文献情報
文献番号
201725019A
報告書区分
総括
研究課題名
人工芝グラウンド用ゴムチップの健康リスク評価に関する研究
課題番号
H29-化学-指定-001
研究年度
平成29(2017)年度
研究代表者(所属機関)
五十嵐 良明(国立医薬品食品衛生研究所 生活衛生化学部)
研究分担者(所属機関)
- 河上 強志(国立医薬品食品衛生研究所 生活衛生化学部)
- 酒井 信夫(国立医薬品食品衛生研究所 生活衛生化学部)
- 久保田 領志(国立医薬品食品衛生研究所 生活衛生化学部)
- 井上 薫(国立医薬品食品衛生研究所 安全性予測評価部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 化学物質リスク研究
研究開始年度
平成29(2017)年度
研究終了予定年度
平成30(2018)年度
研究費
14,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
米国では人工芝グラウンドを使うサッカー選手に血液性のがんが多く、グラウンドのゴムチップとの関係が疑われていた。米国環境保護庁等はゴムチップの安全性について調査研究を開始し、我が国においてもゴムチップの健康影響を早急に評価することが求められた。平成28年度厚生労働科学特別研究事業では、ゴムチップに含有される化学物質の濃度や発がん性を主とした有害性を明らかにした。本研究はこの先行研究の成果をもとに、人工芝用ゴムチップ関連物質の各経路の曝露量を推定し、それらの有害性/許容値情報と比較して健康リスクを評価することを目的とした。
研究方法
諸外国の報告及び先行研究の結果をもとに評価対象化合物を選定した。人工芝グラウンド大気中の揮発性有機化合物(VOCs)の測定方法(サンプリング法及び分析法)を構築し、曝露評価に向けた予備調査として、1か所の人工芝グラウンド大気を分析した。先に入手したゴムチップのうち有害金属類が高濃度検出されたものに対し人工胃液による溶出試験を行った。ゴム添加剤及び多環芳香族炭化水素(PAHs)等の準揮発性有機化合物(SVOCs)については、溶出試験の溶出液からの各化合物の抽出法について検討した。また、VOCsの予備調査を行った人工芝グラウンドからゴムチップを採取し、それらに含まれるSVOCsと金属類を分析した。人工芝グラウンドに検出される可能性があり、発がん性に関して懸念ありと判断された37物質の耐容一日摂取量等を調査した。人工芝グラウンド上における曝露シナリオ及び曝露量推定法について情報収集し、PAHsの一部について暫定リスク評価を行った。
結果と考察
VOCsとして53化合物を選定し、それらの物性によりサンプリング法及び分析法を分類して6種の測定方法を構築した。本方法を用いて、人工芝グラウンド1か所の大気をサンプリングしVOCs濃度を測定した結果、適切に分析できることがわかった。今回の冬季調査では、健康リスクが懸念される化合物(ベンゼン、1,3-ブタジエン、ホルムアルデヒド等)は検出限界以下、もしくは人工芝グラウンド外の大気との間に差は認められなかった。グラウンド内の各地点でVOCs濃度に大きな差は認められなかった。
有害金属類が高濃度検出されたゴムチップについて溶出試験を実施したが、その溶出量は土壌含有量基準を大きく下回った。人工芝グラウンドから採取したゴムチップ中の金属類を分析したところ17元素が検出された。ゴム添加剤等42化合物、並びにPAHs類32化合物の計74種類のSVOCsを測定対象化合物として、人工芝グラウンドから採取したゴムチップ試料を分析し、ゴム添加剤等16化合物、PAHs及びその類縁化合物31化合物が検出された。グラウンドの各地点から採取したゴムチップ及びそれらを混合した試料の間で、金属類及びSVOCsの濃度にはほとんどの差がなかった。溶出試験を想定した溶液からのSVOCsの分析法を検討し、ゴム添加剤等ではC18固相カラムを用いた固相抽出、PAHs及びその類縁化合物ではヘキサンによる液々抽出を用いることで、ほとんどの対象化合物について抽出が可能となる方法を開発できた。
「発がん性の懸念あり」と判断された37物質の耐容一日摂取量等を調査した結果、31物質について、産業衛生上の許容濃度や反復毒性試験の参照用量等の情報を得ることができた。各国における曝露シナリオや曝露量の推定法の具体的方法について情報を得た。暫定的に、ゴムチップ中のPAHs 16化合物の濃度を利用し、大人の経皮曝露を想定した曝露量の推定と発がんリスク評価を実施した。ピレン以外のPAHsの曝露推定量はノルウェーによるPAHsの経皮推定曝露量より低値であり、各物質の発がんリスクは10^{-5}より十分に低かった。
有害金属類が高濃度検出されたゴムチップについて溶出試験を実施したが、その溶出量は土壌含有量基準を大きく下回った。人工芝グラウンドから採取したゴムチップ中の金属類を分析したところ17元素が検出された。ゴム添加剤等42化合物、並びにPAHs類32化合物の計74種類のSVOCsを測定対象化合物として、人工芝グラウンドから採取したゴムチップ試料を分析し、ゴム添加剤等16化合物、PAHs及びその類縁化合物31化合物が検出された。グラウンドの各地点から採取したゴムチップ及びそれらを混合した試料の間で、金属類及びSVOCsの濃度にはほとんどの差がなかった。溶出試験を想定した溶液からのSVOCsの分析法を検討し、ゴム添加剤等ではC18固相カラムを用いた固相抽出、PAHs及びその類縁化合物ではヘキサンによる液々抽出を用いることで、ほとんどの対象化合物について抽出が可能となる方法を開発できた。
「発がん性の懸念あり」と判断された37物質の耐容一日摂取量等を調査した結果、31物質について、産業衛生上の許容濃度や反復毒性試験の参照用量等の情報を得ることができた。各国における曝露シナリオや曝露量の推定法の具体的方法について情報を得た。暫定的に、ゴムチップ中のPAHs 16化合物の濃度を利用し、大人の経皮曝露を想定した曝露量の推定と発がんリスク評価を実施した。ピレン以外のPAHsの曝露推定量はノルウェーによるPAHsの経皮推定曝露量より低値であり、各物質の発がんリスクは10^{-5}より十分に低かった。
結論
人工芝グラウンド用ゴムチップ中の化学物質の健康リスクを評価することを目的として、それらの曝露評価に資する測定方法について検討するとともに、耐容一日摂取量等の許容値、曝露シナリオや曝露量の推定方法について情報を得た。VOCsについてはグラウンド上の大気サンプリング方法及び測定方法を構築し、予備的フィールド調査も実施した。溶出試験の条件についてはさらに検討が必要であるが、今回の条件での金属類の溶出量は土壌含有量基準を大きく下回った。ゴム添加剤は溶出液から固相抽出で、PAHsはヘキサン抽出して溶出量を把握する条件を確立した。以上、今後実施する人工芝ゴムチップ関連化学物質の曝露量の推定及びリスク評価を実施するための環境を整えることができた。
公開日・更新日
公開日
2018-07-30
更新日
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