気道障害性を指標とする室内環境化学物質のリスク評価手法の開発に関する研究

文献情報

文献番号
201725004A
報告書区分
総括
研究課題名
気道障害性を指標とする室内環境化学物質のリスク評価手法の開発に関する研究
課題番号
H27-化学-一般-009
研究年度
平成29(2017)年度
研究代表者(所属機関)
神野 透人(名城大学 薬学部 衛生化学研究室)
研究分担者(所属機関)
  • 埴岡 伸光(横浜薬科大学 薬学部 )
  • 伊藤 一秀(九州大学大学院 総合理工学研究院)
  • 香川 聡子(横浜薬科大学 薬学部)
  • 河上 強志(国立医薬品食品衛生研究所 生活衛生化学部)
  • 小野 敦(岡山大学大学院 医歯薬学総合研究科)
  • 東 賢一(近畿大学 医学部)
  • 酒井 信夫(国立医薬品食品衛生研究所 生活衛生化学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 化学物質リスク研究
研究開始年度
平成27(2015)年度
研究終了予定年度
平成29(2017)年度
研究費
12,462,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
厚生労働省のシックハウス (室内空気汚染) 問題に関する検討会において、「室内濃度指針値見直しスキーム」にしたがって、室内濃度指針値の改定あるいは対象化合物の追加に関する議論が進められている。そのスキームでは、全国実態調査等に基づく初期曝露評価に続いて、既存のハザード情報を活用した初期リスク評価を行うこととされている。しかし、多くの室内環境化学物質では、初期リスク評価に資するハザード情報が比較的限られていることから、この段階が一連の指針値策定/改定作業において律速となることが危惧されている。このような背景から、室内濃度指針値策定に必要なハザード情報の網羅的な収集、ならびに不足情報の補完方法の確立を目的として本研究を実施した。
研究方法
4つのサブテーマ、1) 気道内挙動のin vitro/in silico予測、2) 気道障害性のin vitro評価、3) 気道障害性にかかる情報収集および優先順位判定、および4) 定量的VOC放散データベースの構築、を設定した。
サブテーマ1では、室内環境化学物質の経気道曝露を予測するための非定常PBPK-CFD-CSPモデルを構築した。また、気道内での異物代謝予測法を確立する目的で、ヒト由来ミクロゾームを酵素源として用いるin vitro評価を実施した。サブテーマ2では、室内環境化学物質の気道刺激性にかかるin vitro評価系を確立する目的で、ヒトおよびマウスTRPA1安定発現細胞株を用いて、複合曝露の影響について検討を行った。また、気道感作性のin vitro評価として、DPRA法の適用可能性について評価を行った。サブテーマ3では、JP-GHSデータベースを用いて気道刺激性と皮膚あるいは眼刺激性との関連を解析した。また、飽和脂肪族炭化水素類など9物質(群) についてハザード情報を網羅的に収集し、RfCの導出ならびに健康リスクの初期評価を実施した。サブテーマ4では、ISO 12219-3およびASTM D7706に準拠する超小形チャンバーを使用して、ウィンドウトリートメント製品について放散試験を実施した。
結果と考察
サブテーマ1では、人の鼻孔位置での非定常呼吸サイクルを再現したPBPK-CFD-CSPモデルを開発し、床材から放散されたホルムアルデヒドの曝露解析に適用した。その結果、鼻腔内に相対的な吸着量の多い “ホットスポット”が存在することが明らかとなった。また、TexanolおよびTXIBの代謝を例として、鼻腔内での代謝を考慮することによって非定常PBPK-CFD-CSPモデルの精緻化が可能であることを示した。サブテーマ2では、侵害受容チャネルTRPA1について、化学物質の複合曝露によって相乗的な活性化が生じること、その機序としてTRPA1とCalmodulinの相互作用が関与する可能性があることを明らかとした。また、DPRA法が室内環境化学物質の感作性を評価する上で有用な試験系であること示し、33物質に適用した結果、室内空気からも高頻度に検出されるHexanalおよびNonanalをはじめ、14物質で陽性の結果が得られた。サブテーマ3では、JP-GHSデータベースについて、呼吸器感作性・刺激性に関連する可能性のある気道刺激性、皮膚刺激性および眼刺激性などについて網羅的な検索を行い、気道刺激性の報告がある物質の多くで皮膚刺激性 (60%) または眼刺激性 (83%) が陽性であり、共通の機序が存在する可能性があることを示した。さらに、ワークフロー型機械学習・予測モデル作成ツールであるKNIME Analytics Platformを用いる刺激性予測モデルを開発した。また、9物質(群)の室内空気中化学物質についてRfCを導出し初期リスク評価を行った結果、Nonane 、Decane、TridecaneおよびHexanalではMOE<1となり、詳細な調査が必要であることが明らかとなった。サブテーマ4では、放散試験の結果から、ウィンドウトリートメント製品が2-Ethyl-1-hexanol、TexanolおよびTXIBの放散源なり得ることを明らかとした。
結論
本研究の成果の一部は既にシックハウス (室内空気汚染) 問題に関する検討会において有効に活用されているが、今後、本研究で得られた気道刺激性 (TRPチャネル活性化) や感作性 (DPRA法) に関する知見およびCSP/PBPKモデルなどの要素技術の活用によって、シックハウス (室内空気汚染) 問題に関する検討会における室内濃度指針値の策定/改定作業に貢献できるものと期待される。

