食品由来薬剤耐性菌の発生動向及び衛生対策に関する研究

文献情報

文献番号
201723008A
報告書区分
総括
研究課題名
食品由来薬剤耐性菌の発生動向及び衛生対策に関する研究
課題番号
H27-食品-一般-008
研究年度
平成29(2017)年度
研究代表者(所属機関)
渡辺 治雄(国立感染症研究所 細菌第一部)
研究分担者(所属機関)
  • 四宮 博人(愛媛県立衛生環境研究所)
  • 大西 真(国立感染症研究所 細菌第一部)
  • 五十君 静信(東京農業大学  応用生物科学部)
  • 川西 路子(農水省動物医薬品検査所)
  • 小西 典子(東京都健康安全研究センター)
  • 倉園 貴至(埼玉県衛生研究所)
  • 浅井 鉄夫(岐阜大学大学院連合獣医学研究科)
  • 柴山 恵吾(国立感染症研究所 細菌第二部)
  • 富田 治芳(群馬大学大学院)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 食品の安全確保推進研究
研究開始年度
平成27(2015)年度
研究終了予定年度
平成29(2017)年度
研究費
20,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
耐性菌の問題は健康危機管理としても重要な国際的課題である。WHOは耐性菌の世界的なコントロールをめざし、Global Action Planを示し、我が国もそれに基づき、National Action Planを作成した。それらは、“One Health”の観点から耐性菌のサーベイランスの構築を目指すことを掲げている。本研究においては農林省で動物を対象に行われている耐性菌モニタリングシステムJVARM と厚労省で行われているヒトにおける院内感染症耐性菌サーベイランスJANISのデータを一元的に閲覧し、評価できる手法を開発すること、および今まで体系的に集められていない食品由来細菌の耐性データをJANISシステムに取り込めるようにする。食品由来耐性細菌については全国地方衛生研究所協議会に担当してもらい、恒常的にデータの収集を行える体制作りを目指す。
研究方法
食品、家畜および医療分野の検査手法(薬剤の種類、遺伝子検査法など)を相互比較可能にして、第3世代セファロスポリン耐性大腸菌、サルモネラ等の腸内細菌における耐性遺伝子の同定及び各種セフェム系薬剤に対する感受性試験を実施した。JVARM のアンチバイオグラムを JANIS 集計用プログラムにて解析できるように一部改変し、相互変換および比較ができるようにした。国内で市販される国産鶏肉及び輸入鶏肉を供試検体とし、ESBL産生大腸菌、コリスチン耐性菌、VREをはじめとする耐性菌の分離頻度を調査した。
結果と考察
1)JANISデータベースから2014年、2015年、2016年の各対象菌の耐性データを抽出後、WHOGLASS提出用ファイルを作成し、報告した。
2)地方衛生研究所のネットワークを中心にして、鶏肉等の食肉における細菌の汚染状況および薬剤耐性状況に関する調査を行い、汚染状況の現状を明らかにした。サルモネラについては、CTX, CAZ, CFX耐性は数%あり、一方、アミノグリコシド系薬GM、AMK、キノロン系薬CPFX、NFLX、ホスホマイシン系薬FOM、カルバペネム系薬IPM、MEPMに対する耐性率は低いか、0%であった。2017年に健康者から分離された大腸菌では、フルオロキノロン耐性は8.8%,CTX耐性は5.8%であった。CTX耐性株の内訳は、ESBL産生株(CTX-M-1 groupおよびCTX-M-9 groupが各10株,TEM型が1株),およびAmpC産生株であった。市販流通する食肉からのコリスチン耐性mcr-1陽性大腸菌は、食肉由来大腸菌310株中,鶏肉由来株では21株,豚肉由来株では2株であった。。国産および輸入別の比較;国産鶏肉は12.8%,輸入鶏肉は18.5%が陽性。国産豚肉は1.8%,輸入豚肉は1.4%が陽性。
3)と畜場及び食鳥処理場由来大腸菌におけるプラスミド性コリスチン耐性遺伝子の保有状況について;mcr-1は牛由来株からは検出されなかったが、鶏由来株からは、平成27年9株(4.9%)検出された。
結論
家畜(JVRAN)-人(JANIS)の耐性菌の発生動向をJANIS解析ソフト上にて一元的に把握できる体制を確立した。ここに食品由来耐性菌のデータを取り込む試みを地方衛生研究所のネットワークを駆使し施行し、実効性が高い結果を得た。これらの体制により、国内で分離された臨床、食品および家畜由来耐性菌の動向の把握と、相互の比較解析から耐性菌のグローバルな循環を明らかにし、リスク評価および行政対策に供することができるようになることが期待できる。2011年以降の家畜における抗菌薬使用の抑制を反映して、例えばブロイラーのESBL産生大腸菌の分離頻度が激減しているが、一方、人由来ESBL大腸菌の分離率は増加傾向にある。この乖離現象を説明できるデータは得られていないが、食鳥処理場における解体時の交差汚染による食肉への耐性菌伝播、人保菌者を介しての人―人による耐性菌の伝播、人における抗菌薬の過度の使用による耐性菌選択圧の増加などの影響が考えられる。

