文献情報
文献番号
201803009A
報告書区分
総括
研究課題名
病理デジタル画像・人工知能技術を用いた、病理画像認識による術中迅速・ダブルチェック・希少がん等病理診断支援ツールの開発
課題番号
H28-ICT-一般-009
研究年度
平成30(2018)年度
研究代表者(所属機関)
佐々木 毅(東京大学 医学部附属病院)
研究分担者(所属機関)
- 高澤 豊(がん研究会がん研究所)
- 宮路 天平(東京大学 医学部附属病院)
- 野村 直之(東京大学 医学部附属病院)
- 宮越 徹(インスペック株式会社)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 行政政策研究分野 政策科学総合研究(臨床研究等ICT基盤構築・人工知能実装研究)
研究開始年度
平成28(2016)年度
研究終了予定年度
平成30(2018)年度
研究費
15,385,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
本研究は2つのプログラム開発とネットワークインフラの構築および実際にAPIでのサービスの提供である。1つ目(1)は「リンパ節転移の有無をAIで検出して術中迅速病理診断や病理診断のW-checkを行うシステムのネットワークを構築する」である。現在日本の病理専門医は約2,400名で、人口10万人当たりアメリカの3分の1以下である。さらに常勤病理医勤務病院の約50%が1人病理医である。このような状況下で最終診断である病理診断のW-checkが行えない、または病理医不在のため患者が術中迅速病理診断を受けられないなどの問題が生じている。これらを解決するAI病理診断支援プログラムを開発し、ネットワークインフラを構築して病理医不在病院や1人病理医のW-check等の支援を行い、病理医の時間の創出を目的とする。もう1つ(2)が、「希少がんでの病理診断の不一致などの問題に対応するAI病理診断支援プログラムの開発」である。希少がんの中でも特に病理診断が時として困難である脂肪性腫瘍、特に「高分化型脂肪腫様脂肪肉腫」と「脂肪腫」を鑑別するプログラムの開発に取り組んだ。以上、これら2つのAI病理診断支援プログラムを開発することが研究目的である。
研究方法
(1)に関しては、開発したAI病理診断支援システムにてAPIでのネットワークを介したAI遠隔診断システムの遠隔支援を計画し、がん部を検出したヒートマップ等の自動診断返却システムなどソフトウエアの開発も完了し、平成30年2月にインターネットを介した遠隔施設間での実装実験を行ったが、他施設の標本では、高い精度が得られないという問題点が発覚した。これは最終的にはHE染色標本の施設間での色域の差が問題であることが判明し、画像の専門家であるパナソニックやJVCケンウッドなどにも意見を求めたが、HE染色標本はパステルカラーであり、完全な色域等の調整は難しいという結論となり、できる限りの調整を試みた上で、リンパ節転移の有無を自動検出するAI病理診断支援プログラムの開発を完了した。さらに本プログラムをAPIにて画像登録により、ヒートマップを付与して返却するネットワークを、iCOMBOXを用いて構築し、AI病理診断支援システムを搭載したサーバを東大内に設置することとした。(2)に関しては、特に、病理医が鑑別診断を誤ることがある「高分化型脂肪腫様脂肪肉腫」と「脂肪腫」の鑑別診断を行うAI病理診断診プログラムの開発を行った。教師データ作成のためのソフトウエアAnnonの開発に成功し、深層学習の様々なモデルやアルゴリズムを用いてAIによる深層学習を行い、開発を行った。教師データ作成に関しては、脂肪性腫瘍のうち、良性の脂肪腫の10症例と高分化型脂肪腫様脂肪肉腫の15症例を用いた。この「Annon」を用いて、「注釈」の付け方を検討し、「良性細胞」、「悪性細胞(脂肪芽細胞あるいは異型間質細胞)」、「良悪不明な細胞」の3群の「注釈」付けが効率的かつ実用的な教師データであることを確認した。また深層学習の手法とアルゴリズムに関しては、教師データのデータセットとしてランダムな100, 200, 300…1000画像を用いた検討により、脂肪腫と高分化型脂肪腫様脂肪肉腫の鑑別補助AIが、3群の検出で適合率(mean average precision) 0.5を達成するためには、1500画像以上のデータセットが必要であることが示された(繰り返し=50の場合)。学習手法の比較検討では、一段階検出の代表的アルゴリズムであるSSDと二段階検出の代表的アルゴリズムであるFasterRCNNを比較検討し、適合率はFasterRCNNが高いことを確認した。
結果と考察
(1)の「リンパ節転移の有無をAIで検出して術中迅速病理診断や病理診断のW-checkを行うシステムのネットワークを構築」に関してはシステムを実装して、医学研究目的に限って、ホームページ上から利用希望者を募る形で3月末に運用を開始した。本件に関しては、2019年3月28日にプレスリリースされており、広く周知がはかられた。(2)に関しては、テストセットで、ほぼ「高分化型脂肪腫様脂肪肉腫」と「脂肪腫」とを100%の確率で鑑別可能なプログラムの開発に成功した。
結論
(1)「リンパ節転移の有無をAIで検出して術中迅速病理診断や病理診断のW-checkを行うシステムのネットワークを構築」に関してはWEBでの運用を開始した。本件は、2019年3月28日にプレスリリースをし、広く周知がはかられた。また(2)「希少がんでの病理診断の不一致などの問題に対応するAI病理診断支援プログラムの開発」に関しては、開発に成功し、第108回日本病理学会総会において研究成果報告を行い、好評であった。
公開日・更新日
公開日
2019-11-15
更新日
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