新医薬品に用いる品質評価技術を高度化するための調査及び研究

文献情報

文献番号
199800652A
報告書区分
総括
研究課題名
新医薬品に用いる品質評価技術を高度化するための調査及び研究
課題番号
-
研究年度
平成10(1998)年度
研究代表者(所属機関)
棚元 憲一(国立医薬品食品衛生研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 石橋無味雄(国立医薬品食品衛生研究所)
  • 谷本剛(国立医薬品食品衛生研究所)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 医薬安全総合研究事業
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
平成12(2000)年度
研究費
3,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
治験や基礎研究において有効性と安全性が確認され、医薬品として製造(輸入)承認された物質や最終製剤は、その有効性と安全性を確認した物質や最終製剤と同一の性状と品質をもつものを、医薬品として継続的に国民(患者等)に供給されなければならない。このため医薬品の性状と品質の確保を行う方法は極めて重要なことである。
この医薬品の性状と品質の確保は、二つの方法で行われている。一つは、中央薬事審議会における審議と、それにより決定される性状及び品質に関する規格によるものである。他の一つは、品質規格として設定されている「規格及び試験方法」が、実際に実施できる規格と試験方法であるか否かを、試料に対し、実際に試験を実施して確認する特別審査試験である。この特別審査試験は、医薬品製造(輸入)承認申請書の「規格及び試験方法」欄に記載された試験方法の適否について検討するもので、医薬品の有効性と安全性を担保する唯一手段である。それゆえ、試験方法は正確さや再現性に優れた方法でなければならない。しかし、近年の医薬品の製造には最先端かつ革新的な科学技術が用いられ、そのため高度で複雑な分析法や製剤試験が必要になっている。本研究はこれら先端技術応用医薬品等の評価技術を開発することを目的に、製剤機能試験法の開発、製剤中に含まれる不純物の分析技術の開発評価等を行い、医薬品の有効性及び安全性の確保をより確実にすることにより国民の福祉の増進に寄与しようとするものである。
平成10年度は1)残留溶媒試験法の開発、2)エンドトキシン試験法の正しい評価と改良法の検討、3)バイオハイブリッド化技術によるタンパク性の新医薬品の品質評価と評価技術の確立を目的として以下の研究を行った。
研究方法
1)残留溶媒試験法の開発:米国薬局方(USP)及びヨーロッパ薬局方(EP)と調和した試験法として、ガスクロマトグラフ法を用いた試験法を開発することとした。対象溶媒を、ICHにおいて定められた「医薬品の製造において使用を避けるべき溶媒」、「残留量を規制すべき溶媒」の計31種とした。これらの一斉分析が可能なガスクロマトグラフ条件を決定した。2)エンドトキシン試験法の正しい評価と改良法の検討:化学合成活性型のリピドAとして E. coli 型 (506)、Salmonella 型 (516)、前駆体構造 (406)、部分サクシニル化リピドA類縁体、モノサッカライドリピドAを、また天然LPSは菌体より定法で得た。リピドAの化学修飾体としてサクシニル化、アセチル化、脱O-アシル化リピドA類縁体を用いた。リムルス活性は定量的なリムルス測定試薬(Endospecy; 生化学工業)を用い、合成基質から遊離する p-nitroanilineの発色により測定した。リムルス活性以外のエンドトキシン活性としてマウス(BALB/C)腹腔マクロファージもしくはJ774.1細胞、ヒト由来 THP-1、及びU937細胞から上清中に遊離される TNF-a産生活性、ウサギを用いた発熱活性、マウス脾臓細胞のマイトジェン活性、D-galactosamine感作によるマウス致死毒性のアッセイ系でエンドトキシン活性を測定した。3)バイオハイブリッド化技術で製されるタンパク性新医薬品の品質評価と評価技術の確立:バイオハイブリッド化技術を応用した改変タンパク質の製造例を文献的に調査し、医薬品として承認された事例についてその品質評価法を検証した。また、ジノスタチンスチマラマー(ZSS)、組織プラスミノーゲンアクチベーター(tPA)を例にして、それらのハイブリッド化により獲得される機能の評価法を実験的に検証した。
