食品関連製品に含有されるナノ素材の経口動態・ハザード情報の集積と、新規物性・品質解析手法に関する研究

文献情報

文献番号
201723036A
報告書区分
総括
研究課題名
食品関連製品に含有されるナノ素材の経口動態・ハザード情報の集積と、新規物性・品質解析手法に関する研究
課題番号
H28-食品-若手-014
研究年度
平成29(2017)年度
研究代表者(所属機関)
東阪 和馬(大阪大学 大学院医学系研究科 法医学教室)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 食品の安全確保推進研究
研究開始年度
平成28(2016)年度
研究終了予定年度
平成29(2017)年度
研究費
3,800,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
近年の食と健康に関する研究の進展により、健康の維持・増進や生活習慣病の予防に役立つ新たな素材や成分が次々と開発されている。従って、食の安全・安心に対する希求は増しており、食品に使用される新素材・新成分についても同様に、安全性の確保が喫緊の課題となっている。一方で昨今、ナノ素材(粒子径100 nm以下)をはじめとした、21世紀テクノロジーを活用した新素材の利用が食品業界においても急速に進行している。しかし、食品関連製品に含有されるナノ素材においては、経口摂取時のハザード情報すら少ないうえ、その動態情報、とりわけ、蓄積性や排泄性に関しては殆ど理解されておらず、世界的に観ても、リスク解析の必要性を検証することすらできていないのが現状である。さらに、ナノ素材の動態特性とその後の安全性を運命付ける、存在様式(粒子径・分散/凝集状態等)を分析・理解するための解析手法も確立されていない。そこで本研究では、種々物性の食品関連製品に含有されるナノ素材(ナノ銀・ナノ白金等)を用い、①食品関連製品に含有されるナノ素材の経口動態・ハザード情報の収集を図ると共に、②既存のナノ素材の定量法を応用・改変することで、ナノ素材の経口曝露後の存在量・存在様式を同時解析するための技術基盤の構築を試みた。
研究方法
食品分野において汎用されているナノ銀粒子、ナノ白金粒子をモデル粒子として用い、①ナノ白金粒子を経口曝露した際の動態解析を進め、特に、曝露後の組織分布について評価し、また、②反復投与による一般毒性に関するハザード同定を実施した。さらに、③前年度までに構築した、技術基盤を用いることで、ナノ銀粒子を曝露後の血液における存在量・存在様式について解析を試みた。
結果と考察
平成29年度研究では、まず、ナノ白金粒子の経口曝露後の組織分布について解析を試みた。表面がクエン酸修飾された粒子径5、30、70 nmのナノ白金粒子(それぞれnPt5、nPt30、nPt70)をマウスに単回経口投与し、24時間後に脱血した各種臓器を回収し、含有される白金量を誘導結合プラズマ質量分析計により定量解析した。その結果、(1)心臓、肺、肝臓、腎臓から白金が検出され、肝臓、腎臓においては、粒子径が小さいほど、移行しやすい傾向が示されること、一方で、(2)本投与条件においては、ナノ白金粒子の静脈内投与による臓器重量、血液成分への影響は殆ど認められないことが示された。従って、ナノ白金粒子は、単回経口曝露により腸管吸収された後、肝臓、腎臓といった主要組織に分布することが明らかとなり、今後、反復経口曝露後の移行性や蓄積性を含めた、より詳細な曝露実態情報の収集と共に、各臓器に焦点をあてたハザード情報を収集していくことが不可欠である。また、実際に生体内に投与されたNMの測定において、前年度までに構築した基盤技術(ICP-MSの時間分析モードによる単一粒子ICP-MS法)が利用可能であるかを評価した。BALB/cマウスに表面がクエン酸修飾された粒子径100 nmのナノ銀粒子(nAg100)を1.5 mg/kgにて静脈内に投与し、24時間後において採血した後、血中における銀の存在量と存在様式を解析した。その結果、nAg100投与群では血中銀濃度が354 ng/mLを示した一方で、そのうちに占める粒子の割合は重量ベースでは1パーセントに満たない程度であることが示された。従って、今後より詳細に解析を進めていく必要はあるが、nAg100は投与24時間後の血中では、粒子としてではなく、イオンとして殆どのものが存在していることが示唆された。今後、本技術基盤を適用することで、経口曝露後のNMの曝露実態(生体内での存在量と存在様式)を踏まえた、曝露後のハザード発現に対する理解、評価が、NMのリスク解析に資する重要な知見につながるものと期待する。
結論
本研究により得られる、NMの経口動態・ハザード情報は、今後のリスク解析の是非を議論するうえで重要な知見となり得るものである。さらに、NMの動態特性とその後の安全性を運命付ける、NMの粒子径・分散/凝集状態等といった、物性・品質の解析を可能にする評価基盤の構築は、安全性を高度に担保可能な物性・品質を見出すことにつながると共に、食品関連製品に含有されるNMの品質評価・確保、安全性評価手法などに関するレギュレーション策定に資する情報を提供し得るものと考えている。

