メタボロミクスを用いた膀胱発がん性芳香族アミン化合物の活性代謝物の解明

文献情報

文献番号
201725023A
報告書区分
総括
研究課題名
メタボロミクスを用いた膀胱発がん性芳香族アミン化合物の活性代謝物の解明
課題番号
H28-化学-若手-006
研究年度
平成29(2017)年度
研究代表者(所属機関)
三好 規之(静岡県立大学大学院 薬食生命科学総合学府)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 化学物質リスク研究
研究開始年度
平成28(2016)年度
研究終了予定年度
平成30(2018)年度
研究費
1,340,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
 近年、国内の事業場から、従業員に膀胱がんが高頻度に発症している状況について報告があった。膀胱がんを発症した労働者は、染料や顔料の製造過程で使用する中間体物質を扱う作業に従事しており、長期間・高濃度に芳香族アミン類に曝露されてきた職業性被ばくが指摘されている。芳香族アミンのうち発がんとの関連が最もよく研究されているo‐トルイジンは、国際がん研究機関(IARC)が「ヒトに対して発がん性が認められるGroup 1」に分類する発がん物質である。o‐トルイジンは、様々な遺伝毒性試験で陽性を示す一方で、変異原性試験での陽性反応には代謝活性化を必要とするため、o‐トルイジンの発がんメカニズムには、生体内で生成される活性代謝物に起因するDNA損傷(DNA付加体形成)が関与していることが示唆されているが、その詳細は不明である。本研究では、代謝活性化を必要とする芳香族アミン発がん物質への曝露に対する精度の高いリスク評価システムの開発を行うことで、職業性被ばくの原因究明と健康障害防止に貢献する。
研究方法
 昨年度に引き続き、o‐トルイジンとS-9 mixの試験管内反応で調製した反応液中の代謝物についてLC-MS分析を行った。得られたMSイオンデータの解析よりS-9 mixとの反応で特異的に生成したo‐トルイジン代謝物を探索した。DNAアダクトーム解析については、o‐トルイジンあるいはS-9 mixで代謝させた o‐トルイジンとcalf thymus DNAとの試験管内反応で生成するDNA付加体についてLC-MS分析を行った。測定モードはSRMモードでm/z [M+H]+ (228~727)/ [M-116+H]+をモニターした。
結果と考察
 LC-MSによる代謝物分析においては、①o-Tolのみ、②o-Tol+S9 mix、③S9 mixのみの計3群(各群n=3)で分析行い、複数のピークが②のo-Tol+S9 mixで特異的な化合物(代謝物)として検出された。特に、保持時間1.5分~4分付近に検出された複数のピークは質量電荷比がm/z 213.14~249.13であり、o-Tol(m/z 108.10)の二量体化あるいはその酸化物であることが予想された。特にピーク6(RT=3.1分)の質量電荷比はm/z 213.1400であり、その精密質量から組成式をC14H16N2と予測し、データベース検索より、3,3’-ジメチルベンジジン(DMB)であると予想した。それゆえ、DMBの標準品を用い分析したころ、DMBはピーク6よりも早くに溶出されるRT=1.5分のピークと保持時間および精密質量が一致した。このことから、o-TolはS-9 mixによってDMBに代謝変換されており、DMBの定量解析より0.1%が変換されていることが示唆された。
 Calf thymus DNAを用いた試験管内反応から調製した試料のDNAアダクトーム解析を行ったところ、S9 mixで代謝させたo-Tolを曝露したcalf thymus DNAにおいて、予想されている付加体であるo-tol-C8-dG(RT=9.0分、m/z373.2 > 257.2)は検出限界以下であった。しかし、構造不明の複数の修飾ヌクレオシドがS9 mixで代謝させたo-Tolを曝露したcalf thymus DNA試料から検出された。その中でも特に、o-TolのS-9 mix代謝によって生成するDMBが1分子dGに付加したdG-DMBの質量電荷比に相当するm/z 478.2>362.2が、S9 mixで代謝させたo-Tolを曝露したcalf thymus DNA試料で顕著な増加を示した。
 代謝物分析で検出されたDMBはIARC monographsでgroup 2Bに分類されている化合物である(1987, 29, Sup 7)。一方、メチル基を有さないベンジジン(BZ)はgroup 1に分類されている化合物であり、ヒトに膀胱発がんを引き起こす発がん物質である。DMBの発がん性に関するin vivo試験では、F344ラットに14ヶ月、飲水投与(0, 30, 70, 150 ppm)した結果、F344ラットの性別によらず、肝臓、肺、小腸、大腸などで悪性腫瘍が形成されるなど、DMBが強い発がん性を示すことが報告されている(National Toxicology Program (NTP), 1991)。DMB以外の他の代謝物についても引き続き詳細な検討を進める必要がある。
結論
 o-Tolの活性代謝物によるDNA付加体形成に寄与する代謝物として、DMBを同定した。o-Tol以外の芳香族アミン化合物について、同様の代謝物およびDNA付加体を生成するか、引き続き検討を進める。

公開日・更新日

公開日
2018-05-07
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

収支報告書

文献番号
201725023Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
1,420,000円
(2)補助金確定額
1,420,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 1,337,134円
人件費・謝金 0円
旅費 2,866円
その他 0円
間接経費 80,000円
合計 1,420,000円

備考

備考
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公開日・更新日

公開日
2018-05-07
更新日
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