抗狭心症薬の臨床評価法に関する研究

文献情報

文献番号
199800647A
報告書区分
総括
研究課題名
抗狭心症薬の臨床評価法に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成10(1998)年度
研究代表者(所属機関)
岸田 浩(日本医科大学第一内科)
研究分担者(所属機関)
  • 村山正博(聖マリアンナ医科大学第2内科)
  • 齋藤宗靖(自治医科大学附属大宮医療センター心臓血管科)
  • 川久保清(東京大学健康科学、看護学)
  • 折笠秀樹(富山医科薬科大学医学部)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 医薬安全総合研究事業
研究開始年度
-
研究終了予定年度
-
研究費
3,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
1985年には、厚生省循環器病委託研究班(主任研究員:加藤和三)により「抗狭心
症薬の臨床評価法に関するガイドライン」が出され、これまで多くの治験はこれに準拠し
て判定されてきた.しかし、13年経過し狭心症の診断法及び治療法は当時とはかなり様
相を異にしてきたため、現行のガイドラインを改訂する必要性が生じてきた.当時の狭心
症の治療目標は、狭心症状を改善させることであったが、近年の治療目標の中心は、症状
の消失のみならずその原因である冠動脈狭窄病変の治療へと進歩し、その治療法として経
皮的冠動脈形成術が定着した.このような狭心症の医療の現状を考慮すると、現行のガイ
ドラインの中で、患者選択基準として、狭心症発作回数を主要評価項目としている.発作
回数4回以上/1週間、観察期間を実薬投与なしで2週間として症例をリクルートとする
ことは極めて困難であり、より有効な治療法が確立された中で現行の基準を使用すること
は倫理的にも問題がある.このような背景から、労作狭心症患者の選択には運動負荷試験
による判定が有用であり、この方法により客観的な薬効判定も可能である.運動負荷試験
検査法は、狭心症の評価法として国外のガイドラインではもっとも重視されている方法で
ある.本研究は狭心症病態及び治療法に関する最近の知見を元にした抗狭心症薬の臨床評
価法を新しく開発しガイドラインを作成する.
研究方法
現行のガイドラインの問題点、修正点を明らかにするために、最近国内で実施した治験
のデータベースを作成し分析した.さらにわが国の抗狭心症薬カイドラインをFDA(米
国)新ガイドライン(Guidelines for the Clinical Evaluation of Anti-anginal
Drung)、およびCPMP(ヨーロッパ)ガイドライン(Note for Guidance on the
Clinical Investigation of Anti-anginal Medical Products in Stable Angina
Pectoris)と比較検討した.
結果と考察
国外のガイドラインの特徴として、FDAでは主に狭心症の診断基準ならびに症例選択
基準に重点が置かれているのに対し、CPMPでは薬効評価基準に関する記載が主であるが、
わが国では両者の利点を合わせもった満足できるガイドラインの作成を検討している.わ
が国におけるこれまでの抗狭心症薬治験に関して、治験対象のエントリー基準としての臨
床症状に客観性が乏しいこと、虚血誘発法としての運動負荷試験プロトコールと判定法に
確立した基準がないこと、さらに抗狭心症薬の種類によって効果判定法は異なる方が良い
とする意見など多くの問題点が挙げられている.従来のわが国のガイドラインは、当時の
本邦の医療水準に見合った狭心症の診断と効果判定基準を考慮したため、胸痛を主たる診
断、評価の指標とした. その後、胸痛による判定法のみでは、主観的な面があり、狭心症
の診断、薬効評価に疑問がもたれた.我々は客観的な指標としてトレッドミル運動負荷試
験の利用を検討し、治験実施症例を元に薬効評価に有用な判定項目、判定基準、再現性を
調査し、日本心電学会「抗狭心症薬判定小委員会」が1996年に運動負荷試験及びホルタ
ー心電図による新しい判定基準を提唱した.その後、同学会「運動負荷心電図の標準化に
関する委員会」(委員長:村山正博)が、そのうちの運動負荷判定基準の実地応用を試み、
抗狭心症薬判定の問題点として判定された運動耐容時間の長さや心電図ST下降度の判定
