医療機器のEMC基準並びにその実施法に関する研究

文献情報

文献番号
199800646A
報告書区分
総括
研究課題名
医療機器のEMC基準並びにその実施法に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成10(1998)年度
研究代表者(所属機関)
菊地 眞(防衛医科大学校医用電子工学講座)
研究分担者(所属機関)
  • 井上政昭(泉工医科工業)
  • 小野哲章(神奈川県立衛生短期大学)
  • 内山明彦(早稲田大学理工学部)
  • 古幡博(東京慈恵会医科大学)
  • 坪田祥二(東芝・品質保証部)
  • 山口宣明(アイカ・技術部)
  • 渡辺敏(北里大学医療衛生学部)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 医薬安全総合研究事業
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
平成11(1999)年度
研究費
3,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
現在の医療施設では多数の医療機器が使用されており、その中には強力電磁界を出力する治療機器と電磁界の影響を受けやすい検査・診断機器が含まれている。 昨今、これらの機器の間で電磁的相互干渉が生じ、場合によっては人命に影響を及ぼすような事故例が報告されている。したがって、これらの機器が調和して動作し、誤動作や破壊を生じないような電磁環境対策を講じる必要がある。本研究では、これらの機器が最低限備えるべき機器基準と病院等の設備面で対応すべき設備基準、そして使用する際に注意すべき使用指針について検討し、医療用具承認の際のEMC基準策定に資する研究を行うことを目的とする。なお、本研究ではEMCにまつわる国際規格の動向を並行して調査し、国際規格の中で制定される内容が我国の医療機器の現状に整合するEMC規格であるかについても併せて検討する。
研究方法
上述の研究目的にのっとり、平成10年度は最新情報に基づく調査・研究を行うことに重点をおいた。治療機器については、問題の多い電気メスの放射電磁界強度に関する定量データを把握した。また、国際規格の最新審議内容を入手し、本研究における一般的ガイドラインの検討内容に反映させると伴に、これに基づいて医療機器のEMC管理のあり方とクラス分けについてさらに踏み込んで検討してまとめた。 体内植込機器や在宅医療機器も今後普及することが予測されるので、EMC問題を併せて検討した。一方、機器側の基準だけでは実際の現場レベルではEMCが十分確保されないので、加えて設備基準と使用指針の考え方を提示し、トータルシステムとしてのEMC総合対策について研究した。
結果と考察
本年度においては、以下の各項目に関して研究を実施した。
1.医用電気機器に関する一般的ガイドライン
2.治療機器のガイドライン
3.植込機器のEMI管理
4.在宅医療機器のガイドライン
5.医療設備と使用指針の考え方
6.医療機器のEMC管理の考え方
7.医療施設におけるEMCの実態とその対策
平成10年6月より、日医機協傘下の全工業会が各々の特殊性を勘案しながらもほぼIEC60601-1-2(1993年版)で制定された電磁環境に関する要求事項を製品レベルで尊守することを始めており、機器そのものに関するEMC対策は確実に開始されたものと判断した。さらには既に先行して実施されているEC圏におけるEMC規制の現況を鑑み、CEマーク取得の際の認証機関の相互承認などの現実的問題を勘案して、日本工業規格(JIS)原案を早急に作成して近い将来制定に向けた作業に入るべきとの結論を得た。
結論
医療機器の電磁的相互干渉防止基準に盛り込むべき考え方と最近生じた具体的事例については、各班員が国内・外の本問題に関係する諸活動に深くかかわっており、平成10年度においてほぼ洗い出されたものと言る。平成9年の日医機協のガイドライン制定とその実施に見られるような一連の動きから、今後は医療機器として許・認可された大方の機器については、ある程度のEMC基準におさまるものになることが予想される。
