Deep Learning技術を用いた腎生検病理画像の自動分類による病理診断の効率化と診断補助に関する研究

文献情報

文献番号
201803010A
報告書区分
総括
研究課題名
Deep Learning技術を用いた腎生検病理画像の自動分類による病理診断の効率化と診断補助に関する研究
課題番号
H28-ICT-一般-010
研究年度
平成30(2018)年度
研究代表者(所属機関)
大江 和彦(東京大学 医学部附属病院 )
研究分担者(所属機関)
  • 河添 悦昌(東京大学 医学部附属病院 )
  • 松尾 豊(東京大学 大学院工学系研究科)
  • 中山 浩太郎(東京大学 大学院工学系研究科)
  • 宇於崎 宏(帝京大学 医学部)
  • 堂本 裕加子(新谷 裕加子) (東京大学 医学部附属病院)
  • 柏原 直樹(川崎医科大学 医学部)
  • 清水 章(日本医科大学 大学院医学研究科)
  • 長田 道夫(筑波大学 医学医療系)
  • 南学 正臣(東京大学 医学部附属病院)
  • 鈴木 祐介(順天堂大学 医学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 行政政策研究分野 政策科学総合研究(臨床研究等ICT基盤構築・人工知能実装研究)
研究開始年度
平成28(2016)年度
研究終了予定年度
平成30(2018)年度
研究費
13,500,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究は生検腎病理画像のデータベースを構築し、人工知能手法のひとつで深層学習の手法である畳み込みニューラルネットワーク(CNN)による画像識別を活用した腎病理診断手法を開発する。またこのプロセスから得られる知見を腎糸球体病理画像診断プロセスの標準化に役立て腎病理診断の効率化と診断補助に資することを目指す。
研究方法
平成30年度は次の1)~4)を実施した。①生検腎病理画像の収集とDBの構築:研究分担者が所属する5施設が所有する生検腎組織の蛍光抗体病理画像と光学顕微鏡病理画像を匿名化した上で提供を追加で受けた。
②蛍光抗体法により染色された糸球体病理画像の所見分類:蛍光抗体法により染色された糸球体病理画像の所見分類を行った。
③光学顕微鏡病理画像の所見分類: 1)WSIから糸球体を検出する手法の開発、2)糸球体の所見項目の定義と妥当性の評価、3)糸球体所見を分類するCNNの開発と評価、4)糸球体内部構造領域の抽出手法の開発と評価、の4つのサブセクションとして行った。
④光学顕微鏡画像から糸球体領域を検出するWEBアプリケーションシステムの開発:
これまでに開発した手法を応用して、1枚のWSIを入力として、それに含まれる全ての糸球体を検出して結果を返却するWEBアプリを開発した。
結果と考察
1) 研究参加施設より112,210枚の蛍光抗体画像と7,123枚の光学顕微鏡画像(Whole Slide Image: WSI)の提供を受けデータベースを構築した。2) CNNによるIgG蛍光抗体により染色された糸球体画像の蛍光強度の推定精度(F1)を評価したところ、メサンギウム領域が75.6%、係蹄壁領域が67.9%、その他領域が60.5%であった。3) 光学顕微鏡糸球体病理画像に関し、Faster R-CNNを用いて高解像度のWSIから微小な糸球体を検出する手法を開発し、先行研究に比べ高い検出精度を達成した。本研究班を構成する5名の腎病理の専門家の協議のもとPAS染色における12の所見項目を作成し、その所見一致度を評価したところ、κ値は0.04~0.43であり、所見項目によるばらつきがみられた。1枚の糸球体画像を入力として、糸球体所見を分類するCNNの精度を評価したところ、Extracellular matrix sclerosis/Collapsing obsoleteとCrescentのROC-AUCは0.9を超えた。また、CNNの着目点を可視化することで誤りの分析を行った。4) 本研究成果を利用し、WSIから糸球体領域を検出するWEBアプリケーションシステムを開発した。
結論
腎生検病理画像のデータベースを構築し、人工知能手法のひとつで深層学習の手法である畳み込みニューラルネットワーク(CNN)による画像識別を活用して、WSIから糸球体部分を切り出す自動手法を確立した。糸球体画像に対して所見付標準化手法を策定し、専門家間のばらつきを評価した。1枚の糸球体画像を入力として、糸球体所見を分類するCNNの精度を評価したところ、Extracellular matrix sclerosis/Collapsing obsoleteとCrescentのROC-AUCは0.9を超えた。本研究成果を利用し、WSIから糸球体領域を検出するWEBアプリケーションシステムを開発した。またこのプロセスから得られる知見を腎糸球体病理画像診断プロセスの標準化に役立て腎病理診断の効率化と診断補助に資することができると考えられた。具体的には、WSIから糸球体領域を検出するWEBアプリケーションシステムを開発し、インターネットに向けた公開サービスを計画している。本研究で構築した病理画像データベースは改めて倫理委員会承認のもとで匿名化して研究者限定公開を計画している。