基準によって薬効判定に差が生ずることを指摘した.わが国の治験結果の分析により、臨
床症状に客観性が乏しい一因として、労作兼安静狭心症患者における胸痛発作の信頼性が
低く、本来の冠動脈疾患由来の患者との鑑別が困難であるため、労作兼安静狭心症を対象
から除外し、安定労作狭心症のみを対象とすることにした.一方、不安定狭心症例につい
て、病態や発症機序が均一でないため、単一のガイドラインで評価はできないため、この
委員会では取り扱わないこととした.国外のガイドラインにおいても不安定狭心症は除外
対象疾患に含まれている.なお、異型狭心症は、その発症機序が冠攣縮であり、病態の均
一性から胸痛発作回数やホルター心電図から評価可能であり、わが国に多い疾患であるこ
とより別途ガイドラインの作成を検討することとした.国外では、安定労作狭心症を対象
とし、運動負荷試験法が症例選択基準と評価方法に使用されている.わが国の治験データ
を分析したところ、自覚症状改善度と運動負荷試験改善度の評価に差がないため、臨床症
状を中心とした試験方法から、運動負荷試験への変更は可能であると判断した.安定労作
狭心症患者の選択基準は、労作狭心症の病歴、運動負荷試験での中等度以上の胸痛を必須
条件として、ST下降、冠動脈病変の存在の確認、心筋梗塞の既往、負荷心筋シンチ場性
などの基準の組み合わせが提案された.なお、冠動脈造影検査は必須としないことにした.
運動負荷試験方法は、標準ブルース法によるトレッドミル運動負荷試験方法が最も普及し
ており、これを標準としているFDAのガイドラインが実践的であり参考にすることにし
た.対象選択におけおける運動負荷試験基準として、トレッドミル法(標準ブルース法)
を用い、1)運動負荷時に中等度の胸痛、2)1 mm以上のST下降、3)再現性は運動時
間の±15%(CPMPは±20%以内)、4)運動時間は3~7分の負荷が妥当と考えら
れる.薬効評価における運動負荷試験プロトコールと判定法の基準についても、本邦の治
験における試験方法の調査などにより、トレッドミル法(標準ブルース法)を用いて実施
可能と判断された.また、抗狭心症薬の種類と効果判定法について、これまでの治験成績
調査では、運動負荷試験改善度と自覚症状改善度の関係は、運動負荷試験改善度はβ-遮
断薬で優位、硝酸薬は自覚症状改善度が優位であり、カルシウム拮抗薬はその中間であっ
た.しかし、これらの対象は労作兼安静狭心症が含まれており、安定労作狭心症を対象と
するならば、薬剤の種類とは無関係に運動負荷試験による科学的客観性をもった判定方法
の作成ができると考えられる.運動負荷試験による評価項目では、プライマリー効果の評
価は胸痛を伴う運動時間が良いとの提案があった.その他の項目における3極間の前臨床、
第1~3相試験、再現性、併用薬、長期試験に関する比較、検討がなされ、その中で、用
量設定試験は今回のガイドラインで十分検討する必要があると提案された.長期試験につ
いては、プリマリーエンドポントとして、生命予後、心事故を用いるのは安定労作狭心症
の場合には現実的でないとの意見が大勢を占めた.評価に関する統計学的手法について、
クロスオーバー法は日本の状況では困難が多いため、二重盲検群間比較試験を推奨した.
運動負荷試験の評価法について、従来の改善度判定やパラメーターによるスコアー化より
も数値による表現が良いと報告した.しかし、新薬が既存の薬とほぼ同等か、有用性が高
く優れているとの評価にはスコアー使用もありうると補足した.有害事象の取扱いや被験
者の同意取得に関する内容や安全性評価に関する問題点については、今年度は取り上げな
かっが、現行ガイドラインの改定によって倫理性、科学性、信頼性はさらに向上するもの
と考える.
結論
現行の抗狭心症薬効果判定ガイドラインの問題点、修正点を明らかにするため、国内で
の治験データベースを作成し検討、またFDAとCPMPのガイドラインと比較し、以下の
結論を得た.1)国外では、安定労作狭心症を対象とし、運動負荷試験法が症例選択基準
と評価方法に使用されている.2)治験データを分析では、自覚症状改善度と運動負荷試
験改善度の評価に差がないため、臨床症状を中心とした試験方法から、運動負荷試験への
変更は可能であると判断した.3)対象を安定労作狭心症に限定することで、薬剤の種類
によって効果判定法を変える必要性はないと判断した.

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