文献情報
文献番号
201725010A
報告書区分
総括
研究課題名
網羅的エピゲノム解析を用いた化学物質による次世代影響の解明:新しい試験スキームへの基礎的検討
課題番号
H29-化学-一般-002
研究年度
平成29(2017)年度
研究代表者(所属機関)
岸 玲子(北海道大学 環境健康科学研究教育センター)
研究分担者(所属機関)
- 三宅 邦夫(山梨大学 大学院総合研究部)
- 石塚 真由美(北海道大学 大学院獣医学研究院)
- 佐田 文宏(中央大学 保健センター)
- 荒木 敦子(北海道大学 環境健康科学研究教育センター )
- 宮下 ちひろ(北海道大学 環境健康科学研究教育センター )
- 伊藤 佐智子(北海道大学 環境健康科学研究教育センター )
- 山崎 圭子(北海道大学 環境健康科学研究教育センター )
- 三浦 りゅう(北海道大学 環境健康科学研究教育センター )
- 堀 就英(福岡県保健環境研究所 保健科学部生活化学課)
- 松村 徹(いであ株式会社 環境創造研究所)
- 松浦 英幸(北海道大学 大学院農学研究院)
- 篠原 信雄(北海道大学 大学院医学研究院)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 化学物質リスク研究
研究開始年度
平成29(2017)年度
研究終了予定年度
令和1(2019)年度
研究費
11,154,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
メチル化を含む後天的DNA化学修飾であるエピゲノムは,塩基配列の変化なしに遺伝情報を分裂後の細胞に伝える個体発生や生体機能維持に必須のメカニズムである。母体の環境要因による児のエピゲノム変化が後世の健康・疾病リスク発現に関与していることが示唆されているため, エピゲノムを介したメカニズム解明は環境リスク評価や健康障害の予防にとって重要である。一方, DNAメチル化の解析法として, 近年エピゲノム網羅的メチル化解析の技術が開発されてきた。しかし,健康影響が懸念されている合成化学物質の胎児期曝露について,網羅的メチル化解析を用いた研究は非常に少ない。さらに,曝露によるエピゲノム変化が関与する次世代影響については未だ明らかにされていない。本研究は,種々の環境化学物質曝露による多様なアウトカム発現機序として,エピゲノム変化を介する毒性メカニズムを遺伝的差異や多様なライフスタイルをもつヒト集団でエピゲノム網羅的に明らかにし,新規の次世代影響試験およびスキームの開発に資する。
研究方法
(1)胎児発育関連遺伝子IGF2/H19,および,遺伝子全体のメチル化指標となるLINE1領域の臍帯血DNAメチル化率をパイロシークエンサーにより測定し、ダイオキシン・PCB類の胎児期曝露(n=169)との関連を交絡因子で調整した重回帰分析で検討した。(2) 臍帯血DNA292サンプルについて、エピゲノム網羅的メチル化解析(Infinium HumanMethylation450 BeadChip; イルミナ社)を行い、45万か所メチル化部位(CpG部位)のデータを取得した。得られたメチル化値を標準化後, バッチ間補正を行い,母体血中の有機フッ素化合物(PFOS, PFOA)濃度(n=190)との関連を解析し,曝露により変化するDNAメチル化部位を同定した。台湾の出生コホートの網羅的メチル化解析データ(n=37)を用いて結果の妥当性検証を行った。(3)喫煙経験のない非喫煙群(n = 124), 妊娠中も喫煙を継続した喫煙群(n = 46), 妊娠がわかって喫煙を止めた喫煙中止群(n = 77)の3群を解析対象とし,胎児期の喫煙曝露により変化する臍帯血DNAのメチル化部位をエピゲノム網羅的解析により同定した。結果の再現性を検証するため, 同一サンプルのメチル化率をIon PGM次世代シークエンサー(サーモフィッシャー社)により測定した。
結果と考察
(1)PCB異性体とH19およびLINE-1のDNAメチル化率と正の相関が認められ, その傾向は女児で顕著だった。しかし, 健康アウトカムへの強い影響を示すダイオキシン類では関連が見られず, メチル化変化を介さないアウトカムへの影響メカニズム, あるいは, IGF2/H19, LINE1以外の遺伝子のメチル化変化の関与が示唆された。(2)解析した45万CpG部位全体のメチル化変化としては,PFOS曝露では高メチル化,PFOA曝露では低メチル化が見られ,PFOSとPFOA曝露のメチル化への影響の差異が示唆された。様々なアウトカムに対するPFOSとPFOAの影響の違いや, 曝露濃度, あるいは胎盤透過性の違いがメチル化変化への影響の違いをもたらしている可能性が考えられる。また,台湾コホートでも同じメチル化変化の向きを示したメチル化領域を有する遺伝子については,成長後の喘息と関連するSMAD3, 肥満と関連するGFPT2,有機フッ素化合物曝露によりその機能が影響を受けるCYP2E1等が含まれていた。(3)妊娠中に喫煙を中止することでDNAメチル化状態が非喫煙者と同等レベルになる9CpGs,喫煙を中止しても変化しない1CpGを見出した。また,次世代シークエンサーによる再現性検証を行なった結果,8CpGsのうち7CpGsで網羅的解析結果と同様のメチル化変化が確認できた。このことから,次世代シークエンサーを用いた多サンプルの定量的メチル化解析が可能であると考えられる。
結論
胎児期PCB類濃度とH19およびLINE1メチル化の関係は女児で顕著だった。エピゲノム網羅的メチル化解析により,一般環境レベルでの有機フッ素化合物の胎児期曝露がDNAメチル化に影響を及ぼす可能性が示された。次世代シークエンサーによるメチル化解析により,エピゲノム網羅的解析結果の妥当性を示すことが出来た。今後,種々の化学物質曝露が影響を及ぼすDNAメチル化変化をエピゲノム網羅的に明らかにし,特定されたメチル化変化がどのアウトカムに影響するかを介在の大きさを含めて解明する。
公開日・更新日
公開日
2018-06-12
更新日
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