公開日・更新日

公開日
2019-11-15
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2019-11-15
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

文献情報

文献番号
201803010B
報告書区分
総合
研究課題名
Deep Learning技術を用いた腎生検病理画像の自動分類による病理診断の効率化と診断補助に関する研究
課題番号
H28-ICT-一般-010
研究年度
平成30(2018)年度
研究代表者(所属機関)
大江 和彦(東京大学 医学部附属病院 )
研究分担者(所属機関)
  • 河添 悦昌(東京大学 医学部附属病院)
  • 松尾 豊(東京大学 大学院工学系研究科)
  • 中山 浩太郎(東京大学 大学院工学系研究科)
  • 宇於崎 宏(帝京大学 医学部)
  • 堂本 裕加子(新谷 裕加子) (東京大学 医学部附属病院)
  • 柏原 直樹(川崎医科大学 医学部)
  • 清水 章(日本医科大学 大学院医学研究科)
  • 長田 道夫(筑波大学 医学医療系)
  • 南学 正臣(東京大学 医学部附属病院)
  • 鈴木 祐介(順天堂大学 医学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 行政政策研究分野 政策科学総合研究(臨床研究等ICT基盤構築・人工知能実装研究)
研究開始年度
平成28(2016)年度
研究終了予定年度
平成30(2018)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究は、腎生検組織のデジタル病理画像を収集し、これらのデータベースを構築するとともに、深層学習の手法であるCNNによる画像識別を活用した腎病理診断手法を開発する。またこのプロセスから得られる知見を腎糸球体病理画像診断プロセスの標準化に役立て、腎病理診断の効率化と診断補助に資することを目指す。
研究方法
1. 生検腎病理画像の収集とDBの構築(H28, H29年度)
各施設が所有する生検腎組織の蛍光抗体病理画像と光学顕微鏡病理画像を匿名化した上で提供を受けた。
2. 蛍光抗体法により染色された糸球体病理画像の所見分類(H28, H30年度)
蛍光抗体法により染色された糸球体病理画像の所見分類を行った。
3. 光学顕微鏡病理画像の所見分類(H29, H30年度)
1枚のWSIに含まれる全ての糸球体を検出し、各糸球体の画像的特徴から、複数の所見項目のスコアを分類タスクにより決定し、その結果を元に臨床診断分類するアプローチを取った。
4. 光学顕微鏡画像から糸球体領域を検出するWEBアプリケーションシステムの開発(H30年度)
1枚のWSIを入力として、それに含まれる全ての糸球体を検出して結果を返却するWEBアプリを開発する。
結果と考察
1)腎生検病理画像の収集に関して、研究参加施設より112,210枚の蛍光抗体画像と7,123枚の光学顕微鏡画像(WSI)の提供を受けデータベースを構築した。WSIファイルのメタ情報として個人情報が記録される場合があり注意が必要であった。またメタ情報に染色の種類は記録されておらず、ファイル名に記載たり、画像を目視しなければ判断できないことがあった。メタ情報もしくはファイル名称に染色の種類を判別できる情報を残すことが望まれる。
2) 蛍光抗体糸球体病理画像の所見分類に関して、IgG蛍光抗体により染色された糸球体画像の蛍光強度の推定精度(F1)はメサンギウム領域が75.6%、係蹄壁領域が67.9%、その他領域が60.5%であった。
3)
3-1) WSIを入力として糸球体を検出するためFaster R-CNNを用いて高解像度のWSIから微小な糸球体を検出する手法を開発した。PAS、PAM、MT、Azanの各染色画像、計800枚のWSIに含まれる約33,000個の糸球体領域を人手により注釈付けし手法の評価を行ったところ、検出精度(F1)はそれぞれ、0.93、0.93、0.90、0.88であり、先行研究より高い精度を達成した。
3-2) 糸球体の所見項目の定義と妥当性の評価に関して、5名の腎病理の専門家の協議のもと、PAS染色における12の所見項目を作成した。所見一致度は0.04~0.43であり、ばらつきがみられた。スコアリング基準やスコアリングを行う上でのフローの改定が必要と考えられた。
3-3) 糸球体所見を分類するCNN開発に関し、約8000枚の糸球体画像に対してアノテーションを行い、学習済みのVGG16をファインチューニングする方法で精度の評価を行い、Extracellular matrix sclerosis / Collapsing obsoleteとCrescentのROC-AUCは0.90を超え、Extracellular matrix sclerosis / Collapsing obsoleteは実用的なレベルと考えられた。しかし他の所見項目は十分な精度が得られていない。
3-4)糸球体内部の構造を複数の領域として抽出した上で病理所見をスコア化する方法を検討した。Crescentでは同等もしくは若干の精度向上、Extracellular matrix sclerosis / Collapsing obsoleteでは精度が劣っていた。ただし、アノテーション付きデータセット枚数の違いがあり、要する時間も異なるため、比較は難しい。
4) 光学顕微鏡画像から糸球体領域を検出するWEBアプリケーションシステムに関し、1枚のWSIを入力として切り出した糸球体画像を結果として返却するWEBアプリケーションシステムを開発し東大病院内のネットワークで公開した。
結論
腎生検組織のデジタル病理画像を収集し、これらのデータベースを構築するとともに、人工知能手法のひとつで深層学習の手法であるCNNによる画像識別を活用した腎病理診断手法を開発した。またこのプロセスから得られる知見を腎糸球体病理画像診断プロセスの標準化を検討し、専門家間での診断基準の確率が重要であることを示した。この知見と成果を活かした腎病理診断の効率化と診断補助に資することができると考えられ、WSIから糸球体領域を検出するWEBアプリケーションシステムを公開する計画である。

