マリントキシンのリスク管理に関する研究

文献情報

文献番号
201723009A
報告書区分
総括
研究課題名
マリントキシンのリスク管理に関する研究
課題番号
H27-食品-一般-009
研究年度
平成29(2017)年度
研究代表者(所属機関)
大城 直雅(国立医薬品食品衛生研究所 食品衛生管理部)
研究分担者(所属機関)
  • 長島 裕二(東京海洋大学 学術研究院)
  • 佐藤 繁(北里大学海洋 生命科学部)
  • 荒川 修(長崎大学大学院 水産・環境科学総合研究科)
  • 松浦 啓一(独立行政法人国立科学博物館)
  • 石崎 松一郎(東京海洋大学 学術研究院)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 食品の安全確保推進研究
研究開始年度
平成27(2015)年度
研究終了予定年度
平成29(2017)年度
研究費
15,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
フグ毒等のマリントキシンは、人の健康危害因子として重要である。フグ食中毒は、わが国の魚貝類による自然毒食中毒で最も多く発生し致死率が高い。このため、厚生労働省通知で食用可能なフグの種類、部位、漁獲海域を定め、都道府県条例等でフグ取扱いの施設と人を制限してリスク管理しているが、フグの高毒性化、交雑種フグの出現、フグ毒以外の毒化、巻貝によるフグ毒中毒など新たな問題が発生し、フグとフグ毒に対するリスク管理を強化、見直す必要がある。毒素検査法や有毒生物種判別法は喫緊の課題である。貝毒のリスク管理において、特定物質であるサキシトキシン(STX)にかわる標準品の選定が急がれている。こうした状況のもと本研究では、1)フグ毒検査法の検討、2)フグ等の毒性評価、3)遺伝子によるフグ類等の種判別、4)フグ類の形態分類、5)PSP標準品の検討を行った。
研究方法
フグ毒検査法の検討では、簡便抽出法、MS分析時の夾雑物影響の低減、LC-QTOF/MS法の性能評価し、新規抗原調製法により抗TTX抗体を作製、ELISAキットを試作、性能評価した。
フグ等の毒性評価では、各地のコモンフグ、しらす加工品等の毒性を調査、フグ類のTTXとPSPの取込について検討した
遺伝子によるフグ類等の種判別では、交雑フグや有毒巻貝のDNA解析による種判別法を検討した。
フグ類の形態分類では、国内外の博物館等の標本等の形態学調査をした。
PSP 標準品の検討では、STXの代替としてデカルバモイルSTX(dcSTX)を使用した検査法について検討し、毒化二枚貝中腸腺からのdcSTX大量調製法を検討した
結果と考察
「参考法」と「簡便法」には相関があり、参考法の値を真値とすると簡便法の真度は110~120%と性能は許容範囲で、毒性目安値(10 MU/g)の判定が可能と考えられた。MS分析時の夾雑物の影響は抽出液を4倍稀釈すれば低減可能で、LC-QTOF/MS法は10 MU/g添加での妥当性、マウス法との相関が確認された。新規抗TTX抗体の調製に成功し、高感度・特異的ELISAキットを構築、TTX、 4-epiTTX、11-oxoTTXおよび5,6,11-trideoxyTTXが検出可能なことを確認した。
コモンフグ皮の毒性は、海域や年変動が大きく、猛毒個体では皮から筋肉への移行が確認された。しらす加工品へ混入するフグ稚魚の種判別を行い一部からTTXが検出されたが、混入率と摂取量を考慮するとリスクは低いと思われた。フグの毒蓄積能について、海産フグ(TTX主体)はTTXを、淡水フグ(PSP主体)はPSPを選択的に吸収・蓄積すると考えられた。
交雑フグの両親種判別について、母系種はmtDNAで確実に同定可能で、父系種はGCA反復配列から推定可能と示唆された。有毒巻貝のmtDNA 16S rRNA部分の塩基配列を解析し、テトラミン中毒やフグ毒中毒の原因種の判別が可能になった。
フグ類の形態分類を検討し日本沿岸に49 種が分布することを明らかにし、分類学上の問題点を整理し、学名を付与した。これらを基に現場で使える「日本産フグ類同定ガイド」を作成した。
廃棄処分となる毒化二枚貝中腸腺を原料に比較的単純操作でdcSTXを大量調製、qNMRによる値付けをした。また、dcSTXによる検査の標準化を検討しSTX代替が可能であること、AOAC 959.08 と同等の結果が得られることを確認した。
結論
簡便法は迅速であり毒性評価に適用可能と示唆された。MS分析における夾雑物の影響は抽出液を稀釈することで低減できる。LC-TOF/MS法の妥当性、マウス法と相関を確認した。TTXの簡易分析法として作成した新規抗体によるELISA法は有効である。
コモンフグ皮の毒性は、海域や年変動が大きく猛毒個体も確認された。高毒化海域におけるコモンフグの取扱には注意が必要で、皮からの移行を防ぐため漁獲後は速やかに皮を除去することが重要と考えられた。
しらす加工品へ混入したフグ稚魚の混入率と摂取量を考慮すると、リスクは極めて低いと考えられた。海産フグはTTXを、淡水フグはPSPを選択的に吸収・蓄積すると示唆された。
交雑フグの両親種判別法としてmtDNAとGCA反復配列の解析が有効であり、有毒巻貝の種同定にもmtDNA 16S rRNA領域の解析が有効であることをみいだした。
日本沿岸に分布するフグの特徴を明らかにし、「日本産フグ類同定ガイド」を作成した。

