医療用具・医用材料の有効性・安全性・品質評価に関する研究

文献情報

文献番号
199800653A
報告書区分
総括
研究課題名
医療用具・医用材料の有効性・安全性・品質評価に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成10(1998)年度
研究代表者(所属機関)
土屋 利江(国立医薬品食品衛生研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 土屋利江(国立医薬品食品衛生研究所)
  • 中村晃忠(国立医薬品食品衛生研究所)
  • 配島由二(国立医薬品食品衛生研究所)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 医薬安全総合研究事業
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
-
研究費
7,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
医療用具・医療材料の有効性・安全性・品質評価に関して、多面的な研究が必要である。緊急性の特に高い三つのサブテーマについて四つの目的で研究を行った。第1の目的は、ポリウレタンのソフトセグメントを耐生分解性のアルキレン基を使用したもの、およびカチオン性基で置換したポリウレタン材料を調製し、発癌性に関するin vitro評価を行い、新しいタイプの低発癌性で生体適合性の良いポリウレタン材料の候補を見出す事である。第2の目的は、これまでの研究から、発癌プロモーター活性がないと期待される硫酸化ポリウレタンの発癌性を動物実験で検証するために、硫酸化の置換率の異なるポリウレタンの合成法を検討することである。第3の目的は、ヒトおよび動物の組織・細胞を利用した医療技術全般に共通する原則とその有効性、安全性、品質保持のための課題を整理し、提言を行うことである。第4の目的は、近年急速に進展してきた組織工学を利用した医療技術の発展に寄与することを目的とし、各種天然医用材料の生体影響、特に、発熱を惹起する要因とそのメカニズムの解明を試みることである。平成10年度は、ラテックス製医療用具により惹起される発熱と代表的な発熱性物質であるエンドトキシンとの相関性について、化学的・生物学的方法により検討する。
研究方法
第1の方法は、ポリエーテル型ポリウレタンであるペレセン、ポリアルキレン型ポリウレタン2種、およびカチオン性ポリエーテル型ポリウレタンについて、V79代謝協同阻害試験を用いて、ギャップ結合細胞間連絡阻害活性すなわち発癌プロモーター活性の有無について試験した。第2の方法は、ポリエーテル型ポリウレタンのウレタン結合のプロトンにプロパンスルトンを置換する方法で、置換率の異なる硫酸化ポリウレタンを合成する方法を用いた。第3の方法は、WG1、WG2、WG3の3つのワーキンググループをつくり、課題についてまとめる方法を採用した。WG1:ヒト組織の採取、管理、利用の原則とGood Tissue Practice(GTP)について、WG2:人工皮膚ガイドラインについて、WG3:異種動物組織利用原則についてである。3月、4月に全体会議を開きまとめを行う。当班ホームページ(http://hayato.med.osaka-u.ac.jp/index/societies-j/tissue.htmlに議事録を適宜掲載して情報の流通をはかる。第4の方法は、ラテックス製手術用手袋およびカテーテルについて、ウサギによる発熱性試験、化学分析(脂肪酸分析、2-ケト-3-デオキシオクトン酸分析)エンドトキシン、β-グルカンおよびペプチドグルカンの定量、炎症性サイトカイン産生誘導活性を測定し、発熱と化学分析、生物活性との関係を明らかにした。また、エンドトキシンインヒビターおよび炎症性サイトカイン産生阻害剤を用いて、その抑制効果を確認した。
結果と考察
第1の研究は、ポリエーテル型ポリウレタンは、ギャップ結合細胞間連絡阻害活性陽性を示し、ポリアルキレン型ポリウレタンは、疑陽性であった。カチオン性ポリエーテル型ポリウレタンは、陰性であった。細胞毒性は、ポリエーテル型ポリウレタンが最も弱く、ポリアルキレン型ポリウレタンおよびカチオン性ポリウレタンは強い細胞毒性があることを明らかにした。ポリエーテル型ポリウレタンは、エーテル結合を含むポリオール部分で酸化による分子鎖の切断による生体内劣化がおきる。エーテル結合を含まないポリウレタン2種は、細胞間連絡阻害活性は、擬陽性であり、ポリエーテル型ポリウレタンに比べ、発癌プロモーター活性は低いと考えられる。4級窒素陽イオン基が架橋剤として使用されたカチオン化ポリエーテル
