我が国の貧困の状況に関する調査分析研究

文献情報

文献番号
201801005A
報告書区分
総括
研究課題名
我が国の貧困の状況に関する調査分析研究
課題番号
H28-政策-指定-006
研究年度
平成30(2018)年度
研究代表者(所属機関)
泉田 信行(国立社会保障・人口問題研究所 社会保障応用分析研究部)
研究分担者(所属機関)
  • 阪東 美智子(国立保健医療科学院 生活環境研究部)
  • 岡田 徹太郎(香川大学 経済学部)
  • 森 周子(高崎経済大学 地域政策学部)
  • 安藤 道人(立教大学 経済学部)
  • 大津 唯(埼玉大学 大学院人文社会科学研究科)
  • 小西 杏奈(帝京大学 経済学部)
  • 佐藤 格(国立社会保障・人口問題研究所 社会保障基礎理論研究部)
  • 渡辺 久里子(国立社会保障・人口問題研究所 企画部)
  • 藤間 公太(国立社会保障・人口問題研究所 社会保障応用分析研究部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 行政政策研究分野 政策科学総合研究(政策科学推進研究)
研究開始年度
平成28(2016)年度
研究終了予定年度
平成30(2018)年度
研究費
3,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究の目的は、日本における貧困および貧困研究の現状を把握し、また貧困の背景要因等に関する実証分析を行うことにより、これまでの貧困研究の体系化と総括的な評価に取り組むことである。
研究方法
分担課題ごとに、総務省統計局「住宅・土地統計調査」、「社会生活基本調査」、厚生労働省「国民生活基礎調査」の再集計、国立社会保障・人口問題研究所「生活と支え合いに関する調査」の再集計表の活用、昨年度構築されたマイクロシミュレーション分析枠組みを活用した政策シミュレーションを実施した。各国の居住保障政策の実態について住宅手当(家賃補助)、社会住宅に焦点化してドイツ・米国の現地調査を実施した。
結果と考察
住宅・土地統計調査の分析から、低所得層において住宅に課題のある世帯が無視し得ない割合で存在し、所得が高いほど住宅の課題のある割合が低下していた。また、住宅最低居住面積水準未満世帯の割合は、人口が多く借家層が多い特定の都道府県でのみ高いが、家賃負担率30%以上世帯の割合は、ほとんどの都道府県で2割を超えていた。住宅の種類別に相対的貧困率の経年推移を推定した結果、公営賃貸・民間賃貸住宅に居住している者の相対的貧困率が増大していた。
 相対的剥奪について複数のアプローチからの分析を行い、3世代同居という自助策は剥奪を解消せず却って悪化させる場合もあること、他方で、所得・教育・社会的孤立(頼れる人の不存在)が剥奪と強い関連がある可能性が示された。
 マイクロシミュレーション分析では、今後相対的貧困率は上昇していき、2025年にピークを迎えることが予測された。性別や年齢について焦点化した上で非正規雇用者を正規雇用に転換するケースで相対的貧困率の相対的に大きな低下が予測された。住宅手当を支給したケースでも相対的貧困率はわずかながらも低下すると予測された。
 公表データの再集計から、給与住宅に居住する世帯が減少する一方、その減少分が民間賃貸住宅で吸収されており、若年層の家賃負担率が増大している可能性が示唆された。
 各国の居住保障政策の現状とその実施上の課題が、住宅手当(家賃補助)及び社会住宅を中心に、今年度の調査対象国(ドイツ・米国)について把握された。
考察:住宅(居住保障)政策を選択・実施することは、とりわけ低所得者層の住宅の課題を改善すると考えられた。最低居住面積水準未満住宅の改善と家賃負担率の緩和については、前者は地域ごとに、後者は全国レベルで対応すべき課題であると考えられた。家賃負担率の緩和を考える場合は、家賃を人為的に変更することが実行不可能であることを踏まえると、居住者の所得水準を高めることが政策選択肢と考えられた。
 マイクロシミュレーション分析では非正規から正規への転換、特に若年女性に限定した場合に 、相対的貧困率が低下することが示された。それゆえ、(就労)所得を増大させる施策が貧困対策に不可欠であると考えられた。
 公営賃貸住宅や民間賃貸住宅において家賃負担率と相対的貧困率の双方が高いことから、家賃額と所得額を踏まえた形となる住宅手当(家賃補助)が家賃負担率と相対的貧困率を低下させるために有効と考えられた。
結論
相対的貧困率の低下と居住の課題に対して、住宅手当(家賃補助)を何らかの社会手当制度として構築し、他の所得保障施策と合わせて実施される必要性が考えられた。

