新規抗悪性腫瘍薬を含む新規の多剤併用療法の第I/II相試験の適正化に関する研究

文献情報

文献番号
199800649A
報告書区分
総括
研究課題名
新規抗悪性腫瘍薬を含む新規の多剤併用療法の第I/II相試験の適正化に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成10(1998)年度
研究代表者(所属機関)
西條 長宏(国立がんセンター病院)
研究分担者(所属機関)
  • 江口研二(国立病院四国がんセンター)
  • 大橋靖雄(東京大学医学系研究所)
  • 下山正徳(国立名古屋病院)
  • 鶴尾隆(東京大学分子細胞生物学研究所)
  • 福岡正博(近畿大学)
  • 吉田茂昭(国立がんセンター東病院)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 医薬安全総合研究事業
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
平成12(2000)年度
研究費
5,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
通常抗悪性腫瘍薬の承認は単独投与による効果によって与えられ、併用による効果・毒
性については市販後の臨床試験に委ねられている。一方、臨床における抗悪性腫瘍薬を用いた治療
の大半は複数の抗悪性腫瘍薬を用いる併用療法である。また併用による比較試験によって秀れた結
果の得られた場合、いわゆる標準的化学療法が確率する。第・/・相試験はこの比較試験の展開に際
し検討すべき新しい併用療法に用いる薬剤の種類、量、投与経路、タイミング等を明らかにするた
めに必須の臨床試験であり極めて重要な過程といえる。本研究では ・ 基礎的研究や動物実験によ
り科学性・合理性をもって併用化学療法の安全性および有効性の確認を行う。 ・ 第・相試験で提
案されているContinual Reassesment Method (CRM)、ベイズ流停止規則の適用可能性を検討し必
要症例数に関する目安の立て方などを呈示する。 ・ 実際に新薬や市販薬を含む第・/・相試験を展
開し秀れた試験に必須の条件を明らかにする。 ・ 以上の成果を其にわが国の実状に即した実行可
能なガイドラインを作成する。
研究方法
新薬を含んだ新併用療法では、新薬の投与量を適正に設定する必要がある。この新併用
療法は非臨床試験を事前に行い、その有効性と安全性の基礎データに基づいて設定しなければなら
ない。このため、1)新薬の多剤併用療法に入るために必要な非臨床試験データの範囲の研究調査。
2)新薬の多剤併用療法の研究デザインの調査研究。特に国際的な研究の調査を行う。
新薬を含む多剤併用療法の第・/・相試験における過去の成績を集積し、薬剤の組み合わせ、増量
計画、有害事象の評価と推奨用量の決定などに関わる方法論を治療学的側面、薬理学的側面、数理
学的側面、倫理的側面等様々な角度から解析を加える。得られた結果に基づいて、最も合理的でか
つ効率的なスタディデザインをガイドラインに反映させる。具体的なステップは以下の通りである。
1)第・/・相試験の方法論の解析と評価、2)具体的課題の明確化、3)新たに導入可能な方法論の
検討、4)ガイドラインの策定。
統計的方法論については過去の研究を検索するとともに解析的あるいはコンピュータシミュレ
ーションを用いた新たな検討を行い、増量方法の統計的根拠、奏効率の推定、停止規則、事前情報
の活用方法、一連の試験の中での位置づけ等について提言を行う。
具体的な第・/・相試験としてCPT-11+タキソール、CBDCA+ドセタキセル、CBDCA+IFOS+ド
セタキセルの併用療法について検討した。
結果と考察
結果=・非臨床試験)抗がん剤併用の非臨床試験についてMEDLINEを検索したところ、文献数は
かなり少ない。併用の文献自体がかなり少なく、さらに併用の非臨床試験となると、文献は、非常
に少ない。そのうち細胞レベルの試験がほとんどで、動物試験は極めてわずか、というのが現状で
あった。具体的にはCPT-11と5FUの併用効果をHT29大腸がん細胞で調べたin vitro、in vivo研
究 (Int J Cancer 73:729-734, 1997)、タキソール、トポテカン、シスプラチンの2者又は3者の
併用効果を833Kテラトカルシノーマ細胞で調べたin vitro研究(JNCI 86: 1517-1524, 1994)、シ
