文献情報
文献番号
201723011A
報告書区分
総括
研究課題名
野生鳥獣由来食肉の安全性確保に関する研究
課題番号
H27-食品-一般-011
研究年度
平成29(2017)年度
研究代表者(所属機関)
高井 伸二(北里大学 獣医学部)
研究分担者(所属機関)
- 前田 健(山口大学 共同獣医学部)
- 安藤匡子(鹿児島大学 共同獣医学部)
- 壁谷英則(日本大学 生物資源科学部)
- 岡林佐知(株式会社新薬リサーチセンター)
- 杉山 広(国立感染症研究所 寄生動物部)
- 朝倉 宏(国立医薬品食品衛生研究所 食品衛生管理部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 食品の安全確保推進研究
研究開始年度
平成27(2015)年度
研究終了予定年度
平成29(2017)年度
研究費
11,540,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
平成29年度の野生鳥獣由来食肉の安全性確保に関する研究の目的は、1)野生動物の腸管内および腸管外における食中毒細菌保有状況を明らかにする。2)HEV感染環の解明とリスク調査を実施する。3)日本各地で捕獲されたイノシシやシカの病理組織学的検索を実施、解体時に認められた異常所見と病理組織学的診断結果から正常・異常の肉眼的判断基準を示す。4)作業工程の異なる野生鳥獣肉処理施設で処理された鹿枝肉のふき取り材料を用いて衛生指標細菌を測定し、衛生状況を検討する。ガイドラインに基づく作業手順書を作成するため、衛生管理上の要点を示す写真を撮影・収集し、引用する科学的データの集積を行う。5)野生鳥獣由来食肉の安全性確保に必要な解体処理施設の衛生管理を担保するために、地方自治体が実施するマニュアル作成等を支援し、施設登録の制度策定等を図る。6)調理段階における検討では、加熱調理工程でのウイルス制御ならびに原材料の微生物汚染実態の多様性に関する科学的根拠を創出し、モデルとして提示する。多様な食品形態が想定されるジビエ肉において、食品の安全性の担保に資する、調理段階での応用的手法について例示を目指すと共に、実態に関する情報・知見の集積を行う。
研究方法
1)中国九州地方のシカ、イノシシ、アナグマにおけるSTECおよびサルモネラ保有調査を実施した。2)すべての哺乳動物種に応用可能なELISA系を用いてイノシシ・シカを中心として様々な動物でE型肝炎保有状況を比較した。イノシシの横隔膜および心筋からのMeat juiceを用いてE型肝炎ウイルスに対する抗体保有状況を調査した。3)各地方のイノシシやシカ材料の病理組織学的検索を実施した。4)わが国の野生鳥獣食肉処理施設(8カ所)で解体処理された、シカ78頭、およびイノシシ13頭を用い、「枝肉の微生物検査実施要領(厚労省)」に従って拭き取り検査を実施し、衛生指標細菌数の比較を行った。5)全国の解体処理施設の見学とアンケート調査による実態調査を通じて、施設の問題点の抽出と解析を行った。6)低温加熱調理を通じたウイルスの制御効果に関する検討を行うと共に、調理施設の協力を得て、加熱調理前後での衛生実態を比較検証した。
結果と考察
E型肝炎ウイルスに対する抗体保有状況およびE型肝炎ウイルス感染状況の調査では8県のイノシシ、1県のシカから抗E型肝炎ウイルス抗体が検出された。2 県のイノシシの血清中にウイルス遺伝子(遺伝子型3と4)が検出され、体重別で比較すると30kg以下のイノシシが18頭中12頭であった。これらのことから、イノシシの多くが30kg 前後で既にE 型肝炎ウイルスに感染していることを再確認した。更に、イノシシ及びシカにおける異常所見に関するデータも収集した。シカ、イノシシ、アナグマを調査した結果、糞便からSTECが、肝臓からはサルモネラが分離された。両細菌が同時に分離された個体はなかった。狩猟肉から人への危害防止のため、可食部位の糞便汚染防止だけでなく、解体時には臓器の取り扱いに注意する必要がある。鹿児島県のシカ3頭とイノシシ1頭、さらにアナグマ10頭の材料を得て病理組織検索を実施した。その結果、シカやイノシシだけでなく、アナグマの横隔膜にも3検体中2検体で住肉包子虫のシストが確認され、肝臓においても寄生虫寄生によると思われる慢性炎症像が散見された。異なる解体処理解体処理施設で処理された枝肉の衛生評価を行い、作業工程の内、特に、「剥皮」、および「内臓摘出」の作業順の異なる施設間で比較を行った。全体の一般細菌数の平均は、胸部7.3x102個/cm2、肛門周囲部7.3x102個/cm2であった。作業工程における拭き取り調査を実施し、解体作業工程において作業者や器具に細菌汚染が生じる工程を明らかにした。枝肉の衛生状態に影響を与える可能性のある要因として、作業者による枝肉の接触、ならびに残毛の有無、剥皮方法について検討し、特に切皮の際のナイフの向きにより残毛の残存に大きく影響を及ぼすことを明らかとした。ジビエの寄生虫による汚染実態の解明を実施し、我が国で35年ぶりに発生したクマ肉喫食による旋毛虫症の集団感染事例の情報収集と原因の同定に対応した。低温加熱調理を通じたコクサッキーウイルスB5の消長試験を行い、現行の食肉製品の製造基準により、3対数個以上の低減を示すことを明らかにした。適切な加熱調理により危害は極めて減弱されることを調理施設での検証成績として示した。
結論
全国規模の病原体保有状況の把握が進展した。正常・異常を確認するためのカラーアトラスの増改訂版が作成した。ガイドラインに基づく作業手順書を作成した。捕獲野生鳥獣処理施設の衛生管理指針、ジビエ肉の適切な取扱方法等の基礎資料等を提供した。
公開日・更新日
公開日
2018-05-24
更新日
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