本研究においては、まず医療機器に関する一般的ガイドラインに関する検討として、平成10年6月に適合化時期を迎えた医用電気機器EMCガイドラインの実施状況を調査すると共に、このガイドラインの適用規格となっているEMC規格(IEC 60601-1-2)に対する大幅な改訂内容の調査、並びに医用電気機器の個別規格(IEC 60601-2シリーズ)におけるEMCに関する要求事項の調査・研究を行い、医療機器のEMC基準の最新動向をまとめた。最終的には、国際的動向に整合した医療機器に関する一般的なEMCガイドラインの改訂版を策定することとし、本年度は現行のEMCガイドラインの実施状況及びその基本を形成するEMC国際規格の動向調査を行った。さらに治療機器に関するガイドラインについては、実際の医療の現場で医療機器が使用されている状態に近い状態で、より、実際に役に立つガイドラインとするための検討を行った。治療機器の中で、現段階において国際的にも出力放出時のEMIノイズの規制値が決まっていない唯一の機器であり、手術室のノイズ発生源である電気メスの出力放出時(火花放電時)のEMIノイズの規制値を合理的に決定し、より実行性のあるガイドラインとするための測定方法について検討した。植込機器におけるEMI管理に関しては、植込機器の代表は現在心臓ペースメーカであるが、今後は人工関節に留置する圧力モニタ、筋肉の刺激などを行う機能的電気刺激(FES)、植込形補聴器のようなものが普及する可能性があり、これらは患者とともに移動するので電磁環境の悪い場所においても使用されることが懸念される。したがって、病院内でのみ用いられる機器よりもEMIに強いことが要求されることから、本年度はEMIの事例を調査すると同時にペースメーカをEMIに対して強くする案を示した。一方、在宅医療機器に関するガイドラインについては、今後増加すると思われる在宅医療機器に関するEMCの考え方とその対応策を検討した。現在、医科診療報酬点数表の「在宅医療」の中で、使用する医療機器として記載されているものの中から、注入ポンプ、人工呼吸器を取り上げるとともに、治療機器ではないが在宅医療と関連の深い電動車いすについて、EMC対策に関する現状の調査検討を加え、将来の安全基準のあり方を検討した。医療機関内の設備及び使用指針に関する検討に関しては、医療におけるEMC対策は機器自体ばかりでなく、設備も機器の使用法も重要であり、機器本来の性能・機能を最大限に発揮し得るための設備に関するEMC基準や機器使用上のEMC指針が必要で、それぞれの基準策定のための基本理念を現状の問題点に基づいて整理した。特に民生機器の中の移動体通信機器と医療機器の関連について、基準設定の理念的課題を明らかにすることを目的とした。さらには、医療機器におけるEMC管理の考え方の全体像についても検討を加えた。医療機器に於けるEMC規制は、当然ながら医療機器の誤動作によって患者に被害が及ぶことを防護する目的を持つ。しかし、全ての規制がそうであるように、EMC規制も「両刃の剣」としての性格があり、規制は有用な診断・治療機器の開発や利用を制限することにもなり得る。したがってここでは、これらの観点からEMC規制のあり方と、それを補完するEMC管理のあり方について議論した。医療施設におけるEMCの実態とその対策としては、携帯電話を取り上げて医療機器へのEMI問題をさらに検討した。不要電波問題対策協議会より指針が出たので、医療機関内での問題はないと思われるが、医療機関外での医療機器の使用が増加しつつあることを考えるとき、携帯電話の今の使用方法は果たして良いのであろうか疑問が残る。携帯電話を正しく使用するためには、使用者である一般大衆の努力も必要であるが、それを販売する製造業者、販売業者の使用者教育(マナー教育)も的確に行われなければならない。そこで本研究では携帯電話の新聞広告を取り上げ、医療現場での使用者教育の観点から考察を加えた。これらの状況を鑑み、医療現場におけるクリアな電磁環境を確保するためには医療関係者のEMC教育が重要課題であり、平成10年度においては日本医科器械学会がその学術誌の中でEMC啓蒙のためのガイドブック(医用電気機器に対する電磁障害とその対策)をまとめて掲載したことは誠に意義深い。なお、この中に本研究班班員が多く参画しており、本研究成果がその中に活かされたことになる。医療施設における電磁環境の実態と問題点、基準とその対策法などが大方洗い出されて整理されたが、各方面においても電磁環境整備が進められており、今後は早急にそれらの動きと整合性のある医療施設内のEMC対策のあり方を体系化して、実行可能なレベル、あるいは緊急性のある課題から実行に移すためのいわゆる具体的な“Action plan(実行年次計画)"を策定する時期にさしかかったと判断された。

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