に関する活動は限定的であった。タイにおける結核情報については、保健省結核対策課が管理する電子化された患者登録システム(TBCM)があり、このシステムに登録された新規患者数は、2014年度が56,309、2017年度が77,079で、36.9%増加していた。結核患者を報告した施設数は、保健省管轄施数で801から952に18.9%増加した。TBCM情報はUniversal Coverage Scheme担当機関(NHSO)により活用されており、結核対策が医療情報に関してUHCに貢献していると考えられた。ケニア政府は、UHC達成のため、保健省内に新しい部署を開設した。ケニアの1人当たりGDPに占める公的保健医療支出割合は、サブサハラ・アフリカの結核高負担国9カ国の中では比較的高い状況であった。ケニアにおける結核患者の経済的負担は比較的低く抑えられており、個別の疾病対策として成果を上げていると考えられた。
結論
フィリピンの保健所レベルにおけるPhilHealth機能の改善のためには、特に貧困層加入対象者の選定法の改善、PhilHealth償還予算が保健所レベルで直接裨益するようなメカニズムの推進、外部監査機関による保健所レベルでのPhilHealth実施状況モニタリングメカニズムの導入が必要と考えられた。バングラデシュで結核患者支出状況全国調査実施に向けての技術的支援と、その結果を元とした健康保険サービスの充実と普及において、我が国の技術的支援が可能と考えられた。沖縄においても保健所機能、公衆衛生看護婦(保健師)の役割が地域保健の充実・拡大に寄与しており、特に戦後まもなくの保健所業務の中核であった結核治療と対策が、保健所機能の整備・充実に重要であったと考えられた。カンボジアにおいては、UHC実現に向けて、公的健康保険制度の対象拡大に加えて、地域の保健施設がヘルス・プロモーションや疾病予防に取り組めるようにすることが必要と考えられた。タイでは、結核対策が管理する結核医療情報システムが改善されており、今後、さらに私的医療機関からの患者報告の強化や、結核対策及び結核患者の疫学状況把握に有用な分析等の結核患者登録情報の有効活用のための技術支援が有用であると考えられた。ケニアにおいては、分野横断的なデータ分析に基づく課題解決戦略を策定して実施するため、結核対策と他のプログラム間でのデータ共有や、医療情報ネットワークシステムDHIS(District Health Information System)などとのデータ共有を検討すべきであり、そのための技術的支援と、保健省内の部門横断的なDepartment of UHCに対する人的支援も重要であると考えられた。
公開日・更新日
公開日
2019-05-27
更新日
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