ポリウレタンでは、細胞間連絡阻害活性が陰性であった。細胞の形態から判断すると、培地に含まれる血清由来の細胞接着性蛋白が、カチオン性ポリマー上に効率良く吸着し、その結果、細胞間連絡機能が抑制されなかった可能性が考えられる。しかし、カチオン性ポリマー濃度をあげると細胞毒性が現れる事から、強い陽荷電は、陰性に荷電した細胞膜との強い相互作用の結果、細胞膜の破壊等による細胞毒性がでてくるものと考えられる。従って、適度に調製されたカチオン化ポリウレタンは細胞間連絡機能の維持には、効果があることが明らかになった。ポリアルキレン型ポリウレタンは耐久性の高いポリウレタンとしての使用、例えば、リード線の被覆材料として使用できる可能性がある。カチオン化ポリウレタンは、薄いコーテイング材料として使用する方法もあるが、生体内での劣化に関しては、エーテル結合型であることから、長期の耐久性は望めない。第2の研究は、ポリエーテル型ポリウレタンのウレタン結合部位のNに、47%、19%および9%の予測した置換率でプロパンスルホン酸基を置換する事ができた。ポリウレタンはポリエーテル型であるが、ウレタン結合に隣接したメチレン基が最も生体内で酸化されやすいと考えられているが、陰イオン性のプロパンスルホン酸基をウレタン結合部位に導入することにより、そのような酸化分解が抑制される事が期待される。また、ポリウレタンの硫酸化率と血小板の粘着量とは、逆相関し、硫酸化率が高い程、抗血栓性も優れていることが報告されている。合成した硫酸化ポリウレタンでの低発癌性を動物実験で検証できれば、生体適合性に優れたポリウレタン材料用具の開発および市場化を促進し、国民に安全な医療用具を普及できる。
第3の研究は、WG1では、ヒト組織細胞利用に関する規制枠組みとその原則についてまとめた。WG2では、基本要件を踏まえて、人工皮膚に関する個別ガイドラインを検討した。現在は、項目出しを終了した段階で、詳細は今後の検討に委ねることとした。WG3では、異種動物由来細胞組織または、臓器を利用した医療用具の安全性確保のガイドラインを検討した。今後、移植学会異種移植WGと早川班から提出されるガイドラインとの整合性をとりつつ、本ガイドライン案の改良を進めていく必要がある。先端的分野の専門家および細胞バンク事業関係者、倫理問題に関心を持ち続けてきた専門家、感染症に関する専門家などによる熱心な討議の結果、一定の枠組み(案)を提出することができた。
第4の研究は、エンドトキシンに普遍的に存在する成分である2-ケト-3-デオキシオクトン酸と3-ヒドロキシ脂肪酸が、ラテックス手袋およびカテーテル試料中に存在する事をGC-MSで確認した。ラテックス製品抽出液は、ウサギでの発熱性物質試験陽性であり、2.34ng/mlから72.7ng/mlのエンドトキシンに相当する発熱性物質が含まれている事が明らかになった。発熱陽性のラテックス製品抽出液では、炎症性サイトカインであるIL-1、IL-6およびTNFのマクロファージからの産生が誘導された。また、同抽出液をエンドトキシン吸着除去カラムで処理すると、サイトカイン産生誘導活性および発熱活性が消失する事も確認し、ラテックス製品中に存在する発熱性物質がエンドトキシンである事を明確に示した。発熱陽性のラテックス製手袋の中には、マクロファージに対するIL-6産生誘導活性が各種エンドトキシンインヒビターにより、完全には抑制されなかったので、インヒビターの効果が手袋中に混在する物質により抑制された可能性とエンドトキシン以外の発熱性物質も存在している可能性もある。また、ラテックス製手袋に含まれるエンドトキシンが、直接、接触皮膚炎を惹起するという報告、ラテックスアレルゲンによる即時型アレルギーおよび化学物質による遅延型アレルギー反応の増強に関与している事を示唆する報告もあり、医療用具の発熱性物質汚染による不具合は、発熱のみならず、ラテックスアレルギーの発症や、症状の進展などに関与していることが考えられた。
結論
典型的なポリウレタンであるポリエーテル型ポリウレタンのソフトセグメントや架橋剤をポリアルキレンや、陽イオンで置換することにより、細胞間連絡阻害活性が消失することが明らかになった。しかし、これらの新置換材料は、原材料に比べ細胞毒性は強くなることを明らかにした。低発癌性と抗血栓性が優れていると期待される硫酸化ポリウレタンについて、合成法を検討した結果、種々の置換率でプロパンスルホン酸基をウレタン結合窒素に導入する事に成功した。ヒトおよび動物の組織・細胞を利用した医療技術全般に共通する原則とその有効性、安全性、品質保持のための課題を整理し、提案を行った。
天然由来医用材料の安全性を調査する第1アプローチとして、ラテックス製医療用具の使用により惹起される発熱の要因とメカニズムの解明をおこない、製品により惹起される発熱は、汚染したエンドトキシンに由来することを明らかにした。

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