公開日・更新日

公開日
2019-11-15
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2019-11-15
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

行政効果報告

文献番号
201803010C

成果

専門的・学術的観点からの成果
腎生検病理画像から糸球体画像部分だけを抽出した深層学習技術を活用して開発された。また糸球体画像について深層学習技術を活用して、病理診断所見とその領域を示す技術が開発された。さらにこれまで専門家により微妙に異なる所見診断基準の標準化に向けた基準作成を示すことができ、これを深層学習を活用して自動診断する手法を開発した。
臨床的観点からの成果
腎生検病理画像をWebにアップロードするだけで自動的に糸球体画像ファイル群を生成するシステム、糸球体画像について深層学習技術を活用して病理診断所見とその領域を示す技術が開発でき、臨床病理診断における省力化に貢献するものと考えられた。
ガイドライン等の開発
専門家により微妙に異なる所見診断基準の標準化に向けた基準作成を示すことができ、今後の学会レベルでの診断基準開発に貢献できると考えられる。
その他行政的観点からの成果
腎生検病理画像をWebにアップロードするだけで自動的に糸球体画像ファイル群を生成するシステム、糸球体画像について深層学習技術を活用して病理診断所見とその領域を示す技術は、遠隔病理診断の普及に関する一助になると考えられる。
その他のインパクト
特になし

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
1件
その他論文(和文)
3件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
11件
学会発表(国際学会等)
0件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
4. Kawazoe Y, Shimamoto K, Yamaguchi R, et al.
Faster R-CNN-Based Glomerular Detection in Multistained Human Whole Slide Images.
Journal of Imaging , 4 (7:91) , 1-19  (2018)
doi:10.3390/imaging4070091

公開日・更新日

公開日
2019-11-15
更新日
-

収支報告書

文献番号
201803010Z