がんゲノム医療推進を目指した医療情報の利活用にかかる国内外の法的基盤の運用と課題に関する調査研究

文献情報

文献番号
201804001A
報告書区分
総括
研究課題名
がんゲノム医療推進を目指した医療情報の利活用にかかる国内外の法的基盤の運用と課題に関する調査研究
課題番号
H29-倫理-一般-001
研究年度
平成30(2018)年度
研究代表者(所属機関)
中田 はる佳(国立研究開発法人国立がん研究センター社会と健康研究センター生命倫理・医事法研究部)
研究分担者(所属機関)
  • 平沢 晃(岡山大学医歯薬学総合研究科)
  • 田代 志門(国立研究開発法人国立がん研究センター社会と健康研究センター生命倫理・医事法研究部 )
  • 丸 祐一(鳥取大学地域学部 地域学科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 行政政策研究分野 政策科学総合研究(倫理的法的社会的課題研究事業)
研究開始年度
平成29(2017)年度
研究終了予定年度
平成30(2018)年度
研究費
3,840,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
ゲノム医療の実現に向け、がんゲノム医療推進コンソーシアム懇談会の報告書に基づき
がんゲノム医療中核拠点病院が指定された。がんゲノム医療推進コンソーシアムの体制の中には、患者データ(ゲノム解析情報、臨床情報)を蓄積するがんゲノム情報管理センターが含まれている。がんゲノム情報センターが収集・管理する情報は、新たな治療法開発のために医療機関、研究機関、企業に提供することが想定されている。一方で、ゲノム情報の不適切な扱いによる社会的不利益への懸念もある。こうした懸念とデータ活用への期待の均衡を図りがんゲノム医療を適切に推進するために、医療提供体制に加え法的基盤整備が必須である。本研究は、診療情報(ゲノム情報を含む)の利活用に係る法的基盤整備における課題を整理し、具体的な施策の提案を目的とする。
研究方法
1.国際調査
2018年9月3~9日にフィンランドの研究機関、政府関連機関、患者団体を訪問し、昨年度に引き続いてヒアリング調査を実施した。同期間に、Europe Biobank Weekにてエストニアのバイオバンクの第一人者であるAndres Metspalu教授と面会し、エストニアにおける医療情報・試料の活用についてヒアリング調査を実施した。さらに、2019年2月24~28日にアメリカのニューヨーク大学 ランゴーン医療センター医療倫理部門にて、2名の研究者と面会し、アメリカのゲノム医療における倫理的・法的・社会的課題についてヒアリング調査を実施した。
2.国内研究会
下記の日程で国内研究会を開催した。
① 「遺伝専門医療職が抱える課題について」認定遺伝専門医及び認定遺伝カウンセラーから遺伝医療専門職が抱える臨床上の課題を提示していただき、その対応などについて検討した。
② 「がんゲノム医療について考えよう!」患者・患者家族を主な対象者としてがんゲノム医療に関する勉強会を行った。
3.がんゲノム医療への患者・市民参画の試行
がんゲノム医療中核拠点病院等連絡会議下にある「インフォームドコンセント・情報利活用WG(ICWG)」と連携し、上記②の勉強会の参加者の中から、がん遺伝子パネル検査のインフォームドコンセントモデル文書案への意見出しをしてくれる患者査読者を募集した。
結果と考察
1. 国際調査
フィンランドでは、ゲノムセンター設立やゲノム法の制定スケジュールについて、関係者のコンセンサスを得るのが困難で、昨年度調査時点より遅れているとのことであった。昨年度調査時点では、2018年秋の国会にゲノム法案が提出される見込みであったが、1年遅れ、2019年秋の国会提出予定となっていた。医療情報の利活用については、社会健康情報の二次利用に関する法律(Act on the Secondary Use of Health and Social Data)が成立し、各種データベースに散らばっている医療情報の二次利用が促進される見込みである。
エストニアでは、e-governmentと呼ばれる体制を構築している。医療情報の利活用の一つの軸となっているのがバイオバンクであり、2001年に施行されたHuman Genome Research Actを根拠法として運営されている。10万人の住民をバイオバンクにリクルートし、遺伝子解析を行うというプログラムを実施して、国全体の予防医療の促進につなげる取り組みを展開していた。
米国では、がんゲノム医療に関わる倫理的・法的・社会的課題として、ゲノム情報の利活用に対する患者・市民の懸念に加え、未承認薬利用の方策が示された。

2. 国内研究会とPPIの試行
現在の臨床現場で専門家が抱える課題として、遺伝子解析結果の会社に関する課題、診療・医療に関する課題、secondary findingsの対応、遺伝子解析の不確実性、長期フォローの困難などが課題として挙げられた。また、遺伝子情報の利活用の議論に付随して生じる差別の懸念に対して、遺伝に関連する教育の重要性が指摘された。PPIの試行では、保険診療で用いられるがん遺伝子パネル検査の説明同意モデル文書案に対して5名の患者査読者から意見を得ることができた。
結論
日本のがんゲノム医療の核となるがんゲノム情報管理センターの法的基盤の強化が必要と考えられる。また、医療情報の二次利用の法整備については、既存の法体系を鑑みつつ、より利活用の促進に資する法整備が検討されてよい。医療情報の利活用に対する懸念(特に「遺伝差別」)は医療者を含め、多くの人が持つと考えられる。患者・市民参画や教育活動などを通じ、長期的に対応していくことが必要である。

公開日・更新日

公開日
2020-01-07
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2020-01-07
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