公開日・更新日

公開日
2018-06-04
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2018-07-02
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

文献情報

文献番号
201725004B
報告書区分
総合
研究課題名
気道障害性を指標とする室内環境化学物質のリスク評価手法の開発に関する研究
課題番号
H27-化学-一般-009
研究年度
平成29(2017)年度
研究代表者(所属機関)
神野 透人(名城大学 薬学部 衛生化学研究室)
研究分担者(所属機関)
  • 埴岡 伸光(横浜薬科大学 薬学部)
  • 伊藤 一秀(九州大学大学院 総合理工学研究院)
  • 香川 聡子(横浜薬科大学 薬学部)
  • 河上 強志(国立医薬品食品衛生研究所 生活衛生化学部)
  • 小野 敦(岡山大学大学院 医歯薬学総合研究科)
  • 東 賢一(近畿大学 医学部)
  • 酒井 信夫(国立医薬品食品衛生研究所 生活衛生化学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 化学物質リスク研究
研究開始年度
平成27(2015)年度
研究終了予定年度
平成29(2017)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
厚生労働省のシックハウス (室内空気汚染) 問題に関する検討会において、「室内濃度指針値見直しスキーム」にしたがって、室内濃度指針値の改定あるいは対象化合物の追加に関する議論が進められている。そのスキームでは、全国実態調査等に基づく初期曝露評価に続いて、既存のハザード情報を活用した初期リスク評価を行うこととされている。しかし、多くの室内環境化学物質では初期リスク評価に資するハザード情報が比較的限られており、この段階が一連の指針値策定/改定作業において律速となることが危惧されている。このような背景から、室内濃度指針値策定に必要なハザード情報の網羅的な収集、ならびに不足情報の補完方法の確立を目的として3年間にわたって研究を実施した。
研究方法
4つのサブテーマ、1) 気道内挙動のin vitro/in silico予測、2) 気道障害性のin vitro評価、3) 気道障害性にかかる情報収集および優先順位判定、および4) 定量的VOC放散データベースの構築、を設定した。
サブテーマ1では、化学物質の経気道曝露を予測するためのPBPK-CFD-CSPモデルを構築し、最終的に非定常状態の解析が可能なモデルへと発展させた。また、気道内での異物代謝予測法を確立する目的で、ヒト由来ミクロゾームを酵素源として用いてin vitro評価を実施した。サブテーマ2では、気道刺激性にかかるin vitro評価系を確立する目的で、侵害受容チャネルTRPA1およびTRPM8の安定発現細胞株を樹立し、複合曝露ならびに種差の影響について検討した。また、気道感作性のin vitro評価として、DPRA法の適用可能性について評価を行った。サブテーマ3では、JP-GHSデータベースを用いて、気道刺激性と皮膚あるいは眼刺激性との関連を解析した。また、室内空気中高頻度・高濃度検出化合物について既存のハザード情報の収集および初期リスク評価を行った。サブテーマ4では、超小形チャンバーを用いて家庭用品等から放散される化学物質の探索を行った。
結果と考察
サブテーマ1では、非定常PBPK-CFD-CSPモデルをホルムアルデヒドの曝露解析に適用し、鼻腔内に相対的な吸着量の多い “ホットスポット”が存在することを明らかとした。また、TexanolおよびTXIBの代謝を例として、鼻腔内での代謝を考慮することによってPBPK-CFD-CSPモデルの精緻化が可能であることを示した。サブテーマ2では、2-Ethyl-1-hexanolおよびTexanolがTRPA1の活性化能を有すること、TexanolによるTRPA1の活性化には種差が認められることを明らかにした。さらに、TRPA1について、複合曝露による相乗的な活性化を明らかとした。一方、DPRA法によるin vitro感作性試験を82化合物に適用した結果、室内空気からも高頻度に検出されるHexanalおよびNonanalをはじめとする25化合物が陽性と判定された。サブテーマ3では、JP-GHSデータベースの網羅的な検索を通じて、気道刺激性物質の多くで皮膚刺激性 (60%) または眼刺激性 (83%) が陽性であり、共通の機序が存在する可能性があることを示した。さらに、KNIME Analytics Platformを用いる刺激性予測モデルを開発した。また、室内空気中から高頻度・高濃度で検出される25物質(群)について既存のハザード情報の収集および初期リスク評価を行った。サブテーマ4では、壁紙・床用敷物製品40検体およびウィンドウトリートメント製品20検体について放散試験を実施し、これらの製品が2-Ethyl-1-hexanol、TexanolあるいはTXIBの放散源なり得ることを明らかとした。
結論
本研究の成果の一部は既にシックハウス (室内空気汚染) 問題に関する検討会において有効に活用されているが、今後、本研究で得られた気道刺激性 (TRPチャネル活性化) や感作性 (DPRA法) に関する知見およびCSP/PBPKモデルなどの要素技術の活用によって、シックハウス (室内空気汚染) 問題に関する検討会における室内濃度指針値の策定/改定作業に貢献できるものと期待される。

