化学物質の有害性評価手法の迅速化、高度化に関する研究-新型反復暴露実験と単回暴露実験の網羅的定量的遺伝子発現情報の対比による毒性予測の精緻化と実用版毒性予測評価システムの構築-

文献情報

文献番号
201725014A
報告書区分
総括
研究課題名
化学物質の有害性評価手法の迅速化、高度化に関する研究-新型反復暴露実験と単回暴露実験の網羅的定量的遺伝子発現情報の対比による毒性予測の精緻化と実用版毒性予測評価システムの構築-
課題番号
H27-化学-指定-001
研究年度
平成29(2017)年度
研究代表者(所属機関)
菅野 純(国立医薬品食品衛生研究所 安全性生物試験研究センター 安全性予測評価部)
研究分担者(所属機関)
  • 北野 宏明(特定非営利活動法人システムバイオロジー研究機構)
  • 北嶋 聡(国立医薬品食品衛生研究所 安全性生物試験研究センター 毒性部)
  • 相崎 健一(国立医薬品食品衛生研究所 安全性生物試験研究センター 毒性部)
  • 夏目 やよい(国立研究開発法人医薬基盤・健康・栄養研究所 バイオインフォマティクスプロジェクト)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 化学物質リスク研究
研究開始年度
平成27(2015)年度
研究終了予定年度
平成29(2017)年度
研究費
34,211,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究は、化学物質が生体に及ぼす毒性影響の評価手法を、生体反応の分子メカニズムに基づいて迅速化、高精度化、省動物化し、インフォマティクス技術と統合して実用化する事を目的とする。
先行研究にて構築済みの延べ6.5億遺伝子情報からなる高精度トキシコゲノミクスデータベースと毒性ネットワーク解析技術を拡充しつつ、反復暴露の予測評価技術を開発する。ここにインフォマティクス専門家によるシステムトキシコロジーの概念を導入し、網羅的毒性予測評価システムの構築を進める。
研究方法
我々が開発したPercellome絶対量化法(BMC Genomics.7,64,2006/特許441507/細胞1個当たりのmRNAコピー数として発現値を得る方法)を用いて化学物質の反復暴露に対する生体の遺伝子発現の反応を解析した結果、毎回の投与の度に、①その都度の変化を示す「過渡反応」と、②回を重ねるに連れて発現値の基線(ベースライン)が徐々に移動する「基線反応」の二つの成分から構成され、単回暴露影響を単純に積算した変化とは異なることが明らかとなった。そこで、過渡反応と基線反応の関連性が観測可能な新型反復暴露実験(4日間の反復暴露を行い、次の日に単回暴露を実施し2、4、8、24時間後に肝の網羅的遺伝子解析を行う)を実施した(国立医薬品食品衛生研究所の「動物実験の適正な実施に関する規程」を遵守)。また、先行研究で新型反復暴露実験を実施した化学物質を中心に、ヒストン修飾解析及び成熟型マイクロRNA解析を、次世代シーケンサーを用いて行った。なお本研究解析に用いるアルゴリズムは、Percellome技術やシステムバイオロジーに基づいて開発し、独自開発の解析プログラムに実装の上、利用した。