公開日・更新日

公開日
2018-10-29
更新日
-

研究報告書(PDF)

研究成果の刊行に関する一覧表

公開日・更新日

公開日
2018-11-02
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

文献情報

文献番号
201723009B
報告書区分
総合
研究課題名
マリントキシンのリスク管理に関する研究
課題番号
H27-食品-一般-009
研究年度
平成29(2017)年度
研究代表者(所属機関)
大城 直雅(国立医薬品食品衛生研究所 食品衛生管理部)
研究分担者(所属機関)
  • 長島 裕二(東京海洋大学 学術研究院)
  • 佐藤 繁(北里大学海洋 生命科学部)
  • 荒川 修(長崎大学大学院 水産・環境科学総合研究科)
  • 松浦 啓一(独立行政法人国立科学博物館)
  • 石崎 松一郎(東京海洋大学 学術研究院)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 食品の安全確保推進研究
研究開始年度
平成27(2015)年度
研究終了予定年度
平成29(2017)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
マリントキシンのリスク管理を強化、改善することを目的として、Ⅰ.フグ毒検査法の検討、Ⅱ.フグ等の毒性評価、Ⅲ.遺伝子によるフグ類等の種判別、Ⅳ.フグ類の形態分類、Ⅴ.麻痺性貝毒(PSP)標準品の検討を行った。
研究方法
Ⅰ. フグ毒検査法の検討では、低毒量のトラフグ肝臓を用い「参考法」と「簡便法」の比較検討をし、LC-MS/MSにおける試料由来マトリクスの影響について、TTXを添加した無毒養殖トラフグの組織抽出液で検討した。また、LC-QTOF/MSによるTTX分析法の性能を評価し、マウス法との比較を行った。Ⅱ. フグ等の毒性評価では、瀬戸内海産(101個体)および愛知県沿岸産(6個体)の毒性分析と凍結融解による皮から筋肉への移行について検討した。また、シラス加工品に混入するフグについて種同定と毒性分析を行った。Ⅲ. 遺伝子によるフグ類等の種判別では、人工交雑種および単一種の各個体についてmtDNAの16S rRNAとシトクロムb各部分領域および核DNAマイクロサテライト(MS)を解析した。また、有毒巻貝のmtDNA 16S rRNA部分領域を解析した。Ⅳ. フグ類の形態分類では、フグ類標本の詳細な調査に基づき、同定ガイドの作成した。Ⅴ. PSP標準品の検討ではdcSTXによる麻痺性貝毒の標準化について検討した。


