畜産食品の生物学的ハザードとその低減手法に関する研究

文献情報

文献番号
201723017A
報告書区分
総括
研究課題名
畜産食品の生物学的ハザードとその低減手法に関する研究
課題番号
H28-食品-一般-005
研究年度
平成29(2017)年度
研究代表者(所属機関)
岡田 由美子(国立医薬品食品衛生研究所 食品衛生管理部)
研究分担者(所属機関)
  • 朝倉 宏(国立医薬品食品衛生研究所 食品衛生管理部)
  • 等々力 節子(国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構 食品総合研究所)
  • 佐々木 貴正(国立医薬品食品衛生研究所 食品衛生管理部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 食品の安全確保推進研究
研究開始年度
平成28(2016)年度
研究終了予定年度
平成30(2018)年度
研究費
10,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
国内における牛肝臓中の腸内細菌科菌群等の汚染実態調査やその最大値を把握することを目的として、汚染実態、と畜解体処理手法等に関する調査した。摘出後の肝臓のリスク管理措置を明らかにする目的で、肝臓の温度変化を調べた。肝臓中の食中毒菌を生食可能なレベルまで低減することを目的として、放射線照射及び高圧殺菌について検討した。 
研究方法
汚染実態調査は、10自治体の協力を得て概ね36ヶ月齢以下の未経産雌又は去勢雄の交雑種又は黒毛・褐毛和種より肝臓を摘出し、胆管結紮して肝臓表面1ヶ所、胆汁、実質左葉2箇所、 実質右葉2箇所を無菌的に採材した。各検体の一般細菌数、腸内細菌科菌群、大腸菌群、大腸菌を計測すると共に、PCRによるSTEC及びサルモネラの定性試験を行った。牛肝臓の冷蔵保管中の温度変化は、左葉中央の表面及び深さ4㎝の部分にロガーを取り付け、翌日までの温度を計測した。肝臓を10cm角に切断した場合についても計測した。放射線照射は牛肝臓にE. coli O157及びサルモネラを接種し、冷凍下でガンマ線照射した後、標的微生物の検出を行った。高圧処理はサルモネラ及びリステリアの培養菌液及び牛肝臓を300 MPa3回反復する条件で25、37及び42 ℃で処理し、菌数及び肉質変化を測定した。
結果と考察
汚染実態調査は93頭の検体を用いた。STEC及びサルモネラのPCRは全検体陰性であった。表面拭き取り検体の一般細菌は93検体中82検体陽性、平均3.5logCFU/100cm2、実質左・右葉では29及び31検体、実質全体の最大値2.6logCFU/gであった。腸内細菌科菌群は表面拭き取り検体で38検体、最大値5.4log CFU/100cm2、胆汁で6検体、最大値3.1logCFU/mL、実質左葉右葉は9及び11検体陽性、実質全体の最大値4.6logCFU/gであった。大腸菌は表面拭き取り検体で21検体、最大値2.3logCFU/100cm2、胆汁は3検体陽性であった。実質左・右葉は4及び2検体、実質全体の最大値3.6logCFU/gであった。肝臓全体の内部温度は、摘出直後の39℃前後から5℃となるまでに約20時間を要したが、10㎝角にした場合には約5時間であった。放射線照射では、E. coli O157およびサルモネラのγ線照射による推定死滅曲線と、その95%及び99%予測信頼区間を示し、菌液を接種した牛肝臓について様々なγ線量で曝露した際の結果を推定曲線上に示したところ、O157において予想通り95%信頼区間内では生残する検体が確認され、この区間内では死滅と生存の境目にあると考えられた。また、95%信頼区間外では全検体不検出となった。サルモネラにおいても95%信頼区間内では生残する検体が確認され、99%信頼区間外では全検体不検出となった。5log CFU/gのサルモネラの95%及び99%予測信頼区間での低減は、8.2~8.5 kGyの照射により達成可能であることが確認できた。これまでの成果から得られた生残曲線に95%および99%予測信頼区間を設け、その結果を基にガンマ線曝露線量を決定することが妥当と考えられた。高圧処理では、サルモネラは25℃で1.5~2.1 log、37℃で3.2~3.6 log、42℃で5.2~6.4 log、リステリアでは25℃で6.0~6.6 log、37℃で7.0~7.7 log低減し、42℃では定量法の検出限界以下となった(増菌により菌を検出)。牛肝臓では温度上昇により硬度が低下、色調は白みが強くなる傾向が見られた。加温のみでは肉質変化は見られなかった。
結論
衛生的に摘出・管理した肝実質における腸内細菌科菌群の最大菌数は4.6logCFU/gであった。採材後の速やかな胆嚢除去及び温度管理が汚染拡大防止に有効であった。実質より腸内細菌科菌群が検出された14検体で、左右共に陽性の検体では胆汁も陽性となり、高濃度実質汚染検体の胆汁によるスクリーニング検査の有用性が示唆された。摘出後の肝臓の温度動態は、肝臓丸ごとの冷蔵保管では肝臓内部の温度が5℃以下になるまでに20時間を要することが示された。放射線照射については、牛肝臓にE. coli O157 もしくはサルモネラを接種し、ガンマ線を照射した場合での生残試験を行ったところ、昨年度までの研究で得た生残曲線に設けた予測信頼区間の上限から、O157は5.3~5.5 kGy、サルモネラは8.2~8.5 kGyの照射により95%から99%の信頼度で5log CFU/gを低減させることが可能であると思われた。牛肝臓中の高圧処理を行う際に37℃以上で行うことで食中毒菌の低減効果を大幅に高められたが、肝臓の色調に強い変化が見られた。

公開日・更新日

公開日
2018-05-24
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2018-05-24
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

収支報告書

文献番号
201723017Z