公開日・更新日

公開日
2019-11-26
更新日
2020-04-09

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2019-11-26
更新日
2020-04-17

研究報告書(紙媒体)

文献情報

文献番号
201801005B
報告書区分
総合
研究課題名
我が国の貧困の状況に関する調査分析研究
課題番号
H28-政策-指定-006
研究年度
平成30(2018)年度
研究代表者(所属機関)
泉田 信行(国立社会保障・人口問題研究所 社会保障応用分析研究部)
研究分担者(所属機関)
  • 阪東 美智子(国立保健医療科学院 生活環境研究部)
  • 岡田 徹太郎(香川大学 経済学部)
  • 森 周子(高崎経済大学 地域政策学部)
  • 安藤 道人(立教大学 経済学部)
  • 大津 唯(埼玉大学 大学院人文社会科学研究科)
  • 小西 杏奈(帝京大学 経済学部)
  • 佐藤 格(国立社会保障・人口問題研究所 社会保障基礎理論研究部)
  • 渡辺 久里子(国立社会保障・人口問題研究所 企画部)
  • 藤間 公太(国立社会保障・人口問題研究所 社会保障応用分析研究部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 行政政策研究分野 政策科学総合研究(政策科学推進研究)
研究開始年度
平成28(2016)年度
研究終了予定年度
平成30(2018)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究の目的は、日本における貧困および貧困研究の現状を把握し、また貧困の背景要因等に関する実証分析を行うことにより、これまでの貧困研究の体系化と総括的な評価に取り組むことである。
研究方法
まず、研究者による現代の日本における貧困を考えるうえでの視点の整理、社会・援護局担当者による現在から将来にかけての政策上の課題についての論点整理、を相互に持ち寄り、それぞれの認識を共有した。そのうえで、貧困率の測定に関する研究、今後の貧困の動向についての測定手法開発に関する研究、住宅・居住を含む剥奪・排除指標に関する研究、住宅政策にかかる各国調査の4つに大別された研究課題に取り組むこととした。
 研究の実施に当たっては、文献検討をまず行い、その上で、厚生労働省『国民生活基礎調査』、総務省統計局「住宅・土地統計調査」、「社会生活基本調査」などの公的統計の二次利用申請による個票データを用いた分析を行った。各国調査については、住宅手当(家賃補助)及び社会住宅に内容を焦点化した上で、スウェーデン、フランス、イギリス、デンマーク、オランダ、米国、ドイツについて、3年間に順次行った。実態調査の実施前に事前調査を行い、研究班で報告会を行った際に各国共通して調査する項目、各国独自に調査すべき項目について認識を合わせた上で実査に入ることを原則とした。
結果と考察
 公表データの再集計から、持ち家取得の遅れと給与住宅に居住する世帯の減少が観察される一方、その減少分が民間賃貸住宅で吸収されており、特に若年層において家賃負担率が増大している可能性が示唆された。
 住宅・土地統計調査の個票の分析から、低所得層において住宅に課題のある世帯が無視し得ない割合で存在し、所得が高いほど住宅の課題のある割合が低下していた。また、最低居住面積水準未満世帯の割合は、人口が多く借家層が多い特定の都道府県でのみ高いが、家賃負担率30%以上世帯の割合は、ほとんどの都道府県で2割を超えていた。
 さらに、国民生活基礎調査の個票データの再集計により、住宅の種類別に相対的貧困率の経年推移を推定した結果、公営賃貸・民間賃貸住宅に居住している者の相対的貧困率は他の種類の住宅に居住者よりも高く、かつ、経年的に高まっていた。
 また、物質的剥奪は「年に一度の旅行」について4分の1の世帯が出来ないほか、「食事が買えない経験」、「衣服が買えない経験」、「不意の出費に備えた貯蓄がない」世帯が10%を超える割合で存在した。この物質的剥奪と(子育て世代に限る結果であるが)居住環境の質の剥奪は低所得であるほど発生する確率が高いことが「生活と支え合いに関する調査」の再集計を活用した分析から示された。
 マイクロシミュレーション分析では、今後相対的貧困率は上昇していき、2025 年にピークを迎えることが予測された。政策変更を加味したシミュレーションでは、女性や若年層に焦点化した上で非正規雇用者を正規雇用に転換するケースで相対的貧困率の相対的に大きな低下が予測された。住宅手当を支給したケースでも相対的貧困率はわずかながらも低下すると予測された。この結果から、今後も相対的貧困率は重要な政策課題であり続けると考えられた。
 各国の実態調査からは、住宅手当(家賃補助)施策と組み合わせて、ほとんどの国で社会住宅の制度の他、家賃規制などの付随的な施策を組み合わせて居住保障政策が実施されていることが明らかになった。
 これらの結果を踏まえると、賃貸住宅居住層に対する家賃額と所得額を踏まえた形での金銭的給付が家賃負担率と相対的貧困率を低下させるために有効と考えられた。女性・若年層の非正規雇用者を正規雇用へ転換するなど労働所得を引き上げる政策と住宅手当(家賃補助)を組み合わせて実施することが有力な選択肢であると考えられた。住宅手当(家賃補助)については、被用者が有力な受給者層になることから雇用者の事業主負担を含む形での社会手当として構想することが考えられた。
結論
今後も持続的な状態が維持される相対的貧困率と居住の課題を抑制・解決するために、住宅手当(家賃補助)を社会手当の形態の制度として構築し、他の所得保障施策と合わせて実施される必要性がある。