結果と考察
Ⅰ. フグ毒検査法の検討:「参考法」と「簡便法」良好な正の相関があり、抽出比3以上では簡便法が1~2割高かった。参考法の値を真値とすると簡便法の真度は110~120%となり、性能の違いは許容範囲で、毒性の目安(10 MU/g)による判定への影響は少ないと考えられた。また、LC-MS分析時の夾雑物の影響については、抽出液を最大4倍に希釈することで低減が可能であった。LC-QTOF/MSによるTTX分析法の妥当性およびマウス法との高い相関を確認した。TTXの簡易検出法として新規の抗体調製およびELISA法を構築し、4-epiTTX等の類縁体を含めた検出系を確立した。Ⅱ. フグ等の毒性評価:瀬戸内海産コモンフグの毒性は前年度よりも低く、凍結融解実験によって皮からのTTX漏出と筋肉への移行を確認した。シラス加工品へのサバフグ属、トラフグ属稚魚の混入が確認されたが、混入率と摂取量から健康へのリスクは低いと考えられた。Ⅲ. 遺伝子によるフグ類等の種判別ミトコンドリアおよび核DNAの解析によりトラフグおよびマフグの父系統の判別法を確立した。有毒巻貝の種判別法の改良により、高温高圧加熱処理の加工品への適用が可能となった。Ⅳ. フグ類の形態分類:カラー写真を多用し、各種の特徴や判別法を解説したフグ類の同定ガイドブックを作成した。Ⅴ. PSP標準品の検討:dcSTXの基準変換係数(CF値)は実施者によるばらつきは無く、安定していおり、AOAC 959.08法と同等の値が得られ、dcSTXがSTXの代替として有効であることが示された。
結論
Ⅰ. フグ毒検査法の検討:抽出操作の簡便化、機器による分析は、食品の安全性評価法として適用可能であると考えられる。また、構築したELISA法は類縁体を含めたTTX類のリスク管理に有効で、性能を評価し必要に応じて改良等を加える等、引続き検討する必要がある。Ⅱ. フグ等の毒性評価;コモンフグは年によって、海域によって皮に猛毒を持つ個体があらわれるため、皮からの移行を考慮したリスク管理が求められ、猛毒化の要因についての検討が必要である。また、シラス加工品に混入するフグ稚魚の混入率や個体の大きさ等を考慮するとリスクは低いと考えられた。Ⅲ. 遺伝子によるフグ類等の種判別:交雑フグのmtおよび核DNAを解析することで父母両系統を明らかにする手法および有毒巻貝類の同定法を確立したが、さらなるデータの蓄積が望まれる。Ⅳ. フグ類の形態分類:魚類分類の専門家でなくても同定可能な「フグの同定ガイド」作成した。現場での活用を通じてより使い勝手が良いものにする必要がある。Ⅴ. PSP標準品の検討:STXの代替物質としてdcSTXを用いた方法は、Codex規格であるAOAOC法と同等の値が得られる。

公開日・更新日

公開日
2018-11-02
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2019-03-11
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

行政効果報告

文献番号
201723009C

成果

専門的・学術的観点からの成果
フグ毒抽出法の簡便化を行い、機器分析によるTTX分析法の妥当性を確認した。また、新規抗体作製法により、多くの関連物質を対象としたELISAキットの構築に成功した。コモンフグの毒性は海域及び年によって大きく異なることが明らかになり、その毒化傾向の長期的観測が望まれる。STXに替えてdcSTXを使用した麻痺性貝毒検査法により、検査を標準化することが可能である。交雑フグおよび有毒巻貝類の遺伝子解析による同定法を開発した
臨床的観点からの成果
検討した検査法や新規に開発したELISA法は、臨床検体を対象とした検査にも対応可能と考えられる。
ガイドライン等の開発
ガイドライン等は作成していないが、本研究で得られたコモンフグの毒性に関する知見は、フグの漁獲から小売りまでの間に設定される衛生管理上のハザード対策として重要なものである。
その他行政的観点からの成果
本研究で実施した、Ⅰ.フグ毒検査法の検討、Ⅱ.フグ等の毒性評価、Ⅲ.遺伝子によるフグ類等の種判別については、食中毒発生時の基礎的科学データとして活用されるものと思われる。また、Ⅳ.フグ類の形態分類、Ⅴ.PSP標準品の検討で得られた成果は、フグや貝毒による食中毒の未然防止対策に寄与するものと考えられる。
その他のインパクト
ミニシンポジウム「フグ食の安全性確保―日本沿岸フグ類の分類と毒性の見直し」を主宰し、平成27年度日本水産学会秋季大会において開催した。
現場で使用する「フグの同定ガイド」を作製した。

発表件数

原著論文(和文)
5件
原著論文(英文等)
22件
その他論文(和文)
28件
その他論文(英文等)
5件
学会発表(国内学会)
56件
学会発表(国際学会等)
18件
その他成果(特許の出願)
1件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
3件
シンポジウムの開催1件、書籍「毒魚の自然誌」(北海道大学出版会)の出版1件、フグの同定ガイドブックの作製1件