公開日・更新日

公開日
2018-05-10
更新日
-

研究報告書(PDF)

研究成果の刊行に関する一覧表

公開日・更新日

公開日
2018-05-22
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

文献情報

文献番号
201723008B
報告書区分
総合
研究課題名
食品由来薬剤耐性菌の発生動向及び衛生対策に関する研究
課題番号
H27-食品-一般-008
研究年度
平成29(2017)年度
研究代表者(所属機関)
渡辺 治雄(国立感染症研究所 細菌第一部)
研究分担者(所属機関)
  • 四宮 博人(愛媛県立衛生環境研究所)
  • 大西 真(国立感染症研究所 細菌第一部)
  • 五十君 静信(東京農業大学  応用生物科学部)
  • 川西 路子(農水省動物医薬品検査所)
  • 小西 典子(東京都健康安全研究センター)
  • 倉園 貴至(埼玉県衛生研究所)
  • 浅井 鉄夫(岐阜大学大学院連合獣医学研究科)
  • 柴山 恵吾(国立感染症研究所 細菌第二部)
  • 富田 治芳(群馬大学大学院)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 食品の安全確保推進研究
研究開始年度
平成27(2015)年度
研究終了予定年度
平成29(2017)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
近年、薬剤耐性(AMR)の問題が社会的および政治的な課題としても取り上げられてきている。耐性菌は、医療現場に限定されるものではなく、人、動物、食品、環境間を循環するとの考えに基づき、それらを包括する“ワンヘルス・アプローチ”による研究および対策が取られる必要性が強調されてきている。WHOは2015年に「AMRに関するグローバルアクションプラン;GAP」を採択し、これを受けて、2016年4月に我が国においても「AMR対策アクションプラン;NAP」が策定された。動物については農林水産省で実施しているJVARM、病院内の耐性菌については厚生労働省で行われているJANISによるサーベイランスがある。一方、食品由来耐性菌については、これらのシステムではモニターされていない。本研究においてはJVARM とJANISのデータを一元的に閲覧し、評価できる手法を開発することと、今まで体系的に集められていない食品由来細菌の耐性データを収集・解析できる体制の構築を目指すことを目的とした。食品由来耐性細菌については全国地方衛生研究所協議会に担当してもらい、恒常的にデータの収集をする仕組みを整える方向性を付けることを目的としている。
研究方法
食品、家畜および医療分野の検査手法(薬剤の種類、遺伝子検査法など)を相互比較可能にして、第3世代セファロスポリン耐性大腸菌、サルモネラ等の腸内細菌における耐性遺伝子の同定及び各種セフェム系薬剤に対する感受性試験を実施した。JVARM のアンチバイオグラムを JANIS 集計用プログラムにて解析できるように一部改変した。JVARM、JVARMアンチバイオグラムの相互変換および比較ができるようにした。国内で市販される国産鶏肉及び輸入鶏肉を供試検体とし、ESBL産生大腸菌,コリスチン耐性菌、VRE等を分離し、遺伝学的な解析を行った。
結果と考察
1)WHOのGLASSへの報告:JANISデータベースからGLASS提出用ファイルを作成し、報告したが、収集しているデータの品質保証面の問題が指摘されており、今後、対応が必要である。
2)JANISとJVARM間での測定薬剤の薬剤感受性に高い相関があることを確認し、両モニタリングで実施された薬剤の耐性率の比較が可能であることを示した。テトラサイクリン系についてOTCはMINO耐性の検出には有効であるが比較の際には注意が必要、アミノグリコシド系の両薬剤については比較に用いるには検討が必要であることが確認された。
3)地方衛生研究所ネットワークにおいて、2015~2017年に分離されたヒト及び食品由来サルモネラ株及び大腸菌株について薬剤耐性状況を調査し、集計された耐性データを解析した。統一された方法を用いて全国規模で実施された本邦初の調査であった。ヒトおよび食品から分離されたサルモネラの薬剤耐性菌出現状況を調べた。また、コリスチン耐性菌の状況調査の結果、国産鶏肉の12.8%,輸入鶏肉の18.5%,国産豚肉の1.8%,輸入豚肉の1.4%からmcr-1保有大腸菌が検出され、食肉には広くmcr-1保有大腸菌が存在することが明らかとなった。
4)国内産鶏肉及びの輸入鶏肉からESBL産生またはAmpC産生の多剤耐性腸内細菌科菌(主に大腸菌)が比較的高頻度で検出された。高度耐性VREについては一部の地域(ブラジル産)で少数の分離のみであり、環境中の汚染状況が改善していることが示された。
結論
JANIS, JVARMで行われている耐性菌モニタリング手法を相互検証し、お互い一元的に比較可能であることが明らかになった。また、地方衛生研究所における薬剤耐性データをJANISやJVARMなど既存の薬剤耐性データベースと統合し一元化することも本研究班の成果として見通しがつき、動物―食品―ヒトを包括するワンヘルス・アプローチに基づく耐性菌データの把握、その結果を耐性菌制御に繋げられる方向性がつけられた。今後は、地方衛生研究所による食品由来耐性菌のモニタリングを継続して実施していくための体制整備をどのように図るかが課題である。