公開日・更新日

公開日
2019-11-26
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

行政効果報告

文献番号
201801005C

成果

専門的・学術的観点からの成果
個票データの分析から、公営・民間賃貸住宅居住層の、貧困率の高さ、住居費負担額の高さを示した。また、低所得世帯において低質な住宅に居住する世帯、物質的はく奪の状態にある世帯、それぞれの割合が高いことを示した。マイクロシミュレーション分析から、今後とも相対的貧困率が高まる可能性、若年・女性に焦点化した労働所得増大策が相対的貧困率を抑制・低下する効果を持つ可能性が示唆された。国際比較研究から、住宅手当のみならず社会住宅や家賃統制の仕組みを含めた形で居住保障施策が運営されていることを明らかにした。
臨床的観点からの成果
本研究の成果を踏まえると、現行の住居確保給付金や住宅セーフティネット制度における家賃低廉化に係る補助等の取組も参考としつつ、まずは若年層に焦点化した社会手当としての住宅手当制度の必要性を議論されることが期待される。
ガイドライン等の開発
現在のところ特記事項無し。
その他行政的観点からの成果
文化的な差異がEU諸国と存在することを踏まえつつ、日本における相対的剥奪を測定するための指標を構築し、国立社会保障・人口問題研究所による2017年実施の「生活と支え合いに関する調査」の調査項目として提案し、実際に調査項目として使用された。今後も継続して多面的・多次元的な貧困を把握していく必要がある。
その他のインパクト
学術的成果の学会等での普及を通じて社会に対する成果の普及を進めていく。

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
0件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
2件
学会発表(国際学会等)
1件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

公開日・更新日

公開日
2021-05-21
更新日
-

収支報告書

文献番号
201801005Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
3,000,000円
(2)補助金確定額
3,000,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 608,378円
人件費・謝金 493,288円
旅費 1,447,220円
その他 452,208円
間接経費 0円
合計 3,001,094円

備考

備考
自己資金1094円を繰り入れた。

公開日・更新日

公開日
2022-05-31
更新日
-