公開日・更新日

公開日
2018-06-04
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2018-07-02
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

行政効果報告

文献番号
201725004C

成果

専門的・学術的観点からの成果
本研究では、室内環境にかかる学術分野での活用が期待される数多くの成果が得られた。中でも、「非定常呼吸サイクルを再現したPBPK-CFD-CSPモデル」および「KNIME Analytics Platformを用いる刺激性予測モデル」は有用性が高く評価されている。また、TRPA1 AssayおよびDRPA法による気道刺激性、気道感作性の予測手法については、in silicoモデルを補完するin vitro実験動物代替法として学術的な意義の大きい研究成果であり、継続的なデータの蓄積が望まれている。
臨床的観点からの成果
本研究は直接的な臨床応用を企図した研究ではない。しかし、本研究ではTRPA1チャネルを介して侵害刺激を惹起する気道刺激性物質や、タンパク質のシステイン残基あるいはリジン残基との反応を介して感作性を示す可能性が高い化学物質に関して、貴重な情報が集積されており、派生的な成果として、シックハウス症候群や化学物質過敏症などの疾病の病因となる化学物質を探索する上で、本研究で得られた情報が有効に活用されることが期待される。
ガイドライン等の開発
平成29年6月に、「室内空気中化学物質の指針値案に対する御意見の募集について」(案件番号495170055) が発出され、室内濃度指針値の改訂、ならびに新規化合物として2-エチル-1-ヘキサノール、2,2,4-トリメチルペンタン-1,3-ジオールモノイソブチラート (いわゆるテキサノール) および2,2,4-トリメチル-1,3-ペンタンジオールジイソブチレート (いわゆるTXIB) の追加にかかるパブリックコメントが実施された。これは本研究によって得られた情報が有効に活用された事例である。
その他行政的観点からの成果
平成29年4月19日に開催された第21回シックハウス (室内空気汚染) 問題に関する検討会において、2-エチル-1-ヘキサノールをはじめとする3物質に新規指針値案が提示された。その審議過程において、本研究の成果に基づいた検討会委員の発言を通して、指針値策定にかかる行政運営に貢献できたものと考える。
その他のインパクト
本研究の成果を、市民団体等が主催する講演会・勉強会で積極的に開示し、国民に向けた啓発活動にも貢献した。

