腎臓病データベースの拡充・連携強化と包括的データベースの構築

文献情報

文献番号
201803002A
報告書区分
総括
研究課題名
腎臓病データベースの拡充・連携強化と包括的データベースの構築
課題番号
H28-ICT-一般-002
研究年度
平成30(2018)年度
研究代表者(所属機関)
柏原 直樹(学校法人川崎学園 川崎医科大学 医学部)
研究分担者(所属機関)
  • 岡田 美保子(一般社団法人 医療データ活用基盤整備機構)
  • 横山 仁(学校法人金沢医科大学 医学部)
  • 南学 正臣(国立大学法人 東京大学 医学部附属病院)
  • 山縣 邦弘(国立大学法人 筑波大学 医学医療系)
  • 和田 隆志(国立大学法人 金沢大学 医薬保健研究域医学系)
  • 中島 直樹(国立大学法人 九州大学 大学病院)
  • 杉山 斉(国立大学法人 岡山大学 大学院医歯薬学総合研究科)
  • 丸山 彰一(国立大学法人 名古屋大学 大学院医学系研究科)
  • 岡田 浩一(学校法人 埼玉医科大学 医学部)
  • 神田 英一郎(学校法人川崎学園 川崎医科大学 医学部)
  • 片岡 浩巳(学校法人川崎学園 川崎医療福祉大学 医療福祉マネジメント学部 医療技術学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 行政政策研究分野 政策科学総合研究(臨床研究等ICT基盤構築・人工知能実装研究)
研究開始年度
平成28(2016)年度
研究終了予定年度
平成30(2018)年度
研究費
13,550,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
日本腎臓学会は日本医療情報学会と共同し、電子カルテ情報を活用して全国規模の包括的慢性腎臓病臨床効果情報データベース(J-CKD-DB)を構築した。CKDはeGFR 60mL/分/1.73㎡未満、あるいはタンパク尿(+)で定義され、個々の腎疾患を包含する広範な概念である。全国に約1300万人の有病者が推計され、増加が危惧されている。厚生労働省標準として電子カルテのデータを標準形式で格納するSS-MIX2標準化ストレージがある。J-CKD-DBはSS-MIX2からCKD該当例のデータ(患者基本情報、処方、臨床検査、等)を自動抽出してデータベース化するものである。一方、日本腎臓学会は腎臓病に関する規模の異なる複数のデータベースを構築してきた。(1)腎生レジストリ(J-RBR)、(2) 各種腎疾患DB(J-RBRから生成);難治性ネフローゼ症候群(JNSCS),IgA 腎症(J-IGACS)等の疾患単位のDBである。(1)、(2)はいずれもWebを用いた手作業での入力で、入力負荷が大きく、数10万人規模以上のDB構築が困難等の課題に直面していた。またJ-CKD-DBとの連結方法も未開発であった。本研究では、上記課題を克服し、腎臓病に関する全国規模の包括的データベースを構築し、腎臓病の実態調査、予後規定因子の解析、腎臓病診療の質向上、健康寿命延伸に寄与することを目的とする。
研究方法
本研究で作成するデータベース「J-CKD-DB」は2014年度の検査データ、薬剤情報などをSS-Mix2標準化ストーレッジ(SS-Mix2)を用いて自動抽出する。抽出されたデータは東京大学で開発された多目的臨床データ登録システム(Multi-purpose Clinical Data Repository Sysem: MCDRS)をデータベース構築に用いている。抽出基準と期間は次のとおりである。・抽出基準:eGFR 60mL/分/1.73㎡未満、またはタンパク尿(+)・対象期間:2014年1月1日~12月31日までの間
結果と考察
平成30年度末までに15施設から148,183例のCKD患者からなるDBを構築した。eGFRを基準とした慢性腎臓病重症度分類では高齢になる程重症度症例が増加し、85歳以上では50%以上がCKDステージG3b以上であった。また蛋白尿も同様の経過であり85歳以上で蛋白尿による重症度グレードがA2もしくはA3であった。以上のように本邦におけるCKDの実態の解明が可能となる。一方で課題も多く認められた。標準ストーレッジの施設による使用状況にばらつきがあり多くの施設でローカルコードでの運用が慣習的になっていることが明らかとなった。検査コードであるJLAC10は病院のマスターには、ほとんど採用されていないため、ローカルコードへのJLAC10コードの割当てが必要となった。J-CKD-DBで収集する検査項目は50項目程度であり、本研究では、あらかじめJLAC10を割当てた表を作成し、各施設にローカルコードへのJLAC10の割り当てを依頼し解決してきた。
 また薬剤においても一部の施設ではHOTコードに対応済みであったが、大半の参加施設では院内薬剤マスターへのHOTコードの対応付けが必要となっている。HOTコードは処方用7桁(うちチェックデジット1桁)、会社判別用2桁、包装形態判別用2桁、流通コード対応用2桁から成り、HOT7、HOT9、HOT11、HOT13と、使用目的により使い分けることが想定されている。J-CKD-DBではHOT9としているが、院内マスターとHOTコードの機械的なマッチング処理だけでは限界があり、各施設において薬剤部門の協力を得ている。
 本事業ではこれらの課題を乗り越えるべく整備に尽力し本データベース構築に至っている。また今後は抽出条件を変更するのみで新たなデータベース構築を行うことができるシステムを確立したと考えることができその貢献度は大きい。
結論
EHRから15施設、148,183件からなる大規模な全国規模のCKDデータベース(J-CKD-DB)の構築に成功した。本疾患データベースの活用により多くの研究が可能となり、今後の発展性は極めて大きい。当該領域の診療の質向上・均霑化に貢献可能であると考える。
DB構築課程で、多施設EHRを用いたデータベース構築に際しての複数の課題に遭遇し、解決法を構築しえた。このノウハウは経験知として他データベース構築に際しても活用可能である。
本研究は、EHRの利活用方法の構築の端緒となるものであり、EHR活用の好事例となりえる。