結果と考察
『短期間「新型」反復暴露実験と既存の単回暴露実験データベースからの反復暴露毒性予測技術の開発』については、アセフェート及び五塩化フェノールに対し「新型」反復暴露実験セットを実施し、前者は反復による影響が軽微な事例、及び、後者は単回暴露で過渡反応を示した遺伝子の発現が、反復暴露により常時誘導状態へと移行する機序の存在を示唆する事例を得て、小胞体ストレス系に加え、ミトコンドリア/代謝系、細胞回転制御系、など、複数の系による複雑な制御の存在が示唆された。『化学物質の反復暴露による基線反応成立のエピジェネティクス機構解析』においては、四塩化炭素の14日間反復暴露のヒストン修飾解析を行い、有意な変化を示すヒストン修飾部位を抽出した。また『化学物質の反復暴露におけるノンコーディングRNAの発現解析』については、四塩化炭素、バルプロ酸ナトリウム、クロフィブレート、アセトアミノフェンについて成熟型マイクロRNAの発現解析を実施し、反復暴露の影響を受けた転写産物を抽出した。解析に必要な基礎情報は計画通り集まり、引き続き機序解明を進める。『システムトキシコロジー解析技術の基盤整備及び応用開発』においては、複雑な毒性機序に対応すべく深層学習システムの追加開発を行い、実データに於いて所定の性能を有することを確認した。また既存ツールの機能強化と、他ソフトウェアとの連携強化のためのGaruda準拠化を実施した。以上、毒性解析パイプラインの構築が順調に進捗し、『Percellomeデータベースを利用した解析パイプライン』において、実用検証を実施し得た。『Percellome専用解析ソフトウェアのオンライン化促進』については、大量の計算が必要なソフトウェアのオンライン化方法について検討した。
結論
先行研究での四塩化炭素、バルプロ酸ナトリウム、クロフィブレート、及び本研究でのアセトアミノフェン、フェノバルビタール ナトリウム、サリドマイド、フルオロウラシル、今年度のアセフェート、五塩化フェノールの新型反復暴露時の、過渡反応と基線反応の関連性解析を進める(この知見は新規性が高く、エピジェネティクス機序の関与が示唆される)と同時に、化学物質ごとの独特の発現変動情報も蓄積した。
反復暴露による基線反応成立のエピジェネティクス機構解析及びノンコーディングRNAの発現解析については、DNAメチル化、ヒストン修飾、長鎖ノンコーディングRNA、成熟型マイクロRNAの情報を揃え解明を進めた。
システムトキシコロジー解析技術の基盤整備及び応用開発についてはdeep learning systemを追加して、プロジェクトの最終目標の達成、即ち毒性解析パイプラインの構築を進めた。
Percellome専用解析ソフトウェアのオンライン化促進により、引き続き研究成果の速やかな社会還元を推進する。

