文献情報
文献番号
201803017A
報告書区分
総括
研究課題名
介護施設入居高齢者等の疾病の早期発見・重症化予防をAIを活用して行う実証研究
課題番号
H29-ICT-一般-007
研究年度
平成30(2018)年度
研究代表者(所属機関)
今中 雄一(京都大学 医学研究科)
研究分担者(所属機関)
- 鹿島 久嗣(京都大学 情報学研究科)
- 櫻井 保志(大阪大学 産業科学研究所)
- 國澤 進(京都大学 医学研究科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 行政政策研究分野 政策科学総合研究(臨床研究等ICT基盤構築・人工知能実装研究)
研究開始年度
平成29(2017)年度
研究終了予定年度
令和1(2019)年度
研究費
7,290,000円
研究者交替、所属機関変更
所属機関異動
研究分担者 櫻井保志
熊本大学(平成30年4月1日~平成31年1月31日)→ 大阪大学(平成31年2月1日以降)
研究報告書(概要版)
研究目的
介護施設等に居住する高齢者等の疾病の早期発見・重症化予防を行うために、各種データを用いた評価・通知のシステムを研究開発し、現場にフィードバックすることを目的としている。
研究方法
1【生体センサーデータ】夜間の見守りセンサーデータを用いて、入居者の状態をモデル化する。
2【介護提供組織の体制・風土データ】介護の質との関連が深い介護提供者の組織文化を明らかにし、組織レベルでの悪化リスクを定量化する。
3【健康関連データ(介護レセプト、調査票データ、介護カルテ等)】
3.1 入居者のQOL:QOLをモニター・把握し、QOL変化を予測する。
3.2 レセプト等の情報の活用:地域在住高齢者認知症リスクスコア評価尺度の作成、介護サービス利用者のアウトカム予測及び自己負担変化から与えた影響を検証する。
3.3 介護カルテ情報の活用:介護カルテから入居者の状態変化をモニター・把握し、状態悪化を予測する。
2【介護提供組織の体制・風土データ】介護の質との関連が深い介護提供者の組織文化を明らかにし、組織レベルでの悪化リスクを定量化する。
3【健康関連データ(介護レセプト、調査票データ、介護カルテ等)】
3.1 入居者のQOL:QOLをモニター・把握し、QOL変化を予測する。
3.2 レセプト等の情報の活用:地域在住高齢者認知症リスクスコア評価尺度の作成、介護サービス利用者のアウトカム予測及び自己負担変化から与えた影響を検証する。
3.3 介護カルテ情報の活用:介護カルテから入居者の状態変化をモニター・把握し、状態悪化を予測する。
結果と考察
1.【生体センサーデータ】
使用したデータは、ある介護施設のAからLまでの12人の入居者から3日間にわたって計測された、心拍数、呼吸数、呼吸レベルの3次元のセンサで構成されている。提案手法は複数入居者のセンサデータから、退室や歩行、睡眠などの入居者ごとに異なる活動状態を抽出し、共通の状態ごとにモデル化することに成功した。
2.【介護提供組織の体制・風土データ】
同一法人内であっても、施設によって組織文化スコアに大きなばらつきがみられた。職位間で比較すると、中間管理職が、幹部や非管理職に比べて組織文化スコアが低い傾向がみられた。職員の職務満足度や職場への定着意欲と関連が深い領域を、重回帰分析を用いて検証した結果、「プロとしての成長」や「責任と権限」、「仕事量と負担」、「(組織の)将来像」が関連していることが明らかになった。
3.【健康関連データ(介護レセプト、調査票データ、介護カルテ等)】
3.1 入居者のQOL
EQ-5D(QOL尺度)では、介護サービスを利用していない一般の70代以上の人で0.866だが、利用者では0.48~0.56であることが明らかになった。また、施設サービス利用者のほうが在宅での介護サービス利用者よりもEQ-5Dは高い傾向がみられた。同様に、WHO-5(精神的健康状態尺度)では、一般の70代前半は16.9に対して、介護施設利用者は15.1、在宅での介護サービス利用者は11.6であった。
利用者のサービス満足度と職員の組織文化、とくに「チームワーク」との間の関連が強いことが明らかになった。
3.2 レセプト等の情報の活用
新規要介護認定者に対して、認知症発症に高い予測力のあるモデルが作成できた。
2015年8月から、約1割の介護サービス利用者の自己負担割合が1割から2割に増加した。その結果、相対的な月平均居宅サービス利用時間の減少が顕著に観察された。
介護利用者の死亡予測において、新たに診断された疾患のうち、がんは最もリスクが高い疾患を示した。特に気管支及び肺の悪性新生物は約3年間の死亡リスクが大きかった。
機械学習のdyadic Soft ClusteringとDeep Learning手法を用い、一年後要介護度と重症化予測モデルを構築した。同じデータ、同じ変数で従来の回帰モデルより高い精度が得られることが分かった。
3.3 介護カルテ情報の活用