公開日・更新日

公開日
2018-06-13
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

文献情報

文献番号
201723036B
報告書区分
総合
研究課題名
食品関連製品に含有されるナノ素材の経口動態・ハザード情報の集積と、新規物性・品質解析手法に関する研究
課題番号
H28-食品-若手-014
研究年度
平成29(2017)年度
研究代表者(所属機関)
東阪 和馬(大阪大学 大学院医学系研究科 法医学教室)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 食品の安全確保推進研究
研究開始年度
平成28(2016)年度
研究終了予定年度
平成29(2017)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究では、種々物性の食品関連製品に含有されるナノ素材(NM:ナノ銀・ナノ白金等)を用い、①食品関連製品に含有されるNMの経口動態・ハザード情報の収集を図ると共に、②既存のNMの定量法を応用・改変することで、NMの経口曝露後の存在量・存在様式を同時解析するための技術基盤の構築を試みた。
研究方法
既に食品分野において汎用されているナノ銀粒子、ナノ白金粒子をモデル粒子として用いた。まず、(1)ナノ白金粒子を経口曝露した際の腸管吸収性、および、曝露後の組織分布について評価し、また、(2)単回・反復投与による一般毒性に関するハザード同定を試みた。さらに、(3)ナノ素材の物性・品質解析法の開発に向けた、血液・組織中における存在量と存在様式を同時に評価し得る方法の構築に向けた基礎情報の収集を図ると共に、本技術基盤を用いることで、ナノ銀粒子を曝露後の血液における存在量・存在様式について解析を試みた。
結果と考察
まず、表面がクエン酸修飾された粒子径5、30、70 nmのナノ白金粒子(それぞれnPt5、nPt30、nPt70)をそれぞれ単回経口曝露し、投与24時間後における体内吸収量、およびその後の組織分布について解析した。その結果、①いずれのナノ白金粒子も腸管バリアを通過し、体内に吸収され得ること、②ナノ白金粒子の粒子径が小さいほど、血中移行率が上昇することが示された。また、③心臓、肺、肝臓、腎臓から白金が検出され、とりわけ肝臓、腎臓においては、粒子径が小さいほど、移行しやすい傾向が示された。さらに、経口投与によりナノ白金粒子が取り込まれることが示されたことから、血中移行後のナノ白金粒子の動態解析を目的に、静脈内投与による評価を実施したところ、④投与24時間後において、脱血した各種臓器で白金が検出され、その移行量は用量依存的に増加することが示された。また、ナノ白金粒子のハザード同定を目的に、単回投与後の一般毒性を評価したが、⑤単回経口曝露により、血球成分、および生化学マーカーに有意な変動は認められないこと、⑥単回静脈内投与においても、臓器重量の変化、血液成分への影響は認められないことが示された。従って、ナノ白金粒子は、単回経口曝露により腸管吸収された後、肝臓、腎臓といった主要組織に分布することが明らかとなり、今後、反復経口曝露後の移行性や蓄積性を含めた、より詳細な曝露実態情報の収集と共に、各臓器に焦点をあてたハザード情報を収集していくことが不可欠である。
次に、ナノ銀粒子を対象に、血液中での各粒子の存在量と存在様式を同時に評価し得る基盤技術の構築を図った。その結果、⑦サンプルの前処理により、血中夾雑物の影響を受けず、量的には添加量相当、かつ質的には添加粒径にほぼ等しいナノ銀粒子を検出できることを見出した。さらに、これら基盤技術が、実際に生体内に投与されたナノ素材の測定において利用可能であるかを評価する目的で、クエン酸修飾された粒子径100 nmのナノ銀粒子(nAg100)をマウス静脈内に投与し、投与24時間後の血中における銀の存在量と存在様式を解析した。その結果、血中において銀が検出された一方で、そのうちに占める粒子の割合は重量ベースでは1パーセントに満たない程度であることが示された。従って、今後より詳細に解析を進めていく必要はあるが、⑧本技術を適用することで、nAg100は投与24時間後の血中では、粒子としてではなく、イオンとして殆どのものが存在していることが示唆された。今後、経口曝露後のナノ素材の曝露実態を踏まえた、曝露後のハザード発現に対する理解、評価が、ナノ素材のリスク解析に資する重要な知見につながるものと期待する。
結論
国民の「食の安全・安心」に対する希求の高まりも相俟って、健康立国・技術立国である我が国から発信される食品関連製品については、高度に安全性が保障されたものでなければならない。しかし現状では、食品関連製品に含有されるナノ素材について、品質を評価・管理し、安全に製造・使用していくための規制は整備されていない。従って、安全かつ有用なNMの開発支援に向けては、科学的根拠に基づいたリスク評価・管理が必要不可欠である。この点で、本研究の成果は、今後のリスク解析の是非を議論するうえで重要な知見となり得る、曝露実態情報に基づいたハザード情報の集積、およびその理解に直結するのみならず、ナノ素材の安全性評価手法に関するレギュレーション策定に資する情報をも提供し得るものと考えている。従って、将来的には、食品全般に含有されるナノ素材の社会受容や恩恵享受を促進し、新技術を活用した安全で豊かな食社会の構築に貢献するものである。