公開日・更新日

公開日
2018-06-25
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2018-06-25
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

文献情報

文献番号
201725014B
報告書区分
総合
研究課題名
化学物質の有害性評価手法の迅速化、高度化に関する研究-新型反復暴露実験と単回暴露実験の網羅的定量的遺伝子発現情報の対比による毒性予測の精緻化と実用版毒性予測評価システムの構築-
課題番号
H27-化学-指定-001
研究年度
平成29(2017)年度
研究代表者(所属機関)
菅野 純(国立医薬品食品衛生研究所 安全性生物試験研究センター 安全性予測評価部)
研究分担者(所属機関)
  • 北野 宏明(特定非営利活動法人システムバイオロジー研究機構)
  • 北嶋 聡(国立医薬品食品衛生研究所 安全性生物試験研究センター 毒性部)
  • 相崎 健一(国立医薬品食品衛生研究所 安全性生物試験研究センター 毒性部)
  • 夏目 やよい(国立研究開発法人医薬基盤・健康・栄養研究所 バイオインフォマティクスプロジェクト)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 化学物質リスク研究
研究開始年度
平成27(2015)年度
研究終了予定年度
平成29(2017)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究は、化学物質が生体に及ぼす毒性影響の評価手法を、生体反応の分子メカニズムに基づいて迅速化、高精度化、省動物化し、インフォマティクス技術と統合して実用化する事を目的とする。
先行研究にて構築済みの延べ6.5億遺伝子情報からなる高精度トキシコゲノミクスデータベースと毒性ネットワーク解析技術を拡充しつつ、反復暴露の予測評価技術を開発する。ここにインフォマティクス専門家によるシステムトキシコロジーの概念を導入し、網羅的毒性予測評価システムの構築を進める。
研究方法
我々が開発したPercellome絶対量化法(BMC Genomics.7,64,2006/特許441507/細胞1個当たりのmRNAコピー数として発現値を得る方法)を用いて化学物質の反復暴露に対する生体の遺伝子発現の反応を解析した結果、毎回の投与の度に、①その都度の変化を示す「過渡反応」と、②回を重ねるに連れて発現値の基線(ベースライン)が徐々に移動する「基線反応」の二つの成分から構成され、単回暴露影響を単純に積算した変化とは異なることが明らかとなった。そこで、過渡反応と基線反応の関連性が観測可能な新型反復暴露実験(4日間の反復暴露を行い、次の日に単回暴露を実施し2、4、8、24時間後に肝の網羅的遺伝子解析を行う)を実施した(国立医薬品食品衛生研究所の「動物実験の適正な実施に関する規程」を遵守)。また、先行研究で新型反復暴露実験を実施した化学物質を中心に、ヒストン修飾解析及び成熟型マイクロRNA解析を、次世代シーケンサーを用いて行った。なお本研究解析に用いるアルゴリズムは、Percellome技術やシステムバイオロジーに基づいて開発し、独自開発の解析プログラムに実装の上、利用した。
結果と考察
『短期間「新型」反復暴露実験と既存の単回暴露実験データベースからの反復暴露毒性予測技術の開発』については、先行研究と合わせ、計9化学物質に対し「新型」反復暴露実験セットを実施し、基線反応と過渡反応の関連解析を進め、化学物質の類型化及び、その上流の分子機構の描出を行うことで、反復毒性の分子毒性学的理解を進めることが出来た。『化学物質の反復暴露による基線反応成立のエピジェネティクス機構解析』においては、四塩化炭素、バルプロ酸ナトリウム、クロフィブレートの14日間反復暴露のDNAメチル化解析、及び四塩化炭素の14日間反復暴露のヒストン修飾解析を行い、前者には顕著な変動を示す領域はなかったが、ヒストン修飾については発現変動と連関する有意な変化を示す部位を抽出した。また『化学物質の反復暴露におけるノンコーディングRNAの発現解析』については、四塩化炭素、バルプロ酸ナトリウム、クロフィブレート、アセトアミノフェンについて成熟型マイクロRNAの発現解析を実施し、反復暴露の影響を受けた転写産物等の情報を計画通りに集積した。これらのエピジェネティック情報は反復暴露毒性の成立機序の解明の基礎である。『システムトキシコロジー解析技術の基盤整備及び応用開発』においては、複雑な毒性機序に対応すべく深層学習システムの追加開発を行い、実データに於いて所定の性能を有することを確認した。また既存ツールの機能強化と、他ソフトウェアとの連携強化のためのGaruda準拠化を実施した。これらによる毒性解析パイプラインの構築は順調に進捗し、『Percellomeデータベースを利用した解析パイプライン』において実用検証を実施し得た。『Percellome専用解析ソフトウェアのオンライン化促進』については、大量の計算が必要なソフトウェアのオンライン化方法について検討した。
結論
先行研究での四塩化炭素、バルプロ酸ナトリウム、クロフィブレート、及び本研究でのアセトアミノフェン、フェノバルビタール ナトリウム、サリドマイド、フルオロウラシル、アセフェート、五塩化フェノールの新型反復暴露実験により、過渡反応と基線反応の関連性解析を進める(この知見は新規性が高く、エピジェネティクス機序の関与が示唆される)と同時に、化学物質ごとの独特の発現変動情報も蓄積した。
反復暴露による基線反応成立のエピジェネティクス機構解析及びノンコーディングRNAの発現解析については、DNAメチル化、ヒストン修飾、長鎖ノンコーディングRNA、成熟型マイクロRNAの情報を揃え解明を進めた。
システムトキシコロジー解析技術の基盤整備及び応用開発についてはdeep learning systemを追加して、プロジェクトの最終目標の達成、即ち毒性解析パイプラインの構築を進めた。
Percellome専用解析ソフトウェアのオンライン化促進により、引き続き研究成果の速やかな社会還元を推進する。