スプラチンとタキソールの併用効果を2008卵巣がん細胞で調べたin vitro研究(Br J Cancer 69:
299-306, 1994) シスプラチンとCPT-11の併用効果を3種のヒトがんXenograftsに対して調べた
in vivo研究 (Jpn J Cancer Res 84: 203-207, 1993) などであった。
・統計学的側面)1990年のMEDLINEを用いて、Phase I-II, Cancer, Designのキーワードによ
る検索を行った。9件の論文が抽出されたものの統計的方法論に関する論文は1件のみであった。
この論文Thall et al. (Biometrics 54: 251-264, 1998)は、同著者によるベイズ流の第II相試験の論
文Thall et al. (JCO 14: 296-303, 1996)の考え方をI/II相試験に拡張したものであり、毒性の発現
とレスポンスを2*2の4項分布で表し、有効率が低いあるいは毒性が強すぎる可能性(ベイズ流
の事後確率)が高い場合に、増量・減量・中止をCRMと同様の遂次計算によって行うとするもの
である。前年報告したナベルビン、シスプラチン、マイトマイシンの非小細胞肺がんに対する第I/II
相試験の解析では、毒性と有効性に対して別の独立したモデルを設定していたのに対し、両反応間
の関連を直接モデル化した点に特徴があるが、あらゆる状況においてこのモデルが妥当とは思われ
ない。また、II相部分の停止規則については十分な言及はなされていない。このことを有効性・毒
性の同時モニタリングを提唱した前掲のJCOの論文でも同様である。
II相部分のサンプルサイズ設定に関しては、閾値を設定し、仮説を「実際の有効率はこの閾値以
下」として第1種の過誤、第2種の過誤を保障しようとする立場が従来提唱されている。我が国で
も一般的となったFleming法、Simon法、SWOGの方法などがこれらにあたるが、必ずしも検証
を目的とせず、かつ用量設定に過去の試験(単剤の試験)の情報とこれまで集積した情報を最大限
利用しようという立場に立てば、ベイズ流の方法の採用が有効と考えられる。
PKGDEとCRMを組み合わせた増量方法を新規抗癌剤の第I相試験に用いた。ここではMTDは、
DLTが33%以上となることがほぼ確実な最小用量として定義され、推奨用量はMTDより1レベル
以下でDLTが33%以上となる可能性が低い(10-15%)用量と定義された。停止規則はMTDと推
奨用量が決定できるだけの情報量が集積することとして、implicitに定義された。最終的に24例が
投与されたこの試験の結果、5、6、7、8レベルでの投与例数(DLT出現例数)とDLT出現確
率平均値、DLTが33%を超える確率はそれぞれ3(0), 2(0), 9(3) ,1(1)、11%, 20%, 39%, 66%、0%, 7%,
70%, 97%となり、MTDはレベル7、推奨用量はレベル6となった。すなわち、24例というかな
り少数例において実質的な用量選択が可能となるだけの情報の集積と評価が可能であった。
・併用による治療強度と治療効果)悪性腫瘍を対象とした併用療法のランダム化比較試験の論文
を用量強度の概念を用いて治癒に寄与する因子を検討した。即ち、特定の治療法の個々の薬剤投与
量をmg/m2/wで表した値をDI(dose intensity)とし、その特定の治療法で30-40%のCR率が得ら
れる場合をUDI(unit dose intensity)とした。単剤の治療で30-40%の有効率が得られれば、その薬
剤のDI値=UDI値となる。従って、SDI(summation dose intensity)=DI/UDIで表すと、この場合
1となる。即ち、併用薬剤が複数あれば、それぞれの併用薬剤の用量強度比(DI/UDI)の総和はSDI
値となるので、SDI値と治療効果の関係を定量的に表現することにより、併用薬剤の組み合わせで
治癒率を予測することができる。
1. 小児の急性白血病について)単剤でCR率が20-50%の薬剤はMTX、6MP、VCR、PDN、L-asp、
Ara-C、大量MTX、DOXなどがあるため、これらの3~8剤の併用でSDI=3、4、5、7となった。
その時の治癒率は15%、40%、70%、80%となり、SDI値と比例して治癒率が上昇した。
2. ホジキン病)同様に奏効率が50%台の薬剤が8剤あるが、DLTの分散がはかれる薬剤の組み合
わせは4剤となり、その時のSDI=3~4で治癒率40-60%となった。これに該当するものに、MOPP