特許

特許の名称
デカルバモイルサキシトキシン及びその類縁体の製造方法
詳細情報
分類:
特許番号: 特願2015-084042
発明者名: 佐藤繁、藤田紗和衣、森美貴
権利者名: 学校法人北里研究所
出願年月日: 20150416
国内外の別: 国内

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
桐明絢, 太田晶, 岡山桜子, 他
しらす加工品に混入したフグ稚魚の種判別と毒性
食品衛生学雑誌 , 57 (1) , 13-18  (2016)
https://doi.org/10.3358/shokueishi.57.13
原著論文2
A Kiriake, A Ohta, E Suga, et al.
Comparison of tetrodotoxin uptake and gene expression in the liver between juvenile and adult tiger pufferfish, Takifugu rubripes
Toxicon , 111 , 6-12  (2016)
https://doi.org/10.1016/j.toxicon.2015.12.007
原著論文3
谷口香織,髙尾秀樹,阿部敬子,他
フグ毒検査法における抽出操作の簡素化と抽出比の検討
日本水産学会誌 , 86 (5) , 410-417  (2020)
https://doi.org/10.2331/suisan.20-00023
原著論文4
Shigeru Sato, Suzuka Takaishi, Ko Yasumoto, et al.
Novel Polyclonal Antibody Raised against Tetrodotoxin Using Its Haptenic Antigen Prepared from 4,9-anhydrotetrodotoxin Reacted with 1,2-Ethaneditiol and Further Reacted with Keyhole Limpet Hemocyanin
Toxins , 11 , 551-  (2019)
https://doi.org/10.3390/toxins11100551
原著論文5
Ryohei Tatsuno, Wei Gao, Kotaro Ibi, et al.
Profile differences in tetrodotoxin transfer to skin and liver in the pufferfish Takifugu rubripes
Toxicon , 130 , 73-78  (2017)
https://doi.org/10.1016/j.toxicon.2017.03.001
原著論文6
Keiichi Matsuura
Taxonomic and Nomenclatural Comments on Two Puffers of the GenusTakifugu with Description of a New Species, Takifugu flavipterus, from Japan (Actinopterygii, Tetraodontiformes, Tetraodontidae)
Bull. Natl. Mus. Nat. Sci., Ser. A , 43 (1) , 71-80  (2017)
原著論文7
Y Nagashima, A Ohta, X Yin, et al.
Difference in uptake of tetrodotoxin and saxitoxins into liver tissue slices among pufferfish, boxfish and porcupinefish
Mar. Drugs , 16 (1) , 17-  (2018)
https://doi.org/10.3390/md16010017
原著論文8
Wei Gao, Yoko Kanahara, Ryohei Tatsuno, et al.
Maturation-associated changes in internal distribution and intra-ovarian microdistribution of tetrodotoxin in the pufferfish Takifugu pardalis
Fisheries Science , 84 (4) , 723-732  (2018)
https://doi.org/10.1007/s12562-018-1209-2
原著論文9
Wei Gao, Yoko Kanahara, Misako Yamada, et al.
Contrasting Toxin Selectivity between the MarinePufferfishTakifugu pardalisand the FreshwaterPufferfishPao suvattii
Toxins , 11 , 470-  (2019)
http://dx.doi.org/10.3390/toxins11080470
原著論文10
K Matsuura, TP Satoh
Redescription of Lagocephalus cheesemanii (Clarke, 1897), a senior synonym of Lagocephalus gloveri Abe and Tabeta, 1983 based on morphological and genetic comparisons (Actinopterygii: Tetraodontiformes: Tetraodontidae)
Ichthyological Research , 64 , 104-110  (2017)
DOI 10.1007/s10228-016-0547-2
原著論文11
Naomasa Oshiro, Kyoko Kuniyoshi, Shigeyoshi Yamamot et al
High Levels of Tetrodotoxin in the Flesh, Usually an Edible Part of the Pufferfish Takifugu flavipterus, Caused by Migration from the Skin and the Regional Characteristics of Toxin Accumulation
Journal of Marine Science and Engineering , 9 (11) , 1312-  (2021)
https://doi.org/10.3390/jmse9111312

公開日・更新日

公開日
2022-06-09
更新日
2022-06-14

収支報告書

文献番号
201723009Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
18,090,000円
(2)補助金確定額
18,090,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 11,287,747円
人件費・謝金 651,000円
旅費 1,809,328円
その他 1,251,925円
間接経費 3,090,000円
合計 18,090,000円

備考

備考
-

公開日・更新日

公開日
2018-12-23
更新日
-