公開日・更新日

公開日
2018-06-25
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2018-06-25
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

行政効果報告

文献番号
201725014C

成果

専門的・学術的観点からの成果
先行研究で開発した化学物質の反復曝露に対する遺伝子発現反応の成分別観測を可能とする新型反復曝露実験により6化学物質の高精度マイクロアレイ解析を新たに実施し、反復曝露に関わる共通要素や化学物質独特の発現情報を得た。また反復毒性成立機序に関わるエピジェネティック解析を実施し、生物学的・毒性学的に新規性の高い知見を得た。これらは反復毒性の分子毒性学的理解の促進及び単回曝露及び極短期反復曝露の実験結果からの反復毒性予測法の開発に寄与している。新規情報を加えたデータベースの一般公開も継続し評価されている。
臨床的観点からの成果
本研究による反復毒性に関する新規知見は、化学物質による毒性の分子機序解明研究を強力に推進し、オルソログ遺伝子による遺伝子発現ネットワークの比較に基づくヒトへの外挿技術の実用化に繋がり、将来的には化学物質による健康被害の予防のみならず、被害を受けてしまった後の治療法開発研究にも貢献する見込みである。加えて、様々な分子生物学研究への活用や、特に創薬など関連産業への応用が期待されている。成果還元のためのオンラインサービスも継続・拡張しており、幅広い活用を促進している。
ガイドライン等の開発
現時点ではガイドライン開発に至っていないが、本研究で開発した技術は当初から国内外からの照会を受け、国際学会での招待講演など、啓発活動を継続している。その他、AOP企画案作成への活用や、OECD化学物質共同評価会議(CoCAM)でも安全性評価技術として利用に向けての評価が定着しつつある。
その他行政的観点からの成果
特になし
その他のインパクト
マレーソア毒性学会(2015)、アジア毒性学会(2015)、韓国科学アカデミー国際シンポジウム(2016)、国際毒性学会(メキシコ、2016)、生物医学総合学術年会(台北、2017)、等に招聘され啓発活動を行っている。本研究成果は毒性学の近代化、ライフサイエンス分野での活用、研究者及び国際機関への情報提供の観点から評価され、後継研究においてバイオインフォマティクスとの連携を含め、更なる進展を見せている。本研究成果の一部は、日本毒性学会のほか、国際インフォマティクス関連学会への発表に寄与している。

発表件数

原著論文(和文)
5件
原著論文(英文等)
19件
その他論文(和文)
2件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
32件
学会発表(国際学会等)
27件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Kanno J.
Introduction to the concept of signal toxicity.
J Toxicol Sci. , 41 , SP105-SP109  (2016)
10.2131/jts.41.SP105
原著論文2
Kanno J.
Biomechanism-based innovation of toxicology by the fundamental concept of "Signal Toxicity"
Kokuritsu Iyakuhin Shokuhin Eisei Kenkyusho Hokoku. , 133 , 21-28  (2015)
原著論文3
相﨑 健一, 菅野 純, 北嶋 聡, 他
Percellomeプロジェクト~トランスクリプトミクスとエピジェネティクスによる毒性分子機序の探求~
日本薬理学雑誌 , 157 (3) , 200-206  (2022)
https://doi.org/10.1254/fpj.21122

公開日・更新日

公開日
2018-06-14
更新日
2023-04-28

収支報告書

文献番号
201725014Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
34,211,000円
(2)補助金確定額
34,211,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 10,854,637円
人件費・謝金 0円
旅費 2,894,571円
その他 20,465,098円
間接経費 0円
合計 34,214,306円

備考

備考
研究に必要な書籍("Data Wrangling with Python" Jacqueline Kazil et.al. O'Reilly Media) 6,175円の購入に際し、不足する3,306円を自己負担したため

公開日・更新日

公開日
2018-12-11
更新日
-