結果と考察
1)残留溶媒試験法の開発:試料及び標準品(基準物質)採取量、試料溶液及び標準溶液の調製方法、ガスクロマトグラフへの注入量、内標準溶液の調製方法、ヘッドスペース試料導入装置の操作条件、ガスクロマトグラフの操作条件(検出器、カラム、カラム温度、注入口温度、検出器温度、キャリヤーガス、キャリヤーガス流量、スプリット比等)及びシステム適合性(システムの性能及びシステムの再現性)等を検討し、「残留溶媒試験法」及び「医薬品の残留溶媒ガイドライン,残留溶媒試験法及び医薬品各条記載例」を開発した。開発した試験法は薬局方案となり、日本薬局方フォーラムに掲載された。2)エンドトキシン試験法の正しい評価と改良法の検討:化学合成品リピドA類縁体化合物中に、完全に無毒性であるにもかかわらず、強力なリムルス活性を示す物質が存在することを見出した。さらに天然LPSの中に、リムルス反応は非常に弱いが、ヒト細胞に強力な作用を示す物質が存在した。またリムルス活性をはじめ、マウスの系でも強力な活性を示すにもかかわらず、ヒト細胞に対してはまったく活性を示さない幾つかの化合物を見出した。以上の結果、高等動物の生体細胞上のエンドトキシンの認識分子と、リムルス反応のエンドトキシン認識分子であるカブトガニの凝固因子のエンドトキシン認識構造・認識機構に大きな差があることが明らかになり、リムルス反応のみでエンドトキシンの管理を行うことの危険性を示唆した。3)バイオハイブリッド化技術によるタンパク性の新医薬品の品質評価と評価技術の確立:ハイブリッド化技術によるタンパク性医薬品の創製は、タンパク質の性状や機能の改変、改善を目的としたものであることから、その品質評価には従来とは異なった新たな視点の導入が必要となる。ジノスタチンスチマラマー(ZSS)の様な比較的低分子量(約15kD)物質は、ハイブリッド化部位も明確に同定されていることから、獲得した抗腫瘍活性の増強や腫瘍組織への集積性などの薬剤特性は分子量サイズの確認、ハイブリッド化剤の導入比、ハイブリッド化部位の同定、タンパク質、クロモフォア、ハイブリッド化剤の構
成比、などの構造的特性を厳格に規定し、試験できれば担保できると考えられる。しかし、PEG-tPAのような高分子物質で、導入されたハイブリッド化剤の分子数が多い場合には構造的特性の厳格な規格化や試験法の設定は困難で、生物学的方法による機能的特性の試験がその品質評価に必要となると考えられる。
結論
「残留溶媒試験法」及び「医薬品の残留溶媒ガイドライン,残留溶媒試験法及び医薬品各条記載例」を開発した。開発した試験法は薬局方案となり、日本薬局方フォーラムに掲載及び関係業界に内示された。リムルス試験がヒトに対するエンドトキシンの作用を的確に反映しているかどうかの検証を行った結果、高等動物の生体細胞上のエンドトキシンの認識分子と、リムルス反応のエンドトキシン認識分子であるカブトガニの凝固因子のエンドトキシン認識構造・認識機構に大きな差があることを見出し、リムルス反応のみでエンドトキシンの管理を行うことの危険性を示唆した。酵素やホルモンなどのタンパク質性医薬品の性状や機能を先端技術の応用で改変したハイブリッド化医薬品はその改変目的に応じて,新たに付与された性質あるいは機能を評価する必要があり,そのための必要評価項目並びにそれらに対する可能な評価技術について調査した。また,血中動態の改善を目的としたハイブリッド化医薬品の品質評価法としての単離肝細胞培養系による試験法の有用性を検証した。

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