発表件数

原著論文(和文)
5件
原著論文(英文等)
11件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
27件
学会発表(国際学会等)
14件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Miyata-Nozaka Y,Isobe T, Hanioka N et al.
Carbamazepine 10,11-epoxidation in human liver microsomes: influence of the CYP3A5*3 polymorphism.
Pharmazie , 72 (12) , 747-750  (2017)
原著論文2
Hanioka N, Kinashi Y, Tanaka-Kagawa T et al.
Glucuronidation of mono(2-ethylhexyl) phthalate in humans: roles of hepatic and intestinal UDP-glucuronosyltransferases
Arch Toxicol , 91 (2) , 689-698  (2017)
原著論文3
Hanioka N, Isobe T, Ohkawara S et al.
Glucuronidation of 4-tert-octylphenol in humans, monkeys, rats, and mice: an in vitro analysis using liver and intestine microsomes.
Arch Toxicol , 91 (3) , 1227-1232  (2017)
原著論文4
Isobe T, Ohkawara S, Tanaka-Kagawa T et al.
Hepatic glucuronidation of 4-tert-octylphenol in humans: inter-individual variability and responsible UDP-glucuronosyltransferase isoforms.
Arch Toxicol , 91 (11) , 3543-3550  (2017)
原著論文5
Murga A, Sano Y, Kawamoto Y et al.
Integrated analysis of numerical weather prediction and computational fluid dynamics for estimating cross-ventilation effects on inhaled air quality inside a factory.
Atmospheric Environment , 167 , 11-22  (2017)
原著論文6
Nakahara K, YamaguchiT, Lim E et al.
Computational fluid dynamics modeling and parameterization of the visible light photocatalytic oxidation process of toluene for indoor building material.
Sustainable Cities and Society , 35 , 298-308  (2017)
原著論文7
Chung J, Lim E, Sandberg M et al.
Returning and net escape probabilities of contaminant at a local point in indoor environment.
Building and Environment , 125 , 67-76  (2017)
原著論文8
Kawakami T, Isama K, Kagawa-Tanaka T et al.
Analysis of glycols, glycol ethers, and other volatile organic compounds present in household water-based hand pump sprays.
J. Environ. Sci. Health Part A , 52 , 1204-1210  (2017)
原著論文9
小野 宏, 丸野内 棣, 井口 泰泉 他
ER STTA法:hERα-HeLa-9903細胞を用いたエストロゲン受容体恒常発現系転写活性化試験法の評価報告書
AATEX-JaCVAM , 6 , 1-27  (2017)
原著論文10
Azuma K, Yanagi U, Kagi N et al.
A review of the effects of exposure to carbon dioxide on human health in indoor environment.
Proceedings of the Healthy Buildings Europe 2017 , ID0022 , 1-6  (2017)
原著論文11
Azuma K, Ikeda K, Kagi N et al.
Physicochemical risk factors for building-related symptoms in air-conditioned office buildings: ambient particles and combined exposure to indoor air pollutants.
Science of the Total Environment , 616-617 , 1649-1655  (2018)
原著論文12
Azuma K et al.
Occupational exposure limits of ethyleneglycol monobutyl ether, isoprene, isopropyl acetate and propyleneimine, and classification on carcinogenicity, occupational sensitizer and reproductive toxicant.
J Occup Health , 59 (4) , 364-366  (2017)
原著論文13
東 賢一
室内空気質規制に関する国内外の動向
環境技術 , 46 (7) , 4-9  (2017)
原著論文14
東 賢一
室内環境汚染による健康リスクと今後の課題
臨床環境医学 , 26 (2) , 82-86  (2017)
原著論文15
田原麻衣子, 杉本直樹, 神野透人 他
ホルムアルデヒドおよびアセトアルデヒドの定量分析におけるqNMRを用いたトレーサビリティの確保
薬学雑誌 , 138 (4) , 551-557  (2018)
原著論文16
酒井信夫
室内空気汚染物質の指針値と測定法
ぶんせき , 2018 (1) , 28-29  (2018)

公開日・更新日

公開日
2018-07-02
更新日
2023-04-28

収支報告書

文献番号
201725004Z