文献情報

文献番号
201804001B
報告書区分
総合
研究課題名
がんゲノム医療推進を目指した医療情報の利活用にかかる国内外の法的基盤の運用と課題に関する調査研究
課題番号
H29-倫理-一般-001
研究年度
平成30(2018)年度
研究代表者(所属機関)
中田 はる佳(国立研究開発法人国立がん研究センター社会と健康研究センター生命倫理・医事法研究部)
研究分担者(所属機関)
  • 平沢 晃(岡山大学医歯薬学総合研究科)
  • 田代 志門(国立研究開発法人国立がん研究センター社会と健康研究センター生命倫理・医事法研究部)
  • 丸 祐一(鳥取大学地域学部 地域学科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 行政政策研究分野 政策科学総合研究(倫理的法的社会的課題研究事業)
研究開始年度
平成29(2017)年度
研究終了予定年度
平成30(2018)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
がんゲノム医療の体制整備が急速に進められる中で、がんゲノム医療で扱われるゲノムデータ、遺伝情報の取扱いに関しては、関係者からの懸念がより少ない方法が求められる。日本におけるゲノムデータ、遺伝情報の取扱いに関する法的・社会的基盤を構築していく際には、国際動向を考慮に入れることが必須である。現在、ゲノム医療は国際的にも推進されており、あわせて、ゲノムデータを含めた医療情報の利活用が求められている。一方、医療情報の利活用に関しては、医療者、法律家を含むELSI(Ethical, legal, and social issues; 倫理的・法的・社会的課題)専門家、市民・患者と多様な人々が関わるため、各関係者が持つ期待と懸念を共有して進めていかなければならない。本研究では、保険診療を含め今後ますます広く展開されるがんゲノム医療を支える法的・社会的基盤の検討に資する知見を提示することを目的とする。
研究方法
国際調査(フィンランド、エストニア、アメリカ)、国内研究会4回及び患者・市民参画 (patient and public involvement: PPI) の試行を行った。
結果と考察
国際調査のうち、フィンランドとエストニアではそれぞれの国がゲノム医療を政策的に展開している段階であった。フィンランドでは、ゲノム法の制定とゲノムセンターの設立を目指して関係者間で調整が進められていた。当初は2018年に法案の国会提出予定であったが、調整が難航して2019年秋の提出予定となった。ゲノムセンターはゲノム法に基づいて設立されるため、2019年後半から2020年ごろの設立と予想される。また、2019年4月に社会健康情報の二次利用に関する法律(Act on the Secondary Use of Health and Social Data)が成立した。この法律により、各種データベースにある個人の社会健康情報を突合して利用することができることになった。複数データベースにまたがる個人の社会健康情報の利用を希望する者は、Data permit authorityとよばれる機関に申請し、申請が認められれば複数データベース間で突合されたデータを利用することができる。この際に提供されるデータは、個人を直接特定できる情報(氏名など)は削除され、再度の同意は不要とされている。エストニアでは、バイオバンクを中心に医療情報の利活用が行われており、その一環でゲノム医療も展開されつつあった。エストニアバイオバンクはHuman Genome Research Actを根拠法として設置・運営されている。国家個別化医療プログラム(National Personalized Medicine Programme) の一環として2018年3月から開始された10万人遺伝子解析プログラムが挙げられる。このプログラムは、新たに10万人をバイオバンクにリクルートしてDNA解析を行い、遺伝子解析結果を国のポータルサイトを通じて個人に返し、将来の予防医療などに役立てるということである。すなわち、政府の電子ポータルに遺伝子解析結果を載せて住民のアクセス権を確保しつつ、二次利用も行うことを目指している。本プログラムは、バイオバンクと同じくHuman Genome Research Actに定められたbroad consentに基づいて行われていた。アメリカでは、がんゲノム医療の治療提供のスキームとしてニーズが高まると予想される未承認薬利用制度について調査を行った。FDAのExpanded access programに加えてRight-to-try連邦法が成立し、未承認薬利用制度が拡大されていた。しかし、連邦法に対しては患者の安全保護の観点からの批判も多く、今後の運用が注目される。医療情報の利活用に対する患者・市民の懸念への対応について、フィンランドでは一般法での対応、アメリカはGINA法があるものの十分に機能しているとは言い難い状況が示された。国内研究会とPPIの試行では、医療情報の利活用に対して積極的な意見や期待がある一方で、患者のみならず医療者を含め多くの人が二次利用のあり方や遺伝差別に対する懸念を持つことが予想された。
結論
日本のがんゲノム医療の核となるC-CATの法的基盤の強化と、遺伝情報に基づく差別への懸念について患者・市民参画や教育活動などを通じた長期的な対応が必要である。

公開日・更新日

公開日
2020-01-07
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

行政効果報告

文献番号
201804001C

成果

専門的・学術的観点からの成果
欧米で先行して行われていた患者・市民参画 (patient and public involvement: PPI)を国内で実践できた。
臨床的観点からの成果
なし
ガイドライン等の開発
なし
その他行政的観点からの成果
がんゲノム医療コンソーシアム運営会議下にあるがんゲノム医療中核拠点病院等連絡会議内の「インフォームドコンセント・情報利活用WG」と連携し、がん遺伝子パネル検査の説明同意モデル文書の策定に患者意見を取り入れることができた。
その他のインパクト
「がんゲノム医療について考えよう!」という患者・家族向け勉強会を開催した。今後、本研究班の活動成果を報告するシンポジウムの開催を検討している。

発表件数

原著論文(和文)
1件
原著論文(英文等)
2件
その他論文(和文)
4件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
11件
学会発表(国際学会等)
1件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
中田はる佳, 高島響子, 吉田幸恵他
フィンランドにおけるゲノム医療関連政策の動向
家族性腫瘍 , 18 (2) , 42-47  (2018)

公開日・更新日

公開日
2020-01-07
更新日
-

収支報告書

文献番号
201804001Z