公開日・更新日

公開日
2019-11-15
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2019-11-15
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

文献情報

文献番号
201803002B
報告書区分
総合
研究課題名
腎臓病データベースの拡充・連携強化と包括的データベースの構築
課題番号
H28-ICT-一般-002
研究年度
平成30(2018)年度
研究代表者(所属機関)
柏原 直樹(学校法人川崎学園 川崎医科大学 医学部)
研究分担者(所属機関)
  • 岡田 美保子(一般社団法人 医療データ活用基盤整備機構)
  • 横山 仁(学校法人 金沢医科大学 医学部)
  • 南学 正臣(国立大学法人 東京大学 医学部附属病院)
  • 山縣 邦弘(国立大学法人 筑波大学 医学医療系)
  • 和田 隆志(国立大学法人 金沢大学 医薬保健研究域医学系)
  • 中島 直樹(国立大学法人 九州大学 大学病院)
  • 杉山 斉(国立大学法人 岡山大学 大学院医歯薬学総合研究科)
  • 丸山 彰一(国立大学法人 名古屋大学 大学院医学系研究科)
  • 岡田 浩一(学校法人埼玉医科大学 医学部)
  • 神田 英一郎(学校法人川崎学園 川崎医科大学 医学部)
  • 片岡 浩巳(学校法人川崎学園 川崎医療福祉大学 医療福祉マネジメント学部 医療技術学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 行政政策研究分野 政策科学総合研究(臨床研究等ICT基盤構築・人工知能実装研究)
研究開始年度
平成28(2016)年度
研究終了予定年度
平成30(2018)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
日本腎臓学会は日本医療情報学会と共同し、全国規模の包括的慢性腎臓病臨床効果情報データベース(J-CKD-DB)を構築した。CKDはeGFR 60mL/分/1.73㎡未満、あるいはタンパク尿(+)で定義され、個々の腎疾患を包含する広範な概念である。全国に約1300万人の有病者が推計され、増加が危惧されている。CKDの実態(年齢毎、重症度毎の有病率等)、診療実態、標準的治療法の準拠率等は不明であった。厚生労働省標準として電子カルテ(HER)のデータを標準形式で格納するSS-MIX2標準化ストレージがある。J-CKD-DBはSS-MIX2からCKD該当例のデータ(患者基本情報、処方、臨床検査、等)を自動抽出してデータベース化するものである。一方、日本腎臓学会は腎臓病に関する規模の異なる複数のデータベースを構築してきた。(1)腎生レジストリ(J-RBR)、(2) 各種腎疾患DB(J-RBRから生成);難治性ネフローゼ症候群(JNSCS)等の疾患単位のDBである。(1)、(2)はいずれもWebを用いた手作業での入力で、入力負荷が大きく、数10万人規模以上のDB構築が困難等の課題に直面していた。またJ-CKD-DBとの連結方法も未開発であった。
上記課題を克服し、腎臓病に関する全国規模の包括的データベースを構築し、腎臓病の実態調査、予後規定因子の解析、腎臓病診療の質向上、健康寿命延伸に寄与することを目的とした。
研究方法
