文献情報
文献番号
201724021A
報告書区分
総括
研究課題名
危険ドラッグ等の乱用薬物に関する分析情報の収集及び危害影響予測に関する研究
研究課題名(英字)
-
課題番号
H27-医薬A-一般-003
研究年度
平成29(2017)年度
研究代表者(所属機関)
花尻 瑠理(木倉 瑠理)(国立医薬品食品衛生研究所 生薬部)
研究分担者(所属機関)
- 緒方 潤( 国立医薬品食品衛生研究所 生薬部 )
- 田中 理恵( 国立医薬品食品衛生研究所 生薬部 )
- 出水 庸介( 国立医薬品食品衛生研究所 有機化学部 )
- 関野 祐子(東京大学大学院 薬学系研究科)
- 石井 祐次(九州大学大学院 薬学研究院)
- 裏出 良博(筑波大学 国際統合睡眠医科学研究機構)
- 熊谷 英敏(東京大学 医学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 医薬品・医療機器等レギュラトリーサイエンス政策研究
研究開始年度
平成27(2015)年度
研究終了予定年度
平成29(2017)年度
研究費
9,590,000円
研究者交替、所属機関変更
研究分担者変更
栗原正明(平成27,28年度)→出水庸介(平成29年度)
所属機関変更
関野祐子:平成27,28年度国立医薬品食品衛生研究所薬理部部長→平成29年度東京大学大学院薬学系研究科特任教授
研究報告書(概要版)
研究目的
本研究は,具体的な化合物や植物を指定薬物として指定する際に必要な評価手法及び科学的データを監視指導・麻薬行政に提供することを目的とする.新たに出現する危険ドラッグに対し,より迅速にかつ的確に危害影響を予測しうる迅速識別法及び活性評価手法の検討に主点をおいた.
研究方法
新規流通危険ドラッグについて,インターネットにおける国際的な製品流通情報や,国連等が発信する海外薬物情報を広く収集するとともに,問題となりうる製品を入手,新規流通化合物の構造決定及び分析用標品の準備・各種分析データの整備,識別法等を検討した.一方,危険ドラッグの中枢神経系への影響を検討するために,コンピューター活性予測法,及び培養神経細胞や中枢受容体発現細胞を用いた作用評価法を検討した.また,危険ドラッグのマウス脳メタボロームに及ぼす影響を解析すると共に,マウスの自発運動に及ぼす影響を検討した.さらに,危険ドラッグ市場に流通する植物製品のDNA解析による基原種特定手法の検討を行った.
結果と考察
新規流通危険ドラッグ計13化合物を検出し,GC-MS, LC-MS, NMR等各種測定データを取得した.シート状の危険ドラッグ製品から新規LSD類縁体4種類を同定した.流行の主流であった新規合成カンナビノイド類は検出されず,検出化合物の構造の多様化が認められた.2014年から2015年に入手した危険ドラッグ1176製品について,指定薬物・危険ドラッグ成分を対象とした分析調査を実施し,規制強化に伴う検出化合物の推移を検討した.これらの危険ドラッグ分析データ及び製品情報は,研究代表者らが構築した違法ドラッグデータ閲覧システムに収載し,国内外の分析機関に公開した.2つの不斉炭素を有するメチルフェニデート構造類似9化合物について,キラルカラム及び円二色性検出器(CD)を用いたLC-CDによる光学異性体分離分析法を検討し,危険ドラッグ製品中化合物の異性体分析に適用した.覚せい剤や麻薬に簡単な処理ではずすことが可能な置換基が導入された新規出現化合物t-BOC-MA, t-BOC-MDMA及びMOC-MDAについて,分析用標品確保を目的とした合成を行うと共に,酸性条件下での経時的変化をNMRで観測した.2016年に報告されたカンナビノイド受容体のX線結晶構造をもとに,69種類の合成カンナビノイドとのドッキングスタディを行い,各合成カンナビノイドの結合エネルギーと活性との相関関係評価を行った.カンナビノイド受容体(CB1RとCB2R)の下流のβ-アレスチン経路の活性化を指標としたアッセイ系を確立し,内因性アゴニスト(AEA及び2-AG),大麻活性成分(Δ9-THC)及び合成カンナビノイド(JWH-018)に対する反応性プロファイルを検討した.その結果,内因性カンナビノイド,大麻成分と合成カンナビノイドでは,カンナビノイド受容体下流のシグナル伝達に違いがあることが明らかとなった.PCP構造類似危険ドラッグの薬理活性評価において,成熟した神経細胞の樹状突起スパインに集積するアクチン結合タンパク質ドレブリンの免疫細胞染色法を使ったハイスループットアッセイ法を適用した.マウス小脳スライス標本のパッチクランプ法によるin vitro危険ドラッグ薬理作用評価法を,ベンゾジアゼピン系危険ドラッグ及びF-phenibut等のGABA類縁体の評価に適用した.ベンゾジアゼピン系危険ドラッグ7化合物についてマウスの自発運動量に及ぼす作用を検討した結果,6化合物において有意な自発運動量減少が認められた.JWH-018により引き起される生体応答のメカニズムの理解のために,CB1ノックアウトマウスを用いて,化合物投与マウスにおける内因性カンナビノイドの変動を定量し,その機構及び学習・記憶を含む障害性との関連を検討した.幻覚成分ジメチルトリプタミンが検出されたアカシアパウダーと呼ばれる植物製品についてDNA分析を行い,マメ科ネムノキ亜科Acacia confusaであることを示した.種子中に幻覚成分リゼルグ酸アミドを含有し,危険ドラッグ市場での流通が認められているヒルガオ科オオバアサガオ属Argyreia nervosa(Hawaiian baby woodrose)の種子と,園芸栽培用のアサガオ(Ipomoea属2製品)の種子について,DNA分析による簡易識別法の検討を行った.
結論
指定薬物総数は平成30年3月末時点で2373となった.本研究成果の一部は,平成29年度に5回実施された指定薬物指定の根拠資料として用いられた.分析データは監視指導・麻薬対策課長通知として発出されると共に,国立衛研違法ドラッグ検索システムに収載され,国内外の分析機関に公開された.本研究結果はこれらの規制化に有用な情報を提供し,国の監視指導行政に直接貢献するものである.
公開日・更新日
公開日
2019-05-21
更新日
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