化審法で規定された変異原性検出試験(チミジンキナーゼ試験)を改善する手法の開発

文献情報

文献番号
201725005A
報告書区分
総括
研究課題名
化審法で規定された変異原性検出試験(チミジンキナーゼ試験)を改善する手法の開発
課題番号
H28-化学-一般-001
研究年度
平成29(2017)年度
研究代表者(所属機関)
武田 俊一(京都大学 医学研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 本間 正充(医薬品食品衛生研究所 変異遺伝部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 化学物質リスク研究
研究開始年度
平成28(2016)年度
研究終了予定年度
平成30(2018)年度
研究費
4,231,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
化学物質の毒性の中で最も重要なものは発がん性であり、発がんは主に変異原性による。化審法で規定された変異原性検出試験は、感度と特異性があまり高くない(Mutat. Res. 588: 47-57, 2005)。化審法で利用が定められた検出試験の1つ、チミジンキナーゼ(tk)試験とは、細胞を化学物質に曝露し、tk酵素をコードする遺伝子(TK遺伝子)を不活性化する変異が入る頻度を定量する、変異原性検出試験である。感度が高くない、転座・組換えを起こす変異原を事実上検出できないという弱点がある一方、特異性が高く、実験手法が簡単という長所がある。感度が高くない原因は、化審法で規定された変異原性検出試験が野生型細胞(DNA損傷・複製を正確かつ迅速に修復できる)を使うからである。DNA修復・複製ミュータントのtk試験を併用するという最小限の変更によって、既存のtk試験の感度を向上する行政的必要性は高い。
我々の提案は、化審法で規定された変異原性検出試験、tk試験において、野生型細胞に加えDNA修復・複製ミュータントも併用し、変異原性の検出感度を改善することにある。併用により、過去のデータ(野生型細胞のみのtk試験の結果)と比較しながら、有害化学物質のより合理的な規制ができる。本研究の目的は、どのミュータントを併用すれば、tk試験の感度が最も改善するかを決定することにある。
研究方法
武田グループ:DNA修復・複製TK6ミュータントの作製を担当。さらにDNA修復遺伝子の多重欠損株を創る。
本間グループ:野生型TK6細胞を使って実施する従来型tk試験に加えてDNA修復・複製TK6ミュータントも併用する新規tk試験を応用するモデル被験物質として、オーラミンを用いた。本間は、武田からXPA-/-/XRCC1-/- TK6細胞を既に譲渡された。そしてまずオーラミンに対する感受性を野生型とXPA-/-/XRCC1-/-の各TK6細胞の間で比較する。
結果と考察
武田グループ:(1)ヒトTK6細胞株から遺伝子破壊株の作製、(2)Polη欠損TK6細胞(POLη-/- 細胞)の作製とその表現型の確認、(3)XPA、XRCC1 2重欠損TK6細胞(XPA-/-/XRCC1-/- 細胞)の作製とその表現型の確認、(4)XPA/XRCC1/Polηの3重欠損TK6株の作製、(5)紫外線やDNA架橋剤による損傷を修復する、新規修復経路の発見、(6)シスプラチンの腎毒性はミトコンドリアDNAの損傷による
本間グループ:S9mix非存在下で、オーラミン(最終濃度50,75,100,125 µg/mL)を4時間処理したときのTK6、および二重欠損細胞の生存率実験の結果を図8に示した。
S9mix存在下で、オーラミン(最終濃度50,75,100,125 µg/mL)を4時間処理したときのTK6、および二重欠損細胞の生存率実験の結果を図9に示した。このことから、TK6と二重欠損細胞のRSには約5倍程度の差があり、S9mix存在下で二重欠損細胞は感受性を有すると考えられた。以上の実験結果からオーラミンは肝臓で代謝されその代謝産物がDNA損傷を起こすと結論した。

XPA/XRCC1の2重欠損TK6株に比べ、XPA/XRCC1/Polηの3重欠損TK6株を使えば、tk試験による変異原性の検出感度をさらに数倍改善しうる。
シスプラチンは、DNA複製を邪魔することによって増殖細胞(悪性腫瘍を含む)を殺す。シスプラチンが増殖しない細胞(腎臓尿細管や末梢神経)にどのような機序で副作用を発揮するか、従来解析しようがなかった。我々は、ミトコンドリアDNA修復にのみ関与する酵素(ミトコンドリア特異的トポイソメラーゼ1=Top1mt)が欠損したマウスを米国NIHから譲渡してもらった。この欠損マウスを解析すれば、シスプラチンの、ミトコンドリアDNA毒性を特異的に解析できる。
結論
XRCC1/XPA 二重欠損細胞(XPA-/-/XRCC1-/- 細胞)は、tk試験に応用した場合に、化学物質の変異原性の検出感度が10倍上がることを確認した。tk試験は特異性が高く比較的容易であることから、化審法で規定され従来型tk試験(野生型のみを使う)に二重欠損細胞を使うtk試験を併用すると、従来型tk試験の感度を大きく改善できる。
Top1mt欠損マウスは、休止期の細胞から成る様々な臓器(神経、腎臓、肝臓、筋肉など)でミトコンドリアDNAを損傷することによって毒性を発揮する化学物質を同定するのに有用である。

公開日・更新日

公開日
2018-06-04
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

収支報告書

文献番号
201725005Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
5,500,000円
(2)補助金確定額
5,500,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 4,165,352円
人件費・謝金 0円
旅費 58,520円
その他 7,128円
間接経費 1,269,000円
合計 5,500,000円

備考

備考
-

公開日・更新日

公開日
2018-05-07
更新日
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