公開日・更新日

公開日
2018-06-13
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

行政効果報告

文献番号
201723036C

成果

専門的・学術的観点からの成果
本研究では、原著論文、総説・書籍を15報公表すると共に、シンポジウム2件、国内学会発表22件、国際学会発表3件で成果発表するなど、多数の論文や学会で発表しているように、安全かつ有用なナノ素材の開発支援に向け専門的・学術的に優れた成果を挙げたと言える。
臨床的観点からの成果
本研究において構築を試みた、ナノ素材の生体における存在量と存在様式(粒子径・分散/凝集状態など)を分析・理解するための解析手法は、将来的には、ヒトにおけるナノ素材の体内動態情報の収集に展開することを目指しており、ナノ素材の同定のみならず、ナノ素材の曝露実態を迅速かつ簡便に解析し、曝露実態情報を複合的に理解できることから、科学的根拠や情報の収集・明確化に直結し、リスク解析に資する基盤情報の集積を加速化させることが期待される。
ガイドライン等の開発
本研究の成果は、ナノ素材の動態特性とその後の安全性を運命付ける物性・品質の解析を可能にする評価基盤の構築に貢献するうえ、安全性を高度に担保可能な、ナノ素材の物性・品質を見出すことにつながると共に、ナノ素材の物性・品質に言及した新たなレギュレーション策定に資する情報を提供し、ナノ素材の開発およびその支援に直結するものである。
その他行政的観点からの成果
研究期間において、学会のシンポジウムなどを通じて、研究者やナノ産業界のリスクコミュニケーションを実施しており、国民が納得・安心してナノ素材の恩恵を最大限に享受でき、我が国のナノ産業の育成・発展に直結するのみならず、労働・生活衛生の向上と国民の健康確保など、ナノ素材の社会受容の促進といった国際貢献も期待できる。
その他のインパクト
特記事項なし

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
11件
その他論文(和文)
3件
その他論文(英文等)
1件
学会発表(国内学会)
24件
学会発表(国際学会等)
3件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Uemura E., Yoshioka Y., Hirai T., et al.
Relationship between size and surface modification of silica particles and enhancement and suppression of inflammatory cytokine production by lipopolysaccharide or peptidoglycan stimulated RAW264.7 macrophages.
J. Nanopart. Res.  (2016)
原著論文2
Hirai T., Yoshioka Y., Izumi N., et al.
Metal nanoparticles in the presence of lipopolysaccharides trigger the onset of metal allergy in mice.
Nat. Nanotechnol.  (2016)
原著論文3
Nagano T., Nagano K., Nabeshi H., et al.
Modifying the surface of silica nanoparticles with amino or carboxyl groups decreases their cytotoxicity to parenchymal hepatocytes.
Biol. Pharm. Bull.  (2017)
原著論文4
Higashisaka K., Nakashima A., Iwahara Y., et al.
Neutrophil depletion exacerbates pregnancy complications, including placental damage, induced by silica nanoparticles in mice.
Front. Immunol.  (2018)
原著論文5
Maki A., Lin Y., Aoyama M., et al.
Silver nanoparticles induce DNA hypomethylation through proteasome-mediated degradation of DNA methyltransferase 1
Biol. Pharm. Bull.  (2020)

公開日・更新日

公開日
2018-06-18
更新日
2022-06-09

収支報告書

文献番号
201723036Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
4,940,000円
(2)補助金確定額
4,940,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 3,563,620円
人件費・謝金 0円
旅費 20,380円
その他 216,000円
間接経費 1,140,000円
合計 4,940,000円

備考

備考
-

公開日・更新日

公開日
2018-07-02
更新日
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