文献情報
文献番号
201724020A
報告書区分
総括
研究課題名
危険ドラッグおよび関連代謝産物の有害性予測法の確立と乱用実態把握に関する研究
課題番号
H27-医薬A-一般-002
研究年度
平成29(2017)年度
研究代表者(所属機関)
舩田 正彦(国立研究開発法人 国立精神・神経医療研究センター 精神保健研究所 薬物依存研究部)
研究分担者(所属機関)
- 栗原 正明(国際医療福祉大学 薬学部)
- 浅沼 幹人(岡山大学 大学院医歯薬学総合研究科神経情報学分野)
- 北市 清幸(岐阜薬科大学 薬物動態学教室)
- 嶋根 卓也(国立研究開発法人 国立精神・神経医療研究センター 精神保健研究所 薬物依存研究部 )
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 医薬品・医療機器等レギュラトリーサイエンス政策研究
研究開始年度
平成27(2015)年度
研究終了予定年度
平成29(2017)年度
研究費
3,880,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
危険ドラッグとして、様々な新規精神活性物質が流通している。合成カンナビノイドおよびカチノン系化合物は、依存性や細胞毒性等の強力な有害作用を示すため、包括指定等による規制拡大がなされた。近年、欧米諸国において危険ドラッグであるフェンタニル類縁化合物の流通が台頭し、過量摂取による死亡例が多発している。フェンタニル類縁化合物の有害作用を検証し、包括指定等の対応が急務である。本研究では、フェンタニル類縁化合物の有害作用解析、カチノン系化合物および合成カンナビノイドの検出手法に関する研究を実施した。合成カンナビノイドについては、生体からの検出を目論み、代謝産物の検出およびその機能解析を行った。また、危険ドラッグの乱用状況および周知に関する調査を実施し、より適切な危険ドラッグ対策手法の立案に関する考察を行った。
研究方法
新規精神活性物質であるフェンタニル類縁化合物の行動薬理学的解析を行い、有害作用予測法の妥当性を検討した。フェンタニル類縁化合物による中枢興奮作用および細胞毒性について解析した。コンピュータシミュレーションによる危険ドラッグの有害性予測法に関する研究としては、カチノン系化合物について構造類似性に基づいた予測法であるファーマコフォアフィンガープリント法及び定量的活性相関(QSAR)法の2方法で妥当性について評価した。検出系の研究としては、in vitro発光検出系を利用してカチノン系化合物のモノアミン酸化酵素(MAO)の阻害活性について検討した。また、ヒト肝ミクロソームを利用して、合成カンナビノイドの代謝物産生をLCMS-IT-TOFにより測定した。疫学調査:音楽系の野外フェスティバルをフィールドとして、危険ドラッグ乱用実態に関する携帯端末を活用したオンライン調査を実施した。
結果と考察
本研究ではフェンタニル類縁化合物fentanyl、 acrylfentanyl、furanylfentanyl、tetrahydrofuranylfentanylについて、行動薬理学的解析を行った。フェンタニル類縁化合物により運動促進作用が発現した。これらの効果は、オピオイド受容体拮抗薬であるナロキソン前処置によって有意に抑制され、オピオイド受容体を介して発現する作用であることが明らかになった。細胞毒性については、オピオイド受容体発現細胞を使用して、薬物添加による細胞生存率の評価を行った。フェンタニル類縁化合物の処置では、細胞生存率が低下し細胞毒性が発現した。コンピュータを用いた化学計算によるカチノン系化合物の活性予測解析を行い、構造類似性に基づいた予測法であるファーマコフォアフィンガープリント法及び定量的活性相関法の2方法で有害性を予測できることが明らかになった。また、発光性MAO基質による評価から、カチノン系化合物はMAO活性阻害作用を有することが示された。更に、LCMS-IT-TOFによる合成カンナビノイド測定系の検索を行い、ヒト肝ミクロソームにおけるin vitro代謝経路の解明が可能となった。疫学調査:音楽系の野外フェスティバルをフィールドとして、危険ドラッグ乱用に関する実態調査を行った。553名より有効回答を得た。危険ドラッグの使用回数について「10 回以上」とする回答は、昨年度に比べ増加した。一方、指定薬物制度の周知率は39.6%であり、2015 年(50.7%)、2016 年(50.8%)に比べて有意に低下した。
結論
本研究より、フェンタニル類縁化合物は中枢興奮作用を有することが明らかになった。これらの薬物の中枢興奮作用の発現には、オピオイド受容体を介して発現する作用であることが明らかになった。さらに、細胞毒性を惹起することから、フェンタニル類縁化合物は乱用することにより重篤な健康被害の発生が危惧される。コンピュータを用いた化学計算によるカチノン系化合物の活性予測解析を行い、2つの手法を併用することで、より精度の高い活性予測が可能であることを明らかにした。また、今回の研究により、合成カンナビノイドの代謝プロファイルをさらに蓄積することができた。更に、本検討で用いたMAO活性検出システムは、高感度で簡便な検出手法であり、危険ドラッグの有害作用の蓋然性をスクリーニングする手法として応用可能であると考えられる。本研究の危険ドラッグに関する機能評価から、その作用強度を解析する評価システムは、危険ドラッグの中枢作用および有害作用発現の迅速な評価法として有用であり、得られる科学データは規制根拠として活用できると考えられる。危険ドラッグの入手は店舗販売から変遷しており、乱用防止のために規制の在り方を再考し一層の対策と乱用防止の啓発が必要であろう。同時に、様々なイベントを通じて、危険ドラッグ等の薬物依存症からの回復へ向かうための対策が望まれる。
公開日・更新日
公開日
2019-05-21
更新日
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