野生鳥獣保有微生物種の網羅的解析による喫食リスク低減化に関する研究

文献情報

文献番号
201723035A
報告書区分
総括
研究課題名
野生鳥獣保有微生物種の網羅的解析による喫食リスク低減化に関する研究
課題番号
H28-食品-若手-012
研究年度
平成29(2017)年度
研究代表者(所属機関)
福本 晋也(国立大学法人帯広畜産大学 原虫病研究センター)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 食品の安全確保推進研究
研究開始年度
平成28(2016)年度
研究終了予定年度
平成29(2017)年度
研究費
2,700,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
 近年の野生鳥獣被害と捕獲必要性の増加を受け、野生鳥獣肉の食利用への期待が高まっている。しかしながら、その安全性の担保については理想的状態とは言えず、公衆衛生上のリスク要因であると懸念される。本研究課題は、微生物学的リスク要因を明確にすることで、野生鳥獣肉の食品衛生管理向上に資することを目的とするものである。そこで本研究では、日本で最も増加が問題となっている野生鳥獣であるシカを対象に、その主要生息地域である北海道東部地方を調査モデル地域として研究を実施する。
研究方法
 本年度においては、平成28年度において得られた次世代シーケンスによる配列データの解析を主として実施した。平成28年度において脾臓・筋肉・糞便よりDNAを抽出しメタゲノム解析を実施した。また脾臓、筋肉、血清より核酸を抽出し、RNA-SeqおよびDNA-Seq解析に供した。以上の流れで得られたデータについて解析を行うことで、どのような微生物種をエゾシカが保有しているのか、その推定を行った。メタゲノム解析においては、得られたデータに対してOTU解析を行った。その結果、クリプトスポリジウム、ブラストシスティスに対する個別疫学解析を実施した。
結果と考察
 腸管真核生物メタゲノム解析より、人感染性原虫であるブラストシスティスとクリプトスポリジウムの存在が明らかとなったため、個別に解析した。ブラストシスティスはサブタイプ14の存在が主体であった。クリプトスポリジウムは人感染性のパルバムは検出されなかった。筋肉・肝臓・血液由来核酸のRNA-Seq・DNA-Seqデータ解析の結果、食肉由来のContigではコクシジウム属原虫由来核酸が大量に検出された。解析の結果、これは住肉胞子虫の感染に起因するものであることが示唆された。肝臓由来データから、A型肝炎ウイルス様のContigが検出されたため、食品衛生検査指針微生物編に基づきPCR法による検出を試みたたが、陽性サンプルは得られなかった。腸管出血性大腸菌の解析の結果、約15%の個体がPCR法で陽性を示し、陽性サンプルのうち60%程度から腸管出血性大腸菌のコロニーの単離に成功した。14種のO抗原型が検出され、O-83が最も多く検出された。
結論
 腸管出血性大腸菌については比較的高い陽性率を示すことから、食利用時の処理については適切に行うこと、生食の危険性が再確認された。この点は、住肉胞子虫の高度感染個体も検出されることから、十分に留意すべき点であると考えられる。現在まで、全く感染が知られていなかった高病原性微生物が検出されなかったことは、今後のジビエ利用においては望ましい結果であったと考えられる。

公開日・更新日

公開日
2018-06-26
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

文献情報

文献番号
201723035B
報告書区分
総合
研究課題名
野生鳥獣保有微生物種の網羅的解析による喫食リスク低減化に関する研究
課題番号
H28-食品-若手-012
研究年度
平成29(2017)年度
研究代表者(所属機関)
福本 晋也(国立大学法人帯広畜産大学 原虫病研究センター)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 食品の安全確保推進研究
研究開始年度
平成28(2016)年度
研究終了予定年度
平成29(2017)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
 近年の野生鳥獣被害と捕獲必要性の増加を受け、野生鳥獣肉の食利用への期待が高まっている。しかしながら、その安全性の担保については理想的状態とは言えず、公衆衛生上のリスク要因であると懸念される。本研究課題は、微生物学的リスク要因を明確にすることで、野生鳥獣肉の食品衛生管理向上に資することを目的とする。
研究方法
本研究は研究代表者所属機関が位置する北海道東部地方において高密度に生息するエゾシカを対象とし、どの様な微生物種が保有されているのか、網羅的に解析を行い、野生鳥獣肉の喫食利用における食品衛生リスクを明らかにすることで、公衆衛生に資することを目的として研究を実施した。研究計画の骨子は主として以下の4点により構成される。平成28年度:(1)エゾシカサンプルの収集、(2)次世代シーケンサーによるデータ集積。平成29年度:(3)データ解析によるエゾシカ保有微生物種の網羅的同定、(4)同定微生物種毎の疫学調査。
結果と考察
 平成28年度から29年度にわたり、エゾシカサンプルを個体トレーサブルに約400検体を収集した。エゾシカサンプルのNGS解析については、サンプリングを目的どおりに達成することが出来たため、血清・筋肉・肝臓由来核酸の精製・解析を現在実施し、28年度内にデータ取得を終了した。岩手大学との共同研究により、住肉胞子虫感染率は95%以上、肝蛭感染率が約10%であった。腸管真核生物メタゲノム解析より、人感染性原虫であるブラストシスティスとクリプトスポリジウムの存在が明らかとなったため、個別に解析した。ブラストシスティスはサブタイプ14の存在がマジョリティーであった。クリプトスポリジウムは人感染性のパルバムは検出されなかった。筋肉・肝臓・血液由来核酸のRNA-Seq・DNA-Seqデータ解析の結果、食肉由来のContigではコクシジウム属原虫由来核酸が大量に検出された。解析の結果、これは住肉胞子虫の感染に起因するものであることが示唆された。肝臓由来データから、A型肝炎ウイルス様のContigが検出されたため、食品衛生検査指針微生物編に基づきPCR法による検出を試みたたが、陽性サンプルは得られなかった。腸管出血性大腸菌の解析の結果、約15%の個体がPCR法で陽性を示し、陽性サンプルのうち60%程度から腸管出血性大腸菌のコロニーの単離に成功した。14種のO抗原型が検出され、O-83が最も多く検出された。
結論
 食中毒関連病原体の疫学調査においては、多くの個体が住肉胞子虫・肝蛭を保有しており、従来の情報どおりエゾシカ刺し、レバ刺し等の生食は危険であることが再確認された。住肉胞子虫の高度感染個体発見もこの点を裏付けるものであった。高率で腸管出血性大腸菌が陽性となった結果は、エゾシカにおける腸管出血性大腸菌汚染の更なる詳細な解析の必要性を示唆するものであった。現在までに感染が認められていない高病原性微生物が検出されなかったことは、ジビエ利用の観点からは望ましい結果であると考えられる。