約77万件の自由記述データ(テキストデータ)を分析し、「熱」および「転倒」に関するシソーラスを構築した。発熱はおよそ1%、転倒はおよそ0.1%の出現率であった。
使用したデータは、ある介護施設のAからLまでの12人の入居者から3日間にわたって計測された、心拍数、呼吸数、呼吸レベルの3次元のセンサで構成されている。提案手法は複数入居者のセンサデータから、退室や歩行、睡眠などの入居者ごとに異なる活動状態を抽出し、共通の状態ごとにモデル化することに成功した。
2.【介護提供組織の体制・風土データ】
同一法人内であっても、施設によって組織文化スコアに大きなばらつきがみられた。職位間で比較すると、中間管理職が、幹部や非管理職に比べて組織文化スコアが低い傾向がみられた。職員の職務満足度や職場への定着意欲と関連が深い領域を、重回帰分析を用いて検証した結果、「プロとしての成長」や「責任と権限」、「仕事量と負担」、「(組織の)将来像」が関連していることが明らかになった。
3.【健康関連データ(介護レセプト、調査票データ、介護カルテ等)】
3.1 入居者のQOL
EQ-5D(QOL尺度)では、介護サービスを利用していない一般の70代以上の人で0.866だが、利用者では0.48~0.56であることが明らかになった。また、施設サービス利用者のほうが在宅での介護サービス利用者よりもEQ-5Dは高い傾向がみられた。同様に、WHO-5(精神的健康状態尺度)では、一般の70代前半は16.9に対して、介護施設利用者は15.1、在宅での介護サービス利用者は11.6であった。
利用者のサービス満足度と職員の組織文化、とくに「チームワーク」との間の関連が強いことが明らかになった。
3.2 レセプト等の情報の活用
新規要介護認定者に対して、認知症発症に高い予測力のあるモデルが作成できた。
2015年8月から、約1割の介護サービス利用者の自己負担割合が1割から2割に増加した。その結果、相対的な月平均居宅サービス利用時間の減少が顕著に観察された。
介護利用者の死亡予測において、新たに診断された疾患のうち、がんは最もリスクが高い疾患を示した。特に気管支及び肺の悪性新生物は約3年間の死亡リスクが大きかった。
機械学習のdyadic Soft ClusteringとDeep Learning手法を用い、一年後要介護度と重症化予測モデルを構築した。同じデータ、同じ変数で従来の回帰モデルより高い精度が得られることが分かった。
3.3 介護カルテ情報の活用
約77万件の自由記述データ(テキストデータ)を分析し、「熱」および「転倒」に関するシソーラスを構築した。発熱はおよそ1%、転倒はおよそ0.1%の出現率であった。
結論
(1)個々人の生体センサーデータと、病名等・医療介護行為データとの解析において、データと解析を連結させAI技術も駆使することで、リスク因子の組合せと時系列変化を把握し、より精度高く早期発見・重症化予測を行うことができるようになる。
(2)解析アウトプットの介護や医療にあたる実務者のフィードバックは、活用志向で設計し、早期発見・重症化予防、および職場の負担軽減につながることが期待される。
(3)ここで収集されるデータは、現場の負担を増やすことなく、かつ観察対象者に侵襲や不快感を与えないものである(生体センサーデータ、診療報酬・介護報酬データ、介護カルテデータ等)。
(4)また、これらの予測・予防ツールには、センサーデータ、ADL等の患者の健康関連QOLやケア提供者陣の組織文化などの情報をも含めた、従来にない包括的なデータ・情報を駆使し、これまでにない予測力と予防方策の実現へとつなげる。
(5)さらに、これらのシステムの開発研究を多分野および産官学連携の枠組で実施していくことにより、社会実装への円滑な導入へ向けた実証が可能となる。これまで、基盤を構築し、上記のとおり、いくつかの成果を出してきた。
(2)解析アウトプットの介護や医療にあたる実務者のフィードバックは、活用志向で設計し、早期発見・重症化予防、および職場の負担軽減につながることが期待される。
(3)ここで収集されるデータは、現場の負担を増やすことなく、かつ観察対象者に侵襲や不快感を与えないものである(生体センサーデータ、診療報酬・介護報酬データ、介護カルテデータ等)。
(4)また、これらの予測・予防ツールには、センサーデータ、ADL等の患者の健康関連QOLやケア提供者陣の組織文化などの情報をも含めた、従来にない包括的なデータ・情報を駆使し、これまでにない予測力と予防方策の実現へとつなげる。
(5)さらに、これらのシステムの開発研究を多分野および産官学連携の枠組で実施していくことにより、社会実装への円滑な導入へ向けた実証が可能となる。これまで、基盤を構築し、上記のとおり、いくつかの成果を出してきた。
公開日・更新日
公開日
2019-11-15
更新日
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