とABVDの2つの併用療法があるが、これを交代併用したMOPP/ABVDはABVDと同等の効果し
か得られなかった。この場合のSDI=3~4であった。
3. 乳がん)固形がんの場合のUDIは奏効率が30%に得られるDIと定義した。乳がんではCMF、
CAFなどの併用療法でもSDIは1.8-1.9で治癒率は10%以下にしか得られなかった。
・塩酸イリノテカンとタキソールの第I/II相試験)塩酸イリノテカンを抗癌剤投与第1日、8日、
15日に投与し、タキソテールは第2日に投与する。これを1コースとし、原則として28日間隔で
最低2コース行うものとした。抗癌剤は、初回投与量(CPT-11=40mg/sq、タキソテール=30mg/sq)
より安全性を確認しながら、下記のように徐々に増量した。
レベル1 CTP-11=40, タキソテール=30
レベル2 CPT-11=40, タキソテール=40
レベル3 CPT-11=50, タキソテール=40
レベル4 CPT-11=50, タキソテール=50
レベル5A CPT-11=60, タキソテール=50
レベル5B CPT-11=50, タキソテール=60(投与量の単位はmg/sq)
合計32例が登録された。男性21例、女性11例で、年齢は中央値56才、Performance Status
はほとんど(31例)が0または1であった。臨床病期ではIIIB 5例、IV期27例で、組織型は腺癌
21例、扁平上皮癌11例であった。レベル5A(CPT-11 60mg/sq、タキソテール 50mg/sq)および
レベル5B(CPT-11 50mg/sq、タキソテール 60mg/sq)で、DLTがそれぞれ6例中3例、3例中
3例に発現したため、これらの投与レベルがMTDと決定された。主なDLTは、grade2以上の下
痢と3日以上持続するgrade4の好中球減少であった。抗腫瘍効果は、32例中31例で評価可能で
あり、CR 0例、PR 11例(35.4%)、NC 8例(25.8%)、PD 9例(29.0%)であった。抗腫瘍
効果と投与レベルには、相関関係は見られなかった。また、この併用療法では、投与第8日、15日
のCPT-11の投与基準を白血球数3000以上、血小板数10万以上とした場合、いずれかの投与日の
CPT-11をスキップしなければならない症例は、MTDでは9例全例、MTDの一つ下のレベル
(CPT-11 50mg/sq、タキソテール 50mg/sq)でも6例中4例となった。また、その原因は主に白
血球減少であった。
・シスプラチンとドセタキセルの第I/II相試験)わが国のがん化学療法では75才以下の患者を
対象に入院治療で行うことが一般的であるが、高齢者に対しても有効性を担保し得る外来化学療法
の開発は今日的な再重要課題と言える。本年度は進行非小細胞肺がんに対して外来投与の可能なシ
スプラチン (CDDP)とドセタキセル (DTX) の週一回投与法の第I/II相試験を計画し、その問題点
の所在を検討することとした。
対象は組織診または細胞診で確診の得られた切除および根治照射不能な成人(20才以上)非小細
胞肺がん症例で、文書による同意が得られた化学療法未施行例、PS: 0-1、主要臓器機能を保持する
ものとした。対象は年齢によって2群(74才以下と75歳以上)に分け、それぞれCDDPおよび
DTXを第1、8、15日静脈投与し、4週間隔で繰り返した。Level 1としてCDDP25mg/m2、
DTX20mg/m2を1日量として投与し、Level 2以降はDTXを5mg/m2/dayづつ増量し、Level 10
ではDTX量をLevel 9 (60mg/m2) のままCDDPを30mg/m2に増量することとした。用量規制毒
性(DLT)は、1)Grade 4の血液毒性、2)Grade 3の好中球減少に伴う38度C以上の発熱、3)
Grade 3以上の非血液毒性、4)第8又は15日の投与ができなかった場合、5)血清Cr値が2.0mg/dl
以上となり輸液を必要とした場合の何れかが出現した場合とし、3例にDLTを認めない場合は次の
Levelに進行することとした。また、推奨用量については2コース目以降の毒性データを加味して
検討することとした。症例登録、プロトコールの遵守については全く問題は認められなかった。
74才以下の群ではLevel 4 (CDDP: 25mg/ m2、DTX35mg/m2)まで初回コースにおける評価で
はDLTを全く認めずLevel 5に増量した。この時点でDLTを認めたが6例中2例のみであったた
