文献情報
文献番号
201725017A
報告書区分
総括
研究課題名
ナノマテリアル曝露による慢性及び遅発毒性評価手法の開発に関する研究
課題番号
H27-化学-指定-004
研究年度
平成29(2017)年度
研究代表者(所属機関)
広瀬 明彦(国立医薬品食品衛生研究所 安全性生物試験研究センター 安全性予測評価部)
研究分担者(所属機関)
- 高橋 祐次(国立医薬品食品衛生研究所 安全性生物試験研究センター 毒性部)
- 津田 洋幸(名古屋市立大学 津田特任教授研究室)
- 本間 正充(国立医薬品食品衛生研究所 安全性生物試験研究センター 変異遺伝部)
- 渡辺 渡(九州保健福祉大学大学院 医療薬学研究科)
- 石丸 直澄(徳島大学大学院 医歯薬学研究部)
- 小林 憲弘(国立医薬品食品衛生研究所 生活衛生化学部)
- 最上 知子(国立医薬品食品衛生研究所 生化学部)
- 菅野 純(国立医薬品食品衛生研究所 安全性生物試験研究センター 安全性予測評価部)
- 北條 幹(東京都健康安全研究センター 薬事環境科学部 生体影響研究科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 化学物質リスク研究
研究開始年度
平成27(2015)年度
研究終了予定年度
平成29(2017)年度
研究費
32,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
本研究では、これまでにカーボンナノチューブを中心に確立してきた慢性影響や免疫影響、発生影響について、試験系の開発に必要なメカニズム研究を進めると共に、成分や形状の異なった検体を用いた研究を行うことで、より一般化したナノマテリアルに対する分散処理技術としてのTaquann法の応用可能性を検証すること、投与検体の前処理等による分散性の違いが有害性反応に及ぼす影響を検討することを目的としている。
研究方法
H29年度は、慢性影響に関する研究に関して、Taquann法で分散したチタン酸カリウムと繊維長の異なる3種類(平均1、7、15 μm)の二層ナノチューブ(DWCNT)の長期試験を開始すると共に、MWNT-7の前処理の違いによる腹腔内投与慢性実験、MWNT-7によるin vivo肺小核試験の確認試験を行った。免疫影響に関する研究に関しては、チタン酸カリウムと3種類のDWCNTにおけるリンパ球表面マーカーの慢性影響と感染性への影響の比較を行った。発生毒性に関する検討では、気管内投与懸濁液に対するMWCNTの前処理が発生毒性に及ぼす影響を検討した。また、ナノマテリアルの毒性評価手法に関するOECDの動向調査を行った。
結果と考察
慢性影響評価研究において、3種類DWCNT 1、7、15 μmの単回吸入曝露試験を行い、それぞれ0.49、0.51及び0.57 mg/m3の濃度で吸入させ、15 μmの曝露肺ではDWCNTがマクロファージに貪食された繊維を観察できた。チタン酸カリウムのおよびDWCNTの経気管肺内噴霧投与方法の検討では、チタン酸カリウムの52週投与群で胸膜中皮の過形成が観察された。3種のDWCNTについては1匹あたりの21x10^12本/ラットの投与量で慢性試験を開始した。ラットに分散処理の方法を変えた(原末、熱処理、Taquann処理、および両者の組み合わせ)MWNT-7を腹腔投与した検討では、中皮腫の発症時期や重篤度について分散処理の違いによる差異は認められなかった。前年度までに確立したマウスに対するin vivo肺小核試験法(Taquann法処理による直噴全身曝露吸入システム、2時間/日、5日間連続の全身吸入曝露)において、MWCNTは陽性を示すことが確認できた。免疫影響に対する検討では、クロドロン酸リポソームの処理によりマクロファージが機能不全の状態でのMWCNT曝露はマクロファージを起点とした生体防御反応に大きな影響を及ぼす可能性が示された。MRL/lprマウス(自己免疫疾患モデル)へのMWVNTとチタン酸カリウム投与の比較では腹腔内滲出細胞中のマクロファージの細胞数、フェノタイプが大きく異なっていた。DWCNTはMWCNTに比較して腹腔内での曝露反応は低いものと考えられ、DWCNTの処理反応にはスカベンジャー受容体が関与していることが示された。DWCNTs曝露により、RSV感染5日後のマウスでは肺胞壁の腫張やリンパ球の浸潤など肺炎はMWNT-7と同様に増悪化し、最も短いDWCNT-1(1 μm)でその効果が高くMWNT-7と同等かやや強かった。in vitro試験系による検討では、4種のMWCNTによるTNFα産生の促進は、IL-1βのオートクラインによる機構が示された。3種のDWCNT(1, 7.5, 15μm)はNLRP3を介してIL-1β産生を促進したが、TNFα分泌はむしろ低下させた。発生影響に関する検討では、MWCNT投与群で、妊娠15日目の胎児毒性として、胎児重量の減少が認められ、対照群に比べ熱処理群、原末群、Taquann処理群の順に減少量が多かった。反復気管内投与による母動物および胎児への影響でも、分散液の調製方法(分散状態)によって差が見られることが、内臓・骨格検査からも確認された。また,今回検査した項目のうち骨化遅延が最も鋭敏な指標であると考えられた。国際動向調査では、OECD吸入試験法のガイドラインTG412 とTG413がナノマテリアル評価に適応した改定が承認され、さらにナノマテリアル作業会合ではEUが行っているOECDテストガイドラインの改訂や新規の作成作業を促進するプロジェクト活動を受けて7つの新規プロジェクトが提案された。
結論
ナノマテリアルの評価手法としての吸入曝露および気管内投与手法、in vitro評価系において、MWCNT、チタン酸カリウムや二層ナノチューブにTaquann法を用いて、各種エンドポイントの評価が可能であることを示すことができた。今後は、本研究で確立したin vivo試験法等を生かして、より短期の吸入曝露や気管内曝露試験法、in vitro評価系試験法から慢性影響を評価できることを示すデータを積み上げてOECD等に提案できるような実証研究を行っていくことが必要であると考えられえた。
公開日・更新日
公開日
2018-06-12
更新日
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