公開日・更新日

公開日
2018-05-10
更新日
-

研究報告書(PDF)

研究成果の刊行に関する一覧表

公開日・更新日

公開日
2018-05-22
更新日
2020-12-22

研究報告書(紙媒体)

行政効果報告

文献番号
201723008C

成果

専門的・学術的観点からの成果
国内産鶏肉及びの輸入鶏肉からESBL産生またはAmpC産生の多剤耐性腸内細菌科菌(主に大腸菌)が比較的高頻度で検出された。調査期間後半2年続けてESBL産生サルモネラ属菌が国内産食肉から、また採集年度にコリスチン耐性大腸菌が輸入食肉(ブラジル産)から検出されており、今後の動向に注意する必要がある。一方、国内産鶏肉検体から、以前の国内分離株と同一起源であるVanN型VRE株が継続的に分離されていることから、VanN型VRE株の国内の家畜環境中に拡散し定着していることが示唆された。
臨床的観点からの成果
WHOのGLASSへの報告:JANISデータベースから2014年、2015年、2016年の血液由来大腸菌、A. baumannii、K. pneumoniae、黄色ブドウ球菌、肺炎球菌、サルモネラ、ならびに尿由来大腸菌、K. pneumoniaeの薬剤耐性データを抽出後、WHO GLASSに提出した。我が国の耐性菌の現状を世界に発信できた。
ガイドライン等の開発
薬剤耐性ワンヘルス動向調査年次報告書 Nippon AMR One Health Report: NAOR(平成29年10月18日)
その他行政的観点からの成果
薬剤耐性ワンヘルス動向調査検討会 2017年10月18日(http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/other-kenkou.html?tid=412188)
その他のインパクト
厚生労働省主催「ワンヘルスに関する連携シンポジウム」平成29年11月27日
食品安全委員会主催「薬剤耐性菌の食品健康影響評価(P)に関するワークショップ」平成29年12月4日

発表件数

原著論文(和文)
11件
原著論文(英文等)
6件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
10件
学会発表(国際学会等)
5件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
3件
AMR One health報告書(NAOR 2017)に利用された
その他成果(普及・啓発活動)
2件
研修会等で講師を務め啓発に貢献した

