電子カルテと連携する音声認識システムのニーズ把握及び音声認識システムに用いられる医療用語辞書の編纂に関する研究

文献情報

文献番号
201803013A
報告書区分
総括
研究課題名
電子カルテと連携する音声認識システムのニーズ把握及び音声認識システムに用いられる医療用語辞書の編纂に関する研究
課題番号
H29-ICT-一般-003
研究年度
平成30(2018)年度
研究代表者(所属機関)
野田 和敬(国立大学法人千葉大学 医学部附属病院)
研究分担者(所属機関)
  • 生坂 政臣(国立大学法人千葉大学 医学部附属病院 )
  • 傳 康晴(国立大学法人千葉大学 文学部)
  • 鈴木 隆弘(国立大学法人千葉大学 医学部附属病院 )
  • 大平 善之(国際医療福祉大学)
  • 上原 孝紀(国立大学法人千葉大学 医学部附属病院 )
  • 島井 健一郎(国立大学法人千葉大学 医学部附属病院 )
  • 中田 孝明(国立大学法人千葉大学 大学院医学研究院)
  • 新津 富央(国立大学法人千葉大学 大学院医学研究院)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 行政政策研究分野 政策科学総合研究(臨床研究等ICT基盤構築・人工知能実装研究)
研究開始年度
平成29(2017)年度
研究終了予定年度
令和1(2019)年度
研究費
5,756,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
診療業務の効率化は限られた医療資源への負荷を軽減する上で重要であり,それを達成するひとつの手段として,電子カルテと連携する音声認識技術の活用に期待が寄せられている。本研究では,アンケート調査により音声認識システムに対するニーズの高い領域・診療場面を明らかにし,次いで,ニーズの高い診療場面での辞書構築を図ることを目的とした。
研究方法
アンケート調査は,まず千葉県内の臨床研修病院35施設を対象として,診療科が偏らないように調整して300診療科を抽出し,そこに従事する医師1名・看護師1名に回答を依頼した。続いて,千葉県内の診療所約3,800施設から500施設を抽出し,1施設につき医師1名・看護師1名に回答を依頼した。平成29年度に実施した調査項目に準じて,ニーズがあると予想される場面や用途を列挙し,それぞれの場面での電子カルテと連携する音声認識システムの導入について,導入したいか否かを回答してもらった。郵送法によりアンケート調査についての通知と回答依頼を行い,回答はすべてインターネット経由で収集することとした。なお,対象施設への調査票の郵送,Web回答画面の作成・管理・回収については調査会社へ依頼した。
辞書の編纂では,その元データとして,千葉大学医学部附属病院内で音声データやATOKの変換履歴データなどを収集し,加えて,当院の電子カルテのテキスト情報を診療科ごとに抽出し,辞書編纂に利用した。収録した音声については,技術補佐員2名を当院にて雇用し音声書き起こし作業を行い,次いで,形態素解析,単語抽出と頻度分析による辞書編纂,ならびに,音声データのコーパス化を行った。
平成30年度は,平成29年度のニーズ調査結果を受けて,医師のニーズが高かったもののうち,救急対応時用辞書,電子カルテ項目名辞書,医療面接・病状説明用汎用辞書,精神科用辞書,の4つの辞書編纂を実施した。電子カルテ項目名辞書については,従来のマウス操作と比較した音声での項目呼び出し操作の時間短縮効果を検証した。また,医療面接・病状説明用汎用辞書については,医療面接の音声認識における認識精度を,既存の辞書(日本語話し言葉コーパスに基づく言語モデル)を用いた場合の音声認識率と比較して評価を実施した。
結果と考察
臨床研修病院への調査では,調査票配布数はのべ600部(うち医師300部)で,回答者数は125名(医師(または歯科医師)63名,看護師62名)で,回収率は20.8%であった。医師(または歯科医師)において高かったニーズ用途は順に,「電子カルテの特定の項目を呼び出す」,「カンファレンス等の会議録をテキスト化する」,「救急対応時の処置等を記録する」,「処置中にCT画像などの閲覧操作をする」,「診療情報提供書や入院診療計画書などの医療文書を作成する」,「薬剤の添付文書を参照する」,「カルテを記載する」,「患者への病状説明をそのままテキスト化する」,「問診・医療面接の内容をそのままテキスト化する」,「画像検査・特殊検査のレポートを作成する」であり,平成29年度の調査と概ね一致していた。診療所への調査では,調査票配布数はのべ1,000部(うち医師500部)で,回答者数は95名(医師医師(または歯科医師)60名,看護師35名)で,回収率は9.5%であった。医師(または歯科医師)において高かったニーズ用途は順に,「問診・医療面接の内容をそのままテキスト化する」,「患者への病状説明をそのままテキスト化する」,「救急対応時の処置等を記録する」,「カルテを記載する」,「カンファレンス等の会議録をテキスト化する」であり,特定機能病院や臨床研修病院での調査結果とは異なる傾向が見られた。
辞書編纂では,(A)医療面接の書き起こしテキスト, (B)カルテ記載テキスト, (C)キーログの3つのアプローチで収集したデータを用いて言語モデル(発音辞書)の構築を行った。これらについて,医療面接の音声認識における認識精度を,既存の辞書(日本語話し言葉コーパスに基づく言語モデル)を用いた場合の音声認識率と比較して評価した。その結果,会話の文字起こしには実発話データが重要であるが,カルテ記載のような音声による文章入力では記載対象のテキストデータでも代用あるいは補完として有用であることが示唆された。音声認識精度のさらなる向上には, 言語モデルの充実とともに今回の研究では十分な対応を実施していない音響モデル改善への取り組みが必要と考えられた。
結論
病院,診療所へのアンケート調査では,「音声でのカルテ操作」,「医療面接や病状説明などの音声自動テキスト化」への要望が高い傾向があった。会話の文字起こしには実発話データが重要であるが,カルテ記載のような音声による文章入力では記載対象のテキストデータでも代用あるいは補完として有用であることが示唆された。

公開日・更新日

公開日
2019-11-15
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2019-11-15
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

収支報告書

文献番号
201803013Z