公私年金の連携に注目した私的年金の普及と持続可能性に関する国際比較とエビデンスに基づく産学官の横断的研究

文献情報

文献番号
201801003A
報告書区分
総括
研究課題名
公私年金の連携に注目した私的年金の普及と持続可能性に関する国際比較とエビデンスに基づく産学官の横断的研究
課題番号
H29-政策-一般-002
研究年度
平成30(2018)年度
研究代表者(所属機関)
中嶋 邦夫(株式会社ニッセイ基礎研究所 保険研究部 兼 年金総合リサーチセンター)
研究分担者(所属機関)
  • 上村 敏之(関西学院大学 経済学部)
  • 北村 智紀(東北学院大学・経営学部)
  • 佐々木 隆文(中央大学・総合政策学部)
  • 西久保 浩二(山梨大学・大学院総合研究部)
  • 西村 淳(神奈川県立保健福祉大学・保健福祉学部)
  • 柳瀬 典由(東京理科大学・経営学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 行政政策研究分野 政策科学総合研究(政策科学推進研究)
研究開始年度
平成29(2017)年度
研究終了予定年度
令和1(2019)年度
研究費
2,328,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
 研究目的は、私的年金の普及と持続に影響する要因の解明と、さらなる普及に向けた政策提言である。具体的には、諸外国と比較分析して日本の課題を精査し、エビデンスに基づく政策検討のために実証分析を行う。社会保障制度改革国民会議は、公的年金の給付水準の調整を補う私的年金での対応の支援の検討を求めている。
研究方法
 研究方法は、全体方針として、退職給付、個人型年金、受給方法の各テーマを進めつつ、横断的に公私年金の連携に注目して総合的に政策提言を検討する。今年度は、(1)次の政策対象となる可能性が高い従業員100~299人の中小中堅企業へ、退職給付の実施と人的資源管理や財務管理の方針との関係を確認するアンケートの実施と分析、(2)全上場企業への、先行研究に沿った退職給付と企業財務や人的資源管理との関係を検証するアンケートの実施と分析、(3)自助努力促進の鍵となる税制優遇とリテラシーとの関係を検証する個人アンケート(借用データ)の分析、(4)日本にも共通する中小企業での退職給付促進や受給方法の課題に関する米国有識者へのインタビュー、ならびに過年度に行った研究を深耕するための学会報告、を実施した。なお、企業向け調査の設計は、厚生労働省年金局企業年金・個人年金課の意見も聞きつつ研究メンバーで行った。
結果と考察
 研究結果は、次のとおり。(1)中小中堅企業へのアンケートでは、退職給付の実施率低下は近年設立された企業で実施率が低いことの影響を受けている、と推察された。また、退職給付の実施/非実施は、非正規採用を重視する企業は一時金のみ・社外退職金あり、設立年が新しい企業は企業年金(確定給付)なし、勤続が短い正社員の退社が多い企業は退職給付なし、などの傾向が見られたが、解釈困難な結果もあった。(2)上場企業へのアンケートでは、退職金制度の実施には従業員の長期勤続と人件費抑制を重要と考える企業が正で有意であった。財務上の課題に関係する変数等は何れも有意ではなかった。DBの実施には、女性比率と正社員年間退職率が負で有意、60歳定年とS字カーブが正で有意であった。(3)個人へのアンケートでは、税制知識は一般の証券口座以外の口座の保有にプラスに有意、金融リテラシーはNISA口座の保有と証券口座の保有ではプラスに有意だが個人年金保険の保有とはマイナスに有意。金融リテラシーは、税制知識をコントロールすると各種口座の保有への有意な影響は見られなかった。(4)米国の有識者から次の情報を得た。確定拠出年金(DC)は増加したが、新規加入は多くない。自動加入や自動拠出引上げの効果に結論をだすのは時期尚早である。中小企業では、州が制度設計と事務負担を行うオレゴン州の自動IRAが注目されるが、加入が進んでも拠出率が低ければ導入の効果は限定的である。受給方法も大きな課題であり、70歳以上の半分程度が最小限の取り崩ししか行わない一方で、平均余命を理解せず早く取り崩す人もいる。
結論
 結論や示唆は、次のとおり。(1)中小中堅企業では、近年設立された企業で退職給付の情報が不足する企業に対しては情報提供が必要といえよう。ただし、退職給付制度は基本的に労使合意に基づく制度である可能性について、留意が必要である。なお、当調査は政府調査より退職給付の実施率が高く、分析結果等が当調査の標本内での傾向であることには、十分な留意が必要である。(2)上場企業では、DBのある企業は日本企業的な特徴を持つ企業であり、DBには長期勤続を促す効果や自社にあった従業員を確保する効果があると考えている企業であった。DCは、従業員の長期勤続より多様性を重視する企業で導入する傾向が見られた。DBと実物資産等への投資との関係については、積立不足解消よりも設備投資等の実物資産投資を優先する傾向が見られた。なお、以上はサンプル数が限られ、単純な分析方法を利用した結果であり、追加的な確認が必要である。(3)税制リテラシーとの金融商品保有の関係は、①税制優遇の知識が税制優遇のある商品の保有に有意に影響を与えている可能性がある、②税制優遇の知識を少しでも持っていると考えられる人の割合は25%程度しかない、③税制優遇の知識をコントロールすると金融リテラシーは金融商品保有に有意な影響がない、④税制優遇に関する画像を見せると、金融リテラシーが高い人ほど金融商品購入意向が高まる傾向。(4)中小企業の退職給付では、事業主の負担を考慮して州が主体となった自動加入制度の成果が注目されている。また、積み立てた老後資産の取り崩しが課題になっている。終身年金、据置年金、公的年金の繰下げ受給との組合せなどの選択肢が用意されているが、長寿リスクに対する個人の理解が十分でないなどの課題を有している。

公開日・更新日

公開日
2019-11-26
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2019-11-26
更新日
2020-11-02

研究報告書(紙媒体)

収支報告書

文献番号
201801003Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
2,328,000円
(2)補助金確定額
2,328,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 406,420円
人件費・謝金 0円
旅費 0円
その他 1,921,580円
間接経費 0円
合計 2,328,000円

備考

備考
-

公開日・更新日

公開日
2021-07-09
更新日
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