公開日・更新日

公開日
2018-06-26
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

行政効果報告

文献番号
201723035C

成果

専門的・学術的観点からの成果
腸管出血性大腸菌については比較的高い陽性率を示すことから、食利用時の処理については適切に行うこと、生食の危険性が再確認された。この点は、住肉胞子虫の高度感染個体も検出されることから、十分に留意すべき点であると考えられる。高率で腸管出血性大腸菌が陽性となった結果は、エゾシカにおける腸管出血性大腸菌汚染の更なる詳細な解析の必要性を示唆するものであった。
臨床的観点からの成果
現在まで、全く感染が知られていなかった高病原性微生物が検出されなかったことは、今後のジビエ利用においては望ましい結果であったと考えられる。食中毒関連病原体の疫学調査においては、多くの個体が住肉胞子虫・肝蛭を保有しており、従来の情報どおりエゾシカ刺し、レバ刺し等の生食は危険であることが再確認された。
ガイドライン等の開発
該当無し
その他行政的観点からの成果
該当無し
その他のインパクト
該当無し

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
8件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
6件
学会発表(国際学会等)
0件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Ichikawa-Seki M, Shiroma T, Kariya T, et al.
Molecular characterization of Fasciola flukes obtained from wild sika deer and domestic cattle in Hokkaido, Japan.
Parasitol Int , 66 (5) , 519-521  (2017)
10.1016/j.parint.2017.04.005.
原著論文2
Shibata, S., Sivalumar, T., Igarashi, I. et al.
Epidemiological survey of a cervine Theileria in wild deer, questing ticks, and cattle in Hokkaido, Japan.
Ticks Tick Borne Dis , 9 (5) , 1235-1240  (2018)
10.1016/j.ttbdis.2018.05.006.
原著論文3
Lee, SH., Moumouni, PFA., Galon, EM. et al.
Differential diagnosis and molecular characterization of Theileria spp. in sika deer (Cervus nippon) in Hokkaido, Japan
Parasitol Int , 70 , 23-26  (2019)
10.1016/j.parint.2019.01.005
原著論文4
Hoshina, T., Fukumoto, S., Aonuma, H. et al.
Seroprevalence of Toxoplasma gondii in wild sika deer in Japan
Parasitol Int , 71 , 76-79  (2019)
10.1016/j.parint.2019.03.016
原著論文5
Shirozu, T. Badolo, A. Soga, A. et al.
Development and evaluation of a novel loop-mediated isothermal amplification (LAMP) method targeting Theileria parasites infecting Yezo sika deer
Parasitol Int , 77 , 102130-  (2020)
10.1016/j.parint.2020.102130
原著論文6
Shirozu, T. Soga, A. Morishita, Y. K. et al.
Prevalence and phylogenetic analysis of Cryptosporidium infections in Yezo sika deer (Cervus nippon yesoensis) in the Tokachi sub-prefecture of Hokkaido, Japan
Parasitol Int , 76 , 102064-  (2020)
10.1016/j.parint.2020.102064
原著論文7
Takahiro Shirozu, Yu-ki Morishita, Mami Koketsu et al.
Molecular detection of Blastocystis sp. subtype 14 in the Yezo sika deer (Cervus nippon yesoensis) in Hokkaido, Japan
Veterinary Parasitology: Regional Studies and Reports , 25  (2021)
https://doi.org/10.1016/j.vprsr.2021.100585
原著論文8
Yamasaki Eiki, Fukumoto Shinya
Prevalence of Shiga toxin-producing Escherichia coli in Yezo sika deer (Cervus nippon yesoensis) in the Tokachi sub-prefecture of Hokkaido, Japan
Journal of Veterinary Medical Science  (2022)
https://doi.org/10.1292/jvms.21-0591

公開日・更新日

公開日
2018-06-26
更新日
2022-06-09

収支報告書

文献番号
201723035Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
3,500,000円
(2)補助金確定額
3,500,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 1,612,836円
人件費・謝金 301,250円
旅費 697,830円
その他 88,084円
間接経費 800,000円
合計 3,500,000円

備考

備考
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公開日・更新日

公開日
2018-06-26
更新日
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