参画医療機関の電子カルテからCKD患者の基本情報、検査データ、薬剤情報などをSS-Mix2標準化ストーレッジ(SS-Mix2)を用いて自動抽出する。抽出されたデータは東京大学で開発された多目的臨床データ登録システム(MCDRS)を用いた。抽出基準は次のとおりである。抽出基準:eGFR 60mL/分/1.73㎡未満、またはタンパク尿(+)とした。
結果と考察
本事業は電子カルテ情報からSS-Mix2を活用して構築する全国規模のビッグデータ事業として最初期のものであった。そのため、様々な課題(SS-Mix2への未対応、データの基準値のばらつき等)に遭遇し、その解決に注力した。SS-Mix2導入医療機関においても大半はlocal codeで運用されており、SS-Mix2で運用するHOT, JLAC10 codeへのmappingは大半の施設において未施行であった。また検査値データの標準化も不十分であった。
現在15施設、148183件のデータベース構築に至った。世界的にみても最大規模のCKDデータベースとなった。これを元に探索的な解析を実施した。男女別に年齢層毎のCKD各ステージの有病率が判明した。加齢と共にCKD重症例が増加することが明かになった。加齢により腎機能が低下することが知られている。男女別に年齢による推算GFR(eGFR)の変化率が判明した。アルブミン尿、蛋白尿の年齢層別の解析を実施し、GFRとの異なり若年層に蛋白尿の多い群が存在することが判明した。CKD重症度分類の各層の有病率を解析した。年齢層毎の重症度分類各クラスでの有病率が判明した。
本研究のもうひとつの成果は、参画施設においてSS-MIX2環境の整備が完了したことである。抽出条件を変更することで容易に他領域(CKD以外)のデータベースの構築が可能となった。各疾患を対象として、手入力では決して達成できない規模(数十万人規模)の臨床データベース構築が可能となる。
今後、本DBを活用して以下に取り組む。1)本邦のCKD診療の実態調査、横断・縦断研究等を実施し、死亡、心血管系疾患、末期腎不全等のアウトカムの発症頻度およびそれらのリスク因子を評価する。2)公募により多くの1,2次研究を支援する。3)得られたエビデンスをガイドライン改定に活かし、医療の質向上に貢献する。4)以上の過程を円環的に循環させることで、遵守可能で完成度の高いガイドラインの作成が可能となり、診療の質向上に貢献可能する。5)医療経済的アプローチが可能となる。
結論
EHRから15施設、148,183件からなる大規模な全国規模のCKDデータベース(J-CKD-DB)の構築に成功した。本疾患データベースの活用により多くの研究が可能となり、今後の発展性は極めて大きい。当該領域の診療の質向上・均霑化に貢献可能であると考える。
DB構築課程で、多施設EHRを用いたデータベース構築に際しての複数の課題に遭遇し、解決法を構築しえた。このノウハウは経験知として他データベース構築に際しても活用可能である。
本研究は、EHRの利活用方法の構築の端緒となるものであり、EHR活用の好事例となりえる。

公開日・更新日

公開日
2019-11-15
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2019-11-15
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

