医薬品の品質保証基準及び品質判定システムに関する研究

文献情報

文献番号
199800657A
報告書区分
総括
研究課題名
医薬品の品質保証基準及び品質判定システムに関する研究
課題番号
-
研究年度
平成10(1998)年度
研究代表者(所属機関)
青柳 伸男(国立医薬品食品衛生研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 小嶋茂雄(国立医薬品食品衛生研究所)
  • 岩上正蔵(大阪府公衆衛生研究所)
  • 鈴木英世(富山県薬事研究所)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 医薬安全総合研究事業
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
平成12(2000)年度
研究費
5,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
各国間の医薬品規制の違いを解消すべく、医薬品承認審査ハーモナイゼーション国際会議(ICH)が組織されている。そこで基本的合意が得られている規格及び試験方法のガイドラインには、規格試験を省略するための1)定期的/スキップ試験,2)パラメトリックリリ-ス,3)工程内試験といった我が国の承認・許可制度にない試験、概念が導入されている。ガイドラインが最終合意に達したとき、これら試験の実施が求められる。本研究の目的は、それに備え実施上の問題点を明らかにし、実施手順の確立を目指すものである。
本年度は、定期的試験/スキップ試験について適用条件、可能な試験項目、統計的手法、実施体制等について検討する同時に、溶出試験及び漢方製剤のエキス含量の代替試験について検討を行った。
研究方法
スキップ試験の実現性の検討: GCPの観点、及び国内の製薬企業に質問調査を行う等して、スキップ試験が適用できる条件、適用可能な試験項目、実施体制について検討した。統計的検討:スキップ試験の採用、中断を統計的に適切に進めるための方法を、二項分布、管理図を基に検討した。代替試験:溶解形サリチル酸錠を用いて溶出試験と崩壊試験の撹拌強度を比較し、代替試験としての崩壊試験の有用性を検討した。また、11種類の漢方エキス製剤を用い、エキス含量測定において重量法に代わる吸光度法の有用性を検討した。
結果と考察
1. スキップ/定期的試験の適用条件  医薬品の品質保証において、製造承認書に定められた規格は重要な役割を果たすが、品質はそれのみで保証されるものではなく、適切な製造工程の管理、工程内試験等により総合的に保証されるべき性格のものである。現在、我が国では規格に定められた試験項目は全て実施しなければならないが、GMPが施行されている今日、規格の全項目の試験を全製造ロットについて実施しなければならないという必然性はない。GMP、規格試験を含めた効率的、効果的な品質保証の枠組みを構築すべきで、不必要と思われる試験は省略するのが望ましい。製薬企業に対して質問調査を行ったところ、1)他の試験項目からみて保証可能な項目、2)統計的にみて不適合となる可能性はない項目、3) GMPを遵守していれば保証可能な項目、4)有効性・安全性から重要度が低い項目、5)試験に長時間を要する項目については、スキップテストが望ましいとの回答が得られた。製造工程の管理等で品質保証が可能ならば、効率的なスキップテストの採用を検討すべきであろう。
2. スキップ/定期的試験が可能な試験項目  製薬企業に対してスキップ試験が可能な試験項目について質問調査を行ったところ、確認試験、含量均一性試験、重量偏差試験、溶出試験、崩壊試験、残留溶媒、生薬エキス、微生物限度試験、保存効力試験、モル浸透圧試験、含量がスキップ試験の対象になり得るとの回答が得られた。それらの試験項目については、スキップ試験の採用を検討する価値がある。代替試験を適用する際は、本試験と代替試験との関連性(評価パラメータの相関性、良品と不良品の識別性、データの再現性)について検討し、適合基準を適切に設定する必要がある。溶出試験の代替としての崩壊試験について検討を行ったところ、崩壊試験(30cpm)は汎用される溶出試験であるパドル法50rpmに比べ、撹拌強度が2倍程強いことが分かった。同程度の撹拌強度を得るには崩壊試験を10cpmで行うことが必要で、代替試験とするには場合によっては、ストローク数を下げることも必要と思われる。また、漢方エキス製剤のエキス含量は重量法による測定が公定法となっているが、抽出液の濃縮、恒量化等に相当の時間を要する。簡易な吸光度法で代替できないかどうか検討を行ったところ、吸光度法は製剤中の添加剤成分の影響を受けにくく代替試験として有用であることが分かった。
3. スキップテストと定期的試験の選択  スキップ/定期的試験に移行する際、一定数のロット毎(例えば、20ロット)に行うスキップテストと、一定期間毎(例えば、1ケ月)に行う定期的試験のいずれがよいか製薬企業に質問調査したところ、回答は2分した。いずれを選択するかは、ロットの製造速度、品質に及ぼす製造時期の影響を考慮し定めるべきで、多数のロットが連続して製造される場合はスキップテストを適用し、製造時期によって品質が異なってくるおそれがある場合は、定期的試験を選択すべきであろう。
4. スキップテストの統計的手法  スキップテストへ移行するかどうかは、統計的観点からも検討する必要がある。質的試験(確認試験のように色等の特性で適否を判定する試験)について、スキップテストの移行条件を二項分布により計算したところ、300ロット以上が連続して試験に合格しなければならないことが分かった。統計的根拠のみに依るのでなく、関連項目の試験、GMPによる品質保証を活用しスキップテストに移行すべきと思われる。クロマトの面積値等の計量値を用いる量的試験の場合、スキップテストへ移行するには管理図の使用が有用であることが分かった。但し、管理図上で平均値が増加又は減少の傾向をとっているときには工程は安定しているとは言えず、スキップテストへの移行は増減傾向がなくなるまで保留すべきである。類縁物質等の限度試験においても、定量値が得られるならば同様に管理図を使用すべきであろう。含量均一性試験のように平均値と同時に標準偏差もロットの特性値として得られる場合は、標準偏差についても管理図を作成する必要がある。その場合、σの安定度からみてスキップテストに移行するには少なくとも20ロット以上の試験は必要と思われる。
5. スキップ/定期的試験の中断と再開  スキップテストへ移行した後、試験結果が管理限界へ接近する場合は、全ロット試験に戻る必要がある。不幸にして、試験結果が規格に適合しなかったときは、スキップテストの信頼性が失われたことを意味するので、原則としてそれまでスキップの対象とした全ロットを市場から回収し、スキップテストの問題点を明らかにする必要がある。妥当性が検証されたならば、再度、スキップテストに移行することができよう。
6. 行政的対応  スキップ/定期的試験を我が国で実行するには、法的、行政的対応が必要となる。法的には、日局通則でスキップ/定期的試験を認めることの改正が必要である。スキップ試験をどのように許可すべきか企業に意見を求めたところ、スキップテストの妥当性を示す資料を地方庁に提出し、一定期間内(例えば60日)に特別の指摘がなければ、企業責任でスキップ試験に移行できる行政システムを望む声が圧倒的に高かった。スキップテストの採用の可否は基本的には企業責任で決定すべきもので、地方庁への届け出制とするのが現実的と思われる。
結論
GMPが施行されている今日、規格の全試験項目を全製造ロットについて行う必然性は少なくなってきている。製造工程の適切な管理等により当該品質を保証できるならばスキップ試験を採用できると思われる。管理図等を使用し、スキップテストへの移行、中断を決定するのが望ましい。スキップ試験を実行に移すには、日本薬局方の通則でスキップ/定期的試験を認めることの改正が必要である。スキップテストの採用の可否は基本的には企業責任で決定すべきもので、地方庁への届け出制とし、一定期間内に不適当との回答がなければ自動的に許可されるという方法が現実的と思われる。

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