日本薬局方等医薬品基準の規格・試験方法に関する研究

文献情報

文献番号
199800648A
報告書区分
総括
研究課題名
日本薬局方等医薬品基準の規格・試験方法に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成10(1998)年度
研究代表者(所属機関)
小嶋 茂雄(国立医薬品食品衛生研究所)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 医薬安全総合研究事業
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
平成12(2000)年度
研究費
5,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
我が国における医薬品の品質に関する基準書である日本薬局方(日局)をその時点での科学技術の水準に見合ったものに改めるための作業、GMPによる医薬品の品質保証が定着しつつある中で薬局方はどうあるべきかの見直し作業、ICHやPDGにおける薬局方の国際調和の推進に対応する作業などの作業量は膨大なものとなっており、担当する専門家に過大な負担がかかるようになってきているため、コメントや返事の英文への翻訳や文書のコピー,送信などを行ってくれるなどのサポートなしにはスムーズに行えない状況にある。本研究は、そうしたサポート体制を構築するための端緒となること、ならびに、その下で日局の改正や国際調和の作業を積極的に行い、国民の福祉の向上に資することを目的とする。
研究方法
各課題毎に研究協力者を選定し、それぞれの課題の内容に応じて専門家による研究班を組織し、必要な場合には、製薬企業側からの協力研究者の参加を求めて、研究を進めた。
結果と考察
平成10年度には、下記のような研究を行い、多くの成果を挙げた:
1.通則関連 日局収載医薬品の適合基準を定めた通則4項の改正について検討した。この改正案は、JPフォーラムでの内示を経て、第十三改正日本薬局方第二追補に収載される予定となっている。ICHの化学合成医薬品の規格及び試験方法に関するガイドライン(Q6A)案には、定期的試験/スキップ試験,パラメトリックリリースなど、我が国の現行の医薬品承認・許可制度にない考え方が含まれている。我が国では、従来、規格にある項目はすべて出荷時に試験する必要があるとしてきたことから、Q6Aを取り込むに当たってはこれらの考え方を実施できる体制を整備しておく必要がある。本研究は、そうした体制整備のために行ったもので、日局の通則にこれらの考え方を許容する規定を盛り込むことにより、行政側がQ6Aの要請に対応できる法的根拠を与えることができた。
2.製剤試験法関連 溶出試験の規格は、生物学的同等性を保証できる規格であることが望ましい。しかしながら、現行の日局溶出試験の判定基準は、こうした目的が十分達成できるものとは言えない。そこで、判定基準の国際調和を目指して、USPの判定基準について検討するとともに、消費者危険のコンセプトを導入して、計量型判定基準と計数試験を組み合わせた新しい判定基準の案を作成した。この新しい判定基準を用いることにより、現在の日局の判定基準に比べて、同じ検査個数でより高い信頼性が得られるとともに、消費者危険率を大きくすることなく生産者危険率を減少させることができた。また、この判定基準には、USPの判定基準と異なり、ロットのばらつきに関わらず消費者危険を常に一定に保てるという特徴があることが示された。
3.理化学試験法関連 現行の日局一般試験法「浸透圧測定法」には、いくつかの問題があり、改正の必要性が指摘されてきた。これらの指摘に応えるため、装置適合性試験などについて実験的検証を行い、その結果に基づいて改正案を提案した。
4.生物医薬品関連  1)エリスロポエチン(EPO)製剤の品質評価試験法の等電点電気泳動法(IEF)からキャピラリー電気泳動法(CZE)への置き換えに関して、EPの呼びかけた国際共同研究に参加した。CZEは、EPOのグリコフォームの分析においてIEFと同等な結果を与え、再現性に優れ、感度もよいことから、分析法の改良に伴い、EPOの評価法としての有用性が高まるものと期待される。 2)WHOの要請を受けて、第5次未分画ヘパリン国際標準品の国際共同検定に参画した。第4次国際標準品82/502を基準として、2種類のブタ粘膜由来未分画ヘパリン標準品候補AおよびBの力価をアンチトロンビンを介したファクターXaの阻害活性で測定した。4回の繰り返し実験から、A,Bの力価をそれぞれ2250 IU/mL,2300 IU/mLと算出して、WHOに報告した。