行政効果報告

文献番号
201803002C

成果

専門的・学術的観点からの成果
本事業は電子カルテ情報からSS-MIX2を活用して構築する全国規模のビッグデータ事業として最初期のものである。そのため様々な課題に遭遇し、その解決に注力して15施設、148,183件のデータベース構築に至った。世界的にみても最大規模のCKDデータベースである。もうひとつの成果は、参画施設においてSS-MIX2環境の整備が完了し、各疾患を対象として、手入力では決して達成できない数十万人規模の臨床データベース構築が可能となった事であり、縦断型データベース(約20万件)の構築を行っている。
臨床的観点からの成果
腎臓病の実態調査、予後規定因子の解析、腎臓病診療の質向上、健康寿命延伸に寄与することを目的として全国規模の包括的データベースを構築した。データ収集のために医療現場に負荷を与えることなく、疾患DBの構築が可能となった。J-CKD-DBを用いて加齢に伴う腎機能低下への影響、アルブミン尿、蛋白尿の年齢層別の解析などを実施した。また縦断データ(J-CKD-DB-Ex)解析による予後予測アルゴリズムの開発と予測因子の同定を行い、論文にて発表した。
ガイドライン等の開発
J-CKD-DBはリアルワールドデータ(RWD)であり、この解析による得られるエビデンス(RWE)をガイドライン改定に活かすことが可能となる。ガイドラインの準拠率もQuality indicatorとして評価可能となる。さらにガイドライン準拠率の向上によって健康アウトカム(腎不全、死亡等)の変化も評価可能となる。
その他行政的観点からの成果
CKD診療ガイドラインが推奨する標準医療への準拠率をQuality Indicator(QI)を設定して測定することで、医療の質評価が可能となる。
また、将来的に医療等IDが導入され、ナショナルレセプトデータベースへの連結、レセプト情報との突合が可能となれば、正確な費用対効果分析が可能となる。
その他のインパクト
本研究事業で構築されたデータベースは、AMEDの「ICTを活用したDKDの成因分類と糖尿病腎症重症化抑制法の構築」、「精緻な疾患レジストリーと遺伝・環境要因の包括的解析による糖尿病性腎臓病、慢性腎臓病の予後層別化と最適化医療の確立」、「糖尿病性腎症、慢性腎臓病の重症化抑制に資する持続的・自立的エビデンス創出システムの構築と健康寿命延伸・医療最適化への貢献」、「難治性腎障害の重症化要因の解析と治療法最適化を実現するためのリアルワールドデータ/ICT技術を活用したエビデンス創出」にも活用されている。

発表件数

原著論文(和文)
13件
原著論文(英文等)
19件
その他論文(和文)
1件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
25件
学会発表(国際学会等)
5件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
9件
ホームページ1件、本研究事業は日本腎臓学会のJ-CKD-DB運営委員会と連携し、日本腎臓学会公的研究班研究成果合同発表会、日本腎臓学会学術集会ほかで成果を報告している。

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Nakagawa N, Sofue T, et al.
J-CKD-DB: a nationwide multicentre electronic health record-based chronic kidney disease database in Japan.
Sci Rep. , 10 (1) , 7351-  (2020)
10.1038/s41598-020-64123-z.
原著論文2
Sofue T, Nakagawa N, Kanda E, et al.
Prevalence of anemia in patients with chronic kidney disease in Japan: A nationwide, cross-sectional cohort study using data from the Japan Chronic Kidney Disease Database (J-CKD-DB).
PLoS One. , 15 (7) , e0236132.-  (2020)
10.1371/journal.pone.0236132
原著論文3
Sofue T, Nakagawa N, Kanda E, et al.
Prevalences of hyperuricemia and electrolyte abnormalities in patients with chronic kidney disease in Japan: A nationwide, cross-sectional cohort study using data from the Japan Chronic Kidney Disease Database (J-CKD-DB).
PLoS One , 15 (10) , e0240402-  (2020)
10.1371/journal.pone.0240402.

公開日・更新日

公開日
2019-07-23
更新日
2023-06-09

収支報告書

文献番号
201803002Z