め、更にLevel 6に増量した。Level 6自体では3例いずれにもDLTを認めなかったが、2コース
以降の毒性評価でLevel 5に1例DLTを認めたため(計3/6例:白血球減少2、肝機能障害1)、
Level 5を最大耐用量(MTD)と判断し、Level 4を推奨用量と決定した。なお、DLTを全コースで
評価した場合、既にLevel 1と2においても各1例(肝機能障害例と感染例)を認めており、初回
コースの結果のみからDLTを判断することの危うさが指摘された。75才以上の群においても同様
であり、初回コ-スの毒性評価ではLevel 1は全く問題なく(1/3)、Level 2 (CDDP: 25mg/m2、
DTX 25mg/m2) においても6例中1例にDLTを認めるのみであった。しかし、実際にはLevel 2
において、計3例が次のコースに進行できず(DLTの4に相当)、これをMTD、Level 1を推奨
用量と判断した。評価の終了した症例の奏効率は74才以下では26%(6/23)、75才以上で44%
(4/9)であった。
考察=非臨床では併用効果を細胞レベルで調べた文献が多い。synergismの判定にはmedian-
effect法がよく使われている。臨床での投与スケジュールの重要性を細胞レベルでの2薬剤への連
続暴露実験から示唆する例が見られる。これをin vivoのxenograftで確かめた文献も1例だけ見ら
れた。動物個体レベルで併用効果を見た例はわずかであった。また、分子レベルでの併用効果から
臨床効果を予測した文献は、今回の検索では見られなかった。今後併用する抗がん剤の作用を分子、
in vitro、in vivo、動物個体レベルで系統的に検討する必要性が示唆された。
CRMを用い少ない症例数で用量選択を可能とする情報を集積できた。しかし、反応が比較的平
坦あるいは設定用量幅が小さい場合には、このような用量間の分離が得られない可能性も高い。こ
の場合も考慮し、停止規則としては、(推奨)用量のDLT出現確率分布自体の幅が一定以下とな
ることを加えることを提案できる。
上記に提案した方法の数理的挙動を明らかにするために、コンピュータシミュレーションによる
実験を行う計画である。また、この挙動に事前情報が与える影響を考察し、どの程度の事前情報の
精度が効率的なI/II相試験の実施に必要か検討する予定である。
SDI値により、有効な併用療法を事前に推定できた。これにより、治癒率の向上が期待できる併
用療法の要件は以下のごとくまとめられる。1.奏効率約30-40%以上の有効な抗がん剤の併用が必
要、2.毒性の分散(DLTが重ならない)、3.耐性機序が異なった薬剤の併用が必要、4.併用したとき
のSDIは少なくとも3より大、 5.併用スケジュールによる効果は同時併用>交替併用である。
CPT-11+タキソールの併用は非小細胞肺癌に対して20%以上の有効性が確認されている新規抗
癌剤同士の併用療法であることより、世界的に注目されるものと考えている。また、これらの併用
療法の第I相試験は、欧米ではCPT-11が認可されてまもないため、本試験以外に1報(学会発表)
しか報告されていないことも、本臨床試験の先進性を示すものである。さらに、抗癌剤の用量増量
試験(第I相試験)としては、抗腫瘍効果が35%の症例でみられたことも、この治療法が、第II
相試験に進み、更に詳細に評価されるべき治療法であることを意味している。ただし、この治療法
の大きな欠点は、CPT-11の投与が白血球減少のために十分にできないことにある。この欠点を克
服するため、タキソテールの投与時期を投与第8日にずらした投与法を検討し、第II相試験を行っ
ている。
ドセタキセル+シスプラチンの第I/II相試験を通じ新薬を含む多剤併用療法の第I/II相試験では
初回コースのみから毒性評価を行うことには危うさが指摘された。本療法は第1、8、15日までは
週1回投与としていたため、Levelの調整が短期間で可能であったが、大量化学療法で投与間隔が
空く場合にはこの点をどのように克服するかが問題点と思われた。また、年齢とMTDの関連性に
ついては薬物代謝能の差を反映しているとも考えられる。現在、第II相試験において74歳以下と
75歳以上の2群における薬物動態を検討中である。
結論

公開日・更新日

公開日
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更新日
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