5.化学合成医薬品関連 ICHガイドラインにより我が国での従来の考え方から大きく変わり、緊急に検討する必要のある不純物の規格について、日局に収載する際の考え方を検討した。まず、既収載品目の内容を変更することは、製薬業界や消費者に混乱を招きかねず、労力やコストに見合うだけのメリットがないと判断された。一方、新規収載品目に関しては、日局新収載品の規格が新たに開発される医薬品の規格のモデルとなることから、ICHガイドラインの考え方を基にて規格を設定することが望ましいと判断された。この方向は、日局医薬品の安全性や有効性を確保する上でも望ましいと考えられる。
6.生薬関連 日局収載生薬のほとんどは、千年以上も前に中国大陸から渡来したものであるが、長い歴史を経て、名称や基原植物を異にするようになり、また、近代に入ってからは、生物学的ならびに化学的試験法に両国独自の見解が採り入れられ、規格の内容に大きな相違点が生じている。生薬の国際化の時代を迎えたことから、両国間の生薬規格の調和を意図して本研究を行った。まず、日本と中国の間で薬局方生薬に関して調和が必要な項目について、1)日中の改正の動き,2)日本と中国の薬局方における共通点と相違点,3)生薬に関する標準品,4)個々の生薬の規格作成の動きの4項目に整理した。日中両国でこれらのテーマについて調査を進めたのち、両国の研究担当者,生薬関連企業,大学研究者を交えたシンポジウムを日本で開催して、意見を交換した。このシンポジウムでは、第一段階の対象とした日中共通と考えられる品目の国際調和に関して、両国から種々の提案が出された。来年度以降も研究の継続を希望する点では、両国の意見が一致した。
7.日抗基関連 現在では、抗生物質の品質規格を日本抗生物質医薬品基準(日抗基)という独立した規格書として制定する意義は乏しく、日局に含めるのが適当との行政的判断がなされたため、移行に当たっての問題点について3年計画で検討を行うこととした。本年度は、日局と日抗基の規格設定の仕方の違いを検証し、日局における抗生物質規格のあるべき姿を明確にすることを目指す。日局では、原薬の規格は必要十分なものとされているが、日抗基では、minimum requirementとして規定されている。抗生物質の承認の際には、日抗基規格とともに日抗基外規格が設定されており、この2つの規格を併せてはじめて必要十分なものとなっている。したがって、日抗基の規格をそのまま日局に移行させるだけでは、その抗生物質の品質を十分に保証できないと考えられた。こうしたことから、日抗基規格を日局に移行する際には、日抗基規格と日抗基外規格を統合した上で、必要な項目の有無をチェックする必要があると考えられる。
8.名称関連 日局収載医薬品の名称を IUPAC の化合物命名法と整合したものに改めるための研究では、IUPAC提案の "A Guide to IUPAC Nomenclature of Organic Compounds: Recommendations 1993" に基づいて、日局収載医薬品の化学名について調査を行った結果、置換位置を示すSuffixを置く位置を変える必要があることが明らかとなった。また、日局収載医薬品の構造式の国際調和に関する研究では、USPなど諸外国の薬局方に掲載されている構造式が、徐々に従来の活字印刷し易いものからコンピュータ処理の容易なものに変更されつつある現状が明らかとなった。
なお、本研究の目的の一つとしているサポート体制の構築に関しては、各分担研究者の下で現在整備中である。
結論
研究結果の項に記載したように、8人の分担研究者は、それぞれが担当する分野における日局改正やその国際調和の課題に精力的に取り組んできている。
しかしながら、我が国における医薬品の承認審査や監視指導は、ICHによる国際調和の動きが加速し、GMPが国内的に広く普及する中で、そのあり方が大きく変わろうとしており、日局にも検討すべき課題が次から次へと提起されてきている状況である。
欧米では、薬局方の改正作業とその基礎となる研究は、国民の福祉の確保と向上の一環として位置付けられ、政府の援助を受けて、事務局体制を確立した上で行われている。一方、我が国では、日本薬局方の改正作業とそれを支える試験研究に多数の専門家が多大の時間を割いているにも拘わらず、そのほとんどは手弁当的な状態で行われており、こうした専門家の活動を促進し、その負担を軽減するための措置が国の手で十分に講じられているとは言い難い状態にある。日局が、USPやEPに伍して国際調和に主体的に係わっていくためには、欧米に比べていかにも貧弱な事務局体制を充実・強化することが必須と考えられる。この事務局体制の充実・強化が専門家の過大な負担を軽減する上での最大の眼目であり、現在の体制のままでは不十分な対応しかできず、かつ時間もかかるため、他の薬局方から常に改善を求められている状況にある。

公開日・更新日

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