文献情報
文献番号
201801001A
報告書区分
総括
研究課題名
真のエイジング・イン・プレイス実現に向けた包括的実証研究
課題番号
H28-政策-一般-003
研究年度
平成30(2018)年度
研究代表者(所属機関)
田宮 菜奈子(国立大学法人筑波大学 医学医療系ヘルスサービスリサーチ分野 / ヘルスサービス開発研究センター)
研究分担者(所属機関)
- 高橋 秀人(国立保健医療科学院)
- 野口 晴子(早稲田大学 政治経済学術院)
- 柏木 聖代(東京医科歯科大学 大学院保健衛生学研究科)
- 松田 智行(茨城県立医療大学 保健医療学部理学療法学科)
- 植嶋 大晃(筑波大学 ヘルスサービス開発研究センター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 行政政策研究分野 政策科学総合研究(政策科学推進研究)
研究開始年度
平成28(2016)年度
研究終了予定年度
平成30(2018)年度
研究費
1,900,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
要介護高齢者が長く在宅で過ごすことは地域包括ケアの中核であるが、そのためには適切な医療および介護サービス、そして家族・地域の三者のバランスが重要である。単に在宅を強いるのではなく、本人、家族そして地域の選択を尊重した真のエイジングインプレイスを目指すことが重要である。我々はこれまでの研究で、全国介護レセプトを用いた独自の指標として、一定期間において対象者が在宅で生活した全ての日数である在宅日数を算出し、在宅日数は地域間に違いがあることを明らかにした。しかし、その要因までは明らかになっていない。そこで本研究では、地域差に焦点を当てて在宅期間の促進要因や阻害要因を同定することを目的とする。また、地域の介護力および介護負担については、国民生活基礎調査等を用いて、全国における実態およびその関連要因を明らかにする。これらの結果に加え、モデル地域のレセプトや、茨城県つくば市における調査、事例検討会の記録の集計結果を用いた研究から、在宅生活の限界点を引き上げるための具体的政策課題を市町村と連携して明らかにする。
研究方法
今年度は以下の分析を実施した。 (1) 全国介護レセプトを用いて、個人を単位として地域要因を含めたマルチレベル分析により、重度要介護者における介護保険サービス利用と在宅生活継続との関連を検討した。(2) 全国介護レセプトを用いて、在宅日数の地域差に着目し、地域を単位としたエコロジカル・スタディにより、在宅生活継続と地域特性の関連を検討した。(3) 国民生活基礎調査を用いた個人単位の分析により、長時間介護と介護受けている動作の関連を検討した。(4) モデル地域のレセプトを用いた分析により、重度要介護高齢者における訪問診療および往診の利用と在宅生活継続の関連を検討した。(5) つくば市のアンケート調査を用いて、緊急ショートステイサービスの整備による介護費用抑制を試算した。(6) つくば市のアンケート調査を用いて、高齢者における通院中の医療機関数と多剤併用の関連を検討した。(7) チリにおける全国規模の調査を二次利用して、家族介護者への社会的支援と抑うつ症状の関連の検討した。(8) つくば市事例検討会を用いた分析では、事例提供者への様式の記載方法の整理を行った。
結果と考察
(1) では、自宅での各種介護保険サービスの利用が在宅生活継続に関連する可能性が示唆された。(2) では、公民館数、往診を実施する一般診療所数をはじめとする種々の市区町村の特性が従属変数と関連したことから、住民の交流の場を整備し、一般診療所に往診の実施を促すような政策が、在宅生活継続に有効である可能性が考えられた。(3) では、身体清拭および排泄の介護は、それらの介護を主介護者と事業者の双方が行っていた場合も、主介護者の1日の介護時間がほとんど終日である可能性が高かった。従って、主介護者が身体清拭や排泄の介護を行っている場合、介護事業者は主介護者の介護負担を考慮して対応することが望ましいと考えられた。また、通所介護サービスや、短期入所サービスといった、レスパイトケアを目的としたサービス利用を提案する必要もある。 (4) では、訪問診療の利用が在宅生活継続と有意な関連を認めたが、往診の利用は在宅生活継続との有意な関連を認められなかった。今後は、往診サービスを利用した者に対して、医学的なニーズに応じて適切な管理が行われているかどうかを検証する必要があると考えられた。(5) では、緊急ショートステイサービスの整備により抑制される介護費用は、つくば市の1年間の介護費用の4.0%~12.9% に相当した。介護費用の適正化や、在宅生活を望む高齢者の希望を実現するためにも、緊急時に提供できるサービスの整備が求められると考えられた。(6) では、同じ疾患数であっても、より多くの病院に通院している人は多剤併用のリスクが高い可能性が示唆された。(7)から、家族介護者が高い社会的支援を受けている場合、抑うつ症状である可能性が低いことが明らかになった。(8) からは、地域ケア個別会議における困難事例の問題点の類型化と実施について、個別事例の問題点をキーワード化し蓄積することにより、地域課題が明らかになることが期待された。また具体的な政策への反映として、(5) における緊急ショートステイサービスの整備による介護費用抑制の試算結果を受けて、つくば市のモデル事業としてショートステイの空床を知らせるシステムを展開している。
結論
本研究において得られた種々の結果は、医療、介護、住まい、地域といった、地域包括ケアシステムにおける様々な側面から在宅生活継続のための政策立案に貢献しうるものであると考えられた。
公開日・更新日
公開日
2019-11-26
更新日
-