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
四宮博人,勢戸和子,川瀬 遵他
地方衛生研究所における細菌学的検査・研究の最新事情.
日本細菌学雑誌 , 70 (2) , 309-318  (2015)
原著論文2
菅 美樹、四宮博人、北尾孝司
市販鶏レバーおよび臨床材料から分離した基質特異性拡張型β-ラクタマーゼ産生Escherichia coliおよびKlebsiella pneumoniaeが保有するblaCTX-M型別に関する検討
感染症学雑誌 , 90 (3) , 305-309  (2016)
原著論文3
渡邉治雄
食品媒介性感染症の最近の動向と対応
クリーンテクノロジー , 27 (3) , 43-48  (2017)
原著論文4
渡邉治雄
“One Health Policy”のもとに進められる薬剤耐性菌対策。
感染症 , 47 (2) , 1-7  (2017)
原著論文5
渡邉治雄
One Healthの中で進められる耐性菌対策
化学療法の領域 , 33 (5) , 28-39  (2017)
原著論文6
渡邉治雄
薬剤耐性対策アクションプランで注目されるヒト由来耐性菌
臨床と微生物 , 44 , 297-302  (2017)
原著論文7
浅井鉄夫
One Healthの視点から見た耐性菌の問題点
最新医学 , 72 (4) , 528-533  (2017)
原著論文8
山本詩織、朝倉 宏、五十君靜信
基質特異性拡張型βラクタマーゼ(ESBL)産生菌に関わる最近の動向とその拡散に関する考察 ~食品汚染実態とその危害性について~
食品衛生学会誌 , 58 (1) , 1-11  (2017)
原著論文9
川西路子
動物由来細菌薬剤感受性調査(JVARM)の概要と薬剤耐性(AMR)対策アクションプランへの対応
日本獣医師会雑誌 , 70 (1) , 14-17  (2017)
原著論文10
Hiki M, Kawanishi M, Abo H, et.al.
Decreased Resistance to Broad-Spectrum Cephalosporin in Escherichia coli from Healthy Broilers at Farms in Japan After Voluntary Withdrawal of Ceftiofur
Foodborne Pathog Dis , 12 , 639-643  (2015)
原著論文11
Kurushima J, Ike Y, Tomita H
Partial Diversity Generates Effector Immunity Specificity of the Bac41-Like Bacteriocins of Enterococcus faecalis Clinical Strains
Journal of Bacteriology , 198 , 2379-2390  (2016)
原著論文12
Hiki M, Shimizu Y, Kawanishi M,et.al.
Evaluation of the relationship between the minimum inhibitory concentration of ceftiofur and third-generation cephalosporins in Escherichia coli isolates from food-producing animals.
J Vet Diagn Invest , 29 (5) , 716-720  (2017)
原著論文13
Sato T, Usui M, Konishi N,et.al.
Closely related methicillin-resistant Staphylococcus aureus isolated from retail meat, cows with mastitis, and humans in Japan.
PLoS One , 12 (10)  (2017)
e0187319.doi:10.1371
原著論文14
Yossapol M, Sugiyama M, Asai T.
The occurrence of CTX-M-25-producing Enterobacteriaceae in day-old broiler chicks in Japan
Journal of Veterinary Medical Science , 79 (10) , 1644-1647  (2017)
原著論文15
Nomura T, Hashimoto Y, Kurushima J. et al.
New colony multiplex PCR assays for the detection and discrimination of vancomycin-resistant enterococcal species
J Microbiol Methods , 145 , 69-72  (2018)
原著論文16
柴山恵吾
厚生労働省院内感染対策サーベイランス(JANIS)からみたAMR対策の課題と展望
公衆衛生 , 81 (10) , 798-803  (2017)
原著論文17
浅井鉄夫
豚における薬剤耐性菌対策
ALL about SWINE , 50 , 2-6  (2017)

公開日・更新日

公開日
2018-07-24
更新日
2022-06-01

収支報告書

文献番号
201723008Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
21,980,000円
(2)補助金確定額
21,485,000円
差引額 [(1)-(2)]
495,000円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 16,208,740円
人件費・謝金 187,488円
旅費 2,048,882円
その他 1,060,974円
間接経費 1,980,000円
合計 21,486,084円

備考

備考
補助金交付額の算定方法が千円未満の端数切捨であることにより生じる自己負担等。

公開日・更新日

公開日
2019-03-18
更新日
-